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大日本帝国の銀河 (全5巻) [読書・SF]



大日本帝国の銀河1 (ハヤカワ文庫JA)

大日本帝国の銀河1 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/01/07
大日本帝国の銀河 2 (ハヤカワ文庫JA)

大日本帝国の銀河 2 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/04/14
大日本帝国の銀河 3 (ハヤカワ文庫JA)

大日本帝国の銀河 3 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/07/14
大日本帝国の銀河 4 (ハヤカワ文庫JA)

大日本帝国の銀河 4 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/10/19
大日本帝国の銀河 5 (ハヤカワ文庫JA)

大日本帝国の銀河 5 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2022/01/25


評価:★★★☆

 物語の始まりは1940年(昭和15年)6月。
 ヨーロッパでは39年にドイツがポーランドに侵攻して第二次世界大戦に突入、東アジアでは日華事変が深刻さを増している。太平洋戦争が始まる41年12月まであと1年半という時期だ。

 この時代に、地球外文明との接触が起こっていたら・・・というわけで、キャッチフレーズは「架空戦記+ファースト・コンタクト」。
 文庫で全5巻という大部である。

  近未来や遠未来でのファースト・コンタクト作品は枚挙に暇が無いが、20世紀前半以前の時代を扱ったのは珍しいのではないかな。
 何よりこの時代の人間には ”異星人” という概念が乏しい、というかほとんどない。H・G・ウェルズの『宇宙戦争』は発表されていたが世界中の人間が ”火星人” を知っていたわけではないだろうし。
 ましてや、太陽系外、恒星間を渡ってやってくる地球外文明なんてのは想像すらしたことがない。それくらいの認識のギャップに基づく混乱が、物語の序盤では描かれていく。


 昭和15年(1940年)6月、京都帝國大学の教授・秋津俊雄は、和歌山県の潮岬で電波天文台の建設に取り組んでいた。そこに現れたのは、中学で同級生だった武園(たけぞの)義徳海軍中佐。
 彼の招きで横浜へやってきた秋津は、そこで「火星太郎」と名乗る不思議な人物と対面する。

  火星太郎は1か月前に、四発の爆撃機に乗って横浜の飛行場に現れたのだという。それは見るからに日本海軍の爆撃機に見えるのだが、技術的には遙かに進んだエンジン・制御系を持ち、機体は1940年当時の地球には存在しない未知の素材、未知の製法で作られていた。

 乗員はわずか2名。そのうち一人は射殺され、生き残ったのが火星太郎だ。
 死んだ乗員は解剖され、その結果判明したのは、外見こそ人間だが臓器の種類・配置が異なり、しかも明らかに人工の機械と思われる物体が埋め込まれていた。
 武園は言う。「奴はおそらく人間じゃない」

 「火星から来た」といっていた火星太郎だが、秋津との会話で矛盾点を指摘された彼は ”オリオン太郎” と名乗りを改める。オリオン座の方から来た、という意味だという。「消防署の方から来た」と同じ意味合いだね(笑)。
 その後、彼らは自分たちのことを ”オリオン集団” と自称するようになる。

 オリオン集団は日本と同様に、四発の爆撃機でイギリス、ドイツ、ロシアにも使者を送っていたことが判明するが、乗員はみな着陸時に射殺されてしまい、生き残ったのはオリオン太郎のみだった。

 そのオリオン太郎は、日本政府に対して国内に大使館を開設することを要求するが・・・ 


 というわけで、異星人との接触が否応なく人類社会を変えていくさまが描かれていく。もちろん、変革に抵抗する者もいるし、オリオン集団を追い払おうとする動きも出てくる。
 しかしながら、異星人はそれらの抵抗を鎧袖一触、ことごとく撥ねのけていく。何せ恒星間航行を実現している連中だからね。科学技術でも数百年~千年単位の差がありそうだ。

 日本も例外ではなく、この大使館開設要求に対応するため、軍部を抑える強力な政治力が必要とされた。その動きは最終的に憲法(大日本帝国憲法)改正にまで及んでいく。

 そういう人類社会の変化と並行して、オリオン集団の謎も描かれる。

 いちばん大きな謎は、彼らの目的は何なのか? だ。
 地球を植民地にするつもりはないと彼らは再三語る。資源なら宇宙に充分あるから。

 では人類を導くためか?
 実際、オリオン集団の介入によって国家間の軍事衝突は回避されていく。しかしそれが最終目的ではないようだ。

 では人類社会の変革のためか?
 オリオン集団は当初、科学者や軍人など彼らに接触してきた人間の中から選抜して人類との仲介役にしていたが、後には自分たちで独自に選抜を行い始める。
 人類を知的能力で9段階に分け、その中の最高レベルの者を対象に彼らの施設で教育を施す。それは国家や民族、出自や門閥、性別など一切関係ない。
 当時の世界は、未だ封建制度が色濃く残っている。日本なんて女性参政権すら認められていない。そんな時代にあって、平民や女性がどんどんオリオン集団に ”登用” されていく。そしてそれに我慢できない旧態依然とした者たちとの軋轢も生じていく。

 全5巻の物語のうち、前半のメインキャラはほとんど男性ばかりなのだけど、後半になると女性のメインキャラが複数登場してくる。それも、このオリオン集団による ”人材活用” によるものだ。
 しかしこれもまた、彼らの最終目的達成のための手段に過ぎないことがわかっていく。

 1巻から4巻までは、オリオン集団と人類との接触によって生じた様々な変化を描く。既存の権威は失墜し、アジアなどの植民地では民族運動が高まり、一方ではオリオン集団から与えられた技術で全地球的に急速な工業化が進んでいく。

 そして5巻に至り、物語は急展開を迎える。
 舞台は地球を離れ、太陽系内に広がる。オリオン集団の最終目的も、彼らの生物としての ”実体” も明らかになっていく。
 そして、彼らと ”対等の立場” に立とうとする、人類の ”最後の抵抗” も。


 なにぶん長大な物語で、登場するキャラも多く、部分部分でスポットが当たる人物が異なるので誰が主人公とは言えないのだけど、私の一押しのお気に入りは古田暁子さん。

 中盤で、メインキャラの1人である古田岳史陸軍中佐の奥方として登場する。第一印象は「いかにも軍人の妻らしい、凜とした女性」。しかし彼女の運命は大きく変転する。オリオン集団による ”登用” に指名されたからだ。

 しかし彼女の優れた才覚をよく知る岳史は、反対するどころか快く送り出す。その度量の大きさが素晴らしいし、離れてしまっても常に夫を思いやっている暁子さんの愛情もまた素晴らしい。この2人のラブラブぶりも読みどころの一つだろう。そしてまたこの2人は、終盤の展開のキーパーソンでもある。

 「架空戦記」を期待して読み始めると、いささかアテが外れるかな。なにせ上にも書いたが人類とオリオン集団の科学技術の差があまりにもありすぎて、勝負にならないので。
 それよりも、ファースト・コンタクトと、それに伴う人類社会の変貌のシミュレーションとして楽しむのが正解だろうと思う。



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