鎮憎師 [読書・ミステリ]
評価:★★★
冒頭で語られるのは、ある中学生のいじめ事件。
これによって中学生2人を含む3人の死者、そして重傷者が発生する。
加害者と被害者、双方の間に起こった復讐の連鎖によるものだった。
本書のタイトルにある ”鎮憎師” とは、そういう憎しみの連鎖を断ち切り、事件を ”上手に終わらせる” 者のことを指す。
そして本編。
赤垣真穂は大学時代のサークル仲間の結婚式に出席する。その二次会に現れたのは、かつて同じサークルにいた熊木夏蓮(かれん)。
彼女は3年前、”ある事件” に関わって大学を中退、故郷の広島に帰った後は友人たちと縁を切り、音信不通になっていた。
しかしサークル仲間の一人、桶川ひろみが彼女の消息を掴むことに成功していた。夏蓮は彼女の招きで、この二次会に現れたのだ。
新郎新婦、真穂、ひろみを含めた8人の仲間は驚きながらも夏蓮を迎え入れ、旧交を温める。その日は三連休の初日だったこともあり、翌日も集まることを約束して解散する。
しかし翌朝、夏蓮は宿泊していたホテル近くで絞殺死体となって発見される。警察の事情聴取から解放された8人は、集まって情報交換と事件の検討を始める。
この8人の出身校は理系の大学であり、大学院で研究を続けている者や高校で理科の教師になった者もいる。
みな理詰めの議論を苦にしないようで、いろいろな可能性の検討が繰り返される。
このあたりの ”推理バトル” は本書の中でも読みどころの一つだろう。
”ある事件” が原因ととすると、夏蓮に殺意を抱く可能性は、多かれ少なかれメンバー全員が持っている、あるいは持っていてもおかしくない。
よって結論は・・・「犯人はこの8人の中の誰かである」。
この中で真穂は、夏蓮との関わりがいちばん薄い人物として設定されている。言い換えれば、事件を最も客観的に観ることができる人物だ。
物語は主に彼女の視点から語られていくことになる。
真穂は、弁護士をしている叔父・新妻順司に相談する。
彼は8人の人間関係から、夏蓮を殺した犯人への復讐を実行する者が現れることを懸念する。新妻は冒頭のいじめ事件の関係者の一人だったのだ。
そこで新妻は、真穂とひろみに沖田洋平という青年を紹介する。
沖田は、過去に新妻と協力して事件関係者の憎しみを ”鎮めた” ことがある。新妻は彼のことを「鎮憎師」と呼んでいた・・・
というわけで、今回登場する沖田だが、通常の探偵とはひと味違う。
彼は、憎しみの連鎖を止めるには、関係者がみな ”納得” することだ、というのだ。
だから彼は真穂とひろみ以外のメンバーとは顔を合わせない。2人に対してもアドバイスをするだけで、”解決” を真穂たち当事者に委ねるのだ。
沖田の導きに従った真穂とひろみは、最終的に自分たちだけで真犯人をつきとめることになる。
もちろん沖田は、真穂たちよりも先に事件の真相や犯人に辿り着いているのだが、それを真穂たちに明かすことなく、終盤まで傍観者であり続けるわけだが・・・
真相解明よりも復讐の連鎖を食い止めることを第一義にするという、なかなか思い切った設定で、そこのところが通常のミステリとひと味違うところだろう。