ミステリー・アリーナ [読書・ミステリ]
評価:★★★★
タイトルの「ミステリー・アリーナ(推理闘技場)」とは、国民的な人気番組のこと。紅白歌合戦に代わって毎年大晦日に放送されている。
時代は21世紀中葉の頃と設定されている。その頃にTVが今のままであることは考えにくいんだが、そのへんは本筋ではないよね。
出題される問題(殺人事件)の真相を当てる競技で、挑戦者は厳しい予選を突破した本格ミステリオタクばかり14人という ”濃い” メンバー。
高額な賞金が設定され、しかも解答者がここのところ出てないこともあって、それがキャリーオーバーになり、今年の優勝賞金は膨大なものになっていた。
TV番組でのミステリ・クイズなので、問題篇はドラマ形式で提示されるものかと思いきや、なんとテキストのみ。序盤こそ朗読が入るものの、途中からはディスプレイに表示される文章を挑戦者が読んでいくことになる。
これには意味がある。テキスト形式での提示によって、映像化できないトリック(例えば叙述トリックとか)もOKになるので、より難問と化す。言い換えれば解答の自由度が増すことになるわけだ。
今年の問題は ”嵐の山荘”。そこに集まった男女の間で殺人事件が起こり、その犯人を当てなければならない。もちろん当てずっぽうではダメで、犯人指摘にいたる論理の筋道、場合によっては使われたトリックの解明もしなければ解答とは認められない。
挑戦者は真相を喝破したと思ったら、問題篇の途中でもボタンを押して解答することができる。
そしていよいよ競技開始。けっこう冒頭からポンポン解答が出てくる。何せ、真相が分かっても、同じ内容を先に解答した者がいればそちらが優勝になってしまうからね。
しかし解答する権利は1回のみなので、自分の推理を述べた後(他の解答者はそれを聞くことができる)は、別室に連れて行かれてそこで待機することになる。
・・・という形式で進行していく。
挑戦者たちの開陳する推理はそれぞれ。直感的なもの、かなり考えられているもの、反則技ぎりぎりなもの、「いくらなんでもそれはないだろう」な珍説まで様々。とはいっても、そのバラエティに富んだ解答の数々は特筆に値するだろう。
しかし、解答した後の問題篇の展開の中で、新しい事実や証拠が出たりして、それまでの推理が否定されたり、場合によってはいったん否定されたものが復活したりと、なかなか真相に至る道は紆余曲折を辿る。
司会者は男女2人組で、特にメインMC(男性)のほうはかなりエキセントリックなキャラで、ミステリにも一家言ある。彼と ”歴戦のミステリヲタ” が繰り広げる凄まじい舌戦は本書の読みどころだろう。
挑戦者は14人だが、文庫版裏表紙の惹句には ”(解決は)何と15通り!” って書いてある。そのあたりは読んでもらうとして、なかなか意表を突いた結末へと読者を運んでくれる。
多重解決の極限に挑んだ力作(怪作?)なのは間違いない。ミステリ初心者でもそれなりに楽しめるけど、ミステリをたくさん読んできた人には ”ご褒美” 的な作品になってると思う。