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跡形なく沈む [読書・ミステリ]

 

跡形なく沈む (創元推理文庫)

跡形なく沈む (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/02/28
  • メディア: 文庫

 


評価:★★★☆

 


 舞台はスコットランドの小都市シルブリッジ。

 


 ケン・ローレンスは大学を放校処分となってシルブリッジ自治区へ帰郷し、区役所で閑職に就いていた。私生活も荒み、人妻であるリズと同棲している始末。

 


 リズは奔放な女で、いろんな男をしょっちゅうベッドに引っ張り込んでいた。ケンはそんな彼女との生活に疲れ果てている。

 


 リズの別居中の夫ヴィクター・ロスは区議会議員。彼は区役所の職員ジュディ・ハッチングスと交際中で、彼女との結婚を考えていた。

 


 ジュディはかつてケンと婚約していたが、彼の放校によって解消となった。現在はヴィクターとつきあっているが、彼女の中には未だケンへの想いが忘れがたく残っていた。

 


 という、なかなか複雑な人間関係の渦中へ、ルース・ケラウェイという女性が現れるところから物語は始まる。

 


 ルースは、イギリスとフランスの間に浮かぶジャージー島で育った。父親はおらず、ルーズは私生児として産まれた。

 母親が病死し、その遺品から父親の手がかりを得たルースはイギリス本土へ渡り、シルブリッジにやってきた。さらに、かつての母の職場であった区役所でタイピストとして採用され、働き始める。

 


 美しい容姿を持つが極めて狷介で、他人と打ち解けることは全くない。心の中に何らかの策謀を秘めているようでもある。

 ルースは父親を探すとともに、なぜか数年前の協議会議員選挙の不正行為についても調べ始めた。

 そんな彼女の行動は区役所の職員や議員たちの知るところとなり、次第に不穏な空気が醸し出されていく。

 


 そんな中、リズが殺されるという事件が起こる。そして数日後、ルースが下宿先から姿を消してしまう。

 ルースが失踪する直前、最後に会う予定だった相手はロバート・ハッチングス議員。彼はジュディの父親だった・・・

 

 


 物語は主にジュディとケンの視点から語られる。この2人がほぼ主人公といっていいだろう。

 


 ジュディは、ヴィクターとケンという二人の男性の間で揺れ動いたり、父親のロバートと兄のトムが揃って殺人事件の容疑者になったり、ルースがロバートの隠し子ではないかとの疑惑が持ち上がったりと、なかなか波瀾万丈なイベントが待ち受ける人生(笑)。

 


 一方、ケンはリズを喪った後、改めて自分がまだジュディを愛していることを自覚し、彼女との仲を修復しようと奔走し始める。

 しかしジュディの態度は極めて冷たい。でもこれは、いわゆる ”ツンデレ” って奴ですな(笑)。

 


 以前アップした『三本の緑の小壜』でも書いたが、本書でもラブコメ要素は健在。

 ジュディに何回拒絶されようとも挫けないケンはたいしたものだし、ジュディも内心では悪い気はしていないみたいだし(笑)。

 殺人事件の推移と並行して、この2人の恋愛模様もまた本書の読みどころだ。

 

 


 終盤では一転してサスペンス調になる。犯人を追ってのカーチェイスとか、なかなか意外な展開が待っている。

 


 そして明らかになる真相。まあ分かってみれば極めてシンプルで明快なのだけど、いつもながらそれが分からないんだよねぇ。

 ケンやジュディ以外にも、一癖も二癖もある登場人物ばかりで、そんな人々のドロドロの愛憎劇や、腹に抱えた陰謀が絶妙な目眩ましになってるのはいつもの通り。

 


 ミステリとしてもよくできてるし、ラブコメとしても楽しい。小説としての面白さを充分に味わえる作品だ。

 

 


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