SSブログ

名探偵は嘘をつかない [読書・ミステリ]

名探偵は嘘をつかない (光文社文庫)

名探偵は嘘をつかない (光文社文庫)

  • 作者: 阿津川 辰海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/06/10
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

光文社の新人発掘プロジェクト『カッパ・ツー』から生まれた
阿津川辰海のデビュー作。

 ちなみに『カッパ・ワン』という新人発掘プロジェクトが
 2002年に行われていて、ここでデビューしたのが
 石持浅海、加賀美雅之、林泰広、東川篤哉の4人。
 『カッパ・ツー』は、このうち石持氏と東川氏が中心となって
 すすめたプロジェクトだということだ。

本書は、”探偵機関” が警察の下部組織として確立している
パラレルワールドが舞台となっている。

特務探偵士・阿久津透(あくつ・とおる)は、数々の難事件を解決して
当代一の名探偵として名を馳せている。

しかしその過程で証拠を捏造し、自らの犯罪を隠蔽してきたとして
過去の事件の関係者たちから告発され、
本邦初の ”探偵弾劾裁判” が開かれることになる。

裁判の請求者6人のうちの一人、火村つかさは
かつて阿久津の探偵助手であったが、ある事件で
犯人が彼女の兄・火村明を殺すことを
阿久津は事前に予測していながら見過ごしていたことを知った。
つかさは弾劾裁判を通じて彼と対決することを選ぶ。
他の5人も、過去に阿久津が手がけた事件の当事者たちだ。

阿久津の探偵としての原点は、彼が中学2年の夏に起こった事件。
彼が小学校時代に通っていた塾の講師宅を訪れた日、
家の離れの中で講師夫妻の娘・相島早苗が惨殺されたのだ。

当時9歳だった早苗は頭部と四肢を切断され、
離れの周囲の地面は雨上がりでぬかるんでいたが
そこに犯人が出入りした足跡は無く、阿久津本人は
密室状態の離れの中、死体の傍らで失神している状態で発見された。

警察は阿久津を第一容疑者として逮捕し、彼も犯行を自白したのだが
裁判が始まると一転して否認に回り、検察側の論理の矛盾を
その推理力でことごとく打ち崩して無罪を勝ち取ってしまう。

この事件の担当だった刑事・黒崎は弾劾裁判の請求人に名を連ね、
裁判を通じて阿久津の犯行を立証しようと目論んでいた・・・

というわけで、ここまで読んできたら
弾劾裁判を通じて阿久津と6人の請求人の間に繰り広げられる
推理バトルがこの物語のメインになる、と思うだろう。
それは間違っていないのだが、それがすべてではない。
本書の中で起こるのはそう単純なことではないのだ。

これから書くことは、本書の中でも
かなり早い段階で明かされることなので、
ここでバラしてもいいかなと思うんだけど、
事前情報なしで初読のインパクトを味わいたい人は、
以下の文章は読まないことを推奨する。

本書の登場人物は人間ばかりではない。
正確に言えば、生きた人間ばかりではない。
つまり、「幽霊」も出てくるのだ。「魂」と言った方がいいかな。
登場人物の中には、死んだ人間から抜け出した「魂」が、
記憶と人格を保ったまま現世に滞留している「幽霊」状態の者もいるのだ。

一人は火村つかさの兄・明。
自らが ”殺された” 後、妹思いの明は、
死後も彼女の傍らにあって裁判の行方を見守ろうとする。

そしてもう一人は相島早苗。
死んだときの9歳の姿のままで現世に留まっているのだが、
なにせ死んでから十数年も経っているので、言動はすっかり大年増(笑)。
もっとも、殺された前後の状況は記憶にないので
肝心の自分を殺した者の正体は知らないのだが・・・

この二人の掛け合いは漫才みたいで、本書の読みどころのひとつにも
なっているとは思うが、このへんにも伏線が仕込んであったりするので
本格ミステリは油断ができない(笑)。

なんでこの二人だけなのかという理由を書き出すと長くなるのだけど、
「幽霊」になるためには、ある特殊な条件を満たす必要がある。

そして、さらにタイトな条件をクリアすれば、
死んだ直後の人間の中に入りこんで ”生き返る” ことも可能。

作中でも、6人の請求人のうちの一人が
途中で ”ある事情” により亡くなるのだが、
明はその肉体に入り込み、以後は ”その人物” として振る舞っていく。

密室事件を扱った本格ミステリであるのだけど、
「転生」という超常現象を持ち込んだ
”特殊設定ミステリ” でもある。

死者が生き返ったら何でもありじゃないかと思われるかも知れないが
「転生」に関する設定はきちんと作中で説明され、
それを逸脱することはない。ストーリーも、
この設定をきちんと踏まえて展開されていく。

読者は本格ミステリとして読むのに加え、
この ”設定” もアタマに入れておかなければならない。
これがけっこうたいへん(笑)。

文庫で580ページの大作だけど、物語は二転三転、
特殊設定も相まって、どう決着するのか全く予想できない。

でも、かなり無理矢理な「魂離脱」「転生」設定も含めて
最後まで論理的に解明されるミステリなのは単純にスゴいと思う。

さすがに石持氏と東川氏、当代人気の作家さん2人の
メガネにかなった人ではある。

でも、私のアタマのほうも通常の3倍くらい疲れました(笑)。


nice!(3)  コメント(3) 
共通テーマ:

マツリカ・マハリタ [読書・ミステリ]

マツリカ・マハリタ 「マツリカ」シリーズ (角川文庫)

マツリカ・マハリタ 「マツリカ」シリーズ (角川文庫)

  • 作者: 相沢 沙呼
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/08/25
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

このタイトルを見たら、往年のTVアニメ『魔法使いサリー』の主題歌が
アタマの中を駆け巡ってしまいました(笑)。

親しい友人もおらず、成績もじり貧。クラスに居場所もない。
そんな冴えない高校生活を送っていた主人公・柴山佑希は、
ある日、学校近くの廃ビルで ”マツリカ” と名乗る少女と出会う。

彼と同じ学校の制服を着た彼女だが、登校している様子はなく、
そのビルの中で一日中生活しているらしい。
しかも双眼鏡で校内の様子を観察している。

傍若無人かつ高飛車な物言いで、柴山のことを ”柴犬” 呼ばわりするが
彼女の美貌とナイスなスタイルに魅せられた(笑)彼は
マツリカの ”パシリ” としてこき使われる日々を送ることに。

校内で起こった事件や謎のうち、マツリカが興味を示したもののために
情報を収集するべく、柴山は入学以来避け続けてきた
”他人と関わること” と嫌でも向き合うことになる。

そんな使い走りのワトソン・柴山と
安楽椅子探偵・マツリカの登場するシリーズの第2巻。

柴山くんは2年生へと進級し、マツリカ嬢も無事に留年(おいおい)
したようで、二人の関係はそのまま今年も維持されている。

今回は、柴山たちの高校に伝わる『1年生のりかこさん』という
怪談がテーマ。彼女は飛び降り自殺を遂げたということなのだが・・・

「落英インフェリア」
柴山が2年生に進級し、5月となった。
写真部に ”松本まりか” という1年生が入部希望で現れたのだが、
なぜか突然部室から逃げ出してしまう。写真部員たちは彼女を追うが
”まりかさん” は密室状態の校舎から姿を消してしまう・・・
怪しげな方言を使う新キャラ・高梨千智(ちさと)君の登場。

「心霊ディテクティブ」
柴山のクラスメイトで写真部員の小西が撮影したフィルムが、
なぜか1本まるまる感光してしまっていた。誰かの仕業かと思われたが
フィルムが入ったカメラは鍵のかかった部室に置いてあり、
誰も入ることはできない・・・
この回から、松本まりかさんがレギュラーとして参入。
晴れて写真部員となったまりかさんは、なぜか柴山に懐いてくる。
いやあ、こういうキャピキャピな人とは思いませんでした。

「墜落インビジブル」
旧校舎に ”怪奇絶叫殺人ロッカー” なるものが存在しているらしい。
下僕の柴山くんはマツリカから命令され、その調査のために
休日の教室の清掃道具用ロッカーに1時間も籠もる羽目に陥る。
そこに入ってきたのはクラスメイトの村木翔子。
「リカコ」と呼びかける女の子と二人連れだ。
出るに出られない柴山だったが、次第に迫る尿意に耐えられなっていく。
ロッカーの扉の隙間から外の様子を見ていた柴山は、
翔子が教室を出たことを確認したらもう耐えらなくなり、
思わずロッカーから出てしまう。しかしそこには
残っているはずの ”リカコ” なる女の子の姿はない。
翔子は誰に向かって ”リカコ” と呼びかけていたのか・・・
翔子さんも本書ではサブレギュラーですね。

「おわかれソリチュード」
マツリカが廃墟から姿を消してしまう。
柴山は、彼女こそ『1年生のりかこさん』その人である
”松本理香子” ではないか、との疑いにとらわれ、
『りかこさん』の正体を探り始めるのだが・・・

今回もマツリカ嬢は、その豊満な肉体(笑)で柴山君を翻弄する。
彼も男だからね、アタマの中がそっち方面の妄想ではち切れんばかり。
このあたりの描写は官能小説みたいである。
まあこういうシーンに需要があるから書いてるんだろうけど、
私はいささか抵抗がある。やっぱアタマが古いのかねぇ。

今回、柴山君は高梨千智、松本まりか、村木翔子など
どんどん新しいキャラに出会い、前回からのレギュラーである
写真部の小西菜穂も加えて人間関係が広まっていく。

あと一歩踏み出せ、柴山の高校生活はガラッと変わっていく可能性を
示しているのだが、そうできないのが ”柴犬” くんなんだねぇ。

まあ、そうなってしまえば彼にとって
マツリカ嬢は必要不可欠な存在ではなくなってしまうので
おそらくシリーズ最終巻までそんな日は来ないのだろう。

という ”大人の事情” はアタマでは分かってはいるのだが、
それでも柴山君をみているとじれったくして仕方がない。
小西嬢を振り切って行ってしまうところでもう呆れてしまったよ。

官能小説まがいの描写と加えて、そのへんが星が少ない理由。

あとどうでもいいことなんだが
今回から登場する ”松本まりか” さん。

最近、同姓同名の女優さんがその ”怪演” ぶりでブレイクしてるが
これは単なる偶然なのか、それとも作者がまりかさんのファンなのか。

ちなみに、私にとっては『蒼穹のファフナー』の遠見真矢のCVで
15年前からお馴染みの人。


nice!(4)  コメント(4) 
共通テーマ:

高座のホームズ 昭和稲荷町らくご探偵 [読書・ミステリ]

高座のホームズ - 昭和稲荷町らくご探偵 (中公文庫)

高座のホームズ - 昭和稲荷町らくご探偵 (中公文庫)

  • 作者: 愛川 晶
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2018/03/23
  • メディア: 文庫
評価:★★★

歴史上の有名人を探偵役にしたミステリは数多ある。

私の記憶に残っている最初の作品は『伯林ー一八八八年』(海渡英祐)。
第13回(1967年)江戸川乱歩賞受賞作で、
ドイツ留学中の若き日の森鴎外が探偵役だった。

『モーツァルトは子守唄を歌わない』(森雅裕)なんてのもあったなぁ。
こちらでは大作曲家ベートーベンが探偵役だった。
調べてみたら、これも第31回(1985年)の乱歩賞を
東野圭吾の『放課後』と同時受賞してたよ。

ちょっとネットで検索したら、そういう ”有名人探偵” の
一覧表なんかもあって、ソクラテスやダ・ヴィンチ、ダーウィン、
聖徳太子や平賀源内とか実に多彩。
夏目漱石みたいに複数の作品で探偵役やってる人も多い。

田中啓文なんて独裁者ヒトラーが探偵役の作品を書いてたはず。
ここまで行くと、もう何でもありな感じ(笑)。

さて表題の作品だが、こちらは昭和の落語界の重鎮にして名人、
八代目林家正蔵が探偵役である。

といってもピンとこない人もいるだろう。
私自身、八代目の記憶はほとんどないのだが(笑)。
わかりやすいところでは『笑点』に出てる林家木久扇師匠が
しばしばモノマネをする ”彦六師匠” のことだ。
司会の春風亭昇太が独身の頃、しょっちゅう
「~だから昇太、お前に嫁は来ない」ってやってた、あれ。

ちなみに当代(九代目)林家正蔵は、襲名前は林家こぶ平と名乗ってた。
彼は昭和の爆笑王・初代林家三平の長男で、
これも『笑点』に出てる二代目林家三平は九代目のこぶ平の弟だ。

こぶ平の祖父(つまり初代三平の父)が七代目林家正蔵だったのだが
このあたりの事情は書き出すと長くなるので
興味がある人はググってください(笑)。

もともと林家正蔵は大名跡なんだが、
初代の三平も天才的な笑いのセンスで
一代で ”三平” を大名跡にしてしまったからねぇ。
それを継ぐのもたいへんだ。
いま『笑点』に出てる二代目を観てると、苦労が多そう(笑)。

すっかり前置きが長くなってしまった。
閑話休題。

「プロローグ」
浅草にある寿司屋『柳寿司』の老主人・板倉と客との会話から始まる。
かつて噺家だったという老主人が、昔を振り返り、
落語家だった頃に遭遇した事件を解決してくれた
林家正蔵師匠の思い出を語り始める。

第一話 「天災」から「初天神」
花翁亭文六(かおうてい・ぶんろく)師匠は、
最近高座に穴を開ける(無断で休んでしまう)ことが多い。
そんなある日、文六が『初天神』を高座にかけているとき、
突然、観客の女性が文六に向かって蜜柑を投げつけるという騒ぎが起こる。
そしてその直後、文六が自宅近くの路上で頭を殴られて入院してしまう。
32歳の二つ目、浅草亭てっ橋(てっきょう)は
この騒ぎに巻き込まれていくのだが・・・
舞台が昭和50年代なので、『神田紅梅亭』シリーズの探偵役である
山桜亭馬春(さんおうてい・ばしゅん)も若き姿で登場してくる。
もちろん林家正蔵がメインの探偵役ではあるのだが、
ここでの馬春も名探偵の片鱗を見せている。
また物語の舞台として、これも作者の別シリーズである
『神楽坂倶楽部』も登場し、先代の席亭とその息子も姿を見せる。
このあたりは読者サービスだろう。

第二話 「写真の仇討ち」から「浮世床」
8年ぶりに知人の田所に再会したてっ橋は、
彼が高校生くらいの美少女を連れていることに驚く。
翌日、高座を終えたてっ橋のもとへファンと自称する美女が訪ねてくる。
田辺京子と名乗ったその女と、翌日の夜に逢い引きする約束をするが
その場に京子は現れず、代わりにやってきたのは
田所が連れ歩いていた美少女だった。
このあとてっ橋は、奇妙かつ羨ましい(笑)体験をするのだが・・・
京子が企む陰謀も、正蔵師匠にかかれば全てお見通しだ。

「エピローグ」
『柳寿司』老主人が自らの噺家廃業の顛末を語り終える。
落語では芽が出なかったが、その後の人生は
決して不幸ではなかったことも窺える。これもまた人生。

このシリーズは現在のところ4巻まで出てる。こちらも近々読む予定。


nice!(5)  コメント(5) 
共通テーマ:

宇宙軍士官学校 -攻勢偵察部隊- 5 [読書・SF]

宇宙軍士官学校―攻勢偵察部隊― 5 (ハヤカワ文庫JA)

宇宙軍士官学校―攻勢偵察部隊― 5 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 鷹見 一幸
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/10/17
  • メディア: 文庫

大河スペースオペラ・シリーズ、第2部の5巻目。

前巻までの救出作戦を終え、有坂恵一率いる特殊長距離戦闘救難艦隊は
地球人を指導する上級種族ケイローンの母星シュリシュクへ帰還した、。

そこでは途上種族に対する評価試験が実施されていた。
AI相手の戦闘シミュレーションなのだが、そこには
恵一たちの後輩である地球の宇宙軍士官学校生の艦隊も参加していた。

士官学校生艦隊の指揮官であるウィリアムの戦績は5勝1敗。
その1敗も時間切れによるもので、限りなく勝利に近いものだった。

それを恵一に報告するときの、ウィリアムとその恋人エミリーの
掛け合いがまた絶品。この二人、ホントに好きだなあ。
最後まで生き残ってほしいものだ。

士官学校生艦隊は、さらに最終ステージに進むが、
これもウィリアムの機転で突破に成功。
いやあ生真面目なだけのキャラかと思ってたら
いつの間にかはったりをかますことまで覚えていて、たいしたもの。

そしていよいよ〈粛正者〉との決戦のために
ウィリアムたち士官学校生艦隊は新たな訓練戦闘に臨む。
その相手は、なんと恵一が率いる艦隊だった・・・

いつも「よくできてるスペースオペラだなぁ」と思っているんだけど
今回感じたのは「エスカレーションの案配」が絶妙だということ。

スペオペに限らず、バトルものでは話が進むにつれて
次第にいろんな要素でエスカレーションが進行していく。

本シリーズで言えば、舞台は太陽系から始まって天の川銀河、
そして第2部ではアンドロメダ銀河まで広がった。

規模もそうだ。恵一は地球人のみならず、
他の異星人も加わった連合艦隊の指揮官へと上り詰めていく。
位が上がれば指揮する艦艇数も当然増える。

そして戦術。太陽系防衛戦の頃は超転移航法(いわゆるワープ)にも
制限があって、大規模艦隊の移動には亜空間ゲートが使われていた。
だからゲートの攻防も戦略的に大事な要素だった。

この巻に至り、上級種族から ”高次推進システム” の技術開示があり、
超転移航法も抜本的に変更になり、その結果として
戦闘に関わる自由度が増している。

 まあ分かりやすく言ってしまえば『ヤマト』方式のワープから
 『スター・トレック』方式のワープへの転換なんだが。

それによって、作戦行動の自由度も大幅にアップするんだが
「何でもあり」にしてしまうとハチャメチャになってしまう。
しかし作者はその手前できっちりと収めて、
うまくストーリーに落とし込んでいる。

これができるのは、ストーリーの終着点までの構成が
既にできあがっているからだろう。

〈銀河文明評議会〉は天の川銀河とアンドロメダ銀河の中間点に
膨大な数の巨大要塞を建造中で、そこが〈粛正者〉との決戦場になる。

今回のウイリアムや恵一たちの訓練も、そこでの戦闘を想定したもので
最終決戦がそう遠くないことを伺わせる。

いままで順調に刊行されてきたんだけど
この巻が出たのが2019年の10月。
今までの間隔と比べるとちょっと間が開いてるかな。
次巻が出るのはいつなんだろう。


nice!(3)  コメント(3) 
共通テーマ:

日本SF傑作選5 光瀬龍 [読書・SF]

日本SF傑作選5 光瀬龍 スペースマン/東キャナル文書 (ハヤカワ文庫JA)

日本SF傑作選5 光瀬龍 スペースマン/東キャナル文書 (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/04/04
  • メディア: 文庫
評価:★★★

「筒井康隆」「小松左京」「眉村卓」「平井和正」と刊行されてきた、
日本の第一世代SF作家の、主に初期作を集めたシリーズ。
第5弾は「光瀬龍」の登場。

筒井康隆みたいに今でも現役の作家さんだったり、
小松左京みたいに、コロナウイルス騒ぎで改めて
『復活の日』(ウイルス兵器で人類が滅ぶ話)が話題になったり
『日本沈没』が今年になってアニメ化されたりと
今なお話題性に事欠かない作家さんもいる。

晩年になっても存在感を示した眉村卓や、
日本中を超能力ブームに巻き込んだ平井和正と異なって
光瀬龍という作家さんは今ひとつ地味な存在かなぁ・・・
って思ってたんだけど、この記事を書くためにwikiを見てみたら
あながちそうでもないことに気づいた。

光瀬龍と言えば『宇宙年代記シリーズ』が思い浮かぶって人は
けっこう多いだろう。私もそうだ。
20年くらい前にハルキ文庫だかで2巻にまとめられて刊行されて
あらためて読み直した記憶がある。
でも光瀬龍には、それ以外にも実に多くの魅力的な作品群がある。

初期の長編には『たそがれに還る』(1964年)、
『百億の昼と千億の夜』(67年)という二大宇宙SFがあって
特に後者は萩尾望都の手で漫画化された(77~78年)。
大学からの帰り道、掲載誌の「少年チャンピオン」を
近所の書店で立ち読みしていたことを思い出す(おいおい)。

 ちなみにこの書店さんは10年くらい前に廃業してしまった。諸行無常。

この2作に『喪われた都市の記録』(75年)を併せた3作は、
私が持つ光瀬龍という作家さんのイメージの決定づけた作品だと思う。

74年にはジュブナイルSF『夕ばえ作戦』がNHKでドラマ化されていて、
これも観た記憶がある。こちらもwikiを見てみたらいろいろ思い出す。
主演は山田隆夫(今では『笑点』の座布団運びだが)、
意外な共演者としては後に愛川欽也夫人となるうつみ宮土理も出てた。
山田の親友役で、”ずうとるび” のメンバーだった今村良樹も出てる。
(と書いても知らない人の方が多そうだが)
今村良樹は、20代半ばで放送作家に転身し、50歳を超えてからは
紙芝居をやってるらしい。人生いろいろ(笑)。

これ以外にも『暁はただ銀色』『作戦NACL』『SOSタイムパトロール』
などのジュブナイルを書いていて、これらはみんな
70年代にソノラマ文庫に収録されている。

日本のSF作家のうち「第一世代」と呼ばれる作家さんの多くは
多くのジュブナイルSFも書いていて、これは
後のライトノベルの嚆矢となった。光瀬龍もその大事なピースのひとつ。

それ以後も光瀬龍の宇宙SFは、『宇宙航路』(80年)、
『派遣軍還る』(82年)と書き続けられる。
前者はSF専門誌『奇想天外』、後者は『S-Fマガジン』に連載された。
この頃、私はSFにハマっていたので両誌とも毎号買ってた。
だから両作とも、雑誌掲載時に読んでる。
今から思えば金とヒマがあったんだねぇ(笑)。

80年代に入ると、歴史改変をテーマにした時代SFが多くなり、
やがて純粋な歴史小説を執筆するようになっていった。
それと同期するように、私も光瀬龍という作家からは離れていった。
そういう意味では、私は ”良い読者” ではなかったのだろう。

wikiの「光瀬龍」の「人物」欄の末尾近くに、次の一文がある。
「およそ40年間にもわたる創作家としての輝かしい活動歴とは裏腹に、
 文学賞の受賞とは、SF作品を対象とした星雲賞をふくめて
 生涯無縁であった。」

私が ”地味” と感じたのも、このあたりが理由かも知れない。
でも、この記事を書き始めたら意外なほど昔の記憶が蘇ってきて
こんなに長くなってしまった。

私にとって、作品についての思い出をたくさん残してくれた、
大事な作家さんであることは間違いない。

前置きが長くなってしまった。
本書には主に64年から75年まで、(1編を除いて)『S-Fマガジン』に
掲載された宇宙SFの短篇15作が収録されている。

第一部
「無の障壁」「勇者還る」「決闘」「スペース・マン」
「異境」「訣別」「クロスコンドリナ2」

第二部
「廃墟」「星と砂」「星の人びと」「ひき潮」

第三部
「東キャナル文書」「アマゾン砂漠」
「火星人の道(マーシャン・ロード) I」
「火星人の道(マーシャン・ロード) II 調査局のバラード」

第一部は、78年にハヤカワ文庫JAから刊行された
短編集『無の障壁』をそのまま収録したもの。

第二部は、単行本で刊行されたが文庫に未収録だった宇宙SFを
集めたもの(らしい)。

第三部は、77年にハヤカワ文庫JAから刊行された
短編集『東キャナル文書』をそのまま収録したもの。

宇宙年代記が1作も入っていないのは、上記のように他の出版社で
すでに文庫化されていて、比較的入手しやすいためだという。

収録作は、一度は読んでるはずなんだけどほぼ記憶無し(笑)。
そりゃもう40年以上経ってるからねぇ。

雰囲気は概して暗め。
もともとそういう時代/世界を描いている作品群だからね。

希望と熱気に満ちた宇宙開発時代を過ぎ、
各惑星・小惑星に生活基盤が築かれはするものの、
植民地の生活は厳しいまま。
遠く離れた異世界での生活は過酷の一語。
地球や内惑星からの補給が無ければ生きていくのも難しい。
辺境に赴けば事故や死などの悲劇が待っている。
肉体を捨ててサイボーグ化した者も珍しくない。

そんな環境に生きている者たちの物語を紡いでいくのだが
上記のような世界の話だからハッピーエンドはまれ。
広大な宇宙に比べて人間の存在はあまりにも小さく、たいていは
宇宙の深淵に飲み込まれてしまうような非情な結末が待っている。

まさに ”無常感” あふれるのが光瀬龍の世界。

40年以上前の作品だから、最新の宇宙の知識と矛盾する部分もあるし、
SF的な描写にも古くささを感じる。
「未来を描いた作品は、時代が降るにつれて必然的に陳腐化していく」
とは誰の言ったことだったか。
でもいちばん大きいのは、読み手の年齢かも知れない。

私がこの作品群を読んでたのは、10代終わりから20代前半くらい。
あの頃はこの感覚にシビれて好きだったんだけど
還暦を超えて再読してみると、哀感のほうが勝りすぎて
読み続けるのが辛いこともあった。

でも、40年前の私を思い出しながら読む作業は
決して嫌なものではなかったよ。


nice!(3)  コメント(5) 
共通テーマ:

駆逐艦キーリング 〔新訳版〕 [読書・冒険/サスペンス]

駆逐艦キーリング〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)

駆逐艦キーリング〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/05/26
  • メディア: Kindle版
評価:★★★★

時代設定は明示されていないのだけど、
巻末の解説によると1942年の3月頃らしい。
真珠湾攻撃が1941年12月だから、
日米が太平洋戦争に突入してから約3か月経った頃。

舞台は北大西洋。既に2年以上もドイツと戦火を交えている
イギリスを支援するべく、37隻の輸送船団が東に向かっている。

しかし、その船団を護衛する戦力はきわめて貧弱だ。
駆逐艦2隻、コルベット艦2隻、合わせて4隻しかない。

 wikiによると、「コルベット艦」とは第二次世界大戦中に
 イギリス海軍が建造した船団護衛艦で、当初は捕鯨船の設計を流用して
 急造された小型の対潜水艦用の艦船だったとのこと。
 捕鯨船が母体だから、船体はかなり小さい。
 もともと小さい軍艦である駆逐艦よりもさらに小さいことになる。
 わずか4隻という数も驚くが、巻末の解説では
 この時期の船団護衛はこのくらいの規模が普通だったらしい。

しかもこの4隻、国籍は見事にバラバラ。
2隻の駆逐艦のほうは
〈キーリング〉はアメリカ、〈ヴィクター〉はポーランド、
2隻のコルベット艦のほうも
〈ジェイムズ〉はイギリス、〈ドッジ〉はカナダ。
要するに寄せ集めの艦隊なのだ。

主人公は〈キーリング〉艦長で、護衛艦隊司令を兼ねる
ジョージ・クラウス米海軍中佐なんだが、
家庭の事情でアメリカ西海岸から東海岸へ転属したばかりで
対潜水艦戦闘の経験もほとんど無い。

一方、護衛される輸送船団の方も見事にバラバラ。
排水量(大きさ)も速度もまちまちで、舵を切れば旋回半径もみな異なる。
こういう雑多な船の集団を、ひとつにまとめて脱落者を出さずに
イギリスまで届けなければならない。

さらにさらに、イギリス海軍からの連絡で、船団の向かっている
進路上には、Uボートの集団が待ち受けているらしいことがわかる。

まさに「無理ゲー」というか「始まる前から詰んでいる」というか。

物語は水曜日の午前直(○八○○~一二○○)、
コルベット艦〈ジェイムズ〉が敵を探知したところから始まる。

クラウスは直ちに〈ヴィクター〉を支援に向かわせ、
2隻は攻撃を開始するが、ここから48時間にわたって
クラウス中佐の不眠不休の戦闘指揮の様子が描かれていく。

こちらから爆雷攻撃を仕掛けることもあれば
もちろん相手から魚雷の反撃を食らうこともある。

敵艦の行動を ”読む” のも容易ではない。
判断がつかずに迷うこともあるし、うまく出し抜かれてしまうことも。
もちろんぴたりと当たる時も来るが。

輸送船団も、対潜のためにジグザク航行を行っているが
戦闘が始まってしまえば一気にバラバラになりかねない。

わずか4隻しかない艦を小刻みに配置を変えてUボートに備えるが
同時に複数の敵を相手にしなければならないこともあり
いかんせんすべてに手が回るというわけにもいかない。

その隙を突かれて沈められてしまう輸送船も出てくるし、
被害を受けた船からは生存者を救助しなければならないし、
クラウスは常に同時並行的にさまざまな ”決断” を迫られる。
そんな場面が延々と続いていく。

作中での彼は、食事も用足しも後回しで、
常に極寒のブリッジで指揮を執り続けることになる。

文庫で400ページほどの作品だが、その95パーセントは
不眠不休のクラウスの行動をひたすら追っていく。

指揮官とはいかにあるべきか。
クラウスの行動の中心には常にこれがある。

指揮官が動揺を見せれば、それは直ちに部下たちに伝わってしまう。
それゆえに、クラウスはどんなときにも取り乱すこと無く、
沈着冷静であることを周囲に対して示し続けなければならない。
彼の代わりを務めてくれる人間はいないのだから、
クラウスは自らの責任から逃げること無く、全てを受け止めようとする。
時に睡眠や休息への誘惑が頭をよぎるが、あえてそれも封じてしまう。

このように、愚直なまで真摯で、ひたすら
使命の完遂のみを追い求めた男の物語を描いたのが本書だ。

作中で描かれるクラウスは決して無能ではない。
それどころか、Uボートとの戦闘を通じて
(中には誤った判断も含まれるが、それは結果論だ)
きちんと結果を出し続けて、指揮官として有能であることも示していく。

とはいっても、いわゆるスーパーヒーローではないので
ハリウッドの超大作エンタメのように、
Uボート船団を一気に殲滅して大団円、なぁんて展開を期待すると
アテが外れるだろう。

ところが、そのハリウッドが本作を映画化したんだよねえ。
トム・ハンクスが脚本&主演、『グレイハウンド』というタイトルで。

ネットで調べてみたら、もうネット配信で公開されてるんだね。
どうしようかなぁ。これだけのためにApple TV+に加入するのもなぁ。

ハリウッド映画の常で、原作通りのはずはないだろうし。
はたしてどうなっているものやら。


nice!(3)  コメント(3) 
共通テーマ: