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高座のホームズ 昭和稲荷町らくご探偵 [読書・ミステリ]

高座のホームズ - 昭和稲荷町らくご探偵 (中公文庫)

高座のホームズ - 昭和稲荷町らくご探偵 (中公文庫)

  • 作者: 愛川 晶
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2018/03/23
  • メディア: 文庫
評価:★★★

歴史上の有名人を探偵役にしたミステリは数多ある。

私の記憶に残っている最初の作品は『伯林ー一八八八年』(海渡英祐)。
第13回(1967年)江戸川乱歩賞受賞作で、
ドイツ留学中の若き日の森鴎外が探偵役だった。

『モーツァルトは子守唄を歌わない』(森雅裕)なんてのもあったなぁ。
こちらでは大作曲家ベートーベンが探偵役だった。
調べてみたら、これも第31回(1985年)の乱歩賞を
東野圭吾の『放課後』と同時受賞してたよ。

ちょっとネットで検索したら、そういう ”有名人探偵” の
一覧表なんかもあって、ソクラテスやダ・ヴィンチ、ダーウィン、
聖徳太子や平賀源内とか実に多彩。
夏目漱石みたいに複数の作品で探偵役やってる人も多い。

田中啓文なんて独裁者ヒトラーが探偵役の作品を書いてたはず。
ここまで行くと、もう何でもありな感じ(笑)。

さて表題の作品だが、こちらは昭和の落語界の重鎮にして名人、
八代目林家正蔵が探偵役である。

といってもピンとこない人もいるだろう。
私自身、八代目の記憶はほとんどないのだが(笑)。
わかりやすいところでは『笑点』に出てる林家木久扇師匠が
しばしばモノマネをする ”彦六師匠” のことだ。
司会の春風亭昇太が独身の頃、しょっちゅう
「~だから昇太、お前に嫁は来ない」ってやってた、あれ。

ちなみに当代(九代目)林家正蔵は、襲名前は林家こぶ平と名乗ってた。
彼は昭和の爆笑王・初代林家三平の長男で、
これも『笑点』に出てる二代目林家三平は九代目のこぶ平の弟だ。

こぶ平の祖父(つまり初代三平の父)が七代目林家正蔵だったのだが
このあたりの事情は書き出すと長くなるので
興味がある人はググってください(笑)。

もともと林家正蔵は大名跡なんだが、
初代の三平も天才的な笑いのセンスで
一代で ”三平” を大名跡にしてしまったからねぇ。
それを継ぐのもたいへんだ。
いま『笑点』に出てる二代目を観てると、苦労が多そう(笑)。

すっかり前置きが長くなってしまった。
閑話休題。

「プロローグ」
浅草にある寿司屋『柳寿司』の老主人・板倉と客との会話から始まる。
かつて噺家だったという老主人が、昔を振り返り、
落語家だった頃に遭遇した事件を解決してくれた
林家正蔵師匠の思い出を語り始める。

第一話 「天災」から「初天神」
花翁亭文六(かおうてい・ぶんろく)師匠は、
最近高座に穴を開ける(無断で休んでしまう)ことが多い。
そんなある日、文六が『初天神』を高座にかけているとき、
突然、観客の女性が文六に向かって蜜柑を投げつけるという騒ぎが起こる。
そしてその直後、文六が自宅近くの路上で頭を殴られて入院してしまう。
32歳の二つ目、浅草亭てっ橋(てっきょう)は
この騒ぎに巻き込まれていくのだが・・・
舞台が昭和50年代なので、『神田紅梅亭』シリーズの探偵役である
山桜亭馬春(さんおうてい・ばしゅん)も若き姿で登場してくる。
もちろん林家正蔵がメインの探偵役ではあるのだが、
ここでの馬春も名探偵の片鱗を見せている。
また物語の舞台として、これも作者の別シリーズである
『神楽坂倶楽部』も登場し、先代の席亭とその息子も姿を見せる。
このあたりは読者サービスだろう。

第二話 「写真の仇討ち」から「浮世床」
8年ぶりに知人の田所に再会したてっ橋は、
彼が高校生くらいの美少女を連れていることに驚く。
翌日、高座を終えたてっ橋のもとへファンと自称する美女が訪ねてくる。
田辺京子と名乗ったその女と、翌日の夜に逢い引きする約束をするが
その場に京子は現れず、代わりにやってきたのは
田所が連れ歩いていた美少女だった。
このあとてっ橋は、奇妙かつ羨ましい(笑)体験をするのだが・・・
京子が企む陰謀も、正蔵師匠にかかれば全てお見通しだ。

「エピローグ」
『柳寿司』老主人が自らの噺家廃業の顛末を語り終える。
落語では芽が出なかったが、その後の人生は
決して不幸ではなかったことも窺える。これもまた人生。

このシリーズは現在のところ4巻まで出てる。こちらも近々読む予定。


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