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ベスト8ミステリーズ2015 [読書・ミステリ]

ベスト8ミステリーズ2015 (講談社文庫)

ベスト8ミステリーズ2015 (講談社文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/04/16
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

「日本推理作家協会賞 短篇部門」を受賞した2作(○印)を含めた、
2015年に発表された短篇ミステリ8作を収録したアンソロジー。

○「おばあちゃんといっしょ」大石直紀(おおいし・なおき)
冒頭は、ある人物の回想。その中で ”その人物” は
将来、詐欺師になることを決意する。
そして本編。主人公は詐欺師を生業にする竹田美代子。
現在はインチキ新興宗教を立ち上げて信者からお布施をかき集めている。
冒頭の人物イコール美代子、なんてのじゃひねりがなさ過ぎだから、
作中にもう一人詐欺師が潜んでるんだろうなぁ、
よおし騙されないぞ、そいつを見つけてやるぞ・・・
なぁんて思いながら読んでたんだが・・・
いやあ見事に背負い投げを食らってしまいました。
流石は受賞作。

○「ババ抜き」永嶋恵美(ながしま・えみ)
『アンソロジー 捨てる』(文春文庫)で既読。
会社の保養所へ泊まりに来た女性社員3人組。
負けたら一つずつ秘密を打ち明ける、という縛りをつけて
ババ抜き(作中では「ジジ抜き」なんだが)を始めるのだが・・・
明かされる内容がどんどんエグくなっていって、
3人の間に意外な因業があることが明かされていく。
一つ部屋に3人しかいない状況で
どんどんサスペンスを盛り上げていく技巧がスゴい。

「リケジョの婚活」秋吉理香子
東京の電機メーカーでロボット開発を担当する後藤恵美(30歳独身)は
TVの人気婚活番組に参加する。
目標は舘尾典彦(たてお・のりひこ)を ”落とす” こと。
彼は地方の水産加工会社で次期社長の座が約束されている32歳独身だ。
事前のあらゆるデータを収集し、万全のシミュレーションを経て
いざ番組本番に臨み、数多のライバルを相手に奮闘するのだが・・・
ラストのオチがリケジョらしくて秀逸、って書くと
リケジョの皆さんから「偏見よ!」って怒られてしまうかな。
リケジョの皆さん全部がこんな行動を取るとは思わないが
文系理系に関わらず、女は怖いのは確か(笑)。

「グラスタンク」日野草(ひの・そう)
竹宮美咲は高校時代の友人・大場結衣子(ゆいこ)に呼び出される。
二人にとって大事な友人であった菅野希(すがの・のぞみ)は
高校3年生の5月に溺死体で発見されていた。
警察は事故死と断定したが、結衣子はそれに納得していなかった。
彼女は義波(ぎば)という男に真相解明を依頼し、
その結果、希を死へ追いやった男の存在が明らかになった。
結衣子はこれから、義波とともにその男へ ”復讐” するのだという・・・
“復讐代行業” なるビジネスを描いた連作集の一編。
終盤で尻上がりにサスペンスが高まっていく様は迫力十分。
このシリーズ、読んでみようかな。

「十五秒」榊林銘(さかきばやし・めい)
ヒロインの薬剤師は、背後から銃で撃たれてしまうが
その瞬間、時間が止まり、彼女の前に猫の姿をした ”死神” が現れ、
“死神” は彼女の余命を「15秒」と宣告する。
しかし彼女はその15秒の間に、時間の流れを自由に ”再開” したり
”一時停止” する権限を与えられる。
彼女はその「15秒」の間に自分を撃った犯人を確かめ、
そしてその名をダイイングメッセージとして残すべく
必死になってアタマを絞るのだが・・・
いやあこういうミステリもアリなんですねえ。
こんな発想ができるのが作家さんなのでしょう。
ユニークさでは文句なく本書No.1。
ヒロインもリケジョなので、科学知識も総動員。
なんとか犯人に一矢報いんと踏ん張るのだけど、
最後の最後のオチがまた素晴らしい。
「15秒」の物語で文庫70ページを費やす。でも一気読み。

「サイレン」小林由香
舞台は「平等応報罪業法」という法律が成立した世界。
この法律は、被害者が犯罪者から受けた被害と同じ内容を、
犯罪者に対して合法的に執行できる、つまり同害報復を認めたもので
別名 ”復讐法” とも呼ばれる。
刑の執行に立ち会う「応報監察官」鳥谷文乃(あやの)が
今回担当するのは、息子を殺された会社員・天野義明。
3か月前、彼の16歳の息子・朝陽(あさひ)は、
壮絶な肉体損壊を受け、凄惨な死を遂げていた。
主犯の堀池剣也(ほりいけ・けんや)に対する ”応報” を認められた義明は
4日間かけて彼を ”なぶり殺し” にする権利を得るが・・・
義明が剣也に与える ”応報” は、読んでいる方が辛くなるほど凄絶。
それと並行して明らかになる親子の関係が哀切極まりない。
物語の奇想ぶりでは上記の「十五秒」と双璧。

「分かれ道」大沢在昌
ご存じ(?)新宿署の刑事・鮫島が活躍する『新宿鮫』シリーズの短篇。
張り込み中の鮫島は、福島から上京してきたばかりの
大出(おおいで)ともかという娘と知り合う。
母を探している彼女に、鮫島は協力することにするが・・・
都会に出てきたともか嬢の変転ぶりが
あまりにもお約束通りで哀しくなるなあ。

「静かな炎天」若竹七海
同名の短編集で既読。
ひき逃げで依頼人の息子に重傷を負わせた男・袋田の
素行調査を請け負う葉村。しかし調査を始めた直後に
袋田が飲酒運転するところを録画に成功。
続けて入った依頼は、音信不通の従姉妹の探索。
ところがこれもたちまち解決。
続けざまにどんどん入ってくる依頼に、
ふと不審なものを感じる葉村だが。
脈絡のない事件の連続のように見えて、実は・・・
いやあこれはよくできてる。
NHKでのドラマ「ハムラアキラ」の第2話の原作になった。
長谷川初範が出てたんだよねぇ。


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