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花を追え 仕立屋・琥珀と着物の迷宮 [読書・ミステリ]


花を追え――仕立屋・琥珀と着物の迷宮 (ハヤカワ文庫JA)

花を追え――仕立屋・琥珀と着物の迷宮 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 春坂 咲月
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/11/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★

第6回アガサ・クリスティー賞優秀賞受賞作。

主人公は仙台に住む女子高生・八重(やえ)。
母・久仁子、そして母の再婚相手の陸朗との3人暮らし。

八重は高校2年の夏の夕暮れ、着流し姿の青年と知り合う。
彼の名は琥珀(こはく)。ちなみに本名である。
職業は仕立屋で、どうやら超絶的な和裁の技術の持ち主らしい。
着物そのものにも豊富な知識を蓄えている。

そんな二人が出会う、着物に関する謎を描く連作短編集。
ちなみに章題の "裂" は "きれ" と読む。
たぶん "布きれ" の "きれ" でしょう。


「一の裂 着物を着ると泥棒になる?」
八重が通う篠笛教室の仲間・相良の3歳になる娘・未由(みゆ)が
突然、七五三で着物を着るのを嫌がりだしたのだという。
"キモノをきたらドロボウになる"と言い出して・・・

「二の裂 呪いまじない、解くほどく」
八重の同級生の小梅と朝美(あさみ)。
母親同士が何かと張り合っていて、そのあおりで娘たちも仲が良くない。
その朝美がなぜか八重と小梅のためにシュシュを手作りしてきた。
しかし、使われている布に描かれている絵柄に
"呪い" が込められているのではないか? と八重は不安を抱くが・・・

「三の裂 花の追憶」
「四の裂 辻が花の娘」
「五の裂 花を追え」
後半3話は、"幻の古裂(ふるぎれ)" と呼ばれる
貴重かつ高価な布地《辻が花》を巡る物語になる。


ここまで書いてくるとワトソン/八重とホームズ/琥珀のコンビが
和服を巡る謎を解いていく探偵物語、
そして事件を通して二人がラブラブになっていくストーリーって
思うかもしれないが、読んでみた雰囲気はいささか異なる。

琥珀の方は、ほぼ一目惚れに近い形で八重にぞっこんなのだが
八重さんは琥珀に対して好意は抱きつつも、
その先に踏み出すことができない。
彼女が琥珀と恋愛関係に入るには、
いくつかの "障壁" を超えなければならないのだ。

その最大のものは、本書のメインである古裂《辻が花》を巡る問題。
かつてこの古裂のために八重の実の父親は "犯罪者" と呼ばれ、
幼い頃の八重もまた《辻が花》の行方を追う者たちから
理不尽な仕打ちを受けていた。
そのせいもあり、八重自身が着物に対して忌避感を抱いている。

本書の後半は、その《辻が花》を巡る陰謀、そして真実が描かれる。
そして琥珀自身もまた、八重の過去に
意外な形で関わっていたことも明らかに。

本書は八重が "障壁" を乗り越えて、
琥珀と向き合うまでの物語でもある。

エピローグでは八重は大学生になり、
琥珀との付き合いも新たな関係に入りそうだ。
この二人の物語はシリーズ化されていて、
すでに第3巻まで刊行されている。

続巻も手元にあるので(いつになるかわからんけど)そのうち読む予定。

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