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満願 [読書・ミステリ]


満願 (新潮文庫)

満願 (新潮文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

著者は、『氷菓』ではじまる ”古典部シリーズ” でデビューした
ライトノベル出身の作家さん。
しかし近年、高水準のミステリを次々に発表してる。
本書のその一つ。粒ぞろいの短編を6作収録している。

「夜警」
交番勤務の警官・柳岡のもとに配属された新人・川藤。
柳岡は川藤の警官としての資質に疑問を感じながらも、
日々の業務をこなしていく。
ある夜、交番に通報が入る。男が刃物を持って暴れているという。
柳岡たちは現場で説得を試みるも通じず、男は逆に切りかかってきた。
川藤が拳銃を発砲、男は死亡するが川藤もまた負傷し、
搬送された病院で死亡する。
事件は殉職警官による美談として報道されたが、
現場に不審なものを感じていた柳岡は、川藤の意外な秘密を暴いていく。
誰しも、自分の仕事についてある程度の葛藤はあるものだろうが
さすがにここまで歪んだものを抱えている人は少なかろう・・・
とは思ったが、自分のことを振り返ってみるに
今日まで無事に過ごせてきたのは
ただ単に幸運だっただけだったりするのかな、とか思ったりする。

「死人宿」
アンソロジーで既読。以前にも記事に書いたはず。
失踪した恋人・佐和子が栃木の山奥の温泉宿で働いているという。
復縁を願う ”私” は、とるものも取りあえず会いに行く。
彼女の働く温泉宿の周囲では火山ガスが発生し、
毎年のように死人が出ているという。
”私” は佐和子を説得するために宿泊するが、
露天風呂の脱衣所で遺書が見つかる。
宿泊客の誰かが死のうとしている。
私は佐和子とともに自殺志願者を探し始めるが・・・
ミステリ的な結末のことより、本編の後、
二人はどうなるのかのほうが気になってしまった(笑)

「柘榴」
自他ともに認める美女へと成長したさおり。
大学で出会った不思議な魅力をたたえる男・成海(なるみ)と結婚し
二人の娘を儲けるが、やがて成海は家に寄り付かなくなり、
さおりは一人で子供らを育てていくことになる。
長女・夕子が中学3年生になったとき、さおりは離婚を決意するが
娘たちの親権を巡って成海と対立する。
家庭裁判所の審判を受けることが決まるが、
そのとき夕子が意外な行動をとる・・・
ミステリというよりはホラーな結末だなあ。

「万灯」
商事会社で働くモーレツ社員(死語だねwww)・伊丹は、
バングラデシュでガス田開発に取り組んでいる。
地質調査のための拠点建設の許可を得ようと、
伊丹は候補地のボイシャク村に向かうが
村の実力者・アラムは強硬に反対する。
しかし、村の長老たちはアラムと異なり、
開発を受け入れる意思を示す。しかしその条件として
彼らが示したのは、”アラムの殺害” だった。
遠く離れた異国の僻地で犯罪に手を染めた伊丹。
発覚する恐れは皆無と信じていた彼だが、意外なところから・・・
ミステリというよりは因果応報な物語かな。
人を呪わば穴二つってやつですか。

「関守」
フリーライターの私は、伊豆半島南部の桂谷峠を訪れる。
ここ4年間で5人も転落事故で亡くなっている、死を呼ぶ峠だ。
峠でドライブインを経営する老婆から
今までの事故の模様を聞き出していくのだが・・・
お婆さんの語り口がソフトなのでするする読めてしまうのだが
ラストで一気にホラーになる。

「満願」
アンソロジーで既読。以前にも記事に書いたはず。
苦学生の藤井が住み込んだ鵜川家。
主人の重治は酒と遊興に溺れて家業の手を抜くようになり
妻の妙子はやりくりに苦労していた。
やがて藤井は司法試験に合格して弁護士となるが
その4年後、妙子が高利貸し・矢場を刺殺する事件を起こす。
下宿時代に何くれとなく世話をしてくれた妙子のため
弁護に立った藤井だったが、一審では彼の訴えが認められない。
しかし妙子は控訴を取り下げてしまうのだった・・・
終盤で明らかになる妙子の真意。
前の記事にも書いたが、連城三紀彦の ”花葬シリーズ” を彷彿とさせる
”女の情念” の物語。そしてミステリとしても秀逸。
”鮮やかな反転” とはこんな作品のことを言うのだろう。

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