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真実の10メートル手前 [読書・ミステリ]

真実の10メートル手前 (創元推理文庫)

真実の10メートル手前 (創元推理文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/03/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

同じ作者の長編「さよなら妖精」の登場人物の一人、
大刀洗万智(たちあらい・まち)を主役としたミステリ短編集。
「-妖精」では高校生だった万智も本作では社会人となり、
新聞記者、さらにはフリーのジャーナリストになっている。


「真実の10メートル手前」
新興企業フューチャーステアが経営破綻し、
社長の早坂一太とその妹で広報担当の真理が失踪する。
東洋新聞の記者である万智は真理を取材するため、
彼女の潜伏先と見られる長野へ向かう。
手がかりは真理が妹・弓美(ゆみ)にかけた一本の電話のみ。
その内容から、万智は真理の居場所を推理していくが・・・


この事件の後、万智は新聞社を辞してフリーとなる。
その彼女がネパールで出くわした事件が長編「王とサーカス」。
本書の残り5編は、彼女が帰国してから後のエピソードとなる。


「正義漢」
夕方のラッシュを迎えた吉祥寺駅で起こった人身事故。
その現場で露骨に好奇心むき出しで取材を始める女性。
この女性こそ万智で、彼女の嫌らしいまでの取材姿勢にも
もちろん意味があるのだが。
彼女は事故の背後に潜む ”事件性” を的確につかんでいたのだ・・・

「恋累心中」
三重県で起こった、男女の高校生二人の自殺。
週刊誌記者の都留は、万智と共に彼らの通っていた高校へ向かう。
レトロでロマンチックな雰囲気さえありそうな心中事件の影に潜む
陰謀を暴く万智。

「名を刻む死」
飢餓による衰弱死と思われる男の死体が発見される。
彼の名は田上良造・62歳。
第一発見者の中学生・檜原(ひばら)京介のもとを訪れた万智。
良造は生前、日記に「名を刻む死を遂げたい」と記していた。
万智の取材に同行を申し出る京介だったが・・・
良造の生前における人となりには全く共感できないのだが
「明日は我が身」という言葉もある。
私自身、定年を迎えて肩書きのない身になるのもそう遠いことではない。
ちょっと身につまされてしまった。

「ナイフを失われた思い出の中に」
16歳の少年・松山良和が、20歳の姉・良子(よしこ)の一人娘で
3歳の花凜(かりん)をナイフで刺殺するという事件を起こす。
取材をする万智は、単純に思われた事件の深層に潜む
陰惨な真実を暴き出す。
「さよなら妖精」にゆかりの人物も登場する。
真相の意外さという意味では、本作の中では
いちばんミステリらしいミステリかなあ。

「綱渡りの成功例」
台風による豪雨に襲われた長野県南部。
土砂崩れによって孤立してしまった家屋から
戸波夫妻が救出されたのは4日後のことだった。
二人の命をつないだのは、買い置きしてあったコーンフレークだった。
救出に立ち会った消防団員・大庭の元を
大学時代の先輩・万智が訪ねてくる。
彼女は問う。夫妻の買い物先はどの店なのかと。
”ちょっといい話” で終わるはずのエピソードに潜む、
人に言えない秘密。確かに誇れる話ではないが、
そんなに悩むほどのことでも・・・って思ったんだけど、
マスコミに流れたらやっぱり物議を醸すだろうし、
中には厳しく糾弾する人も出てくるだろうなあ。


万智を探偵役とするミステリ・シリーズではあるのだけど、
プラスアルファ(というか作者としてはこちらがメインか)として
ジャーナリストである万智が事件と向き合う姿勢が描かれる。
なぜ取材するのか。どう取材するのか。
なぜ真実を知らなければならないのか。
そして何をどこまで伝えるべきなのか。
万智は聖人君子ではないし、もちろん
世俗を超えて悟りを開いたような完成された人格の持ち主でもない。
事件に遭うたびに迷い、戸惑い、悩む。
関係者に対しても時には親身になり、時には突き放す。
そのあたりが、謎解きだけに収まらない深みを
作品に与えているのだろう。

「王とサーカス」も読み終わってるので、近々感想を書く予定。

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臨機巧緻のディープ・ブルー [読書・SF]


臨機巧緻のディープ・ブルー (朝日ノベルズ)

臨機巧緻のディープ・ブルー (朝日ノベルズ)

  • 作者: 小川一水
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2013/10/18
  • メディア: 単行本
評価:★★★

人類が超光速航法を手に入れた未来。
(人類にとって)凶悪な異星生物との接触した経験から、
未知の星系の探査隊には軍艦が同行することになった。

その調査艦隊(通称『ダーウィン艦隊』)の一つに
カメラマンとして乗り込んだのが
主人公である石塚旅人(イシヅカ・タビト)だ。

その艦隊が到達したある星系。艦隊司令によって
〈カラスウリ〉と命名された星系にはすでに先客がいた。

表面の99%が海洋の「ディープ・ブルー」と名付けられた
第二惑星の周回軌道上に異星人の戦闘艦隊を発見したのだ。

異星人に対してコミュニケーションを試みる人類艦隊。
その結果、相手は鳥類から進化した生物であり、
自らを「バチス・シュワスフィン族」と名乗っっていること。
そしてディープ・ブルーの現住種族である「ルイタリ族」を
不当に圧迫しているらしいことが判明。

人類艦隊司令・コーサカは、ルイタリ族と直に接触することを決定する。
フリゲート艦(小型駆逐艦)での上陸部隊が組織され、
それにタビトも加わることになる。

上陸部隊はルイタリ族との接触に成功し、彼らは人間でいうところの
”人魚” に相当する形態を持つ水棲生物であることが判明する。

タビトは、ルイタリ族のことをもっと知るために
部隊を抜け出し、着陸地の近くにある謎の塔に潜入する。
そこで出会ったのは、〈聞き耳のヨルヒア〉と呼ばれるルイタリ族の少女。
彼女はなぜか同族たちによって幽閉されていたのだ・・・


ファースト・コンタクトものなのだけど
地球の大航海時代に、植民地を巡って
ヨーロッパの国々が争ったような状況を
未来に移し替えたような設定なので、「2001年」みたいな難解さは皆無。

もちろん本作はそれだけの内容にはとどまらず、
人類と鳥類型異星人とのコミュニケーション成立の過程、
水棲生物ルイタリ族の生態、そして両族のもつ独自の文化も
(ページ数の制約もあるのだろうが)十分SFらしく描き出している。

一方、二つの艦隊は一触即発の状態にあり、
一手間違えると全面戦争に突入する危うさもある。

後半に入ると、タビトはヨルヒアとともに
開戦を回避するために行動していく。
それに伴い、バチス・シュワスフィン族の指揮系統、
ルイタリ族が隠し持つ秘密など意外な事実が明かされていく。

ちなみに人類艦隊の戦闘指揮は人間が行っているが、
それをAIが補佐している。
さすがにこちらは某アニメのように
人間を差し置いて指揮権を奪おうとはしないが(笑)。

そして、主人公の次にセリフが多いのが、
タビトの持つカメラに内蔵されたAIとくる。
ちなみにこのAIには〈ポーシャ〉という愛称までついていて、
これがまた若い女性の声で喋る喋る(笑)。
これも時代なのかもねえ・・・

もちろん、3種も知的生物がいるのだから生身のキャラも多数登場する。
なかでも、飄々としてるようで結構したたかな
人類艦隊のコーサカ調査指令がいい味を出してる。

タイトルにある「臨機巧緻」って何のことだろうと思ってたんだが
読み終わってみるとたしかに「臨機巧緻」だったなあって思う。
どこがどうとはネタバレになるので書かないけど。

本作はシリーズ化されてるみたいで、
タビトが登場する長編がもう一冊手元にある。
これも近々読む予定。

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江神二郎の洞察 [読書・ミステリ]


江神二郎の洞察 (創元推理文庫)

江神二郎の洞察 (創元推理文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/05/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

有栖川有栖の二大シリーズといえば
「作家アリス」と「学生アリス」だろう。

本書は英都大学の学生である有栖川有栖(アリス)を語り手とする短編集。
探偵役は英都大学推理小説研究会(略称EMC)の部長で
タイトルにもなっている江神二郎が務める。

サザエさん時空となっている「作家アリス」シリーズとは異なり、
「学生アリス」シリーズではきちんと時間が流れていく。
本書では1988年4月にアリスが入学してからの1年間が描かれる。

登場するメンバー(EMC部員)は法学部1回生のアリスこと有栖川有栖、
経済学部2回生の望月周平と織田光次郎、
部長の江神は文学部4回生だが、なぜかアリスとの年齢差は7歳(笑)。
そして年度の終わり(本書の最後の一編)には、
やがてEMCの紅一点となる有馬マリアも登場する。


「瑠璃荘事件」
入学直後のキャンパスで、EMC部長の江神と知り合ったアリスは
入部早々、最初の事件にぶつかる。
望月の暮らす下宿・瑠璃荘で盗難事件があり、
その容疑が彼にかかっているという。
望月の隣室の学生・門倉のノートが行方不明となったが
事件発生時に下宿にいたのは門倉と望月のみだったのだ・・・

「ハードロック・ラバーズ・オンリー」
ロックをガンガン流している音楽喫茶<マシン・ヘッド>で
一人の女性と知り合ったアリス。
音楽を通じて親密になっていく二人だが
ある日アリスは雑踏の中で彼女の姿を見かけ、
咄嗟に呼び止めようと声をかける。
しかし彼女はアリスを無視して去っていってしまう・・・
いわゆる日常の謎系ミステリ。
江神が披露するのは推理というよりは推測だが、
後に続く「除夜を歩く」で裏付けられる。

「やけた線路の上の死体」
夏休みに親睦旅行へと出かけたEMCの4人。
和歌山にある望月の実家へとやってくるが、そこで耳にしたのは
列車が線路上に寝転んでいた男を轢いたという話。
しかし遺体には生活反応がなかったことから、
男はすでに死んでいたことが判明、事故は一転して殺人事件となる。
トリック自体は横溝正史の作品に同様のものがあったと記憶してるが
もちろんそれだけにとどまらない。
時刻表が大きな意味を持ってくるのはもちろんだが
現場に落ちていた紙一枚が事件解明のきっかけになるところは
「孤島パズル」を髣髴とさせる。

ちなみに学生アリスものの長編第1作「月光ゲーム」は
この短編の直後の話だとのこと。

「桜川のオフィーリア」
EMCの卒業生・石黒が英都大学にやってくる。
彼が持参してきたのは一枚の写真。
被写体となっているのは、眠るように目を閉じて川に浮かぶ少女。
しかしこの写真の彼女は死んでいるのだという。
少女の名は宮野青葉。石黒の高校時代の同級生だった。
故郷を流れる桜川で起こった17歳の女子高生の死は、
投身自殺と断定されたのだが、最近になって、
彼女の遺体が映った写真を、これも同級生だった穂積が持っていたことを
石黒は発見してしまう。これはいったい何を意味するのか・・・
私は青春ミステリって銘打った作品はあんまり好きじゃないんだけど
この作品は好きだ。ここで描かれているのは確かに青春時代の葛藤だ。

「四分間では短すぎる」
京都駅の公衆電話でアルバイト先に連絡を入れていたアリスは、
隣の電話で会話をしている男の言葉を聞いてしまう。
「四分間しかないので急いで。Aから先です」
これはいったい何を意味しているのか?
この言葉をきっかけに、EMCの面々が推理を構築していく。
ハリイ・ケメルマンの有名な短編「9マイルでは遠すぎる」を
モチーフとした作品なんだが、
ラストでしっかり背負い投げを食らってしまう。

「開かずの間の怪」
花沢医院は経営者の引退とそれに伴うゴタゴタで放置され、
廃院となっていた。しかし最近、ここに幽霊が出るとの噂が流れ始める。
実地調査にむかったEMCのメンバーだったが、
真夜中近くなったとき、謎の物音とともに子どもらしき人影に遭遇する。
それを追って3階へ上がった彼らの前に現れたのは
厳重に封じられた開かずの間。そして人影は消えていた。
人間消失もので、トリックそのものはすっきり解明されるんだが
怪談そのものは幾分かの謎を残して終わる。

「二十世紀的誘拐」
英都大学の坂巻教授宅から、絵が一枚盗まれてしまう。
犯人からの要求は使い古された千円札1枚のみ。
坂巻から依頼されたEMCのメンバーは、
犯人の要求通りに身代金の受け渡しに赴くが・・・

「除夜を歩く」
1988年の大晦日。織田と望月は帰省してしまい、
残ったのはアリスと江神のみ。
アリスは、江神からEMCのクラブノートを見せられる。
そこに記されていたのは、望月の手になるミステリ「仰天荘殺人事件」。
アリスはこれを読んで犯人を推理しようとするのだが・・・
トリックだけ見たら立派なバカミスなんだけど、ここから江神は
ミステリというものが持つ根源的な問題に立ち入っていく。
読者が大前提として受け入れているものを改めて問題化する江神。
「所詮は虚構なんだから、そのへんはいいんじゃない?」
なぁんて私なら思うんだが、そうはいかないのがプロ作家なのかなあ。
本作のラストでは「ハードロック・ラバーズ・オンリー」の女の子が
ワンシーンだけ登場する。

「蕩尽に関する一考察」
古書店・文誠堂の主人・溝口は近頃やたらと気前がいい。
破格で古書を譲ったり、たまたま居合わせた女子大生に食事を奢ったり
居酒屋で客全員に大盤振る舞いしたり・・・
しかし江神は彼のその様子から、意外な理由を引き出してみせる。
この短編で有馬マリアが初登場となり、
ラストでめでたくEMCの5人目の部員となる。

そして彼らの活躍は「孤島パズル」、「双頭の悪魔」、
そして「女王国の城」へと続いていく。

本シリーズは長編5本と短編集2冊で完結とアナウンスされている。
ということは長編はあと1作しか読めないということか。

巻末のあとがきでは、もう一冊の短編集は
彼らの「卒業アルバム」的な存在となるのだという。

やはり気になるのは江神のその後かなぁ。
ちゃんとした社会人になれそうな、なれなさそうな(笑)。
いや、そもそも大学を卒業できるのかが問題だね。
退学や除籍になってしまう可能性もありそう。
江神本人の素性も今一つ明らかでないところもあるし、
最後の長編でそのあたりが語られるのかもしれない。

江神以外の4人はきっちり4年で卒業して、真っ当に(笑)生きていけそう。
アリスは間違いなく作家になるだろうし。
マリアは? さて?

彼らの ”卒業の日” が見たい気もするし、
そんなときがずっと来なければいいような気もする。
金は無いけど自由があって、思いっきり好きなことに没頭できて
不安もあるが気楽でもあるモラトリアムな時間。
そんな学生時代を ”名探偵として”、あるいは ”名探偵と共に”
過ごす、という素晴らしい経験をしている彼らの物語を
ずっと読んでいたいと思うのは、私だけじゃないだろう。

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白戸修の逃亡 [読書・ミステリ]


白戸修の逃亡 (双葉文庫)

白戸修の逃亡 (双葉文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2016/09/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

無類のお人好しなのだけど、中野に来るとなぜか
事件に巻き込まれてしまう青年・白戸修を主人公としたシリーズ、
その第3作にして初の長編である。

 ちなみに中野とは東京の地名で、中野駅はJR新宿駅から3つめである。

第1作では大学生だった白戸くんも、
今作ではサラリーマン2年目を迎えている。
しかしトラブルについて回られる体質は相変わらずで、
今回は最大の危機に遭遇する。
作中ではかなりヒドイ目にあうのだけど、
いつもながらの彼のユーモアあふれるボヤキが
作品が深刻な雰囲気に陥るのを回避しているのはいい塩梅だ。
基本的にはコメディ・タッチの楽しいミステリである。


彼が働く世界堂出版が発行している雑誌の取材のため
白戸くんは京成大学准教授の聖田(ひじりだ)良男に会いに行く。
しかしその取材内容は、二人で中野駅を目指して歩くというもの。
嫌々ながら同行した白戸くんだが、途中で寄った喫茶店で
トイレに入ろうとした時、謎の男に刃物を突きつけられる。
男に脅されるままに服を交換させられる白戸くん。
しかしその直後から、周囲の人間たちが
目の色を変えて白戸くんのことを追い回し始める。

その理由は、毎年お台場の会場を借り切って3日間開催される、
世界的に有名なビッグイベント「メガトンコミックフェスタ」にあった。

このイベントは漫画と同人誌の展示即売会で、
来場者は100万人を数える。
しかし今年は、開催直前に実行委員会あてに何者かから
「会場に爆弾を仕掛けた」との脅迫メールが届き、
中止が決まったばかりだった。

差出人の正体は不明だったが、ネットでは立腹したファンたちによって
自主的な犯人探しが始まり、そこで浮上したのが「松崎」という男だった。

しかしネットで流れている「松崎」とされる男の写真は
ピンぼけで顔はわからない。
唯一判別できるのは服装のみで、それが今まさに
白戸くんが来ている服だったのだ。
つまり白戸くんは、100万人が楽しみにしていたイベントを
中止に追い込んだ犯人に間違われたわけで、
その100万人の憎悪を一身に背負うことになってしまったのだ。

ネット上では「松崎」を捕まえたら賞金を出すという者まで現れ、
白戸くんを追う者たちの行動はヒートアップするばかり。
捕まってしまったら命の危険さえあるだろう。

万事窮すかと思われたその時、白戸くんに救いの手が差し伸べられる。
何でも屋の日比、探偵社調査員の北条、
そして今は北条の恋人となっている杉本恵・・・
この3人にとどまらず、第1作、第2作で描かれた過去の事件で
白戸くんが関わり、解決してきた事件の当事者たちが
独自のネットワークを作り上げ、
白戸くんを救うべく活動を開始していたのだ・・・

白戸くんは彼らの協力を得ながら、脅迫事件の真相、
メールの差出人の正体に迫っていく。


「情けは人のためならず」ということわざがある。
最近は誤った解釈をしている人も多いらしいので原義を書いておくと
「情けは人の為だけではなく、いずれ巡り巡って
 自分に恩恵が返ってくるのだから、誰にでも親切にせよ」
ということである。

主人公・白戸くんは、将来自分に恩恵が返ってくることを
期待しているわけではなく、純粋に困っている人を「ほっとけない」。
関わっても損なことばかりで得なことは何一つないって分かっていても、
それでも人助けに奔走してしまうという究極の ”お人好し” なのだ。

そして本作は、その白戸くんが徹底的に ”報いてもらう” 話なのである。


前2作を読んだ人なら、白戸くんはいい人だけど損な性分だなあ・・・
って思う人が大半だろう。
しかし、過去の事件で白戸くんと関わり、
彼のそういう性格を知った人たちが、
今度は白戸くんを「ほっとけない」とばかりに、
横の連絡を取り合って彼の窮地に次々と駆けつける。
皆さんなかなか濃いキャラの方が揃っていて
まさにオールスターキャストである。
しかもその登場の仕方がまたかっこいい。
本業や特技を生かし、ここぞという場面で颯爽と、
あるいは密やかに現れる。
本書の一番の読みどころはここだろう。

このあたり、読んでいてなんだか無性に嬉しくなった。
「お前って、こんなに人の信望を集めるようになってたんだなあ・・・」
なんだかすっかり父親目線になり、感慨にふけってしまったよ。


もちろんミステリなので最終的に犯人は明らかになるし、
意外な真実も明らかになるのだけど
本作のキモはまちがいなく白戸くん本人の存在。

もしこれから本作を読もうとする人がいるなら、前2作は必読だ。
読んでいないと面白さは半減どころではない、
かなりの部分が伝わらないだろう。
言い換えれば、前2作はこのためにあったのかとも思わせるくらい。

よく「シリーズ既刊を未読でもこの作品は単独で十分楽しめます」
という宣伝文句がある。出版不況の今ではそういう要素も大事だろう。

しかし本書は、その流れに逆行するかのように
シリーズの既刊を読んでおかないと本当の面白さは分からない。
こんなふうに読者のハードルを高めてしまうのは
商業的には正しくないのだろうけど、
本作に限っては、既刊を追いかける価値は十分にあると思う。

前2作も十分に面白いと思うので、このシリーズを未読の人は
この際、究極の ”お人好し” に会いにいくのもいいのではないですか?

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GODZILLA 星を喰う者 [映画]


今日、ちょいと遠出する用事があったんだが、
出向く先の二駅ほど先にこの映画を上映している映画館があった。

というわけで、用事の終わったあと、足を伸ばして観てきた・・・んだが。

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ハッキリ言って疲れました。悪い意味で(苦笑)。
エネルギーを吸い取られたと言ってもいい。
観終わったあと、席から立ち上がる気力がなかなか湧きませんでした。
少なくとも私は、もう一回観たいとは思いません。

この下に感想もどきらしきものを書きましたが、
正直言って褒めてません。
以下の文章を読む方はそこのところをご理解の上、ご覧下さい。


第1作「怪獣惑星」では、
2万年後の地球を舞台に、人類と異星人ビルサルド&エクシフの
ヒューマノイド連合からなる地球降下部隊が
ゴジラと繰り広げる死闘を描き、
第2作「決戦機動増殖都市」では
テクノロジーを信奉する戦闘民族ビルサルドが
地球に残されたメカゴジラ・シティを甦らせて
ゴジラを一気に葬ろうとする。

そして第3作にして完結編の「星を喰う者」では
宗教民族エクシフが前面に出てくる。

二度にわたる激闘にもかかわらず、ゴジラを倒すことが叶わない。
無力感の漂う降下部隊の中でエクシフの神官メトフィエスは
人智を超えた ”神の存在” を説き始める。
絶望している人間たちに ”宗教” の勧誘はよく効く。
たちまちのうちにメトフィエスは
隊員たちの精神的指導者に収まってしまうのだが、
彼の真意はとんでもないところにあった・・・

良くも悪くも派手な戦闘シーンにあふれていた前2作とは
本作はかなり色合いが異なる。
主役はほとんどメトフィエスといってよく、中盤過ぎまでは
彼の目指す ”終局” が明らかになっていく過程を描いている。
作中の登場人物の台詞にもあるけど
「カルト宗教」による洗脳映画みたいである。

主人公であるはずのハルオは、
もっぱらメトフィエスに翻弄されるがままで
二人の会話シーンがかなりの部分を占めている。

画面の中で繰り広げられているのは延々と続く禅問答。
テーマ自体は、この手のSFではしばしば取り上げられるもので
取り立てて珍しくはないのだけれど、
それを怪獣映画の中で長々と聞かせられるのは如何なものか。
はて、私はゴジラを観に来たのではなかったか・・・?

そしてまた、展開が暗いんだなあ・・・・
なにがどう暗いのかは書かないけど。

私の3人くらい隣には、小学校4年生くらいの
男の子を連れたお父さんがいたのだけど
あの子は内容を理解していたのかなぁ・・・
理解していたとしたら、あの展開がトラウマにならないかなぁ・・・
他人事ながら心配になってしまったよ。

あとこれだけは書いておこう。
この映画のラストは、私の期待したものとは異なっていました。
作品の評価は人それぞれでしょうけど、私はあのラストは嫌いです。


虚淵玄という人は当代有数の人気脚本家らしいですけど
私とは波長が合わない人なんだなぁ、って思いました。

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「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 第六章 回生編」Blu-ray到着 [アニメーション]


昨日(9日)、帰宅したら佐川急便の「ご不在連絡票」が。
何と13時過ぎに来てたんですねえ。

今までの5回はいずれも土曜日の到着だったんだけど
早まったんですかね。金曜公開になったせいかな?

とはいっても既に18時を回っていたのでその日のうちの再配達は不可。
仕方が無いのでネットで再配達の手配を。
翌日(つまり今日・10日)の午前中に指定した。

しかし、なかなか来ないんだよねえ・・・待てども待てども来ない。
もうじき午後になっちまうぜ・・・って思ったら来ましたね。
時に11:51。まあ午前中には違いないが。

というわけで(どんなわけだ)、記念写真。

まずはパッケージ全景。

20181110a.jpg

中身の一覧、まずは表面。

20181110b.jpg

裏側はこんな感じ。

20181110c.jpg

夕方、ちょっと外出するので観るのはそのあと。
今晩は酒を飲みながら鑑賞会ですな。

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化学探偵Mr.キュリー4 [読書・ミステリ]


化学探偵Mr.キュリー4 (中公文庫)

化学探偵Mr.キュリー4 (中公文庫)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/03/18
  • メディア: 文庫
評価:★★★

四宮(しのみや)大学理学部化学科の沖野晴彦准教授は
先祖の一人に ”キュリー” という姓のフランス人がいたために
「Mr.キュリー」と呼ばれている。
とはいっても、有名なマリー・キュリー(キュリー夫人)とは、
縁もゆかりもない。

庶務課の若手職員・七瀬舞衣(ななせ・まい)とともに
大学内外で起こった厄介ごと(事件)を解決していく。


「第一話 化学探偵と猫騒動」
四宮大学の構内で猫が異常に増えているという。
サークル『大学猫を守る会』副会長の五郎丸早苗は
猫の保護活動に取り組んでいたが、
早苗自身が猫アレルギーになってしまったらしい。
腕に発疹が発生するようになったのだ。
沖野は事件の根底にあった意外な事情を明らかにする。

「第二話 化学探偵と互助組合の暗躍」
学生・植芝哲平は、ある ”重要データ” が入ったUSBメモリを
紛失してしまう。そのUSBは舞衣が発見し、
庶務課を通じて無事に鉄平に返された。
しかし、メモリの中には見知らぬテキストファイルが作成されており、
そこには持ち主宛てのメッセージが。
鉄平は友人の橋本竜昌(たつあき)に相談するが、
やがて二人宛に脅迫メールが届く・・・
本作に登場するような ”組合” なら実際に存在していそうだが。

「第三話 「化学探偵」の殺人研究」
若手人気俳優・美間坂剣也が主演を務める
二時間ドラマ・ミステリの製作が決まる。
しかしその矢先、プロデューサーの中之島修吾が怪死を遂げる。
剣也は、ヒロイン役の女優・東雲(しののめ)英梨子とともに
沖野の力を借りようとするが、その沖野もまた
通勤中に何者かに襲われて意識不明の状態に。
剣也は英梨子とともに連続する事件の謎を追うことになるが・・・
読んでいてすぐに分かると思うが、
化学探偵というタイトルに「」がついているのがミソ。

「第四話 沖野春彦と偽装の真意」
東理大学の理学部で、スターラー(攪拌装置)が
3台盗まれるという謎の事件が起こる。
スターラーとは、かき混ぜるだけの単機能しか持たない機械で、
実験室では珍しくもなく高価でもない機器だ。
学会参加のために母校である東理大学を訪れた沖野が
事件の背後の事情を解き明かす。

「第五話 七瀬舞衣と三月の幽霊」
四宮大学の校内にある初代工学部長の銅像の ”首” が
何者かによって切断されてしまう。
舞衣はオカルトサークルのメンバーたちに相談するが、
彼らは最近校内で目撃されている幽霊の仕業ではないかと言う・・・
第四話と第五話は時系列的にはほぼ同時に起こっているもの。
つまり東理大学で学会が開かれている間に
沖野と舞衣がそれぞれ単独で遭遇した事件の顛末を描いている。
舞衣は、沖野からメールでアドバイスをもらいながらも
一人で解決のため奔走する。


第一話こそいつものパターンだが、
沖野が解決にほとんど関わらない第二話、
○○○(ネタバレ回避)な第三話、沖野のみが関わる第四話、
そしてほぼ舞衣の働きだけで解決する第五話など、
通常ルーチンを外れた作品ばかりを集めた短編集となった。

4巻目なのでマンネリを回避したのか、
たまには変化球を投げたくなったのかは不明だが。

第五話の最後で、舞衣は採用一年目を終える。つまり
本シリーズは ”サザエさん時空” ではないということが
めでたく判明したわけだ(笑)。
ならば、この二人の仲にも決着がつく時が訪れるのか?

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探偵の誇り 日本推理作家協会受賞作家傑作短編集 [読書・ミステリ]


探偵の誇り-日本推理作家協会賞受賞作家 傑作短編集(6) (双葉文庫)

探偵の誇り-日本推理作家協会賞受賞作家 傑作短編集(6) (双葉文庫)

  • 作者: 泡坂 妻夫
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2018/06/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★

日本推理作家協会賞を受賞した作家さんによる短編アンソロジー。
長い歴史を持つ団体なので、”歴史的な” 作家さんも多い。

読んでみて驚いたんだけど、本書は
発表年代がかなり古いものが集められてるみたい。
参考までに、タイトルの前に書いた西暦が発表年。
一番古いもので66年前。私はまだ生まれてない。
一番新しいものでも38年前。私はまだ学生だったなぁ。

考えてみれば、最初のミステリ体験である
「怪人二十面相」との邂逅から数えれば、
私も半世紀くらいミステリとつきあってる計算になる。
おお、なんだかすごいぞ私(笑)。

本書に収録されてる6作品のうち、4作は読んでる(はず)なんだが、
どれも内容を全くと言っていいほど忘れていたのには参った。
いくら読んでも忘れてしまってはねえ・・・
まあ、”新鮮な気持ちで読める” というメリットはあるか・・・


1980「天井のとらんぷ」泡坂妻夫
都内で、天井にトランプのカードを張り付ける ”遊び” が大流行する。
梯子も脚立も使わずに貼り付けるからくり自体は単純なんだが、
都内のスナックバーで起こった殺人事件の現場でも
天井に貼り付けられたカードが発見される。
どうやら被害者のダイイングメッセージらしいのだが・・・
これは変わったタイトルなので覚えてた。
読んだ記憶はあるんだが内容はさっぱり覚えてない。
泡坂妻夫って、1987年に綾辻行人が登場するまでの
”本格不遇の時代” に、一所懸命に本格ものを書いてた人ってイメージ。

1953「正午の殺人」坂口安吾
人気作家・神田兵太郎の死体が発見される。
自殺とも他殺ともとれる状況だったが、当日の正午すぎまでは
兵太郎の生存が確認されており、容疑者たちには犯行は難しかった・・・
有名な某海外作品にも先行例があって、
今となっては手あかのつきすぎたトリックかなぁ。
初読のはずなんだが、読んでいてすぐに見当がついてしまう。
長編「不連続殺人事件」で活躍した探偵役・巨勢(こせ)博士が登場する。
そういえば「不連続-」は、私が唯一、論理的に考えて
犯人を当てることができたミステリだったなあ・・・(遠い目)。

1952「紫の恐怖」高木彬光
弘前の旧家・藤森家の長男と次男が続けて謎の急死を遂げる。
医師の診断は心臓麻痺だったが、長男の妻は神津恭介に調査を求める。
当時としては斬新だったかも知れないけど
今となっては陳腐なトリックになってしまった。
この時代だからこそ成立する犯罪で、現代で使ったら噴飯物かも。
もちろん作者に罪はない。すべては時の流れのせいか・・・
高木彬光は私が高校の頃から大学にかけてたくさん読んだし、
神津恭介が登場する作品なのでたぶん間違いなく読んでるはずなんだが
覚えてないんだよねえ・・・

1969「崩れた直線」陳舜臣
神戸の中華料理店で働く青年・衣笠健次のもとに、
相次いで高校時代の同級生二人が訪れる。
一人は東京の大学院で学んでいる遠山修平。
もう一人はカメラマンの徳村進。その徳村が健次の部屋で怪死する。
文庫で約90ページと本書中最長。とはいうものの
学生運動とかダイイングメッセージとかいろんな要素が散らばってて
今ひとつ見通しが悪いかなあ。犯人当ての要素も薄いし。
この作品も初読のはず。
この人は、乱歩賞をもらったデビュー長編と、
あと短編を何作かしか読んでない。

1962「暗い日曜日」仁木悦子
主人公・悦子は、自宅近くにある八幡様の鎮守の森で
文学者・館岡の死体を発見する。
被害者の服の袂から見つかった予定表のメモには
「夜 紫式部」という謎の文字が・・・
悦子の兄で、大学で植物学を専攻する雄太郎が
意外な犯人と意外な動機を導き出す。
仁木兄妹シリーズは大好きなので、ほとんど読んでるはず。
これもタイトルはしっかり覚えてたんだけど内容は・・・

1957「霧の中の女」横溝正史
霧深い夜の銀座、宝飾店『たから屋』に現れた女は
宝石の持ち逃げを謀り、店員の牧野はその後を追う。
しかし女は牧野を刺殺し、霧の中に消えていった・・・
金田一耕助ものなんだが、舞台が銀座というのは似合わないかなぁ。
横溝ブームのころ、角川文庫で出た作品はほぼ全巻読破した。
これも間違いなく読んでるはずなんだが、さっぱり覚えてない。
何せ40年くらい昔だからなあ・・・


現代の視点から見たら、いささか時代遅れを感じさせるものも
あるのだけど、それを上回ったのは ”懐かしさ” だったなあ。

捜査技術が(現代の基準からすれば)未熟で、
アラだらけのトリックでも通用した時代、
そしてそれを十分に楽しんでくれる、スレてない読者がいた時代。
自分もその一人だったんだなあ・・・

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「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」第六章 回生編 を観てきました [アニメーション]


以前の記事にも書いたとおり、ここ何日か忙しくて
昨日(3日)も今日(4日)も働いていました。

なので、明日の月曜日(5日)に休みをもらって観に行くことにしてました。
実際、先週のうちに休暇の届けを出したのですが・・・
その直後、なんと親類にご不幸があり、
5日にお見送りをするとの連絡が。

父の葬儀の時にも来てくれたところなので
行かないわけにもいかない。
ところが先方は、関東在住ではあるものの我が家からはけっこう遠くて
おそらく一日がかりの行程に。

というわけで5日に観に行くという計画は
”すべて押し流されて・・・”   orz

しかし!
閃いたのですよ。

昼間に行けなければ、夜に行けばいいじゃないか・・・

というわけで本日、仕事が終わってから映画館へ直行しました。
いままで、仕事のあった日に観に行ったこともあったけど
みな、いったんは家に帰って、それから観に行ったんだよね。

 ちなみにかみさんも誘ったんだけど「夜の回は行かない」とか
 「あとでいろいろ教えて」とか、なんかいろいろ言ってました(笑)。

仕事が終わってから直接観に行ったのは、今回が初めて。

行ったのは新宿ピカデリー。上映まで若干時間がとれたので
ファーストフードで腹に詰め込んで、19:00開始の回へ突入!

例によって年配者は多いのだけど、私のすぐ前に並んでたのは
若い女性(30歳くらいかなあ。女性の年齢を判断するのは難しい)。
声優さんのファンかな。
私の何人か後ろにいた男性二人組は
プラモデルの話で盛り上がってましたねぇ。

そんなこんなで上映開始。

ネタバレしない程度で書いてくと
とにかく展開が速くて情報量が多い。
実質90分くらいの映画のはずなのに
2時間以上もあるような気がしましたねえ。
特に21話は ”福井節” 満開で、
あれ? あの台詞は・・・(分かる人は分かる)
そしてなんと言っても山南とアンドロメダの奮戦!

ああ、頑張って仕事してきて良かった・・・って思いましたよ(笑)

ネタバレを含む詳しい感想(のようなもの)は、例によって
3週間のイベント上映が終わってからぼちぼち上げていこうと思います。

本日の戦果。パンフレットとキャラ・メカ・設定線画集。

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最低でももう一回くらいは劇場の大画面で観たいんだけど・・・
さて?

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