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シャーロック・ホームズの十字架 [読書・ミステリ]

シャーロック・ホームズの十字架 (講談社タイガ)

シャーロック・ホームズの十字架 (講談社タイガ)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/11/17
  • メディア: 文庫
評価:★★★

名探偵の条件は特定の遺伝子にあった・・・
というのが本シリーズの基本設定。

通称 ”ホームズ遺伝子群” の保有者は、強いストトレスにさらされると
この遺伝子が活動を開始し、超人的な集中力と独創性をもたらす。
結果として保有者が持つ名探偵としての素質を開花させることになる。
しかし実際に発現してみないことには、保有者であるかどうかはわからない。

名探偵としての明晰な頭脳は、犯罪捜査のみならず、
あらゆる分野に対して技術革新をもたらす可能性を秘めている。
アメリカ政府を影から操る「機関(シンクタンク)」は、
そんな人材を手に入れるために世界中に工作員を派遣していた。

しかし彼らのホームズ遺伝子保持者を ”選別” する方法は悪辣である。
保有する可能性を持つ者を一か所に集め、
そこで ”不可能犯罪” を引き起こして
彼ら彼女らにストレスを与え、その中から
ホームズ遺伝子が発現する者が出るのを待つ、というものなのだ。

発現した者を見つけたら、直ちに拉致・監禁して
新技術の開発に強制的に従事させる。
そして、「機関」の魔の手は日本にも及んできていた。

日本有数の大財閥・御子柴家(ミコグループ)の御曹司、御子柴辰巳は、
貴重な人材が海外へ失われることを防ぐため、
アメリカに対して表だって文句が言えない日本政府に代わり、
非公式に警察と協力して「機関」の活動を妨害していた。

主人公は18歳の天野直人。彼の妹の七海(ななみ)はわずか9歳にして
ホームズ遺伝子群を発現させ、名探偵としての片鱗を見せ始める。
この兄妹もまた「機関」の罠に落ちようとしたところを
御子柴に救われ、彼とともに働くことになった。

二人の ”仕事” は、警察から不可能犯罪発生の知らせを受けると
直ちに現場へ急行し、ホームズ遺伝子群の発現者が出る前に
真相を明らかにして解決してしまうことだ・・・

というのが前作のあらまし。


「第1話 強酸性湖で泳ぐ」
宮城県と山形県の県境にある赤背(あかせ)岳。
ここで行われるTV番組のロケに集まったのは
携帯アプリ「頭脳チャレンジャー」で
高得点を獲得した者から選ばれた6名と番組スタッフたち。
(「頭脳チャレンジャー」自体が、「機関」による遺伝子保持候補を
 見つけ出すシステムであり、このロケ自体も「機関」の罠である。)
しかしその夜、彼らの泊まるコテージが火事になり、
参加者6名の携帯に謎のメッセージが送られてくる。
さらにスタッフの一人が死体で発見されるが、
場所は強酸性の火山湖の湖面。
そして遺体は、湖岸から20mも離れた場所に建てられた
十字架にくくりつけられていたのだ・・・

「第2話 争奪戦の島」
両親を亡くして孤児だった天野兄妹は、
かつて暮らしていた児童養護施設「相模学園」を訪ねる。
そこへ事件発生の連絡が入り、二人は三浦半島の城ケ島へ向かう。
今は使われなくなった灯台で死体が発見されたという。
被害者は旅行ツアー6人のうちの一人で(このツアーも「機関」の罠)、
現場は密室状態の灯台の中、死体の状況は転落死を示していた。
しかし灯台の内部は、床面から20mあまり上にある天井まで、
壁面には何の足がかりもない。いったいどうやって
”転落” できる高さまで被害者を持ち上げることができたのか?

「第3話 象になる罪」
玄界灘に並んで突き出す2つの岬。
一方の岬の突端にある神社の境内で死体が発見される。
しかし犯行があったと思われる時刻の3分後には
容疑者全員がもう一つの岬の突端にある宿にいたことが確認される。
現場と宿は湾を挟んで最短距離は50m。しかし陸路では500m。
そして犯行時には海が荒れていて、ボートでの行き来は不可能だった。
現場に到着した天野兄妹だったが、その直後、直人の携帯に連絡が入る。
それは「相模学園」で暮らしている少女からのもので、
自分が誘拐され、どこかに監禁されていることを告げていた。
殺人と誘拐、同時に起こった二つの事件を
解決しなければならなくなった直人たちだったが・・・


江戸川コナン君は小学生なのに毎週のように
殺人事件に遭遇するなんて、考えたらあり得ない設定なのだけど
本シリーズでは、9歳の少女名探偵が(週ごとではないけどwww)
次々に不可能殺人の謎を取り組む羽目になる、っていう状況を
(ある程度)説明できるようになってる。

というか、それが成立するように
世界そのものの設定を作り上げてるわけで
たいした手間をかけてるとも思う。

そしてもう一つの利点(?)は、事件の背後にいるのが
資金も人材も豊富な ”組織” であること。
それぞれの事件の犯人はもちろん一人なのだが
そのトリックには、個人では(不可能ではないものの)
ちょっと実現が難しい、大がかりなものを用意してあったりする。

真相を読んだ人の中には、怒り出す人もいるんじゃないかなぁ・・・
なんて思うのだけど、「こういう世界なんだ」と割り切ってしまえば
それなりに面白がる人もいるだろう。

ちなみに私は後者でした。

あと、なんと言っても主役の兄妹がとっても健気なのがいいね。
読み進むごとに応援したくなってくる。
今後どこまでこのシリーズが続くのかは分からないけど
最後は幸せになってほしいものだ。

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