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研究公正局・二神冴希の査問 幻の論文と消えた研究者 [読書・ミステリ]


研究公正局・二神冴希の査問 幻の論文と消えた研究者 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

研究公正局・二神冴希の査問 幻の論文と消えた研究者 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2016/03/04
  • メディア: 文庫
評価:★★★

独立行政法人・興国科学研究所の女性研究員・永瀬美春が
華々しく発表した万能細胞<PAX細胞>。
しかし学術誌に掲載された論文に多数の捏造があることが分かり、
彼女は一転してマスコミから総攻撃を受ける身になる。
そんな中、美春の上司・篠崎は命を落とし、彼女も失踪してしまう。

それから2年。

興国科学研究所の研究員・円城寺は所長の東堂から呼び出しを受ける。
学術誌『Future』に<PAX細胞>に関する論文が再び投稿されたという。
その執筆者の中には篠崎と永瀬美春の名があった。

そして、論文の中で使用されている画像データは、
研究所内のPCからしかアクセスできないこともわかった。

内部にいる研究者の誰かが、二人の名を騙って論文を投稿したのか?
東堂は2年前の騒ぎの時に所内の調査に当たった円城寺に、
再調査を命じてきたのだった。

研究所内で、問題の画像データにアクセスできるのは5人。
円城寺は彼らを次々に呼び出して事情聴取を重ねていく。

再生研究グループのGMを務める峰岸。
研究チームのリーダーで、再投稿された論文の執筆者の一人に
名を連ねる(本人は「勝手に名前を使われた」と言うが)辰巳優梨子。
そして勤続15年のベテラン研究員・赤松。
今年度になってから海外の大学から移ってきた緒方。
亡くなった篠崎と同じ大学出身の相馬。

しかし所詮は素人の聞き取り調査であるから、
決定的な事実を引き出すこともできずに終わってしまう。

このあたりで、物語全体の1/3をやや超えたあたりか。
そして、タイトル(&表紙イラスト)にもある主役がここで登場する。

円成寺の前に現れたのは、文部科学省研究公正局の調査員・二神冴希。
研究公正局とは、<PAX細胞>騒ぎを受けて新設された部署で
冴希の目的は今回の論文投稿者を突き止めることのみならず、
2年前の捏造事件の動機、篠崎の死の真相、
そして永瀬美春の行方をも捜し出すことだった・・・


本作の特徴は、室内での会話シーンがほとんどを占めていること。
前半の円城寺による聞き取り、そして後半の冴希による聴取。
もちろん後者の方は独特な手法も取り込んでいてなかなか興味深い。
とはいっても、ともすれば単調になりがちなシーンが続くのに
それなりに興味をつないで読んでいけるのは、
それだけ達者な構成力なり筆力なりがあるのだろう。

さらに、冴希を外部からバックアップするメンバーも現れて
終盤では、円城寺や冴希が研究所を離れて活躍するシーンも描かれる。


本作のモデルは明らかにあの『S○○P細胞事件』だろう。
しかし作者は、”道を踏み外してしまう” 研究者に対して
単純に非難するばかりではなく、
研究者としての ”業” というか ”性(さが)” というものに
(決して許されることではないが)ある程度の理解を示してみせる。
そのあたりは、研究者でもある作者の思いも反映されているのだろう。

語り手を務める円城寺もまた、研究者として芽が出ず、
このままでは研究の道から追われてしまう恐怖を抱えて生きている。
今回の調査を引き受けたのも、これで点数を稼いで
自分の首が繋がるようにしたいとの下心があったからだが
彼も今回の事件を通じて、自らの中にあった
”サイエンスを愛する心” に改めて気づいていく。

冴希に対してそれを告げるラストシーンはとても快いものだ。

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