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子ども狼ゼミナール 本格短編ベスト・セレクション [読書・ミステリ]


子ども狼ゼミナール 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

子ども狼ゼミナール 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/01/16
  • メディア: 文庫
評価:★★★

2013年に発表された短編ミステリの中から
”本格ミステリ” として優れている作品を収録したアンソロジー。

「水底の鬼」岩下悠子
女性監督の美山(みやま)が、語り手兼ワトソン役となるシリーズの一編。
骨董をテーマにした次回作の準備中、彼女は骨董商・南天堂に
猟奇的な伝説をもつ鬼の面があるとの話を聞く。
平安時代末期のある村で、鬼面をつけた男が
刃物を持って村人たちに襲いかかり、
十数人もの負傷者を出したのち、山に逃げ込んだ。
男はその後、山狩りによって捕まり、殺されたという・・・
この伝承に対して、ホームズ役を務める脚本家の鷺森(さぎもり)は
現代的な視点から新たな解釈を示してみせる。
これがなかなか意外なんだが、けっこう納得できるものなのは流石。

「ボールが転がる夏」山田彩人
空き地の中に立つ密室状態の小屋の中で死体が発見される。
担当刑事・姫山は退職した刑事・綾川伸吾の自宅を訪ねる。
綾川はその優れた推理力で数々の事件を解決してきたのだが
今回は運悪く、心臓の持病で入院中だった。
気落ちする姫山に対して、綾川の娘・琴乃(ことの)は
自分こそが今までの事件を解決に導いてきたのだと言う・・・
童顔刑事とひきこもり女子高生のコンビが活躍するユーモア・ミステリ。
密室トリックそのものの実現可能性は高そうだが
もし実写で描いたものを観たら脱力しそう。
でもこの雰囲気の中でなら許せるかな。

「狼少女の帰還」相沢沙呼
大学生の三枝(さえぐさ)琴音は、小学校へ教育実習にやってくる。
彼女が担当するクラスの佐伯咲良(さくら)という生徒は
周囲から ”嘘つき” と呼ばれ、仲間はずれにされていた。
同級生の家で家政婦が何かを盗むのを見たのだが、
その同級生はそれを否定したのだという・・・
いわゆる ”日常の謎” 系ミステリなのだけど、
琴音が見抜いた真相は(子どもたちにとっては)重いものだ。
ミステリとしてもいいけれど、それ以上に、子どもたちと触れあって
成長していく琴音の姿のほうに感動を覚える。

「フラッシュモブ」遠藤武文
OLの靖代(やすよ)は、バーで恋人の和樹と吞んでいたとき
突然、バーに居合わせた人間全員がダンス・パフォーマンスを始めた。
和樹が靖代へのプロポーズのために ”フラッシュモブ” を仕掛けたのだ。
その最中、祝福のためにその場に来ていた
靖代の学生時代の同級生が刺殺される。
犯人は、かつて靖代を執拗に追い回していたストーカー男。
しかし男はその直後、トイレで服毒自殺を遂げる。
事件は犯人死亡で終了かと思われたが、
一年後、キャリア警視正の安孫子によって再捜査が開始される。
フラッシュモブを利用した犯行は目新しいし、
警視正の性格がエキセントリックとか、面白い要素はあるけど
事件の真相自体には意外性は乏しいかな。

「あれは子どものための歌」明神しじま
少女エミリアは、博打狂いの父親を救うために謎の老婆と取引をする。
エミリアは自分の持つ天性の素晴らしい歌声を老婆に与える代わりに
”どんな賭けにも負けない力” を手にする。
時は流れ、18歳になったエミリアは
町長の息子タシットから求婚されるが、彼の母ライヤは強硬に反対する。
そのライヤが謎の死を遂げ、人々はエミリアの仕業と噂する・・・
ファンタジー世界を舞台にしたミステリ自体は、
最近では珍しいものではないんだけれども、
この話自体には読んでいてデジャブ(既視感)を禁じ得なかった。
(wikiからの引用で申し訳ないが)ドイツの児童文学作家、
ジェイムス・クリュスが1962年に発表した『笑いを売った少年』
という作品に設定が酷似しているのだ。
実際、私はこの『笑い-』を小学生の頃に読んでる。
子ども向けの文学作品全集(私の記憶では小学館発行)の中の一冊として。
主人公の少年が “笑い” を売った代償に得たのも
”どんな賭けにも負けない力” だったし、
少年が自分の “笑い” を取り戻す方法も、本作でエミリアが
自分の ”歌声” を取り戻す方法も、全く同じである。
もちろん本作のメインはライヤの死にまつわる謎とその真相で
きっちりミステリとして仕上がってるのだけど、
エミリアと老婆のエピソードも配分としては決して軽くない。
(単純に、割かれたページ数だけを比べれば、
 エミリアの “賭に勝つ力” に関する部分の方が主で、
 ライヤに関する部分の方は従だと思う。)
作者が『笑い-』をパクったのかどうかは分からないし、
偶然、同じ発想で同じアイデアを思いついたのかも知れないけど。
(まあ、同じ人間が考えることだから、
 思いついたアイデアが被ってしまうことは起こりうることだろう。)
編集者は誰も気づかなかったのかなあ?って思うし
何より、昼行灯の私でさえ気づいたんだから
読者の中には私以外にも気づいた人もいたんじゃないかなあ・・・

「ディテクティブ・ゼミナール 第三問 ウェアダニット・マリオネット」円居挽
学校の教室ほどの空間に水が満たされた「バブルス」と呼ばれる施設。
その中には潜水服の人間が5人、という異様な状況から始まるのだが、
タイトルから分かるように連作短編の中の一編で、
ストーリーが連続している短編群から一作だけ引き出したので
こういうことになってるらしい。
彼らはミステリに関するクイズ・イベントに参加しているらしく
殺人事件の真相を推理するという問題に挑戦中。
しかしそれには、そもそもこの「バブルス」がどこにあって
どんな状況の下に存在しているかを突き止める必要がある。
本アンソロジーの中では(ファンタジー系の「あれは-」を含めても)
いちばん虚構性が高い、言い換えれば純粋な謎解き作品かと思う。
ただそれが面白いかというと、私にはいまひとつに思えるんだよなあ。

「黄泉路より」歌野晶午
経営していた会社をつぶし、妻子にも去られた五十嵐は
ネットの自殺サイトで集団自殺の参加者を募る。
やがて賛同者が4人現れ、ついに実行の日を迎える。
しかし当日現れたメンバーの一人、仁木智子に五十嵐は一目惚れ。
二人は集団自殺の中から、密かに生き残ることを決めるが・・・
自殺を扱っているのに、五十嵐のキャラもあってか悲壮感は希薄。
後半は打って変わってユーモラスな展開も。
タイトルは不気味だが読後感は悪くない。

「紙一重」深山亮
群馬県の過疎の村で司法書士を営む久我原(くがはら)。
遺産相続手続きの依頼人・増田から土地登記書と遺言書を
預かった久我原は、両方とも増田の妻・三千子へ返却するが
遺言書の方が行方不明になってしまう。
作者は司法書士を生業にしているらしいので
自明のことなのかも知れないけど、
素人がこの真相に気づくことはまずできないよなあ・・・
ま、単に私のアタマが悪いだけ、ってことなのだろうが(笑)。
業界小説と割り切って読めばいいか。

「犯人は私だ!」深木章子
名家・河南(かわみなみ)家の三男・竜三の刺殺体が
屋敷の離れで発見される。
竜三は長男・栄一が夭折、次男・寅二は素行不良で勘当されたことで
河南家の後継者となっていた。
しかし竜三は生前、精神が不安定な状態にあったため、
自殺の可能性も考えられた。そして何より、
現場の壁には竜三が自らの血で書き残した文字があった。
「はんにんはわたしだ」と。
文庫で40ページに満たない短編なんだが、
なんだか長編のダイジェストのようにも思える。
河南家内部の、家族同士の長年にわたる確執の描写も濃密だし
真相で語られる犯人の情念も哀れを誘う。
いっそのこと10倍くらいの分量に書き伸ばしてもらうと
横溝張りのお館ミステリになるんじゃないかなあ・・・

「本邦ミステリドラマ界の紳士淑女録」千街晶之
21世紀に入ってからのTVドラマにおけるミステリについての評論。
・・・なんだけど、私はおよそTVドラマと名のつくものは
ここ40年近くほとんど観てない。
(昔は観てたんだけどね。山口百恵主演の『赤い』シリーズなんて
 ほとんど観てるはず・・・って、トシが分かるね)
たまに大河ドラマをちょこっと観る程度で、民放のものはほぼ皆無。
『古畑任三郎』も『相棒』も一本も観てないので、
この評論できら星のごとく無数のミステリドラマが紹介されてるのだけど
まったく分からない。こういう人も珍しいかね?
この手のドラマが放映されてる時間帯って何をしてるかというと
独身の頃は家に仕事を持ち帰って、せっせとPCでそれをこなし
結婚してからは、食事を終えてリビングで居眠りをするようになった。
・・・なんだか自分がとってもダメ人間のような気がしてきたなぁ。
で、夜中にふっと目覚めてPCを立ち上げ、
酒を飲みながらこんな記事を書いてる、ってわけだ(笑)。

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