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研究公正局・二神冴希の査問 幻の論文と消えた研究者 [読書・ミステリ]


研究公正局・二神冴希の査問 幻の論文と消えた研究者 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

研究公正局・二神冴希の査問 幻の論文と消えた研究者 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2016/03/04
  • メディア: 文庫
評価:★★★

独立行政法人・興国科学研究所の女性研究員・永瀬美春が
華々しく発表した万能細胞<PAX細胞>。
しかし学術誌に掲載された論文に多数の捏造があることが分かり、
彼女は一転してマスコミから総攻撃を受ける身になる。
そんな中、美春の上司・篠崎は命を落とし、彼女も失踪してしまう。

それから2年。

興国科学研究所の研究員・円城寺は所長の東堂から呼び出しを受ける。
学術誌『Future』に<PAX細胞>に関する論文が再び投稿されたという。
その執筆者の中には篠崎と永瀬美春の名があった。

そして、論文の中で使用されている画像データは、
研究所内のPCからしかアクセスできないこともわかった。

内部にいる研究者の誰かが、二人の名を騙って論文を投稿したのか?
東堂は2年前の騒ぎの時に所内の調査に当たった円城寺に、
再調査を命じてきたのだった。

研究所内で、問題の画像データにアクセスできるのは5人。
円城寺は彼らを次々に呼び出して事情聴取を重ねていく。

再生研究グループのGMを務める峰岸。
研究チームのリーダーで、再投稿された論文の執筆者の一人に
名を連ねる(本人は「勝手に名前を使われた」と言うが)辰巳優梨子。
そして勤続15年のベテラン研究員・赤松。
今年度になってから海外の大学から移ってきた緒方。
亡くなった篠崎と同じ大学出身の相馬。

しかし所詮は素人の聞き取り調査であるから、
決定的な事実を引き出すこともできずに終わってしまう。

このあたりで、物語全体の1/3をやや超えたあたりか。
そして、タイトル(&表紙イラスト)にもある主役がここで登場する。

円成寺の前に現れたのは、文部科学省研究公正局の調査員・二神冴希。
研究公正局とは、<PAX細胞>騒ぎを受けて新設された部署で
冴希の目的は今回の論文投稿者を突き止めることのみならず、
2年前の捏造事件の動機、篠崎の死の真相、
そして永瀬美春の行方をも捜し出すことだった・・・


本作の特徴は、室内での会話シーンがほとんどを占めていること。
前半の円城寺による聞き取り、そして後半の冴希による聴取。
もちろん後者の方は独特な手法も取り込んでいてなかなか興味深い。
とはいっても、ともすれば単調になりがちなシーンが続くのに
それなりに興味をつないで読んでいけるのは、
それだけ達者な構成力なり筆力なりがあるのだろう。

さらに、冴希を外部からバックアップするメンバーも現れて
終盤では、円城寺や冴希が研究所を離れて活躍するシーンも描かれる。


本作のモデルは明らかにあの『S○○P細胞事件』だろう。
しかし作者は、”道を踏み外してしまう” 研究者に対して
単純に非難するばかりではなく、
研究者としての ”業” というか ”性(さが)” というものに
(決して許されることではないが)ある程度の理解を示してみせる。
そのあたりは、研究者でもある作者の思いも反映されているのだろう。

語り手を務める円城寺もまた、研究者として芽が出ず、
このままでは研究の道から追われてしまう恐怖を抱えて生きている。
今回の調査を引き受けたのも、これで点数を稼いで
自分の首が繋がるようにしたいとの下心があったからだが
彼も今回の事件を通じて、自らの中にあった
”サイエンスを愛する心” に改めて気づいていく。

冴希に対してそれを告げるラストシーンはとても快いものだ。

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子ども狼ゼミナール 本格短編ベスト・セレクション [読書・ミステリ]


子ども狼ゼミナール 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

子ども狼ゼミナール 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/01/16
  • メディア: 文庫
評価:★★★

2013年に発表された短編ミステリの中から
”本格ミステリ” として優れている作品を収録したアンソロジー。

「水底の鬼」岩下悠子
女性監督の美山(みやま)が、語り手兼ワトソン役となるシリーズの一編。
骨董をテーマにした次回作の準備中、彼女は骨董商・南天堂に
猟奇的な伝説をもつ鬼の面があるとの話を聞く。
平安時代末期のある村で、鬼面をつけた男が
刃物を持って村人たちに襲いかかり、
十数人もの負傷者を出したのち、山に逃げ込んだ。
男はその後、山狩りによって捕まり、殺されたという・・・
この伝承に対して、ホームズ役を務める脚本家の鷺森(さぎもり)は
現代的な視点から新たな解釈を示してみせる。
これがなかなか意外なんだが、けっこう納得できるものなのは流石。

「ボールが転がる夏」山田彩人
空き地の中に立つ密室状態の小屋の中で死体が発見される。
担当刑事・姫山は退職した刑事・綾川伸吾の自宅を訪ねる。
綾川はその優れた推理力で数々の事件を解決してきたのだが
今回は運悪く、心臓の持病で入院中だった。
気落ちする姫山に対して、綾川の娘・琴乃(ことの)は
自分こそが今までの事件を解決に導いてきたのだと言う・・・
童顔刑事とひきこもり女子高生のコンビが活躍するユーモア・ミステリ。
密室トリックそのものの実現可能性は高そうだが
もし実写で描いたものを観たら脱力しそう。
でもこの雰囲気の中でなら許せるかな。

「狼少女の帰還」相沢沙呼
大学生の三枝(さえぐさ)琴音は、小学校へ教育実習にやってくる。
彼女が担当するクラスの佐伯咲良(さくら)という生徒は
周囲から ”嘘つき” と呼ばれ、仲間はずれにされていた。
同級生の家で家政婦が何かを盗むのを見たのだが、
その同級生はそれを否定したのだという・・・
いわゆる ”日常の謎” 系ミステリなのだけど、
琴音が見抜いた真相は(子どもたちにとっては)重いものだ。
ミステリとしてもいいけれど、それ以上に、子どもたちと触れあって
成長していく琴音の姿のほうに感動を覚える。

「フラッシュモブ」遠藤武文
OLの靖代(やすよ)は、バーで恋人の和樹と吞んでいたとき
突然、バーに居合わせた人間全員がダンス・パフォーマンスを始めた。
和樹が靖代へのプロポーズのために ”フラッシュモブ” を仕掛けたのだ。
その最中、祝福のためにその場に来ていた
靖代の学生時代の同級生が刺殺される。
犯人は、かつて靖代を執拗に追い回していたストーカー男。
しかし男はその直後、トイレで服毒自殺を遂げる。
事件は犯人死亡で終了かと思われたが、
一年後、キャリア警視正の安孫子によって再捜査が開始される。
フラッシュモブを利用した犯行は目新しいし、
警視正の性格がエキセントリックとか、面白い要素はあるけど
事件の真相自体には意外性は乏しいかな。

「あれは子どものための歌」明神しじま
少女エミリアは、博打狂いの父親を救うために謎の老婆と取引をする。
エミリアは自分の持つ天性の素晴らしい歌声を老婆に与える代わりに
”どんな賭けにも負けない力” を手にする。
時は流れ、18歳になったエミリアは
町長の息子タシットから求婚されるが、彼の母ライヤは強硬に反対する。
そのライヤが謎の死を遂げ、人々はエミリアの仕業と噂する・・・
ファンタジー世界を舞台にしたミステリ自体は、
最近では珍しいものではないんだけれども、
この話自体には読んでいてデジャブ(既視感)を禁じ得なかった。
(wikiからの引用で申し訳ないが)ドイツの児童文学作家、
ジェイムス・クリュスが1962年に発表した『笑いを売った少年』
という作品に設定が酷似しているのだ。
実際、私はこの『笑い-』を小学生の頃に読んでる。
子ども向けの文学作品全集(私の記憶では小学館発行)の中の一冊として。
主人公の少年が “笑い” を売った代償に得たのも
”どんな賭けにも負けない力” だったし、
少年が自分の “笑い” を取り戻す方法も、本作でエミリアが
自分の ”歌声” を取り戻す方法も、全く同じである。
もちろん本作のメインはライヤの死にまつわる謎とその真相で
きっちりミステリとして仕上がってるのだけど、
エミリアと老婆のエピソードも配分としては決して軽くない。
(単純に、割かれたページ数だけを比べれば、
 エミリアの “賭に勝つ力” に関する部分の方が主で、
 ライヤに関する部分の方は従だと思う。)
作者が『笑い-』をパクったのかどうかは分からないし、
偶然、同じ発想で同じアイデアを思いついたのかも知れないけど。
(まあ、同じ人間が考えることだから、
 思いついたアイデアが被ってしまうことは起こりうることだろう。)
編集者は誰も気づかなかったのかなあ?って思うし
何より、昼行灯の私でさえ気づいたんだから
読者の中には私以外にも気づいた人もいたんじゃないかなあ・・・

「ディテクティブ・ゼミナール 第三問 ウェアダニット・マリオネット」円居挽
学校の教室ほどの空間に水が満たされた「バブルス」と呼ばれる施設。
その中には潜水服の人間が5人、という異様な状況から始まるのだが、
タイトルから分かるように連作短編の中の一編で、
ストーリーが連続している短編群から一作だけ引き出したので
こういうことになってるらしい。
彼らはミステリに関するクイズ・イベントに参加しているらしく
殺人事件の真相を推理するという問題に挑戦中。
しかしそれには、そもそもこの「バブルス」がどこにあって
どんな状況の下に存在しているかを突き止める必要がある。
本アンソロジーの中では(ファンタジー系の「あれは-」を含めても)
いちばん虚構性が高い、言い換えれば純粋な謎解き作品かと思う。
ただそれが面白いかというと、私にはいまひとつに思えるんだよなあ。

「黄泉路より」歌野晶午
経営していた会社をつぶし、妻子にも去られた五十嵐は
ネットの自殺サイトで集団自殺の参加者を募る。
やがて賛同者が4人現れ、ついに実行の日を迎える。
しかし当日現れたメンバーの一人、仁木智子に五十嵐は一目惚れ。
二人は集団自殺の中から、密かに生き残ることを決めるが・・・
自殺を扱っているのに、五十嵐のキャラもあってか悲壮感は希薄。
後半は打って変わってユーモラスな展開も。
タイトルは不気味だが読後感は悪くない。

「紙一重」深山亮
群馬県の過疎の村で司法書士を営む久我原(くがはら)。
遺産相続手続きの依頼人・増田から土地登記書と遺言書を
預かった久我原は、両方とも増田の妻・三千子へ返却するが
遺言書の方が行方不明になってしまう。
作者は司法書士を生業にしているらしいので
自明のことなのかも知れないけど、
素人がこの真相に気づくことはまずできないよなあ・・・
ま、単に私のアタマが悪いだけ、ってことなのだろうが(笑)。
業界小説と割り切って読めばいいか。

「犯人は私だ!」深木章子
名家・河南(かわみなみ)家の三男・竜三の刺殺体が
屋敷の離れで発見される。
竜三は長男・栄一が夭折、次男・寅二は素行不良で勘当されたことで
河南家の後継者となっていた。
しかし竜三は生前、精神が不安定な状態にあったため、
自殺の可能性も考えられた。そして何より、
現場の壁には竜三が自らの血で書き残した文字があった。
「はんにんはわたしだ」と。
文庫で40ページに満たない短編なんだが、
なんだか長編のダイジェストのようにも思える。
河南家内部の、家族同士の長年にわたる確執の描写も濃密だし
真相で語られる犯人の情念も哀れを誘う。
いっそのこと10倍くらいの分量に書き伸ばしてもらうと
横溝張りのお館ミステリになるんじゃないかなあ・・・

「本邦ミステリドラマ界の紳士淑女録」千街晶之
21世紀に入ってからのTVドラマにおけるミステリについての評論。
・・・なんだけど、私はおよそTVドラマと名のつくものは
ここ40年近くほとんど観てない。
(昔は観てたんだけどね。山口百恵主演の『赤い』シリーズなんて
 ほとんど観てるはず・・・って、トシが分かるね)
たまに大河ドラマをちょこっと観る程度で、民放のものはほぼ皆無。
『古畑任三郎』も『相棒』も一本も観てないので、
この評論できら星のごとく無数のミステリドラマが紹介されてるのだけど
まったく分からない。こういう人も珍しいかね?
この手のドラマが放映されてる時間帯って何をしてるかというと
独身の頃は家に仕事を持ち帰って、せっせとPCでそれをこなし
結婚してからは、食事を終えてリビングで居眠りをするようになった。
・・・なんだか自分がとってもダメ人間のような気がしてきたなぁ。
で、夜中にふっと目覚めてPCを立ち上げ、
酒を飲みながらこんな記事を書いてる、ってわけだ(笑)。

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R.E.D. 警察庁特殊防犯対策官室 ACTⅡ & ACTⅢ [読書・冒険/サスペンス]


R.E.D. 警察庁特殊防犯対策官室 ACTII (新潮文庫nex)

R.E.D. 警察庁特殊防犯対策官室 ACTII (新潮文庫nex)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/03/28
  • メディア: 文庫
R.E.D. 警察庁特殊防犯対策官室 ACTIII (新潮文庫nex)

R.E.D. 警察庁特殊防犯対策官室 ACTIII (新潮文庫nex)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/08/29
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

清楚なセーラー服に身を包んだ6人の少女たち。
しかしその正体は総理大臣直轄の特別捜査班R.E.D.の刑事にして
常人をはるかに超える身体能力を持つ超人軍団。

ちなみにR.E.D.とは Repression and Elimination Department の略。
凶悪な組織犯罪に対して制圧/排除を実行する特殊部隊である。
犯罪者に対しては実力行使も厭わない。
(というか、そっちのほうが本領みたいだが)

「スケバン刑事」と「攻殻機動隊」と「必殺仕事人」と
「ワンダーウーマン」を混ぜたような設定の
スーパーガールズの活躍を描く第2弾&第3弾。
内容的にも時系列的にも連続している2巻なので
まとめて記事に書くことにした。


暫定首都・中京都の郊外に広がる難民地区で、
若い女性の失踪事件が多発していた。
捜査にあたった緋縅主任警部以下6名のR.E.D.たちは
事件の背後に蠢く巨大な組織の存在を突き止める。

すなわち、暴力団『新潮会』(笑)と、ハイパーマーケットを展開する
フランス系多国籍企業ブルヴァール・ジャポン、
そして児童相談所を隠れ蓑に彼らの片棒を担ぐ福祉行政官僚たち。
彼らの作り上げた国際人身売買ネットワークが、
拉致した少女・女性たちを売春婦として海外へ ”輸出” していたのだ。

そして、その組織の要となっているのは
「ジョロウグモ」と呼ばれている謎の存在。

R.E.D.ナンバー2の箱崎ひかり警視は、
自らが囮となって組織への潜入捜査を始めるが・・・


今回の読みどころはやっぱりひかりさんの活躍でしょう。
うら若き女性である彼女が、売春組織の暴力団員たちに
あーんなことやこーんなことをされたりされかかったりと
このあたりはけっこう読んでいる方もハラハラドキドキである(笑)。
もっとも、歴戦の猛者である超人軍団を率いる身であるから、
それくらいのことで怖気づいたりするようなタマではないのだが。

組織の壊滅と関係者の一斉検挙を目指すR.E.D.の最終目標は
日本側の総元締めを務めていると目されている官房長官・末井。

そして、ついにR.E.D.の前に姿を現したジョロウグモの
意外な正体は・・・

「ACTⅡ」のラストは、R.E.D.たちがネットワークの中枢を叩くべく、
本拠地であるフランスへ飛び立つところで終わる。


続く「ACTⅢ」では、6人の超人軍団の総力を挙げた一大殲滅戦が描かれる。

到着したドゴール空港からパリへ向かう特急列車内で、
ネットワークの拠点と化したリヨン郊外の旧国立警察高等学院で、
そしてパリ郊外のブルヴァール最大級の店舗で。

もう冒頭30ページにすら達しないうちに
壮大なバトルアクションが始まってしまう。
もう「最初からクライマックスだぜ!」(byモモタロス)と
言わんばかりなのだが、これはまだ序の口なのに驚かされる。
このあたり、1986年の映画「エイリアン2」の
キャッチコピーを思い出したよ。「今度は戦争だ!」ってやつ。

後半になると、R.E.D.たちはネットワークのフランス側の黒幕である
フランス国家警察の総監察局長イザベル・ルロワに迫るべく、
首都中心部のパリ警視庁に急襲をかけるのだが
敵側も黙っているはずもなく、圧倒的な戦力を持って迎え撃つ。

国家警察はもちろんフランス国軍まで動員し、さらには
防衛省にも影響力を持つ末井官房長官が派遣した
”必殺の刺客” が彼女たちを待ち受ける。

夜のパリ市街地を舞台に、双方の死力を尽くした総力戦が展開される。

この手のサスペンス・アクション描写は
福井晴敏がピカイチだと思ってるんだが
本作はそれに匹敵するくらい濃いシーンが延々と描かれる。

不思議なもので、
「こんなことをしでかして日仏の外交関係は大丈夫なのか?」
なぁんて疑問は全くと言っていいほど頭に浮かばない。
あまりにもぶっ飛び過ぎていてそこまで思考が及ばないというか。
まあ、難しいことを考えていたらこのシリーズは楽しめないだろう。

もうシリーズ最終巻なんじゃないかっていうくらい激しい戦いの連続で
圧倒的な敵の物量に、さすがの超人軍団も
絶体絶命の窮地に追い込まれていく。

しかしこのシリーズはまだ終わらない。
「ACTⅢ」のラストでは、すべての元凶である末井官房長官の
「真の目的」が明かされるのだが・・・
これに対してR.E.D.はどう動くのか。

「ワイルド7」のラストみたいになるんじゃないかって
ちょっと心配な今日この頃(笑)。

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シャーロック・ホームズの十字架 [読書・ミステリ]

シャーロック・ホームズの十字架 (講談社タイガ)

シャーロック・ホームズの十字架 (講談社タイガ)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/11/17
  • メディア: 文庫
評価:★★★

名探偵の条件は特定の遺伝子にあった・・・
というのが本シリーズの基本設定。

通称 ”ホームズ遺伝子群” の保有者は、強いストトレスにさらされると
この遺伝子が活動を開始し、超人的な集中力と独創性をもたらす。
結果として保有者が持つ名探偵としての素質を開花させることになる。
しかし実際に発現してみないことには、保有者であるかどうかはわからない。

名探偵としての明晰な頭脳は、犯罪捜査のみならず、
あらゆる分野に対して技術革新をもたらす可能性を秘めている。
アメリカ政府を影から操る「機関(シンクタンク)」は、
そんな人材を手に入れるために世界中に工作員を派遣していた。

しかし彼らのホームズ遺伝子保持者を ”選別” する方法は悪辣である。
保有する可能性を持つ者を一か所に集め、
そこで ”不可能犯罪” を引き起こして
彼ら彼女らにストレスを与え、その中から
ホームズ遺伝子が発現する者が出るのを待つ、というものなのだ。

発現した者を見つけたら、直ちに拉致・監禁して
新技術の開発に強制的に従事させる。
そして、「機関」の魔の手は日本にも及んできていた。

日本有数の大財閥・御子柴家(ミコグループ)の御曹司、御子柴辰巳は、
貴重な人材が海外へ失われることを防ぐため、
アメリカに対して表だって文句が言えない日本政府に代わり、
非公式に警察と協力して「機関」の活動を妨害していた。

主人公は18歳の天野直人。彼の妹の七海(ななみ)はわずか9歳にして
ホームズ遺伝子群を発現させ、名探偵としての片鱗を見せ始める。
この兄妹もまた「機関」の罠に落ちようとしたところを
御子柴に救われ、彼とともに働くことになった。

二人の ”仕事” は、警察から不可能犯罪発生の知らせを受けると
直ちに現場へ急行し、ホームズ遺伝子群の発現者が出る前に
真相を明らかにして解決してしまうことだ・・・

というのが前作のあらまし。


「第1話 強酸性湖で泳ぐ」
宮城県と山形県の県境にある赤背(あかせ)岳。
ここで行われるTV番組のロケに集まったのは
携帯アプリ「頭脳チャレンジャー」で
高得点を獲得した者から選ばれた6名と番組スタッフたち。
(「頭脳チャレンジャー」自体が、「機関」による遺伝子保持候補を
 見つけ出すシステムであり、このロケ自体も「機関」の罠である。)
しかしその夜、彼らの泊まるコテージが火事になり、
参加者6名の携帯に謎のメッセージが送られてくる。
さらにスタッフの一人が死体で発見されるが、
場所は強酸性の火山湖の湖面。
そして遺体は、湖岸から20mも離れた場所に建てられた
十字架にくくりつけられていたのだ・・・

「第2話 争奪戦の島」
両親を亡くして孤児だった天野兄妹は、
かつて暮らしていた児童養護施設「相模学園」を訪ねる。
そこへ事件発生の連絡が入り、二人は三浦半島の城ケ島へ向かう。
今は使われなくなった灯台で死体が発見されたという。
被害者は旅行ツアー6人のうちの一人で(このツアーも「機関」の罠)、
現場は密室状態の灯台の中、死体の状況は転落死を示していた。
しかし灯台の内部は、床面から20mあまり上にある天井まで、
壁面には何の足がかりもない。いったいどうやって
”転落” できる高さまで被害者を持ち上げることができたのか?

「第3話 象になる罪」
玄界灘に並んで突き出す2つの岬。
一方の岬の突端にある神社の境内で死体が発見される。
しかし犯行があったと思われる時刻の3分後には
容疑者全員がもう一つの岬の突端にある宿にいたことが確認される。
現場と宿は湾を挟んで最短距離は50m。しかし陸路では500m。
そして犯行時には海が荒れていて、ボートでの行き来は不可能だった。
現場に到着した天野兄妹だったが、その直後、直人の携帯に連絡が入る。
それは「相模学園」で暮らしている少女からのもので、
自分が誘拐され、どこかに監禁されていることを告げていた。
殺人と誘拐、同時に起こった二つの事件を
解決しなければならなくなった直人たちだったが・・・


江戸川コナン君は小学生なのに毎週のように
殺人事件に遭遇するなんて、考えたらあり得ない設定なのだけど
本シリーズでは、9歳の少女名探偵が(週ごとではないけどwww)
次々に不可能殺人の謎を取り組む羽目になる、っていう状況を
(ある程度)説明できるようになってる。

というか、それが成立するように
世界そのものの設定を作り上げてるわけで
たいした手間をかけてるとも思う。

そしてもう一つの利点(?)は、事件の背後にいるのが
資金も人材も豊富な ”組織” であること。
それぞれの事件の犯人はもちろん一人なのだが
そのトリックには、個人では(不可能ではないものの)
ちょっと実現が難しい、大がかりなものを用意してあったりする。

真相を読んだ人の中には、怒り出す人もいるんじゃないかなぁ・・・
なんて思うのだけど、「こういう世界なんだ」と割り切ってしまえば
それなりに面白がる人もいるだろう。

ちなみに私は後者でした。

あと、なんと言っても主役の兄妹がとっても健気なのがいいね。
読み進むごとに応援したくなってくる。
今後どこまでこのシリーズが続くのかは分からないけど
最後は幸せになってほしいものだ。

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恋路ヶ島サービスエリアとその夜の獣たち [読書・ミステリ]


恋路ヶ島サービスエリアとその夜の獣たち (講談社文庫)

恋路ヶ島サービスエリアとその夜の獣たち (講談社文庫)

  • 作者: 森 晶麿
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/11/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★

恋路ヶ島は、淡路島の西隣に位置する小さな島。
ここにある高速道路のサービスエリア(SA)で起こった
一夜の大騒動の顛末が描かれる。

恋路ヶ島SAの売り子になると1年以内に恋人からプロポーズされるという。
ヒロインの理代子もまたその伝説の通り、
同棲中の恋人・和彦から結婚を申し込まれる。
しかしある日、彼女は和彦の浮気現場に遭遇してしまう。

アパートを飛び出した理代子は、そのままSAに出勤する。
今日のシフトは午前0時から午前9時まで。
混乱する心を抑えきれずにいた彼女に声をかけたのは
1か月前に入った新入り清掃士のマキノだった。

一方、夜のSAには様々な客が訪れる。
動物のにおいをまとわせた迷彩服の男、
殺してしまった女の死体を運んでいる兄弟、
浮気相手と密会中の人気テレビ司会者・・・
そんな中、理代子とマキノは男子トイレの個室で血痕を発見する。
さらにそこには何かを引きずったような跡まで。
これは何を意味するのか?

物語は理代子&マキノの二人を含む、
登場人物たちそれぞれに視点を切り替えながら進んでいく。
そして次第に、一見して何の関連もなさそうな彼らの間に
実は意外なつながりがあることがわかってくる。

途中までは、このSA内でいったい何が起こっているのか
よく分からないまま事態は推移していくのだが
実はいちばん謎なのはマキノの正体だろう。
章の合間にときおり「マキノ」と題された断章が挿入されているんだが、
これがまた思わせぶりな内容である。

タイトルに「獣たち」ってあるんだが、最初は
わがまま一杯で、ある意味 ”凶暴” な登場人物たちを
”獣” に例えてるんだろうと思ってた。
でもストーリーが進むうちにSAの中を
ホントの ”獣たち(!)” が跋扈し始めるのはちょっと驚き。

そしてラストでは、序盤からは想像もできないような
大騒動となっていく。

読み終わってまず思ったことは
「よくまあこんな話を考えたなあ」ってこと。
物語の構成がとてもうまくできてるのだろう。

終わってみれば ”一夜の夢” のようなお話なんだが、
この怒濤のような体験が理代子を変えていく。
このあたりの読後感は悪くない


最後にちょっとお願いを。
できれば、登場人物一覧をつけてほしいなあ。
どうもトシを取ると、キャラの名前とか素性とか属性とかを
覚えるのが苦手になってきたみたいで
場面ごとに出てくる人物が入れ替わる本作は、
流して読んでると迷子になってしまいそうなので。
(単に私がグウタラなだけなだけなんだが)

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