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黒猫の約束あるいは遡行未来 [読書・ミステリ]


黒猫の約束あるいは遡行未来 (ハヤカワ文庫 JA モ 5-5)

黒猫の約束あるいは遡行未来 (ハヤカワ文庫 JA モ 5-5)

  • 作者: 森晶麿
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/10/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★

探偵役は〈黒猫〉と呼ばれる青年。
24歳で大学教授になった才人であり、
〈黒猫〉とは彼の恩師がつけたあだ名。誰も本名では呼ばない。
語り手は〈付き人〉と呼ばれる女性。
大学時代の同級生で現在は博士課程に在籍中。
将来は研究者を目指している。
二人ともなぜか本名が明かされないまま、今まで物語が進行してきた。
本書はそんな二人が出会う事件を描くシリーズの第5作。


フランスに滞在中の〈黒猫〉は師事するラテスト教授から、
イタリアにある<遡行する塔>のことを聞く。
建築家ガラバーニが自宅に建設を始めた塔は、
彼の自殺によって建築が中断してしまったが
3年前から再び、建設が少しずつ進行し始めたのだという。
〈黒猫〉はその調査のためにラテストの孫・マチルドと共に現地へ赴く。

現在、<塔>を含むガルバーニの屋敷は、
世界的なIT企業の経営者クニオ・ヒヌマの所有となっていて
ヒヌマ本人および夫人や使用人たちが居住している。
屋敷に滞在することになった〈黒猫〉の質問に対して
ヒヌマは巧みにはぐらかすような素振りを見せる・・・

一方、〈付き人〉は唐草教授と共にロンドンを訪れていたが
そこに現れた映画監督のトッレに、
現在撮影中の映画への出演を打診される。
ワンシーンのみの出番とのことから出演を了承した彼女は
トッレと共にイタリアへ向かうことになるが・・・


そして中盤ではある人物が死亡し、後半に入ると
人知れず "成長" を続ける<塔>の謎、
自殺した建築家の生涯に秘められた秘密などが
〈黒猫〉によって解明されていく。

特に、ガルバーニの屋敷に住む人々の不審な行動の理由は
明かされてみると「やられたなあ」と思わせる。

そのあたりのミステリ的な要素も魅力的ではあるのだが
いちばんウエイトが大きいのは
〈黒猫〉と〈付き人〉のラブストーリーだろう。


シリーズを通して〈黒猫〉への想いを育ててきた〈付き人〉、
〈黒猫〉のほうも彼女のことを憎からず思っていて、
それが行動の端々に現れるようになってきた。
そんな二人が異国の地で意外な再会を果たすのだが・・・

しかしまあ、二人揃って "草食系" というか
 "スロースターター" というか、恋愛の進行度は至って緩やか。
歯がゆいような気もしなくはないが、
これがこの二人にとっては適度なペースなのだろう。

"サザエさん時空" ではなく、1作ごとに
着実に作品内の時間は進行しているので
いつかはこのシリーズは完結する時を迎えるのだろう。
〈黒猫〉がフランス滞在を終えて帰国するのもそう遠くなさそうだし。

とにかく〈付き人〉さんが健やかでいい娘さんなんでねぇ。
彼女には幸せになってもらいたいもんである、うん。

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