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「太陽の王子 ホルスの大冒険」のこと ー高畑勲氏逝去に寄せてー [アニメーション]


アニメーション映画監督、高畑勲氏がお亡くなりになった。
各種媒体で氏の経歴が紹介されているが
氏の代表作として挙げられているのは「火垂るの墓」以降、
「かぐや姫の物語」に至るまでのジブリ作品がほとんどで、
初監督作である「太陽の王子-」に触れているものはほぼ皆無のようだ。

「太陽の王子-」がどんな作品であるのかは、wikiをはじめとして
紹介する記事はネットの中にたくさんあるだろう。
それらに対して屋上屋を架すような気もするが、
私も思うことをいくつか書いておこうと思う。


太陽の王子 ホルスの大冒険 [Blu-ray]

太陽の王子 ホルスの大冒険 [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
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公開は1968年。なんと今から50年も前のことだ。
モチーフとなったのはアイヌの伝承らしいが、
作品としては北欧に近い雰囲気の場所を舞台にしているようだ。
人間に災いをもたらす氷の悪魔グルンワルドと
太陽の剣を持つ少年ホルスの戦いが描かれる。


人里離れた地で父と二人暮らしで育った少年ホルスは、
ある日出会った岩男モーグから錆びついた "太陽の剣" を与えられる。
父と死別したホルスは遺言に従い、剣を携えて海を渡り、
人間が住む村にたどり着く。

しかしそこは悪魔グルンワルドが滅ぼそうと狙っていた場所で、
彼は "妹" ヒルダを村に送り込み、
人々の間に不和と諍いを生じさようとしていた。

ホルスもまたヒルダの罠にはまり、"迷いの森" へ誘い込まれてしまう。
"森" が見せる幻想に苦しめられるホルスだが、その中で
人間が力を合わせればどんな邪悪にも対抗できることに気づく。

"迷いの森" を脱出したホルスは村人たちと力を合わせて
"太陽の剣" を鍛え直すことに成功する。
輝きを取り戻した "太陽の剣" を掲げたホルスは、
村人たちと共にグルンワルドへ戦いを挑む・・・

とまあ、こんなストーリーだ。


今でこそヒロイック・ファンタジーは
エンターテインメントの一大ジャンルと化していて、
小説、マンガ、映画、ゲームと洪水のように新作が出ているが
50年前の日本は、やっとSFが広まり始めた頃で、ファンタジーが
市民権を得るにはさらに10年以上の時を待つ必要があった。
そんな時代に "剣と魔法" の物語を長編アニメで発表したのは
やはり凄いことだろうと思う。


CVもそうそうたるメンバーが演じている。
冷酷な悪魔グルンワルドは平幹二朗、
悪魔と人間の間にあって葛藤する少女ヒルダは市原悦子、
岩男モーグは横内正、TVドラマ『水戸黄門』の初代角さんである。
村の鍛冶屋で流れ着いたホルスを保護するガンコ爺さんは東野英治郎。
TVドラマ『水戸黄門』で初代黄門様を演じていたことを
知る人はもう少数派だろうか。
子リスの役で小原乃梨子が出ていたことも忘れてはいけない。

スタッフも腕利きが揃ってた。
作画監督は大塚康生。代表作は「ルパン三世」シリーズかな。
もちろん「カリオストロの城」の作画監督もこの人。
場面設計・美術設計は宮崎駿。この人は説明の必要はないね。
原画には森康二。「アルプスの少女ハイジ」をはじめとする
世界名作劇場の常連さん。「未来少年コナン」の原画にも参加してる。
さらに原画には小田部羊一&奥山玲子夫妻もいる。
この二人が作画監督を務めた代表作は
長編アニメ「龍の子太郎」(1979年)だろう。


しかしながら、残念なことに私はこの作品を
リアルタイムでは観ていないのだ。
本作が公開されたのは68年なのだが、
私が初めて映画館で長編アニメーションを見たのは
翌年69年の「空飛ぶゆうれい船」が最初だった。
わずか1年の差で、見逃してしまったのだった。

大学生になり、アニメとSFに嵌まっていった私の耳にも
「ホルスの大冒険」は傑作だ、という噂が入って来るようになった。
しかし当時はレンタルビデオも無い時代。ネット配信なんて夢のまた夢。
過去の映画を観るには、映画館でリバイバル上映されるか、
TV放映を待つかしかなかった。そんな時代だったのだ。

そして、いつだったか思い出せないのだが
情報雑誌『ぴあ』をパラパラ捲っていたら、
大学の学園祭で「ホルス」が上映されるという情報が載っていた。
たぶん千葉大学だったと思うのだが、記憶が定かでない。
とにかく延々と長時間電車に揺られて観に行ったことを思いだした。
たしか上映会場も階段教室だったと思う。
そこで、噂だけは聞いていた「幻の作品」を初めて観たわけだ。
どんな感想を持ったのかもよく覚えていないのだが
わざわざそんな遠くまで行ったことを後悔した記憶はないので
この作品を見られたこと自体は嬉しかったのだろうと思う。


 こんなこともすっかり忘れていたのだけれど
 TVで高畑氏の訃報が流れ、wikiで氏の経歴を
 眺めていたら思い出してきたよ。

今の目で見たら、いろいろ不備もあるだろう。
「東映まんが祭り」という作品のフォーマット上の縛りがあったり
途中の群衆シーンが止め絵で表現されていたりと
(予算と上映時間と制作スケジュールの都合なのだろうが)
高畑監督からしたら "会心の出来" とは言い難いかも知れない。

でも、高畑氏の出発点として記憶されるべき作品だと思うので
未見の方はぜひ観て頂きたい。
当時の東映アニメーションの粋を極めた、流麗な作画が堪能できるし、
映像の美しさ、音楽の素晴らしさ、声優陣の熱演、
どれをとっても一級品なのは間違いないと思う。

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