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ライオンの棲む街 平塚おんな探偵の事件簿1 [読書・ミステリ]


ライオンの棲む街  平塚おんな探偵の事件簿1 (祥伝社文庫)

ライオンの棲む街 平塚おんな探偵の事件簿1 (祥伝社文庫)

  • 作者: 東川 篤哉
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2016/09/14
  • メディア: 文庫
評価:★★★

本書の語り手は川島美伽(みか)、27歳の元OL。
東京で会社勤めをしていたものの仕事に疲れ恋に破れ、
職も貯金も失って故郷・平塚の実家に舞い戻ってきた。

再就職もままならない美伽のもとへ舞い込んできたFAX。
差出人は高校時代の親友、生野エルザ(しょうの・えるざ)。
誰にでも噛みつく気性の荒さから "雌ライオン" の異名を持つ女だ。
「暇ならウチの仕事を手伝え」

エルザはいつのまにか、所轄署の刑事さえ一目置く
"名探偵" となっていたのだ。
"猛獣" エルザと "猛獣使い" 美伽のコンビが
平塚で遭遇する奇妙な事件を解決していくユーモアミステリの連作。

 そういえば、昔「野生のエルザ」ってTV番組があったよなあ。
 知らない人もいると思うので書いておくと、
 "エルザ" というのはそれに登場するライオンの名前だ。
 wikiで調べたら同題の映画まであった。どちらも40年以上昔。
 ああ、何もかもみな懐かしい・・・


「第一話 女探偵は眠らない」
OLの沼田一美は、婚約者・杉浦啓太に隠れた恋人がいるのではと疑う。
依頼を受けたエルザは、杉浦が密かに借りているアパートを突き止める。
二人でそこを監視する中、部屋から女が出てきたが
エルザは尾行に失敗して見失ってしまう。
一方、部屋を訪ねた美伽は、中で杉浦の死体を発見する・・・

「第二話 彼女の爪痕のバラード」
食品会社の営業マン・山脇敏雄の恋人、北村優菜が失踪した。
優菜の母親・典子が交際中の男・高岡祐次と
旅行に行っている間に姿を消したのだ。
捜索を始めた二人だが、典子はなぜか娘の捜索に非協力的。
さらに山脇が川で水死体となって発見される・・・

「第三話 ひらつか七夕まつりの犯罪」
七夕祭りで賑わう平塚。しかし祭り会場の近くで
女子大の講師・松村栄作の刺殺死体が発見される。
容疑者として浮上したのは彼と男女の関係にあった学生・元山志穂。
しかし彼女には鉄壁のアリバイがあった。
犯行時刻にはエルザと美伽がずっと志穂を尾行していたのだから・・・

「第四話 不在証明(アリバイ)は鏡の中」
"魔女" と噂されるカリスマ占い師として有名な金剛寺綾華。
看護師・柳田良美は彩華を崇拝するあまり休職、
実家を出て彩華の屋敷に住み込んでしまったらしい。
良美の妹・美紗から姉の奪還を頼まれたエルザと美伽。
一方、ルポライター・山科徹がビルの屋上から転落死する。
彼は彩華の告発記事を準備していたらしい・・・
彩華が見せる "イリュージョン" を成立させる物理トリックが面白い。

「第五話 女探偵の密室と友情」
資産家・日高玄蔵が死亡した。現場はマンションの7階。
部屋のドアには内側からガムテープで目張りがしてあり、
窓は開いていたが、そこからの脱出は不可能。
遺体の状況から警察は自殺として処理するが、
妻・静江は殺人の疑いを捨てきれず、エルザたちに調査を依頼する・・・
密室トリックはかなり大がかり。
だけど大胆すぎるがゆえに、案外成立してしまいそうな気もする。


傍若無人で誰に対してもタメ口(ぐち)なエルザ。口も悪いが手も早い。
肉体労働専門かと思いきや、けっこうアタマも切れる。
清楚な美人キャラのはずの美伽も、彼女の前ではギャグ要員と化す。
そんな二人のコントみたいな掛け合いが楽しい。
とは言ってもミステリとしてもきちんとできていて
毎回、トリックも凝ったものを用意している。

本作はシリーズ化されていて、既に3巻目まで刊行されているとのこと。
文庫化されたら読みます(笑)。

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つばき、時跳び [読書・SF]


つばき、時跳び (徳間文庫)

つばき、時跳び (徳間文庫)

  • 作者: 梶尾 真治
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2018/01/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

主人公の井納惇(いのう・じゅん)は、サラリーマン生活の傍ら
書き上げた歴史小説が新人コンテストに入賞し、専業作家となった。

その頃、熊本に住んでいた祖父母が亡くなり、
惇は空き家となった祖父母宅に住むことになった。
そこは曾祖父が終戦後に買い取った「百椿庵(ひゃくちんあん)」と
呼ばれる江戸時代からある屋敷で、名前の通り肥後椿が咲き乱れていた。
そして、そこには「若い女性の幽霊が出る」という噂もあった。

「百椿庵」に住み始めて数日後、惇は仏間で着物姿の女性と遭遇する。
年齢は二十歳ほどで、「つばき」と名乗った彼女に
惇はすっかり魅せられてしまう。

彼はつばきと語り合ううち、彼女が百数十年を隔てた
幕末の時代からやって来たらしいことを知る。
その時代、彼女は「百椿庵」で "りょじんさん" と呼ばれる
藩の客人の世話をしていたらしい。

惇は「百椿庵」の屋根裏に怪しげな "からくり" を見つける。
この "からくり" が時を超える働きを持っているのではないか?
そして "りょじんさん" なる人物こそ、
この装置を使って過去の時代を訪れていたのではないか?
そして、つばきもまたこの "からくり" の働きで
未来に迷い込んでしまったのではないか?

つばきと共に「百椿庵」で暮らし始める惇。
未来の世界に驚き、あるいは怖がり、そして興味を示すつばき。
彼女の一挙手一投足が微笑ましく感じられ、
つばきと暮らす日々に例えようもない幸福を感じる惇だったが
ある日突然、つばきは過去の世界へと戻ってしまう。

つばきを失った惇は、彼女と再会したい一心で
屋根裏の "からくり" を操作しているうち、
今度は自分自身が幕末の時代へ跳んでしまう。

つばきとの再会を果たした惇は、彼女から "りょじんさん" の話を聞く。
彼はある日突然現れ、「百椿庵」でしばらく暮らした後、
忽然と姿を消した。その期間は40日に満たなかったという。
どうやら、本来属している時代から異なる時代にやって来た人間は、
その時代に滞在できる時間に限りがあるらしいことが分かってくる。

つばきと暮らせる幸せな時間にもやがて "終わり" が来る。
惇もまた、この時代に留まり続けることはできず、
現代へ強制的に戻されてしまうタイムリミットが訪れる・・・


文庫で400ページ近い作品だが、そのほとんどは
惇とつばきが二人で過ごす日々の描写である。
前半では現代に暮らす二人、後半では幕末で暮らす二人。

波瀾万丈なイベントはほとんど起こらず、
淡々と、と言っては語弊があるかも知れないが
二人が些細な日常を過ごしながら、お互いへの愛情を育んでいく様子が
ゆったりとした筆致で綴られていく。
そしてその愛情が深まるごとに、やがて来る "別れの時" が切なくなる。


作者はタイムトラベル・ロマンスの名手である。
本書でも、"時を超える愛" を真正面に掲げ、
150年の時を隔てた男女のラブ・ストーリーを語る。

愛し合いながらも別離の時を迎えてしまう二人。
彼らがどんな運命を辿るのかはネタバレになるので書かないけれど
二人の物語を最後まで読んできた人なら納得できる結末だろう。


本書の一番の魅力は、もちろんヒロインのつばきさんだろう。
彼女が惇に向ける思いは、誠実で一途そのもの。
男だったら、惚れない方がおかしいくらい
健気な女性として描かれているんだが、
いささか理想化されすぎているようにも思う。

まあ、幕末の時代の女性だからね。
古風で奥ゆかしく、何事も三歩下がって後ろを歩くような人。
女性から見たら「男にとっての願望充足キャラ」って感じる人もいるかも。

もっとも、そんなつばきさんだからこそ
惇くんも自分にとって "運命の女性" と思い定め、
必死になって "時の流れ" に抗おうとするのだし、
大多数の読者は、二人が幸せになることを願うのではないかなぁ。


つばきさんのキャラがすんなりと受け容れられる人ならば、
楽しい読書の時間を過ごせるのは間違いないだろう。

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二歩前を歩く [読書・ミステリ]


二歩前を歩く (光文社文庫)

二歩前を歩く (光文社文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/09/08
  • メディア: 文庫
評価:★★★

一見すると超常現象に思えるような状況というものが
ミステリにはよく登場する。
実際には巧妙なトリックだったり、心理的な錯覚だったりして
最終的には合理的な説明なり解釈なりが披露される。

ところが本書はいささか毛色が異なる。
例えば冒頭にある「一歩ずつ進む」はこんな話だ。


ある企業で研究員をしている "僕" は
マンションの一室で一人暮らしをしている。
部屋の中ではスリッパ履きで過ごしているが、
ある日帰宅すると、出て行くときに脱ぎ散らかしてあったはずの
スリッパがきちんと揃えられている。
それから、毎日帰宅するたびにスリッパに異変が起こる。
きちんと揃ったスリッパが、毎日少しずつ前に異動しているのだ。
あたかも歩いて部屋の奥に向かうが如く・・・

"僕" は同僚の研究員・小泉に相談するが
二人で検討した結果は、外部からの侵入の可能性はなく
スリッパはあくまでも "勝手に" 動いているとの結論に到達する。
小泉は言う。
「HOWは議論しないことにしよう。
 超常現象に理屈を求めても仕方がない。
 それより、WHYを考えよう」
"どうやって" ではなく "なぜ" スリッパは動くのか。
スリッパが動くことにはどんな意味があるのか。
あるいは、スリッパは何をしようとしているのか。
そして小泉は、ある "仮説" を語り出す・・・


超常現象の存在はそのまま認めて、その現象がもつ意味を考える。
そこからミステリとしてのオチにもっていく、というパターンだ。
超常現象そのものの謎解きは行われないが
それ以外の状況から導かれる謎の "解釈" はきちんと明かされる。

うーん、書いていてなんだかよく分からない文章だなあ。
オチをバラさずにミステリを紹介するのは難しいが
この作品集はなおさらたいへんそうだ。

たとえば上記の作品なら、スリッパの "移動" は
マンションの他の部屋では起こらず、
"僕" の部屋でのみ起こる。それはなぜか、とか。
うーん、ネタバレギリギリだったりするかな(笑)。

本書にはこのような短編が全部で6作収録されており、
いずれも小泉が "探偵役" となって "仮説" を提示していく。

「二歩前を歩く」
ある日を境に、道行く人が "僕" を避けるようになった。
童顔で背も高くないのに、前から歩いてくる人が、
なぜか驚いたようにさっと横に移動するのだ。
あたかも、自転車が突っ込んできたみたいに。
あるいは、恐いヤクザに気がついたみたいに・・・
ちなみにこの "僕" は、「一歩ずつ進む」の "僕" とは別人です。

「四方八方」
急性の白血病で愛妻・知花(ちか)を喪った岩尾。
しかし彼は仏壇も位牌も必要ないという。
なぜなら、彼が暮らす部屋の壁紙の裏には、
知花の遺髪が一面に貼り付けてあるからだという。
しかし、次第に岩尾は身体に変調を覚えるようになっていく・・・

「五ヶ月前から」
三十代半ばで独身の穂積はマンションで一人暮らし。
五ヶ月前から、家に帰ると浴室の明かりが
つけっぱなしになっていることに気づく。
出勤時にはきちんと消しているはずなのに・・・

「ナナカマド」
"わたし" は特許調査部で働く三十代独身女性。
使っている軽自動車のガソリンの残量が
いつのまにか増えるという謎の現象に遭遇している。
残量がタンクの3割を切ると、次に乗るときには
7割ほどまで補充されているのだ。
タンクの蓋に封をしておいても、なぜかしっかり増えている・・・

「九尾の狐」
総務部保険課で働く勝倉。
彼の二期上の先輩・林田理子(はやしだ・りこ)は美人で独身。
気さくな性格もあり、社の内外で人気が高い。
しかし勝倉は気づいてしまう。
彼女は長い髪を後ろでひとまとめにしたホーステール。
(ポニーテールより結び目が下で、背中に流すような髪形らしい)
その髪の房が、ときおり重力に逆らうように
ぱっくり二つに分かれてしまうことに・・・


超常現象がらみなので、オチはホラーっぽくなったり
けっこう救いのない結末の話が多い。
しかし掉尾を飾る「九尾の狐」では、出だしこそ妖怪ものみたいだが
小泉の "仮説" を聞いた勝倉が取る行動によって、
とてもハッピーでほっこりした結末を迎える。
読後感も素晴らしく、それまでの重苦しい雰囲気を吹き飛ばしてくれる。

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