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Bluff 騙し合いの夜 ミステリー傑作選 [読書・ミステリ]

Bluff 騙し合いの夜 ミステリー傑作選 (講談社文庫)

Bluff 騙し合いの夜 ミステリー傑作選 (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/04/13
  • メディア: 文庫



評価:★★☆

2008年に発表された短編ミステリから
日本推理作家協会が選んだベスト・アンソロジー。
文庫化に際して二分冊され、本書は前半の8編を収める。

「検問」(伊坂幸太郎)
 私はどうもこの作者とは相性が悪いみたい。
 謎の二人組に誘拐された女性。
 三人は盗難車に乗って移動しているが、そこに検問が。
 結局、彼らが検問を無事に通れた理由と
 お金の出所については "放置" ってことでいいんですよね?

「熱帯夜」(曽根圭介)
 短編集で既読。
 日本推理作家協会賞短編部門受賞作なんだけど
 私はこの手のバイオレンスっぽい雰囲気の作品は苦手です。

「前世の因縁」(沢村凜)
 主人公の前に、"前世占い" をする謎の女性が現れて・・・
 なんだけど、女性の狙いは何となく見当がついてしまうし
 主人公がちょっとだらしなさ過ぎないかなぁ。
 まあこのへんは好みの問題だけど

「パラドックス実践」(門井慶喜)
 「パラドックス実践」というユニークな授業を売り物にする
 雄弁学園高等部。2年生の担任として赴任してきた主人公は
 着任早々3人の生徒から難問をふっかけられる。
 作中にもあるけど、生徒たちは詭弁家ぞろい。
 彼らに対する主人公の切り返しも、詭弁そのもので
 説得力があるとはとても思えないんだけど、
 それであっさり生徒が引き下がってしまうのもなあ。
 発想は面白いんだけど内容がそれについて行けてない感じ。

「見えない猫」(黒崎緑)
 ミステリと言うよりは、ちょっぴりホラーがかったサスペンス、
 という感じで謎解き要素は薄い。

「リターンズ」(山田深夜)
 福島から東京へ向かう高速バスに乗り込んだ主人公が経験する
 不思議な体験を描く。
 SFっぽい展開でそれはそれで面白いんだけど
 種明かしをされるとなんだかガッカリするのは何故だろう。
 SFのまま押し切ってしまっても良かったような気もするんだけど。

「音の正体」(折原一)
 マンションに一人暮らす男が、上の階の騒音にいらだつ話。
 読んでいくうちになんとなくオチの予想ができてしまうのが何とも。
 私も昔、アパートの2階に住んでいて、騒音のことで下の階の住人と
 ギクシャクしたこともあったので、身につまされる話なんだけどね。

「夜の自画像」(連城三紀彦)
 なんと「花葬」シリーズの最新作が読めるとは。
 大正末期、火事になったアトリエから発見された焼死体。
 そして現場から逃げ去った人影。
 そこに暮らしていた画家と、彼を後援していた画商。
 死体はどちらのものだったのか。
 5年後、画商の息子のもとに持ち込まれたのは、
 あの日、逃げ去った人物が着ていた服だった・・・
 レトロな時代背景、それに見合った叙情的な文体、
 そして終盤に至って大きく変転する事件の様相。
 全盛期の作品と比べると、切れ味で一歩譲るようにも思うが
 それはシリーズ全体のレベルが高すぎるからだろう。
 本作だって充分高水準な出来である。

最後の「夜の自画像」以外は今ひとつの感があるアンソロジーだった。
まあ、たまたま私の好みでない作品が集まったのでしょう。
後半分の8編を収めた「Spiral めくるめく謎」も手元にあるので
近々読む予定。


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琅邪の虎 [読書・ミステリ]

琅邪の虎 (講談社文庫)

琅邪の虎 (講談社文庫)

  • 作者: 丸山 天寿
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/05/15
  • メディア: 文庫



評価:★★★

秦の始皇帝の時代、山東半島の港町・琅邪(ろうや)を舞台に
異能を持った徐福塾のメンバーが求盗(警官)たちと共に
怪奇な事件の解決に乗り出す、
名探偵・無心(むしん)と徐福探偵団(と私が勝手に呼んでる)
シリーズ第2作。

徐福塾に病気の治療で入院していた少女・春(しゅん)が姿を消した。
行方を捜す求盗・希仁(きじん)と
塾の看板娘・桃姫(とうき)の前に現れたのは
伝説の虎に喰われ、その手先となったと称する
謎の女性・倀鬼(ちょうき)。

彼女は言う。
「500年生きた虎が人に化身して琅邪の町にいる」と。
その日から、町に奇怪な事件が続発する。

少女の母親が死体となって、琅邪川の河原に立つ神木に
吊り下げられるが、発見者が目を離した隙に死体は姿を消す。
そして間を置かずに、また別の娘が
胸を刺されて同じ木に吊り下げられる。

港で働く男が矢で射殺され、死体が虎の皮に包まれて発見される。
さらには漁師の里で不審火が起こり、
果てには始皇帝が建設した観光台(展望台)が崩壊する。

人々は家族や隣人が人虎ではないかと疑心暗鬼に陥り、
治安維持のために軍隊まで出動することになる。

新しく登場したキャラも多いが、
イチ押しは武人の林直(りんちょく)だろう。
軍人にありがちな、頭の固いキャラではなく、
臨機応変で人望もあり、希仁たちと協力して事件解決に当たる。

もちろん前作からのキャラも健在だが、
その中では飲み屋の女主人・蓮(れん)がいい。
前作では事件に巻き込まれたキャラだが、
本作では事件を解決する側にまわり、犯人を追い詰めるのに一役買う。

私がお気に入りの桃姫さんも、相変わらずの大活躍。
文庫版の表紙にあるように、さすが騎馬民出身らしく、
馬上で華麗な弓の腕前を披露する。

そして最後は徐福の弟子・無心がすべてを明らかにしてくれる。

ただ、前作と比べると話のスケールも謎の大きさも
若干のスケールダウンの感は否めないかなぁ。
その分、総合評価はちょいと下がってしまったけど
それだけ前作がよく出来てた、ってことなのだろう。

多彩な登場人物が怪奇な事件を追って活躍し、
ホラーな現象を描きつつ、全体にはそこはかとなくユーモアが漂う。
超常現象のように見えても、最後には合理的な解釈が示され、
ミステリとしてもきちんと出来ているので
最後まで楽しく読めるのは間違いない。

次巻の文庫化が待ち遠しいシリーズの一つになった。


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いとみち 二の糸 [読書・青春小説]

いとみち 二の糸 (新潮文庫)

いとみち 二の糸 (新潮文庫)

  • 作者: 越谷 オサム
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/01/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

幼い頃から極度の泣き虫で人見知り。
そんな自分の性格を克服すべく、高校入学を機会に
青森県唯一のメイドカフェでバイトを始めた主人公・相馬いと。
彼女の特技は、祖母に鍛えられた津軽三味線。
中学時代にはコンクールでの入賞経験もある。
しかし、ある理由で三味線からは遠ざかってしまっていた。

前作では、メイドカフェに降りかかった閉店の危機を、
カフェのスタッフのがんばりと常連客たちの協力で何とか乗り切り、
いとが津軽三味線の腕前を関係者一同に披露するシーンで幕を閉じた。

本作ではいとは高校2年生に進級、友人たちと一緒に
念願の写真同好会を立ち上げる。

しかしその矢先に親友の早苗と初めてのケンカをしたり、
同好会に入部してきた1年性・石郷鯉太郎くんに
不思議な胸のときめきを感じたり。
進級してもまだまだ悩みの種は尽きない。

ちなみに、「鯉太郎」は「りたろう」と読む。
中学時代は相撲大会で優勝するなど身長180cmを超える
堂々たる体型で、150cmに満たないいととは40cm近い身長差。
「気は優しくて力持ち」を画に描いたような少年だ。

自分の理想のタイプとはおよそかけ離れているのに、
物語が進むにつれて、いとの心の中で
彼の存在がどんどん大きくなっていく。
鯉太郎のほうも、いとのことが気になるようで
見ていて面白い、いやいや微笑ましいカップルである。

バイト先のメイドカフェでは、
小学生の娘・樹里杏(じゅりあん)を育てながらメイド長を務める幸子、
プロの漫画家を目指して投稿を続ける自称 "エースメイド" の智美、
そして穏やかな人柄の店長と、前回のメンバーは健在。
しかし幸子と智美の態度が最近おかしい。
いとに対してなんとなく "よそよそしい" のだ。
これにもまた悩んでしまうヒロインなのであった。

物語は春・夏・秋・冬の4章仕立てで、
いとの高校2年生の4月から12月末までの生活が綴られる。
ミステリでもSFでもないので、
非日常的な大事件が起こるわけではないが、
クスリと笑わせ、ホロリと泣かせる、
そんな平凡な日々の中に起こる小さなエピソードを丹念に描いていく。

時間というものは着実に流れていくもので
人はいつまでも同じ場所に留まっていることはできない。
いとも、彼女の周囲の人々もまた然り。
出会いと別れ、成長と巣立ちの時が近づいてくる。

友人たちは進路希望を決め、
幸子や智美にも新たな人生の扉が開いていく。

いとにも、決断の時が迫ってきている。
高校を卒業したらどうするのか。
青森に残るのか、東京へ行くのか。
大学へ行くのか。行くのならどこの大学か。

本書中、随所でいとが三味線を弾くシーンがある。
前巻よりも回数も格段に増え、しかも観客の前で演奏することに
大きな充実感を感じるようになっていく。

卒業してそのままメイドカフェに就職してしまうとは思わないが
案外、津軽三味線を "極める" という道を選んでしまうかも。


冬の章では、春~秋までのいとの悩み深き日々を吹き飛ばすような
楽しいエピソードが語られる。
冬の青森で、こんな楽しいパーティーが開かれるなんて。
涙と笑いが満載の素晴らしいエンディングだ。


巻末にボーナストラックとして智美が主役の短編が収録されている。
内容を書くと本編のネタバレにもなるので触れないが、
智美といい幸子といい、ヒロインのいとも含めると
主要キャラの8割くらいは女性。
しかしながら、みんな見事な "キャラ立ち" ぶり。
作者は男性のはずなんだが、いやはやたいしたものだと思う。

次巻「三の糸」でこのシリーズは完結らしい。
いとちゃん以外の人々の行く末が、
本書であらかた決まってしまったので、
最終巻では、いよいよ彼女の選択が描かれるのだろう。


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