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梟の一族 [読書・冒険/サスペンス]


梟の一族 (集英社文庫)

梟の一族 (集英社文庫)

  • 作者: 福田和代
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2022/04/07

評価:★★★


 常人を超えた身体能力をもつ梟(ふくろう)の一族。彼らがひっそりと暮らす山中の集落が何者かに襲撃され、住人はいずこかへ連れ去られてしまう。唯一、難を逃れた少女・榊史奈(さかき・ふみな)は一族の奪還と事態の真相を究明するべく、”敵” の正体を探っていく・・・


 〈梟〉と呼ばれる民がいた。常人を超える身体能力に加え、一切の睡眠を必要としない特殊な体質をもつ彼らは、太古の時代からさまざまな勢力に仕え、歴史の中で大きな役割を果たしてきた。いわゆる "忍者" にも、多くの人材を供給してきたらしい。

 彼らは滋賀県の山中の集落に暮らしてきたが、現代になってからは、多くの者が "一般人" との婚姻を機に集落を去り、今では10名あまりが暮らすだけ。
 主人公・榊史奈は16歳。集落で最後の十代の若者だ。〈梟〉の〈ツキ〉(長)を務める祖母とともに暮らしている。

 ある夜、集落を謎の一団が襲撃、1人が殺され、残りの者はすべてどこかへ連れ去られてしまう。

 祖母の機転で唯一難を逃れた史奈の前に現れたのは、長栖(ながす)諒一・容子の兄妹。2人は、12年前に一家そろって集落を出ていた。長栖家も襲われ、父親(一般人)は負傷、母親(〈梟〉出身)は拉致されたのだという。

 史奈は2人とともに東京へ向かい、連れ去られた一族の奪還を目指して行動を始めることになる・・・

 このあと、史奈には様々なイベントが起こる。
 父親との再会、失踪した母親の探索、そして集落を襲った集団の背後には「郷原(さとはら)感染症研究所」という組織があることを知る。
 史奈は一族奪還のために研究所に潜入することになるのだが、そこでは意外な展開が待っていた・・・


 どうも私のような昭和脳(笑)の人間は、こういう設定をみるとどうしても往年の少年マンガや、平井和正のハードアクションSFを連想してしまう。
 〈梟〉の一族をさらったのは、その秘密を分析し、"眠らない兵士" を創り出そうとする陰謀があるのではないか、とか。襲ってきた集団も、自衛隊や在日米軍の特殊部隊、あるいは外国(中・ロ・北朝鮮)の諜報部隊じゃないか、とか(おいおい)。
 戦闘シーンでも、史奈さんは最新科学機器に身を固めた突撃兵をも身一つで次々に無力化していってしまうほど超絶な技を見せるんじゃないか(えーっ)とか、いろいろ妄想が暴走してしまう(笑)。

 しかし残念ながら、そんな派手な展開にはならず、至って現実的なルートに乗ってストーリーは進行する。戦闘、というか格闘シーンもなくはないが比較的穏当なものだ。

 リアリティという面では順当なのだろうけど、私からすればちょいと物足りないんだなぁ。
 まあ、昭和脳のわがままな老害ジジイが、勝手な妄想を抱いて文句を垂れてるだけです。作者さんゴメンナサイ。
 うーん、「昭和は遠くになりにけり」ということですね(おいおい)。


 〈梟〉の一族がもつ力の源泉は何なのか、というのもテーマの一つ。さらには、超常の力と引き換えの "宿命" みたいなものも描かれ、サイエンス・ミステリ的な側面も持つ。

 ラストでは、物語にいちおうの幕引きがなされるのだけど、その気になれば続編が作れなくもない形。
 私としては、もうちょっとアクション増し増しの続きが読みたいんだけど、無理ですかねぇ・・・



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怪獣男爵 [読書・冒険/サスペンス]


怪獣男爵 (角川文庫)

怪獣男爵 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/11/22
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 希代の大悪人・古柳男爵は、その悪行のために死刑となる。しかし新たな肉体を得て甦り、復讐と宝石強奪を企む。
 横溝正史・復刊シリーズ、ジュブナイルものの一編。


 古柳冬彦は、世界でも指折りの脳生理学者だった。しかし希代の悪人でもあった。兄・夏彦を殺害して財産と男爵位を乗っ取り、瀬戸内海の孤島・男爵島を根拠地に犯罪に手を染めていた。しかし物理学者・小山田博士の活躍で逮捕され、死刑となってしまう。

 ところが古柳男爵は生前にトンデモナイ技術を完成させていた。人間の脳を他人の体に移植するものだ。古柳男爵の遺体は彼の助手である北島博士に引き取られて、男爵島で密かに手術が行われた。

 男爵の脳は、サーカスから密かに買い取っておいた "ロロ" という生き物の体に移植される。ロロはゴリラのような体を持つが、ところどころ人間ぽい特徴も併せ持つ不思議な生物だった(ロロの正体は終盤で明らかになる)。

 こうして古柳男爵は、屈強な肉体と大悪人の脳髄を併せ持つ怪物・"怪獣男爵" として甦り、自分を死刑に追いやった小山田博士への復讐、そして億万長者・五十嵐宝作からの財宝奪取をはじめ、数々の凶悪犯罪を開始する。

 男爵と対決するのは小山田博士と等々力警部なのだが、ジュブナイル故に3人の若者・少年がメインとなる。
 小山田博士の息子で15歳の史郎、宇佐美恭助は柔道三段の大学生、太一は12歳ほどの少年だ。恭助と太一は両親が亡く、小山田博士が引き取って養育している。

 この3人が瀬戸内海でヨットクルーズをしているとき、突然の嵐に見舞われて男爵島に逃げ込むところから本編は始まる。
 彼らはそこで瀕死の状態の北島博士を発見、怪獣男爵誕生の経緯を知る。しかし時既に遅く、男爵は島を脱出してしまっていた・・・


 江戸川乱歩の場合は、いろんな正体不明な敵が登場しても、たいていは二十面相の変装だったりするのだが、本書に登場する怪獣男爵は完全に "人外"、あるいは "人間以上" の怪物だ。

 もっとも、これでは人間の間に入り込んで悪さをすることはできないから、3人の人間の手下を従えている。3人とも共通して "いかにも悪そう"(笑)な外見をしているのは、ジュブナイル故のご愛敬だろう。
 この "怪獣男爵の一味" vs "史郎たち3人組" の対決が全編にわたって描かれていく。


 実は本書、私はけっこう早い時期に読んでいる。小学校4年のときに父親が江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズを買い与えてくれたことが私の読書人生の始まりだった、てのはこのブログのあちこちで書いてる。
 乱歩に熱中していた息子を見ていた父は、たぶん私を喜ばせようと思って本書を買ってきてくれたのだろう。
 ただ、私は『怪獣男爵』の設定の不気味さに圧倒されてしまって、面白さよりは恐怖を感じてしまったのを覚えている。実際、父はこれ以外の横溝ジュブナイルは買ってくれなかったので、多分顔に出ていたのだろう(笑)。

 思えばこれが私の "初横溝"(笑)だったんだね。今まで、中学生の頃に読んだマンガ版『八つ墓村』(作画:影丸譲也)が最初だと思ってたんだが、すっかり忘れていたよ。怖すぎて記憶の底に封印されていたのかも知れない(笑)。



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東京ホロウアウト [読書・冒険/サスペンス]


東京ホロウアウト (創元推理文庫 M ふ)

東京ホロウアウト (創元推理文庫 M ふ)

  • 作者: 福田 和代
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/06/14
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 東京オリンピック開幕を控えた2021年7月。配送トラックを狙ったテロが次々に起こり、鉄道・高速道路も妨害行為で走行不能に。東京に向けた物流が一斉に止まるという異常事態が発生する。長距離トラックドライバーの主人公は、仲間とともに危機打開に動き始めるが・・・


 オリンピック開幕を一週間後に控えた東京。新聞社に脅迫電話がかかってくる。東京を走るトラックの荷台でシアン化水素ガス(青酸ガス)を発生させる、と。

 その脅迫通りの事件が発生し、そこから次々にテロ行為が続発していく。東北本線が土砂崩れで不通となり、常磐自動車道のトンネル内で人為的な火災事故が発生、通行止めに。

 東北から東京へ向かう物流ラインが次々と断ち切られ、東京圏3600万人が物資不足に晒される。コンビニ・スーパーの棚は次々に空になっていく・・・。


 主人公は長距離トラックドライバーの世良隆司(せら・たかし)。妻の萌絵はコンビニ店員だ。

 本書のテーマは主に2つ。ひとつはこの国の物流の様相。

 モノを作る人がいて、運ぶ人がいて、それを売る人がいてはじめて我々は商品を手にすることができる。生活を支えるインフラとして物流の重要さとその脆弱さが描かれていく。
 その中で、主人公の職業である長距離トラックに作者は注目している。物流の主役にありながら労働環境は過酷だ。長時間の業務や低い賃金、それに加えてほとんどのドライバーは個人事業者。トラックも自前のものを使っている。
 そしていったん物流が止まると、人々は不安感から買い占めに走る。そのあたりの混乱は、萌絵の視点から語られていく。

 もう一つは、東京(都市部)と地方の歪んだ関係だ。
 東京は物資を飲み込むだけでなく、大量のゴミ・廃棄物を排出する。一部は東京湾に埋め立てられているが、多くは地方に運ばれて埋設処分される。しかし不法投棄も後を絶たない。最近でもそれが原因で災害が起こってるし。
 地方の生産物を都市部が吸い上げ、生じた廃棄物は地方に押しつける。曲がりなりにも都市部の片隅(たぶん)に住んでいる私が言えたことではないが、これは確かにひどいことではある。犯人グループの背景にもこの問題がある。


 主人公・世良はこの緊急事態を、トラックドライバー同士の横の連携で打開しようとする。彼の身近な知人に犯人グループの一人がいたり、世良の弟が警視庁の警部だったり、終盤では犯行グループの首謀者に出くわしたりと、ちょっと都合よすぎる展開もあるけど、それは本書のテーマにとっては些細なことだろう。

 この重大な危機を打開するリーダーであるべき東京都知事が、いささかコミカルかつ無能に描かれているのはご愛敬か。
 まあ、こんな政治家がいるとは思わないけど、なんでこんなのが当選したんだって思う議員さんがいるのは事実だよねぇ(笑)。



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少女は夜を綴らない [読書・冒険/サスペンス]


少女は夜を綴らない (角川文庫)

少女は夜を綴らない (角川文庫)

  • 作者: 逸木 裕
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/06/12
  • メディア: 文庫


評価:★★★★


 中学3年生の山根理子(やまね・りこ)の前に現れた少年は、3年前に亡くなった友人・瀬戸加奈子の弟・悠人(ゆうと)だった。理子の抱えている "秘密" を知っていると語る悠人は、彼女に対して自分の父親殺しに加担するよう強要してくるのだが・・・


 主人公の山根理子は、「人を傷つけてしまうのではないか」という強迫観念に囚われていた。そのため、刃物を手にすることができない。
 頭の中に渦巻く殺人への衝動を、"架空の殺人計画" としてノートに書き出すことでかろうじて精神の平衡を保っている。
 折しも彼女の暮らす街では、ホームレスが殺される事件が起こる。ひょっとして自分が殺したのではないかとまで悩んでしまう理子。

 そんなとき、理子の前に現れたのは中学1年生の瀬戸悠人。理子の友人で、3年前にマンションの屋上から転落死した加奈子の弟だった。
 彼女の死は事故と判定されていたが、実は加奈子の死について、理子は "ある秘密" を抱えていた。
 悠人は「自分はそれを知っている。暴かれたくなければ、自分の "計画" に協力しろ」という。

 彼の "計画" とは、父親・龍馬(りょうま)を殺すこと。悠人は父親からのDVに晒されていたのだ。
 最初は嫌々ながら計画に加わった理子だが、人を殺そうとしている悠人の心の中に、共感するものを感じ始めていくのだった・・・


 悠人の家庭環境は過酷で同情に堪えないが、主人公の理子にも居場所がない。
 高齢になってから彼女を産んだ母親は健康を害してしまい、理子は母親から疎まれながら育ってきた。父親は既に亡く、一回り年上の兄・智己(ともき)は中学校の教師をしているが、まれに暴力的な言動を見せることがあり、理子はいまひとつ信頼することができない。
 しかも理子は、あるきっかけから智己がホームレス殺しの犯人ではないかという疑いを持つようになってしまう・・・

 理子にとって安息の場所はない。家族にも心を許せず、学校に行ってもクラスメイトからいじめられ、かつての友人の弟からは脅迫を受けて殺人計画に加担させられる・・・というわけで、息が詰まるような描写が延々と続く。

 唯一落ち着ける場所は、親友である宮野マキが立ち上げた部活動「ボードゲーム研究会」に参加しているとき。しかしそれも、母に代わって家事をこなさなければならない理子は欠席がちになっていた・・・

 物語は、悠人が進める殺人計画の準備を中心に、ホームレス殺しの犯人捜しが絡めて語られていくのだが、とにかく先の展開が読めない。
 予想外の事態が次々と起こって読者を翻弄する。ストーリーが進むにつれて、"不幸のデパート"(笑)みたいになっていく理子と悠人の2人の運命。
 それは最後の20ページほどの「エピローグ」に至るまで予断を許さない。主人公にとっては過酷なイベントが続き、読み手の胃を痛くする(笑)。

 「作者は、どこまで主人公をいじめたら気が済むんだい?」って思うのだけど、だからこそ彼女の行く末を知りたくなる。ページを繰る手を止めることができなくなる。

 そして、すべての決着がつくラストシーン。これがハッピーなのかアンハッピーなのかは読む人次第かも知れないが、どちらにしろ納得できる結末ではあると思う。前作の時も感じたが、この作者の "語りのうまさ" は絶品だ。



タグ:サスペンス
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おまえの罪を自白しろ [読書・冒険/サスペンス]


おまえの罪を自白しろ (文春文庫 し 35-10)

おまえの罪を自白しろ (文春文庫 し 35-10)

  • 作者: 真保 裕一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2022/05/10
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

 衆議院議員の孫娘が誘拐される。犯人からの要求は「おまえのすべての罪を自白しろ」という異例なもの。
 家族の中の葛藤、巻き添えを恐れる党の上層部、懸命な捜査に臨む警察。タイムリミットを前に、ついに記者会見が開かれるが。
 終盤で明かされる犯人の真の目的は、意外なものだった・・・


 日本の政治は、利益誘導と表裏一体の面がある。選挙区である地元が潤うように行政に働きかけるのが仕事、と公言する議員さんもいる。
 政治家さんからの「〇〇は私が誘致した」「□□の建設を実現したのは私」なんて発言も、しばしば耳にする。

 本書で ”被害者” となるのは、埼玉県15区選出の衆議院議員・宇田清治郎。彼もそんな政治家の1人だ。
 長男・揚一朗は埼玉県議を務め、将来は父の地盤を継ぐものとみられている。誘拐されたのは彼の娘、3歳の柚葉(ゆずは)である。
 長女・麻由美の夫・緒方恒之は市会議員を務め、彼もまた国政進出の野望を抱いている。

 主人公となるのは、次男の晄司(こうじ)。選挙に振り回される生活を嫌い、大学卒業後は家を出てベンチャー企業を立ち上げたが経営に失敗してしまう。借金を肩代わりしてもらうことを条件に家に戻り、父親の秘書を務めることになった。
 可愛い姪の命と父の政治生命。彼は2つの ”命” を守るために奔走することになる。

 与党議員である清治郎は、さまざまな ”仕事” をしてきた。そこには、地元への利益誘導のみならず、時の総理・安川泰平にも関わるものすらあった。
 このあたり、安倍晋三総理が ”関わったとされる某事件” がモデルかと思われるところも。

「記者会見で、何を、どこまで話すか」
 清治郎は難しい決断を迫られる。しかし、そこは海千山千の政治家だ。
 犯罪になるような案件であっても、法務大臣には「指揮権」という伝家の宝刀がある。警察の捜査に介入し、場合によっては中止させる権限だ。
 物語の前半は、この指揮権発動の確約を得ようと、官房長官と必死の交渉を試みる清治郎と、それをサポートする晄司が描かれる。

 しかし与党上層部・総理周辺としては ”巻き添え” になるわけにはいかない。何とか清治郎1人に背負わせようと、「蜥蜴の尻尾切り」を狙う。

 このあたりの描写はまさに政治の暗部というか、凄まじい権力闘争というか、ギリギリの駆け引きが続く。誘拐ものでありながら、ポリティカルフィクションとしても読み応えがある部分だ。

 もちろん、終盤にいたって警察の捜査は真犯人に到達する。その真の目的も意外なものではあるのだが、本書のメインはそこではなく、晄司の変化だろう。

 政治を嫌って家を飛び出したはずが、政治のど真ん中でのドロドロの暗闘に触れ、それが彼自身にも大きな影響を与えていく。
 終盤に向けてなんとなく予想はついてくるのだが、彼がどのように ”成長” し、”変貌” していくのかもまた本書の読みどころだろう。



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コヨーテの翼 [読書・冒険/サスペンス]


コヨーテの翼 (双葉文庫)

コヨーテの翼 (双葉文庫)

  • 作者: 五十嵐 貴久
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2022/05/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★

 中東の砂漠地帯に本拠を持つ、ゾアンベ教の狂信的過激派組織SIC。「聖戦遂行」を悲願とする彼らは、東京オリンピック開会式でのテロを画策する。ターゲットは日本国総理大臣。

 刺客として選ばれたのは、”コヨーテ” と呼ばれる凄腕のスナイパー。超長距離からの狙撃を可能にする驚異的な腕前を持ち、過去に多くの暗殺を成し遂げてきたが、その正体は誰も知らない。経歴も断片的にしか明らかではない。
 分かっているのはアジア系の外見を持つこと(日本人と言っても通る)、複数の言語を操ること(日本語もネイティブ並みに話せる)だけ。

 対するは警視庁を中心とした日本警察。全国から警察官を招集し、鉄壁の布陣でテロリストを封じ込めるのが至上命令だ。

 すべての準備を整えた上で日本への入国を果たしたコヨーテは、開会式当日に向けて様々な布石を打ち、警備陣の切り崩しを図る。
 テロ予告メール、偽の襲撃作戦のリークなど、彼の仕掛ける様々な陽動作戦によって、警察官たちは広範囲での分散捜査を余儀なくされ、肝心の国立競技場警備にあたる警官数はどんどん削り取られていく。

 しかし、そんなコヨーテの狙いを的確に見抜く人物がいた。警備対策本部所属の水川俊介巡査部長だ。
 総務部出身で長らくデスクワークをしてきた。それ故に、現場の警官たちからは一段下に見られている。しかし水川は、独自の見識と、一歩引いた立場からの俯瞰的な状況把握によって、コヨーテに翻弄される現場の混乱がよく見える。

 本書の読みどころは、コヨーテと水川の ”頭脳戦” だろう。水川には、コヨーテの繰り出す ”一手” の意味も目的も理解できる。しかし、警備本部内での立場故に、現場の態勢に影響力を示せない。
 そんな彼が終盤に向けて、コヨーテのテロを阻止するためにどう活躍していくのか。そこが本書のクライマックスになる。


 ラストシーンでは、コヨーテと水川が一対一で相まみえることになる。ここでコヨーテの ”正体” も明らかになる。これは確かに意外だけど、ちょっと捻りすぎかなとも思う。

 ちなみに本書では、東京オリンピックは2020年開催になってる。本書の初刊は2018年で、まだコロナ禍による延期が決まる前だったからね。
 文庫化は2022年だけど、開催時期の変更は反映されてない。でもその辺りは本書の内容からすれば枝葉の部分なので、加筆や訂正の必要はないとも思う。

 本書を読む時は「2020」を「2021」って脳内変換してもいいし、2020年にオリンピックが行われたパラレルワールドの話と考えてもいい。
 ちなみに私は後者のつもりで読みました。



タグ:サスペンス
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暗号通貨クライシス BUG 広域警察極秘捜査班 [読書・冒険/サスペンス]


暗号通貨クライシス―BUG 広域警察極秘捜査班―(新潮文庫nex)

暗号通貨クライシス―BUG 広域警察極秘捜査班―(新潮文庫nex)

  • 作者: 福田和代
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/04/10
評価:★★☆

 天才的なハッカー技術を身につけていた16歳の水城陸(みずき・りく)は、560人が乗ったサミット航空172便が墜落し、全員死亡の大惨事が起こったことで運命が一変する。
 航空会社のシステムに侵入して事故を引き起こした容疑で逮捕・収監されてしまったのだ。彼は無実を訴え続けたが、最高裁で死刑が確定する。

 そして10年。官僚だった父は自殺し、刑の執行が迫った26歳の彼に再び運命の変転が起こる。高度なハッキング能力を買われ、ある条件と引き換えに助命されることになったのだ。

 水城は死刑執行と発表され、公的に ”死” が確定した。新たに ”沖田シュウ” という名を与えられ、彼は国家を超えて捜査する権限を持つ広域警察の捜査官となった。タイトルの ”BUG” とは、広域警察の通称だ。

 前巻では父親の死の真相が明かされた。自殺ではなく、殺人であったこと、その実行犯の特定など。
 そして172便事故が、ある陰謀によるものであったことも。その鍵を握るのが事故の唯一の生存者である数学者・ブティア博士だった。

 続巻にして完結編(たぶん)にあたる本書では、タイトルにあるように仮想通貨を巡る陰謀が語られる。

 アメリカのIT企業・ビットセーフ社のCEOアンドリュー・ワッツは太平洋の小国・マーシャル諸島と組んで仮想通貨 Lux を立ち上げた。
 アメリカ政府ですら解読できない暗号化技術をもつビットセーフ社を後ろ盾に、Lux を世界で最も安全で使いやすい仮想通貨にすることを目的としている。

 Lux の基本設計を担当したのがブティア博士で、沖田(水城)の父もまた博士の仲間だった。そして、博士は Lux 作動の最後の ”鍵” をつくった。それを適用すると、Lux はその機能を飛躍的に高め、『世界通貨』となるような強い影響力が与えられるのだという。

 しかし Lux の台頭によって自国通貨の地位低下を嫌う大国(主にアメリカ)による妨害工作が始まる。

 Lux の機能向上の ”鍵” は、妨害工作から守るために沖田の父、そして沖田本人の肉体に隠されていた。しかし場所がどこなのか、どんな形なのかは一切不明だが。

 そしてそれは ”敵” も知るところとなった。すでに沖田の父は故人となり、唯一の ”鍵” の持ち主となった沖田本人が狙われることになった・・・


 評価の星の数が少ないのは、前巻でも触れたけど主人公のフィジカルな脆さ。10年間の拘置所暮らしで、ハッキング技術だけ天才という ”頭脳労働系” だから仕方がないと言えるのだろうが、チンピラに毛が生えた程度の悪党にも簡単に捕まってしまう。それも一度じゃないんだから・・・。

 ”頭脳労働系” だけに、脱出不可能に見える場所からも見事に逃げ出してみせる。まあ、主役だからね、それくらいの見せ場がなくては。

 もちろん ”BUG” には沖田以外にもメンバーがいる。主人公が今ひとつ頼りないぶん、彼ら彼女らの活躍する場面も出てくる。各自それぞれが秀でた能力を持つが、人に言えない出自を持つ。
 しかし広域警察の中にも ”敵” が入り込んでいるという状況が、また緊張感をもたらす。

 26歳の男の子なんだから、恋愛模様もあっていいかなとも思うが、そのあたりもねぇ。それっぽい女の子も登場するのだが、仲が深まりそうで深まらない。
 まあ、大量殺人犯の汚名を着せられた身ではねぇ・・・濡れ衣を晴らさないことには何事も始まらない。

 沖田君自身の問題については、本書でほとんど片がつくので、もし彼に ”人間的な生活” が始まるのならば、これからとも言える。
 現在のところ、2巻で終わっているが、もし3巻目以降が書かれて、沖田君が捜査官としてもう少したくましく成長しているのなら、読んでもいいかな。



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BUG 広域警察極秘捜査班 [読書・冒険/サスペンス]


BUG 広域警察極秘捜査班(新潮文庫nex)

BUG 広域警察極秘捜査班(新潮文庫nex)

  • 作者: 福田和代
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/06/07
評価:★★★

 水城陸(みずき・りく)は10歳で不登校となり、ひきこもり生活に。以来、コンピュータとネットに耽溺し、16歳のときには天才的なハッカー技術を身につけていた。

 しかし、560人が乗ったサミット航空172便が墜落し、全員死亡の大惨事が起こって彼の運命は変わる。航空会社のシステムに侵入し、ウイルスを仕込んだ容疑で逮捕されてしまったのだ。

 水城は無実を訴えたが、最高裁で死刑が確定する。官僚だった父は自殺し、収監されたまま26歳を迎えた彼にも刑の執行が迫る。
 そんなとき、水城の前に「環太平洋連合広域捜査官」を名乗る男が現れ、助命と引き換えに広域警察への参加を迫ってきた。高度なハッキング能力を買われたのだ。

 水城は死刑が執行されたと発表され、公的に ”死” が確定した。
 彼は新たに ”沖田シュウ” という名を与えられ、国家を超えて捜査する権限を持つ広域警察の捜査官となった。タイトルの ”BUG” とは、広域警察の通称だ。

 死刑は免れたものの、徹底的に自由が制限された生活が待っていた。足にはGPS装置がつけられ、単独での外出は許されない。施設から脱走しようにも、強固なセキュリティがそれを阻む。
 しかし沖田(水城)はそれに甘んじる。いつの日か、墜落事件の真相を暴き、自らの身の潔白を証明することを誓いつつ・・・

 インド系米国人の老数学者チャンドラ・ブティア博士の身辺調査およびハッキングを命じられた沖田は、彼が10年前の172便事故の搭乗者名簿に名があったことを知る。博士は172便には実際には乗っていなかったのだが、事故によって死亡したものと思われ、なぜかこの10年間、姿を隠していたのだ。
 博士は、事故について何か知っているのではないか・・・

 沖田は博士の調査任務と並行して、博士と接触することを画策し始めるのだが、もちろん上司や同僚に知られてはならない。そこでハッキング技術を駆使していくのだが・・・


 警察小説あるいはサスペンス小説に属する話なのだけど、沖田は主人公の典型からはかなり逸脱している。
 たいていは肉体的にタフで、荒事もこなすキャラが主役になるものだが、本書の沖田くんは10年間も拘置所暮らしだったからね。”出所” 後、訓練はしたのだろうが、敵であれ味方であれ、肉弾戦の場面では ”その道のプロ” には全くかなわない。このジャンルでは珍しい ”頭脳労働” 系の主人公だ。

 物語の進行とともに、沖田の父が自殺ではなく何者かによって殺害された疑いが浮上する。さらにブティア博士が関わっていた仮想通貨Lex(レークス)を巡る暗闘と、この2つのストーリーラインの中で、”頭脳労働” 系の沖田君の奮闘が描かれていくわけだが・・・

 沖田の父の死の真相は本書で明らかになるが、172便墜落事故の真相と仮想通貨Lexを巡る国家間の陰謀については次巻『暗号通貨クライシス BUG 広域警察極秘捜査班』に引き継がれる。こちらも読了しているので近々記事をアップする予定。



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ハンターキラー 東京核攻撃 [読書・冒険/サスペンス]


ハンターキラー 東京核攻撃 上 (ハヤカワ文庫NV)

ハンターキラー 東京核攻撃 上 (ハヤカワ文庫NV)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/10/19
ハンターキラー 東京核攻撃 下 (ハヤカワ文庫NV)

ハンターキラー 東京核攻撃 下 (ハヤカワ文庫NV)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/10/19
評価:★★☆

 2019年に公開された映画『ハンターキラー 潜航せよ』。原作小説はシリーズになっていて、映画になったのはその第2作だった。
 第1作も翻訳され、『ハンターキラー 最後の任務』と題されて刊行された。そして本作はシリーズ3作目ということになる。


 まずは、本書に登場する悪役から紹介しよう。

 フィリピンを根拠地にするイスラム武装組織の首領ウリザム。彼の野望は、東南アジア一帯にイスラム統一国家を樹立しようというもの。
 そのためには周辺諸国を武力で従わせる必要がある。それには世界有数の大都市を壊滅させればいいと考え、標的に選ばれたのが東京。

 物語の中では、かなりストーリーが進行したあとで標的が明かされるのだけど、タイトルで堂々と『東京核攻撃』って盛大にネタバレしちゃってる(笑)。

 東京を壊滅させるためには核兵器を手に入れる必要がある。そこでウリザムが接触したのが北朝鮮の実力者・金大長(キム・ダイジャン)大将。彼は闇ルートを通じてロシアから核弾頭を装備した魚雷2発を手に入れる。

 ところが金大将はそのうち1発をちょろまかし、贋物と入れ替えてしまう。ウリザムには本物と偽物を1発ずつ渡し、手元に残った1発は自分の野望のために使うことにしたのだ。

 金大将の野望は、世界を核戦争による大混乱に巻き込み、その隙に韓国に侵攻、朝鮮半島を統一して、ついでに北朝鮮の現指導者も追放して、自分が最高権力者に成り代わろうというもの。

 ロシアの核弾頭が行方不明になったことはアメリカ情報部の知るところとなり、横須賀基地に前線司令部を設置する。
 そこに招集されたのが前作で活躍したジョン・ワード。今作では潜水艦部隊指令官へ昇進し、艦からは下りている。
 そしてもう一人、ビル・ビーマン。海軍特殊部隊SEALの ”チーム3” の司令となり、こちらも現場を離れている。

 SEALの ”チーム3” は、新たな新人指揮官・ウォーカー中尉の指揮の下、北朝鮮への潜入と核兵器の発見及び破壊を目論むが・・・


 前作もそうだったが、本作も多視点から描かれていく。

 横須賀司令部、SEAL、北朝鮮、イスラム組織はもちろんだが、さらに今回はジョン・ワードの家族もメインキャラとなる。
 ジョンの妻・エレンは植物学者で、学生を連れてタイの山中に入るのだが、そこで意外なトラブルに遭遇してしまう。
 夫妻の息子・ジムは、少尉候補生としてロサンゼルス級原子力潜水艦〈コーパスクリスティ〉に乗り込む。

 前作に登場した麻薬王・随海俊(スイ・カイシュン)、その娘で、父と袂を分かった(というか勘当された?)娘・随暁舜(スイ・ギョウシュン)も登場し、骨肉の争いを繰り広げる。
 ワード夫妻の学生時代からの親友で、前作の後にJDIA(国際共同麻薬禁止局)局長代理へと昇進したジム・キンケイドも随親子を追い続ける。

 ところで、文庫本の表紙には潜水艦の写真が堂々と使われているのだけど、本作での潜水艦シーンは実は多くない。

 後半に入り、原潜〈コーパスクリスティ〉が麻薬組織に乗っ取られ、核魚雷を装填した後、東京へ向けて進路をとる。ジムは生命の危機にさらされながらも、反撃の機会を窺うことになる。

 とはいうものの、全編を通じてイスラム組織の暗躍や、北朝鮮の所有する核弾頭の追跡劇や、麻薬がらみの内ゲバ的な戦いなど陸上の話が多くて、なかなか海の話にならない。

 終盤のアクション・シーンに至って、やっと潜水艦の話らしくなる。
 このシリーズ、巻を追うに従って ”潜水艦成分” が減ってるような気がするのは、私だけではあるまい。

 それにしてもアメリカ海軍さん、浮上航行している原潜って、こんなに簡単に乗っ取られてしまうものなのでしょうか・・・?
 ていうか、簡単に乗っ取られるようじゃマズいんじゃないですかね? 
 まあ、フィクションの世界だから、ってことなんだろうけど・・・



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月の落とし子 [読書・冒険/サスペンス]


月の落とし子 (ハヤカワ文庫 JA ホ 2-1)

月の落とし子 (ハヤカワ文庫 JA ホ 2-1)

  • 作者: 穂波 了
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/10/05
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

 第9回アガサ・クリスティー賞受賞作。

 新時代の月面探査を目指す国際的なプロジェクト「オリオン計画」。その3回目になる探査船・オリオン3号は月面のシャクルトン・クレーターへの着陸に成功する。
 しかし月面での船外活動を行っていた2名の飛行士が突然の吐血、そして急死してしまう。

 探査司令部は即時の帰還を命じるが、残った3人の飛行士は原因究明のために遺体を回収することを強く主張、司令部を押し切ってしまう。
 しかし地球への帰還中に、残った3人のうち2人までが同様の症状に襲われ、次々に死亡していく。原因は未知の高致死性ウイルスによるものと思われた。

 最後まで生存していた日本人宇宙飛行士・工藤晃(あきら)は、大気圏突入前に遺体を放棄、単独での帰還を目指すが、ある ”トラブル” に遭遇、オリオン3号はコントロールを失い、地表へ落下してゆく。

 オリオン3号が落着したのは日本。場所は千葉県船橋市のタワーマンションだった(表紙のイラストがそれ)。落下したカプセルが激突したことでマンションは崩壊寸前の大惨事となり、さらにウイルスが周囲に拡散を始めていく・・・


 本書は三部構成になっていて、ここまでが「工藤晃」と名づけられた第一部。
 第二部からは、晃の妹である工藤茉由(まゆ)にスポットが当たる。


 JAXAの職員として兄のプロジェクトをサポートしていた茉由は、墜落現場の調査隊に志願して参加する。
 彼女が加わったのは、若手ウイルス研究者・深田直径(なおみち)をリーダーとした感染症対策チーム。

 チームの第一目標は工藤晃の遺体回収。最後まで発症を免れていた彼の体を調べれば、ウイルスへの対抗手段が見つかるかも知れない。

 しかし彼らが直面したのは、想像を絶する現場の惨状、そして極限状態に置かれた人間たちの混乱だった・・・


 文句なしの傑作・・・というわけではない。
 いちばん引っかかったのは、ウイルス対策のできていない探査船の中に、原因不明の死体を収容しようと主張するところ。
 医学的知識もひと通りあるはずの宇宙飛行士ならば、絶対そんな選択はしないだろうし。ここは私も疑問を感じざるを得なかった。
 でもまあ、これをやらないとウイルスが地球へ来ることができないので、痛し痒しというところか。

 ここ以外は、全般的に読ませるエンタメとしてよくできてると思う。

 墜落現場の惨状、そして致死性ウイルスの拡散。それがすべて死んだ兄の引き起こしたことであり、心が折れてしまう茉由。

 それと反比例するように、キャラが変わっていくのがウイルス研究者の深田。
事件前は研究にしか興味がないような、典型的な ”学者バカ” だったが、茉由と行動していくうちに、次第に ”熱血キャラ” へと変貌していってしまう。

 まあ、有り体に言えば茉由に惚れてしまった(それも多分に ”吊り橋効果” かと思われるが)ことが原因なのだが、彼女を支えながら発症阻止因子を究明することに全力投球、終盤では大活躍となる。


 発症阻止因子が意外とシンプルなことに物足りなさを感じる人もいるかも知れないが、単純なゆえに見つかりにくかった、ともいえるのでこれは好みの問題かと思う。私としてはOKだったけど。

 同様の宇宙病原体による感染を描いたマイクル・クライトンの小説『アンドロメダ病原体』(1969年)でも、発症阻止因子はとても単純なことだったし。ちなみにこの作品は『アンドロメダ・・・』というタイトルで1971年に映画化されてる。TVで放送されたのを観た記憶があるよ。OPがとても印象的だったなぁ。


 最後に余計なことをふたつ。

 宇宙から来た未知の高致死性ウイルス、と聞いて真っ先に連想したのは星野之宣のマンガ『ブルー・シティー』だったよ。あっちでは人類はほとんど全滅してしまったけどね。やっぱり続編は書いてくれないのかなぁ・・・星野先生。

 ふたつめは本書が受賞した賞について。
 『アガサ・クリスティー賞』というネーミングだと、本格ミステリが対象の賞だと思う人が多そうだ。実は私もそう思ってた。だから本書が受賞したことを知って、ちょっと驚いたよ。
 実際、ネットで本書の紹介を読んでたら「これのどこが ”アガサ・クリスティー” なんだ?」って文句を言ってる人がいたよ。

 『江戸川乱歩賞』はミステリ以外の作品も受賞してる。サスペンスやSFっぽいのとか。これにはほとんど異議は出ない(作品の出来自体に異論はあっても)。
 長い歴史があって「そういうものもOK」というのが浸透してるからだろうと思う。最近では『松本清張賞』なんかも、あまり清張っぽくないのが多い印象。

 『アガサ・クリスティー賞』もまだ10年ちょっとだけど、今年は『同志少女よ、敵を撃て』みたいな作品も出て、実は間口の広い賞なんだということが少しずつ広まっていくんだろう。

 個人的には『鮎川哲也賞』みたいに、その名を冠した作家さんのイメージ(この場合は本格ミステリ)を継承するような作品が受賞するのがすっきりするとは思うんだけどね。



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