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東京ホロウアウト [読書・冒険/サスペンス]


東京ホロウアウト (創元推理文庫 M ふ)

東京ホロウアウト (創元推理文庫 M ふ)

  • 作者: 福田 和代
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/06/14
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 東京オリンピック開幕を控えた2021年7月。配送トラックを狙ったテロが次々に起こり、鉄道・高速道路も妨害行為で走行不能に。東京に向けた物流が一斉に止まるという異常事態が発生する。長距離トラックドライバーの主人公は、仲間とともに危機打開に動き始めるが・・・


 オリンピック開幕を一週間後に控えた東京。新聞社に脅迫電話がかかってくる。東京を走るトラックの荷台でシアン化水素ガス(青酸ガス)を発生させる、と。

 その脅迫通りの事件が発生し、そこから次々にテロ行為が続発していく。東北本線が土砂崩れで不通となり、常磐自動車道のトンネル内で人為的な火災事故が発生、通行止めに。

 東北から東京へ向かう物流ラインが次々と断ち切られ、東京圏3600万人が物資不足に晒される。コンビニ・スーパーの棚は次々に空になっていく・・・。


 主人公は長距離トラックドライバーの世良隆司(せら・たかし)。妻の萌絵はコンビニ店員だ。

 本書のテーマは主に2つ。ひとつはこの国の物流の様相。

 モノを作る人がいて、運ぶ人がいて、それを売る人がいてはじめて我々は商品を手にすることができる。生活を支えるインフラとして物流の重要さとその脆弱さが描かれていく。
 その中で、主人公の職業である長距離トラックに作者は注目している。物流の主役にありながら労働環境は過酷だ。長時間の業務や低い賃金、それに加えてほとんどのドライバーは個人事業者。トラックも自前のものを使っている。
 そしていったん物流が止まると、人々は不安感から買い占めに走る。そのあたりの混乱は、萌絵の視点から語られていく。

 もう一つは、東京(都市部)と地方の歪んだ関係だ。
 東京は物資を飲み込むだけでなく、大量のゴミ・廃棄物を排出する。一部は東京湾に埋め立てられているが、多くは地方に運ばれて埋設処分される。しかし不法投棄も後を絶たない。最近でもそれが原因で災害が起こってるし。
 地方の生産物を都市部が吸い上げ、生じた廃棄物は地方に押しつける。曲がりなりにも都市部の片隅(たぶん)に住んでいる私が言えたことではないが、これは確かにひどいことではある。犯人グループの背景にもこの問題がある。


 主人公・世良はこの緊急事態を、トラックドライバー同士の横の連携で打開しようとする。彼の身近な知人に犯人グループの一人がいたり、世良の弟が警視庁の警部だったり、終盤では犯行グループの首謀者に出くわしたりと、ちょっと都合よすぎる展開もあるけど、それは本書のテーマにとっては些細なことだろう。

 この重大な危機を打開するリーダーであるべき東京都知事が、いささかコミカルかつ無能に描かれているのはご愛敬か。
 まあ、こんな政治家がいるとは思わないけど、なんでこんなのが当選したんだって思う議員さんがいるのは事実だよねぇ(笑)。



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