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紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人 [読書・ミステリ]


紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人 (宝島社文庫)

紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人 (宝島社文庫)

  • 作者: 歌田年
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2021/02/04

評価:★★★★


 紙鑑定士・渡部圭(わたべ・けい)のもとへ持ち込まれたジオラマ(情景模型)。彼はプラモデル造形家・土生井昇(はぶい・のぼる)の助けを得てジオラマを調べていくうちに、大量殺人計画の存在を知る・・・
 第18回(2019年)『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。

* * * * * * * * * *

 主人公・渡部はかつて紙を扱う会社で働いていたが、"ある事情" から退職、新宿で紙鑑定事務所を開業した。
 持ち込まれた紙のメーカー、銘柄、厚み等の鑑定を行うのはもちろんだが、主な仕事は書籍などの紙を用いる製品に、最適な紙の素材を提案し、納品するという営業活動だ。

 冒頭では、米良杏璃(めら・あんり)という女性のエピソードが語られる。"紙鑑定" を "神探偵" と勘違いした彼女は、恋人の浮気調査を依頼してきたのだ。手がかりは一枚の写真だけ。それは戦車のプラモデルを使ったジオラマの写真だった。

 戸惑いながらも、渡部は依頼を受け、人づてにプラモデル造形家・土生井を紹介してもらう。土生井は伝説的なプラモデル造形家だったが、大手模型会社に楯突いたために仕事を干されてしまい、八王子のゴミ屋敷のような自宅に逼塞しているという人物。
 渡部と土生井は、ジオラマの写真から意外な事実を引き出し、見事に杏璃の恋人の浮気を証明する。

 この冒頭部で、渡部と土生井の背景や人となりを紹介し、かつタッグを組んだ二人の "探偵能力" もバッチリ示され、「ツカミはOK」というわけだ。

 続く依頼人が、本書のメインの事件となる。

 杏璃の紹介で渡部の事務所にやってきたのは、商事会社の秘書・曲野晴子(まがの・はるこ)。彼女の妹・英令奈(えれな)は19歳の大学一年生。しかし三ヶ月前に失踪してしまった。
 妹の部屋に残されていたのは、家のジオラマだった。昭和の時代を思わせる平屋で、内部まで精巧に作られていたが、そこに立つフィギュアはライフルを手にしており、床には無数の銃器が置かれていた。

 ふたたび土生井の助けを借りた渡部は、ジオラマのモデルとなった家の在処を突き止めるべく調査を始める。やがて失踪事件の背後には大量殺人計画が潜んでいることが明らかに・・・


 「紙鑑定士の事件簿」って銘打ってあるけど、紙鑑定自体はあんまり事件解決に関わらない。もちろん、渡部が持つ紙の知識は桁違いで、時に蘊蓄が滔々と語られるんだけど。

 むしろ渡部の強みは「人脈」にあるようだ。専門外で自分の手に負えないモノにぶつかった時、”その道” に詳しく適任な人がいれば、意地を張ったりプライドに拘ったりすることなく、素直に助けを求める。
 それも「知り合いの知り合いは知り合いだ」とばかりに、人脈をフル動員して目的の人物に辿り着き、その協力を引き出していく。その際たる者が本書の土生井だけど、彼以外にも、作中でちょこちょこと "助け" を求めていく。

 そのとき頼りになるのがSNSだ。土生井は八王子の家からほとんど動かないのだけど、メールやLINEを通じて渡部とつながり、ジオラマに関する推理や調査のヒントを与えてくれる。いわば引きこもりのホームズ土生井と、行動力抜群のワトソン渡部のコンビ探偵、といえるかも知れない。

 やがて事件の根底には大量殺人計画が潜んでいることが判明する。終盤に入ると、計画を完遂すべく突っ走る犯人と、それを阻止すべく必死の追跡をする渡部のタイムリミット・サスペンスへと移行していく。
 そしてここに至り、渡部には "最強の助っ人" が現れる。これももちろん彼の人脈上にいる人物なのだが、このあたりは読んでのお楽しみだろう。


 本書はシリーズ化され、続巻が文庫で2冊出ている。主役の渡部はもちろん、土生井や "最強の助っ人" も引き続き "出演" しているようなので楽しみだ。
 どちらも手元にあるので、近々読む予定。



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