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七月に流れる花 / 八月は冷たい城 [読書・その他]

七月に流れる花 (講談社タイガ)

七月に流れる花 (講談社タイガ)

  • 作者: 恩田陸
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/09/20
  • メディア: 文庫
八月は冷たい城 (講談社タイガ)

八月は冷たい城 (講談社タイガ)

  • 作者: 恩田陸
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/10/24
  • メディア: 文庫
評価:★★

『七月に流れる花』

主人公は大木ミチルという少女。
中学生の彼女は、6月という中途半端な時期に
夏流(かなし)という田舎の町へ転校してきた。

1学期の終業式を迎えたころから彼女の周囲に謎の人物が出没を始める。
それは「みどりおとこ」と呼ばれる、全身が緑色の人間。
「おとこ」と言われているが男女の性別もよく分からない。

そのみどりおとこから封筒を渡されるミチル。
それは、夏流城(かなしろ)と呼ばれる場所で行われる
”林間学校” への招待状だった。

「夏のお城には、呼ばれたら必ず行かなくてはならない」
手紙で指定された日に、夏流城へやってきたミチルは
自分以外にも4人の少女が呼ばれていたことを知る。
その1人は、ミチルのクラスメイトの佐藤蘇芳(すおう)だった。

5人の少女たちによる、古城での奇妙な共同生活が始まるが・・・

『八月は冷たい城』

主人公は嘉納光彦(かのう・てるひこ)という少年。
本書は、『七月に流れる花』と時間軸を同じくする。
つまり、同時期に少女たちと少年たちが古城に招かれており、
光彦は集められた4人の少年たちのひとりである。

とは言っても、両者が生活するスペースは分けられているので
お互いにその存在を知らないのだが、
光彦と蘇芳はいとこ同士で、互いのグループの存在を知っていた。

光彦たち男子の側にも、いろいろ事件が突発するのだが、
こちらはかなり悪意を感じるような凶悪なことも起こる。

そんな中、光彦と蘇芳は密かに ”ある方法” で
連絡を取り合って情報交換を続け、事態の真相に迫っていく・・・

最初はファンタジーかと思って読んでいたのだが、
『七月』の終盤で夏流という町が成立した経緯、
子どもたちが古城に呼ばれてきた理由が明かされ、
さらに『八月』では、「みどりおとこ」の衝撃的な正体が示される。

これがあまりに衝撃的で、途中まで★3つにしようかと
思ってたんだけど、1つ減点しちゃいました。
ごめんなさい。この手のネタは苦手なんです。

あまり詳しく書くとネタバレになるのでちょっとだけ。

本作はファンタジーではない(ファンタジー要素はあるけど)。
現在の我々と地続きな世界を描いている。
そういう意味ではSFに分類したほうがいいかもしれない。
さらに『八月』ではミステリ要素もある。

もともと作者は複数のジャンルにまたがった作品を書く人なのだが。

本書の初刊は2016年なんだけど、
2021年の今になって読むと、また違う感想を抱くのではないかな。


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航空自衛隊 副官 怜於奈 [読書・その他]

航空自衛隊 副官 怜於奈 (ハルキ文庫)

航空自衛隊 副官 怜於奈 (ハルキ文庫)

  • 作者: 数多久遠
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2020/05/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★

表紙に描かれている、制服を着た萌えキャラっぽい女性が
本書の主人公、斑尾怜於奈(まだらお・れおな)二等空尉だ。
まあ実際はもっと落ち着いた髪型をしていると思うが(笑)。

舞台こそ自衛隊だが、作者が今まで描いてきた作品群のような
ミリタリー・サスペンスではなく、
予期せぬ人事によって「副官」業務に就くことになった怜於奈さんの
奮闘ぶりを描く、自衛隊を舞台にした ”お仕事小説” である。

「第一章 何で私が副官に?」
怜於奈さんは沖縄県那覇基地で、地対空ミサイル・パトリオットを
運用して弾道ミサイル防衛に携わる第五高射群に勤務する幹部自衛官だ。
その彼女に、南西航空方面隊司令官付きの副官を命じる辞令が。
正直言って希望する部署ではなかったのだが・・・
「副官」とは、一般企業における「秘書」の業務が近いようにも思うが
司令官のスケジュール管理だけに留まらない。
実際に任務に就いてみて、事前のイメージとの違いに戸惑う怜於奈さん。

「第二章 これも副官の仕事?」
怜於奈さんが仕えることになる司令官・溝ノ口は、
内地から那覇基地に新たに着任してきた。
単身赴任の溝ノ口の新居の掃除も副官たちの役目だ。
そんな中、新居の近くに現れる謎の女性に気づく玲於奈さん。
彼女は、溝ノ口の妻だった。司令官の女性関係まで
心配する羽目になってしまった玲於奈さんだが・・・

「第三章 副官付の気配り・機転」
副官にも、「副官付」と呼ばれるスタッフがつく。
新米でミスをしがちな玲於奈さんをフォローする、
ベテラン「副官付」さんたちの活躍を描く。

「第四章 これぞ副官」
2か月前、南西空司令部の幕僚が研修のために海上自衛隊の哨戒機P-3の
通常の監視任務に同乗したところ、マスコミから
「自衛隊が税金を使って遊覧飛行」と叩かれてしまう。
その報道をした琉球テレビのプロデューサーから新司令・溝ノ口への
インタビューが行われるが、険悪な雰囲気で終わってしまう。
自衛隊は、打開策としてP-3の警戒監視フライトを
マスコミに取材させようというプランを打ち出す。
元自衛官のユーチューバーが取材希望を伝えてきたが、
さらに琉球テレビまでが参加に名乗りを上げてきた・・・
国境を挟んで、24時間にわたって他国と対峙する自衛隊の責務は大きい。
作者は元自衛官だけあって、実際の哨戒任務に於ける緊張状態を
リアルに描き出してみせる。

沖縄という土地は、歴史的なこともあって
地元マスコミの自衛隊に対する姿勢はかなり批判的らしい。
それも分からなくはないのだが・・・


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スクープのたまご [読書・その他]

スクープのたまご (文春文庫)

スクープのたまご (文春文庫)

  • 作者: 梢, 大崎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/09/04
  • メディア: 文庫
評価:★★★

昨今「文春砲」なるものが、政治家・実業家・企業から芸能人まで
多くのスキャンダルを暴いてたいへんな話題になっているが、
その手の ”週刊誌” をつくっている人々を描いたお仕事小説である。

舞台は老舗出版社である千石(せんごく)社。
主人公・信田日向子24歳は、そこのPR誌の編集部で働いていた。
しかし2年目を迎えた彼女は「週刊千石」編集部への異動を命じられる。

 ちなみに、本書の出版元は株式会社文藝春秋。ということは
 「週刊千石」のモデルは「週刊文春」、なんだろうなぁ・・・
 あ、春秋戦国(千石)、ってことなのかな?

日向子と同期入社した桑原雅樹は、
「週刊千石」の事件班に配属されていた。
意欲的にバリバリ仕事をしていると思われたのだが、
彼はいつの間にか心を病んでしまっていた。

芸術性の高い文芸書を刊行する一方で、
下世話で下品の塊のような週刊誌もまた発行している。

桑原に代わって事件班への配属となり、戸惑う日向子。
彼女もまた、そんなスキャンダルばかり追いかけているような部署に
疑問を抱いていたのだが・・・

物語は、週刊誌編集部の同僚や取材対象の人々との出会いを通じて
日向子が週刊誌記者としての意義を見出していくまでが描かれる。

私も ”週刊誌” というものに対してはあまり好印象を持っていなかった。
とはいっても、記事の内容によっては買って読んだりするので
あまり悪口は言えないのだが(笑)。

本書を読むと、いままで週刊誌というものに抱いていたイメージが
ちょっと変わる(ガラッと変わる、とまではいかないが)。

例えば政治家や芸能人のスキャンダル記事なんて、
フリーの記者が自分から売り込んでくる企画じゃないのか?
って思ってたんだが、意外にそういう例は少なくて、
ほとんどの記事は正社員の記者によるものだ、とかね。
その理由も書いてあるけど、なるほどと納得できるもの。

時の政権だろうが大企業だろうが、
相手によって忖度しない、ということも書いてある。

 まあ実際には有形無形での圧力はあるだろうし
 それに負けてしまう媒体もあるんだろうなあとは思うが。

鵜の目鷹の目で人の醜聞や欠点をつつき回すような記事でも
それを書いている人は、意外と普通の人だったりする、らしいし。

職業に貴賎はない、という。
どんな仕事であっても、世の中で求められていることならば
それは意義のあるもののはず。

実際、毎週数十万部単位で売れるのであるから、
求めている人は決して少なくない。

そういうものを産み出しているのだから、
週刊誌をつくっている人たちはそれなりの自負と矜持を持っている。

もっとも、ものごとは結果がすべて。
そうやってできあがったものがどう評価されるかは
また別の話になるんだが。


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空色の小鳥 [読書・その他]

空色の小鳥 (祥伝社文庫)

空色の小鳥 (祥伝社文庫)

  • 作者: 大崎梢
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2018/06/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

主人公・西尾木敏也が東京・蒲田にある
みすぼらしいアパートを訪ねるところから物語は始まる。

訪ねた相手は佐藤千秋という女性。敏也の義理の兄・雄一の
内縁の妻であり、6歳の娘・結希(ゆき)と二人暮らしをしている。

敏也の母・景子は北関東の資産家・西尾木雄太郎の後妻に入り、
母の連れ子だった敏也は前妻の子・雄一と義兄弟となった。

雄太郎は一代で大企業グループを育て上げた立志伝中の人物で、
性格もそれにふさわしく、すべてを自分の意のままにしようとする
傲慢な暴君そのものだった。

雄太郎に反発した雄一は西尾木家を飛び出て千秋と暮らしていたが
職場を探し当てられて連れ戻されてしまい、しかも
千秋たちのことを父に告げる前に不慮の事故で世を去ってしまう。

自分の血を引く後継者を失って落胆する雄太郎をよそに
敏也は千秋の存在を探し当て、さらに彼女が
不治の病で余命幾ばくもないことを知ったのだ。

敏也は千秋の治療費や生活費などの経済的な援助を通じて
彼女の信頼を得て、敏也が結希を養子として引き取ることを承諾させる。

やがて千秋は亡くなり、敏也と結希の二人の暮らしが始まるのだが・・・

こう書いてくると、敏也が打算のみで結希を引き取ったように
思えるだろう。実際、敏也には心に秘めた、ある ”計画” があり、
結希はそのための大事な ”コマ” となるはずだった。

しかし、結希に対する敏也の態度は真摯だ。
衣食住の世話はもちろん、小学校の入学式にも参列するし
仕事も定時で帰って結希の世話をする。

作中の描写を読む限り、100%完璧ではないが、
子育て経験のない独身男ができる範囲の、
精一杯の育児をがんばって行っていること、そして
敏也が結希を十分に慈しんでいることが伝わってくる。

しかしながら、なにぶん男手ひとつのことで
どうしても手が回らないところも出てくる。
そんな敏也に、心強い援軍が現れる。

一人は高校時代の同級生・汐野(しおの)。
れっきとした男性なのだがオネエという今風のキャラ。
しかしなぜか結希は彼になついてしまう。

そしてもう一人は敏也の恋人・亜沙子。
つき合っていながらも「結婚願望はない」「子供もいらない」と
広言していたにもかかわらず、結希を一目見てからは
一転して甲斐甲斐しく世話を焼き始めてしまう。

 この2人、ちょっといい人過ぎると思ったんだけど
 思えば6歳にして母親を失うという
 人生最大の悲運を味わった結希ちゃんなんだから、
 これくらいの幸運の巡り合わせはあってもいいよなぁ、とも思った。

やがて2人は敏也のマンションに転がり込んで、
全く血のつながりのない4人による奇妙な共同生活が始まる。
そのあたりの展開はまさにホームドラマで、
このままの暮らしが続けば結希ちゃんも幸せだろうなあと思わせる。

 中でも、小学校が放課になった後、学童保育へ向かわずに
 どこかへ何かを探しに行ってしまう結希ちゃんを描いた
 「三章 放課後の探し物」の最後の場面は胸に響く。
 本書の中でベストシーンかも知れない。

しかしそんな生活にも終わりが訪れる。
千秋の死から3年が経ち、結希ちゃんが小学4年生になった5月、
敏也が雄一の遺児を引き取って育てていることが
西尾木家の知るところとなり、敏也はいよいよ
”計画” を実行に移すときが来たことを知る。

結希の存在を明らかにすれば、西尾木家の財産を狙う
親族たちの反発は壮烈なものになるだろう。
敏也に、そして結希に向けられる悪意はいかほどのものか。

 この親族連中がまた、見事なまでに欲深な人間ばかりで
 笑ってしまうくらい典型的な ”銭ゲバ” 人間。

結希にとっての静かで平穏な、そして幸せな日々が終わる。
そのことに胸を痛め、罪悪感を覚えつつも
敏也は自分の ”計画” を諦めることができない。

そしてついに、敏也は結希を連れて雄太郎との対面に臨むのだが・・・

敏也の母に関するエピソードも描かれていて
それを読むと、西尾木家に対して彼が抱く感情も理解できる。
とはいっても、それが結希ちゃんを巻き込む理由にはならないが。

読者は敏也に同情しつつも、結希ちゃんの幸福もまた願うだろう。
しかしながら2人が求める、それぞれの ”幸福” は両立しないのだ・・・

主人公の敏也とともに、読み手もまた心の底に
ずっと ”重いもの” を抱えながら読み続けていくことになるのだが、
でも語り手は、そこまでつき合ってくれた人たちを裏切らない。
作者が提示する結末に、多くの読者は納得できるだろう。
このエンディングは実に素晴らしいものだと思う。

続編は無理だと思うけど、短編でも良いから、
何年か後の4人の姿が知りたいなぁ。
そう思わせるくらい、この4人が愛おしくなる。


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迷える空港 あぽやん3 [読書・その他]

迷える空港 あぽやん3 (文春文庫)

迷える空港 あぽやん3 (文春文庫)

  • 作者: 剛志, 新野
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/05/10
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

主人公・遠藤慶太は、大航ツーリスト本社から成田空港所に異動し、
旅客の搭乗手続き全般、それに伴うトラブルの解決のために働いている
”熱血あぽやん” だ。

しかし親会社である航空会社・大航が業績不振で
ついに会社更生法の適用を受けることになり、
それに伴う大規模リストラが敢行される。
そのあおりで成田空港所も廃止、業務は系列会社の
大航エアポートサービスへ委託されることが決まる。

遠藤と森尾晴子は前巻の終盤でお互いの気持ちを確認したのだが
業務の引き継ぎに追われ、4か月経った今も
二人の仲はあまり進展していない・・・というところから本書は始まる。

「空港こわい」
業務委託先となる大航エアポートサービスから
3人の女性職員がやってくる。みなかつては空港所カウンターで
働いていたが、10年以上も接客業務から離れていたので、
そのための業務訓練を受けることになったのだ。
しかし、彼女らを受け入れてから同じようなトラブルが続けて起こり、
遠藤はそこに大航エアポートサービス側の意図を感じる。
委託先の責任者は、大航本社から出向しているエリート社員・星名。
彼と業務方針の違いで衝突した遠藤は、
心労のあまり ”心の病” に陥ってしまうという意外な展開に。
昔なら ”心身症”、今なら軽度の鬱とか呼ばれるような状態かな。
職場に出勤することができない状況になってしまったのだ・・・

もっとも第1巻当初のような、空港での仕事を ”腰掛け” 程度にしか
考えない頃の遠藤だったら、こうはならなかっただろうから
これは彼の成長を示すことでもあるのだが。

続く4話は、遠藤が不在の空港で起こる ”事件” を
遠藤以外のキャラの目から描いたものだ。
番外編ぽいが、みな遠藤の不在を心配している。
登場人物のうちの何人かは、”事件” 後に遠藤へ向けて手紙を書き、
これが彼の復帰の後押しにもなっていく。

「妹ざかり」
業務委託後は大航エアポートサービスに移ることになった篠田。
森尾からは、新しい職場で率先してリーダーとなることを期待されるが
生来、人の後についていくことで生きてきた彼女には荷が重い・・・

「天然営業」
遠藤と同期入社の大航ツーリストの営業・須永は。
リストラで辞めた前任者・関口から業務を引き継ぐが、
その中のツアーのひとつに手違いが見つかる・・・

「かりそめハードボイルド」
休職扱いになった遠藤の穴を埋めるため、旧職員の今泉が
成田に戻ってくる。そこで再会したのは
大航エアポートサービスから来ている職員の一人・飛田(ひだ)。
今泉と彼女は、かつて恋愛関係にあったのだが・・・

「あぽがらみ」
長野陶子(とうこ)は40歳。かつては成田空港所で働いていたが
いまは空港内のマッサージ店で受付をしている。
その日、店を訪れた客・北川は背中の痛みを訴え、とうてい
旅行に出られる状態ではないが、彼は頑なに出発しようとする・・・

そして最終話となる。

「あぽわずらい」
遠藤の ”心の病” は長引き、空港所閉鎖と業務委託が行われる
4月まで、あとひと月あまりと迫っていた。
2月中に職場復帰しなければ本社の総務付きとなり、
閉鎖前に空港へ帰ってくることはできなくなる。
未だに病を引きずったまま、2月の最終日を迎えるが・・・

結局のところ、ぎりぎりで遠藤は職場復帰を果たす。
そのきっかけとなるエピソードは、ちょっと安易というか
それくらいで心の病が克服できるのか疑問も感じないわけではないが
エンタメとしてはこの流れが正解だろう。

懸案だった星名との再対決も描かれる。

「サービス第一、目の前のお客様に対して最善を尽くす」遠藤、
「会社存続が最優先、そのためにはサービス削減も必要」という星名。

星名の理屈にも一理あることは否定できない。
「お客様第一主義」を ”錦の御旗” に掲げて
「あれもこれも」と業務を増やしていくと
その職場はどんどんブラック化していってしまうからねぇ。
何事も加減が大事、ということなのだろう。

この2人の対決の結果は、読んでのお楽しみだ。

ラストは、遠藤が森尾と共に新天地へ旅立つところでエンドマーク。

短篇でも良いから、彼らの後日談が読みたいなぁ。
そう思わせるのは、やっぱり二人のキャラが良いからだろう。


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恋する空港 あぽやん2 [読書・その他]

恋する空港 あぽやん2 (文春文庫)

恋する空港 あぽやん2 (文春文庫)

  • 作者: 新野 剛志
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/12/04
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

主人公・遠藤慶太は大航ツーリスト本社から成田空港所に異動してきた。

旅客の搭乗手続き全般、そしてそれに伴うトラブルの解決が仕事だ。
大航ツーリストでは、空港(AIRPORT)の略称(APO)から、
そこで働く人たちを「あぽやん」と呼んでいる。

当初、遠藤は1日でも早く本社へ戻ることしか考えていない男だったが、
同僚や旅行客と触れあい、トラブル解決に奔走するうちに
いつしか「熱血あぽやん」へと成長していく・・・というのが前巻。

とはいうものの、何せ前巻を読んだのは7年くらい前だからなぁ・・・
かなり忘れてたけど、続巻を読むのに支障はなかったよ。

「テロリストとアイランダー」
新人職員・枝元の教育係を務める遠藤だが、情熱と思い込みを
はき違えているような枝元の言動に振り回される毎日。
そんなある日、警察から要請が入る。
乗客名簿にある ”ハマ・コウ” という人物が
搭乗客として現れたら、通報して欲しいとのことだった。
ハマ・コウはテロリストとして指名手配されている人物だった。
当初は同姓同名の別人だと思われていたのだが・・・

「空港ベイビー」
男女二人の子供を連れた妊婦が客として現れるが、
搭乗前になって男の子が行方不明になってしまう。
子供を探して空港内を奔走する遠藤だが、やがて母親の事情に思い至る。

「ランチ戦争」
カウンターの女性職員が全員ランチに出かけてしまい、
接客ができないというトラブルが発生した。
担当だった職員を叱責する遠藤だったが
この事件がもとで女性陣から総スカンを食らってしまう。
女性が多い職場というのはたいへんだなぁ・・・
しかも上司である遠藤だけが男で、
部下は全員女性というのは特にやりにくかろう・・・

「台風ゲーム」
成田空港に台風が接近してくる。
公共交通機関が止まり、空港でも遅延が発生し始める。
出発が遅れ、苛立ち始める旅客を相手に
精一杯のサービスを提供しようとする遠藤たちだが・・・

「恋する空港(アポ)」
空港所は、韓流スターであるパク・ジフンの
ファン・ミーティングに向かう女性団体客を迎える。
同じ頃、空港所に意味不明な電話がかかってきて・・・

「マイ・スイート・ホームあぽ」
親会社である航空会社・大航の業務不振を受け、
大航ツーリストも業務を縮小、成田空港所も廃止されることが決まる。
しかしまだ一般職員には正式発表にはなっていない。
そんな中、遠藤はかつて自分が関わった搭乗客・川田美穂の話を聞く。
美穂は、遠藤の接客ぶりを見て一目惚れをしてしまったらしい。
しかも美穂の父親はメガバンクの取締役で将来の頭取候補だという。
遠藤が美穂といい仲になれば、大航への資金融資を
計らってくれるのではないか?
周囲の ”甘い期待” を受けて困惑する遠藤だが・・・

基本的に一話完結なのだけど、緩やかに物語は連続している。
また、それとは別に2つの事態が並行して描かれていく。

ひとつは、空港所の同僚にして契約社員である森尾晴子との関係。
仕事には真摯に取り組み、上司である遠藤にも
遠慮なく厳しいダメ出しをしてくる。
遠藤にとっては最も信頼の置ける存在でもあり、
やがてその感情は愛情へと変化していく。
しかし、森尾の方は滅多に感情を表に出すことがないので
今ひとつつかみ所がない。もっとも、彼女の振る舞いを読んでいると
遠藤のことを気にかけている素振りは十分に伝わってくるのだが・・・
本書では、森尾には密かに交際しているらしい男性がいることが判明、
遠藤は心穏やかでない日々を過ごすことになる。

もう一つは、親会社の業績不振に伴うリストラ。
空港所は閉鎖され、業務は別の系列会社に委託されるが
そちらへ移れるのは、現在の人員の半分のみ。
誰を残し誰を切るのかを選別し、そして切られる者へ
そのことを告げるのもまた遠藤の仕事になる。

この業務委託に関わるストレスは、次巻への伏線にもなっている。
完結編となる第3巻も読み終わっているので、近々記事にする予定。


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アンマーとぼくら [読書・その他]

アンマーとぼくら

アンマーとぼくら

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/08/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★

作者は昨年(2019年)、筆名を「有川浩」から「有川ひろ」に改めた。
やっぱり「ひろし」って誤読されることが未だに多いのかしら?
ちなみに、タイトルにある ”アンマー” とは、
沖縄地方の方言で ”母親” のことだという。


東京で暮らすリョウは、2泊3日の予定で沖縄に里帰りする。

出迎えたのは ”おかあさん”。
リョウが幼い頃に実の母は病死し、
その後、父が再婚した相手が ”おかあさん” だ。
その父も今はすでに亡い。

リョウは ”おかあさん” と共に、父との思い出の場所を巡り始める。

物語はリョウの一人称で進行していく。
二人の ”旅” を綴る現在のパートと、
実の母と死別し、それまで生活していた北海道を離れて
カメラマンの父と共に沖縄へ移住、そこで始まった
新しい ”おかあさん” との生活を描く過去のパートが並行して語られる。

とにかくリョウの父親のキャラが強烈だ。
冒頭、実の母が今際の際にリョウに語りかけた言葉が掲げられているが
この言葉が、ほぼ全編にわたって物語の内容を示している。

「お父さんを許してあげてね。
 お父さんは、ただ、子供なだけなのよ」

最初の妻を喪って以後、リョウの父は奇行が目立ち始める。


 奇行はそれ以前からあったのかも知れないが
 リョウが幼くて分からなかったのだろう。

最初のうちは、妻を喪った寂しさを紛らわせ、
息子を励ますためなのかとも思っていたが
読み進めるうちに、どうやらそうではないらしい、ということに気付く。

リョウの父は、本当に「子供」だったのだ。
まあよく言えば純粋で繊細だったのかも知れないが、
幼いリョウにとっては理解できない行動ばかりに見える。

息子というものは、多かれ少なかれ
父親というものに反発を覚える時期があると思う。

一番身近な同性の大人であるから、否が応でも意識せざるを得ない。
どんなに立派な人間だろうと、100%完全無欠な奴はいないから
息子から見れば、どうしても好意的に捉えられないところは出てくる。

もし立派な大人であっても、その「大人の理屈が嫌だ」とか
一所懸命に稼いでも、「金儲けばかりしてる」とか
まあ父親からすると理不尽なところで嫌われることもあるだろう。

 私の父親も、金は人並み以上に稼いでくれたが
 家庭人としての評価は辛かった。さすがにDVとかは無かったが
 けっこう嫌いだと思ってた時期は長かった。
 「まあ親父もあれはあれで大変だったんだな」と思えたのは
 自分が家庭を構えてからだったが・・・

ましてや、どうしようもない悪い奴だったら仕方がないのだろうが、
本書に登場するリョウの父は、基本的に善人なのだ。

作中でどんな行動を取ったのか、具体的には挙げないけれど
彼の行動はすべて、基本的には善意から発している。

相手(リョウ)に対してよかれと思って行動するのだが
それが相手(リョウ)からすれば
ことごとく我慢ならない愚行に思えてしまう。

読んでいると、ホントに腹が立ってくる。
もしこの親父が目の前にいたら、
殴りかかってしまうんじゃないかとすら思う。

ここまで感情をかき乱されるのは珍しいが、
そこはやっぱり有川ひろ、その筆力は伊達じゃない。


さて、”おかあさん” と共に沖縄各地を巡るうち、
リョウはしばしば不思議な体験をする。
これについてはネタバレなので書かないが、
SFともファンタジーとも解釈できそうな現象。

 とは言っても、この作品をそういうくくりで
 ジャンル分けするのは「無粋」というものだろう。

そして、どうやらこの3日間が終わるとき、
何かが起こりそうな ”気配” がゆっくりと醸し出されていく。

これについてもネタバレなので書かないが
本書の初刊が2017年7月。文庫版の刊行が2020年8月。
どちらも ”夏” というのがポイントか。


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EPITAPH東京 [読書・その他]

EPITAPH東京 (朝日文庫)

EPITAPH東京 (朝日文庫)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2018/04/06
  • メディア: 文庫
評価:★★

タイトルにある epitaph とは墓碑銘を意味する言葉。

「piece」と題された、文庫で10ページほどの短い文章が23章あり、
その合間合間に「drawing」という断章がいくつかと、
「エピタフ東京」という戯曲(演劇の台本)の一部が挿入されている。
(細かく言えば、それ以外の名のついた断章もあるのだけど)

「piece」は、”筆者” という人物による文章。
名は明かされず、頭文字で ”K” と記述されている。

作家を生業としている筆者Kは東京在住で、
「エピタフ東京」という戯曲を書くことになっているが、
なかなか筆が進まない。

本書の主体を占めているのは、筆者Kの日々の生活。
内容としては東京にまつわる諸々について
つれづれなるままに書かれたエッセイ風の文章。
各章の中身は断片的で特につながりもなく、淡々と綴られていく。

その中に時々登場するのが、筆者Kの友人・B子、
そして自分は吸血鬼だと名乗る吉屋という人物。
しかし、この二人が大きくストーリーに関わっているのかというと
そうでもない(というかストーリーらしいものが存在しない)。

いちおうラストでは「エピタフ東京」が完成し、
上演まで漕ぎ着けるのだけど、それがクライマックスというわけでもなく
ある ”イベント” が起こったことがきっかけで
筆者Kの日常語りが終了し、同時に本編も終わる。

巻末には「悪い春」という短篇が収録されているが、
スピンオフというか本書の後日譚。

恩田陸という作家さんは、私からすると当たり外れが大きい作家さん。
デビュー作「六番目の小夜子」は大好きだし、
「蔵と耳鳴り」をはじめとしたミステリ作品も大好きだ。
非ミステリでも好きな作品は一杯ある。

同じように、どこが面白いのか今ひとつ分からないと感じるものも
少なくない。強いて言えばSF寄りの作品に、苦手なものが多いかなぁ。

本書はミステリでもなくSFでもなくホラーでもなく、
私にとってよく分からない作品のひとつになりました。

文章自体は上手な人なので、読み続けることに全く苦はないんだけど、
読み終わった後に残ったのは「?」だけ・・・


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スキュラ&カリュブディス 死の口吻 [読書・その他]


スキュラ&カリュブディス―死の口吻―(新潮文庫)

スキュラ&カリュブディス―死の口吻―(新潮文庫)

  • 作者: 相沢 沙呼
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/03/27
  • メディア: 文庫
評価:★★

変わったタイトルだけど「スキュラ」も「カリュブディス」も
どちらもギリシア神話に登場する怪物の名。

 wikiによると、英語には「スキュラとカリュブディスの間(あいだ)」
 という言葉がある。「進退窮まった状況」という意味で
 「前門の虎、後門の狼」と同義語なんだそうだ。


街では、若い女性の変死事件が相次いでいた。
狼に食いちぎられたような凄惨な遺体を残して。
同じ頃、”プーキー” と呼ばれる麻薬も広まっていた。

主人公は、此花(このはな)ねむりという女子高生。
外国人の血を引き、人形のような整った顔立ちをもつ金髪の少女だ。
(文庫版表紙のイラストが彼女)
なぜか自ら死を求めて、夜の巷を彷徨する日々を送っている。

彼女のクラスメイトの鈴原楓は、
些細なことからねむりと言葉を交わすようになる。
家庭内不和を抱える楓は次第にゆかりと親しくなっていくが、
それによって彼女もまた事件に巻き込まれていく。

変死事件を調べている探偵・雪紫(すすぎ・ゆかり)は、
楓の同級生の戸塚裕一郎に接触する。
一方、ねむりは ”プーキー” の流通を握っていると思われる
少女・瀬崎秋架(しゅうか)の行方を追う。

やがて明らかになるのは ”プーキー” の意外な成分、
そしてねむりの正体は・・・


文庫本裏表紙の惹句には「背徳の新伝奇ミステリ」とある。

性(エロス)と死(タナトス)が表裏一体であるように、
死が横溢する本作の中にも、エロティックなシーン、描写が多々ある。
今までこの作者が書いてきた路線とは毛色の異なる作品なのは間違いない。

でも、「ミステリ」と銘打つのは如何なものかとは思う。
ラストで明らかになる事実のいくつかはミステリ的ではあるけれど
それがメインではないから。

「伝奇ホラー」というのが一番ぴったりくるかな。
今は亡きSF作家・平井和正の某シリーズを彷彿させるものもある。

ただ、私はこの手の話(ホラー系)は苦手。
星の数が少ないのもそれが理由。

だけど、ヒロインの此花ねむりさんの行方は気になる。
本作で全ての謎が語られたわけでもないし、
もし続きがあるのなら、読んでみたいなとは思う。
でもまあ、本書が出て6年くらい経ってるので、続編はナシ、かな。

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のぞきめ [読書・その他]


のぞきめ (角川ホラー文庫)

のぞきめ (角川ホラー文庫)

  • 作者: 三津田 信三
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/03/25
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

全体で二部構成。文庫で400ページほどの分量で、
「第一部」が約100ページ、「第二部」が約250ページ。
その前後を「序章」と「終章」で挟んでいる。


「第一部 覗(のぞ)き屋敷の怪」

時代は昭和の終わり頃。
大学生4年の利倉成留(とくら・しげる)は、
山奥の貸別荘<Kリゾート>でアルバイトをすることになった。
バイト仲間は城戸勇太郎(しろと・ゆうたろう)、
阿井里彩子(あいさと・さいこ)、岩登和世(いわのぼり・かずよ)の3人。

管理人の三野辺(みのべ)は、別荘地以外の周囲の山林への立ち入りを
禁じたていたのだが、ある日、和世はその禁を破ってしまう。
巡礼者の母娘に導かれて山道を進み、巨大な岩の前まで行ったという。

それを聞いた成留たちは、4人でその岩まで行き、
さらに、そこから見えた村にまで足を伸ばしてみる。

そこは誰も住んでいない廃村だった。
「鞘落」という表札がかかった大きな屋敷までやってきた4人は、
そこで何者かの ”視線” を感じ、恐慌に駆られて逃げ帰る。

勇太郎と和世は早々とバイトを辞めることにしたが、
帰る途中で勇太郎は事故死してしまい、
和世にもまた ”異変” が起こる・・・


「第二部 終(しま)い屋敷の怪」

昭和10年代。
東京の大学で日本史を専攻していた四十澤想一(あいざわ・そういち)は
友人の鞘落惣一(さやおとし・そういち)から、彼の故郷のことを聞く。

それは梳裂(すくざ)山地にある侶磊(ともらい)村。
周囲の町村からは「弔(とむら)い村」と呼ばれている。

かつて、村に迷い込んだ落ち武者や巡礼者たちを
村人が殺害し、その以来、村に<のぞきめ>という
”憑き物” が現れるようになった・・・という伝説があるという。

その惣一が、民俗調査に出かけた先で崖からの転落死を遂げてしまう。
彼の話に興味を覚えていた四十澤は侶磊村に向かい、鞘落家を訪れる。
そこで彼が体験したのは村の異様な風習、そして怪異の数々だった・・・


作者の作風はホラーとミステリの融合が特徴だが
その比率は作品ごとに異なる。

「刀城言耶シリーズ」では、さまざまな超常的な怪異が頻発するが
最終的にはミステリの枠内で、99%は合理的に説明・解決される。
残り1%ほどは、割り切れないものが残るが
それも ”余韻” として楽しめる。
いわば「ホラー風味のミステリ」だ。

しかし本書は違う。超常的な怪異が頻発するのは同じだが
登場する様々な ”謎” のうち、かなりの部分は合理的な解釈が示される。
しかし、メインである ”超常の存在” は最後まで否定されない。
それゆえ、最後まで恐怖は持続することになる。
「ミステリ要素もあるホラー」という感じか。
本書はこちらの系統に属する作品だ。


私が好きなのはやっぱり前者で、本書のように
最終的に ”怪談” で終わるのは苦手です。

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