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アメリカ最後の実験 [読書・その他]



アメリカ最後の実験(新潮文庫)

アメリカ最後の実験(新潮文庫)

  • 作者: 宮内悠介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/01/18



評価:★★★

 主人公・櫻井脩(しゅう)はアメリカ西海岸にやってきた。目的は二つ。

 ひとつめは、ジャズの名門〈グレッグ音楽院〉を受験するため。
 もう一つは、7年前に渡米したまま消息を絶った父・俊一を捜すため。

 音楽院は、風変わりな試験をしていた。
 まずは街頭のあちこちに設置してあるピアノを飛び入りで演奏すること。観客の反応を含めて、有望と判断されれば次に進める。
 そのようないくつかある予備試験を突破しなければ、学院内で行われる本試験に臨めないのだ。

 試験を受けていくうちに、脩はスキンヘッドの巨漢マッシモやマフィアの御曹司と思われる少年ザカリーなど、他の受験生とも知り合っていく。
 当然ながら彼ら以外の多くの受験生もいて、そのほとんどはどんどん淘汰されていく。

 恩田陸の「蜜蜂と遠雷」みたいな雰囲気もちょっとあるが、毎回変わったシチュエーションでの試験といい、クセのある演奏課題や、用意された楽器にも ”罠” が隠されてたりと、マンガ的な描写も。
 巻末の解説によると、作者も「格闘技マンガ」を念頭に置いて書いてたらしいし。

 マッシモは俊一のことを知っていた。彼はアメリカ先住民の少女と暮らしながら演奏活動をしていたという。
 俊一の弾いていたシンセザイザーは特別製のようで、〈パンドラ〉と呼ばれたその楽器は玄妙な響きを奏でていたという。
 マッシモの伝手で、脩はその少女リューイ(7年後の今ではすでに少女ではないが)に会いにいく。

 脩たちの物語と並行して、全米各地で謎の連続殺人事件が起こっていることが描かれている。やがて脩の身近にも犠牲者が現れて・・・

 ミステリのようにもとれるかも知れないが、本書は本格ミステリではないので連続殺人を行っている真犯人がいるというわけではない。
 全米各地で起こっている事件は、殺人衝動に駆られる人々が連続的にあちこちに現れているわけで、そのあたりはSFとして捉えるべきだろう。

 もっとも、脩の身近で起こった殺人については終盤で犯人が明かされるので、まるっきりミステリではない、というわけでもないが・・・

 音楽小説でありミステリでもありSFでもある。ジャンルを超えた要素をまとめて、ひとつのストーリーとして語りきっているのは流石に上手いとは思う。

 そこそこ楽しんで読ませてもらったけれど、頻出する音楽用語(ジャズ用語?)は馴染みがないものが多い。物語を理解するには差し支えないかもしれないけど、ジャズやシンセサイザーに詳しい人ならもっと面白く読めるのだろうとも思った。

 ちなみに文庫版の表紙には4人の人物が描かれているが、左からザカリー、脩、リューイ、マッシモ、だろうと思う。

 メインとなるこの4人だけでなく、脇役として登場する者たちもキャラが立っていて印象に残る。



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ゴーストハント6 海からくるもの [読書・その他]

ゴーストハント6 海からくるもの (角川文庫)

ゴーストハント6 海からくるもの (角川文庫)

  • 作者: 小野 不由美
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/06/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

 主人公兼語り手は女子高生・谷山麻衣。彼女がアルバイトをしているのは心霊現象を専門に調査する「渋谷サイキックリサーチ」(SPR)。

 そこの所長である美少年、通称ナルと個性的なゴーストバスターたちが繰り広げるホラーな冒険を描くシリーズ、第6作。

 SPRに現れたのは、吉見彰文(よしみ・あきふみ)という青年。
 彼が連れてきたのは姪の葉月。彼女の背中には、湿疹のようなものが現れていて「喘月院落獄童女」の文字が浮き出ていた。

 彰文によると、吉見家は能登で高級老舗料亭を営んでいるのだが、代替わりのたびに多くの死人が出るのだという。

 能登に乗り込んだ一行が到着したのは、日本海に突き出た岬の上にある建物で、周囲は断崖になっていた。
 彰文の祖母によると、32年前の代替わりの時には家族から8人、店の客からも2名の死者が出て、さらには呼んだ霊能者たちも次々に亡くなったという。

 前当主である彰文の祖父が亡くなったばかりで、父が次期当主になるのだが、過去の経緯があって現在店は休業中とのこと。
 その間に、過去の大量死事件の真相と、吉見家に仇なす存在の正体を突き止めようと、SPRの調査が始まるのだが・・・

 前回の洋館とは打って変わって、日本建築の老舗料亭が舞台。近くの断崖には洞窟があって、その中には謎の祠があるなど和風ホラーな雰囲気や道具立てもバッチリだ。

 さて、現在の吉見家一族だけでも13人いて、さらに調査によって過去何回かの代替わりのときにも大量死が起こっていたことが判明していく。
 その過程で多くの人名や地名が登場するのだけど、先祖の誰々が何処其処に住んでいたとか、誰々と誰々が親子だ兄弟だ叔父叔母だ甥姪だ婿養子だ、とかの関係が入り乱れてきて、だんだんついて行けなくなってしまう(笑)。
 まあ私のアタマの容量が小さいのが悪いのだろうけど、人物名一覧と系図を載せてくれると助かるんだがなぁ、てのは一度ならず思った。
 まあ、”館ミステリ” ではないので、一族の詳しい歴史や細かい人間関係まで把握してなくても読み進めるのに支障はないのだけど。

 さて、シリーズ当初からのレギュラーメンバーである松崎綾子さん。口は達者な割にあまり役に立ったシーンがみられなかったのだけど、本作では大活躍。綾子さんファン(実は私もそうだが)は必読だろう。

 終盤に至っては、ナルも自ら怪異に立ち向かう展開となる。まさに ”真打ち登場” である。

 さて、このシリーズは次巻がラストとなる。SPR一行が能登から東京へ帰る途中でまた新たな怪奇に巻き込まれる話で、時間的にも本書と連続している。

 実はこの文章を書いてる段階で最終巻まで読み終わってるのだが、シリーズ中で提示されてきた謎のあれこれが説き明かされて、大団円となる。
 こちらも近々記事にしてアップする予定。


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彼女がエスパーだったころ [読書・その他]


彼女がエスパーだったころ (講談社文庫)

彼女がエスパーだったころ (講談社文庫)

  • 作者: 宮内悠介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/04/13
  • メディア: Kindle版


評価:★★★

”スプーン曲げ” に代表されるような、科学では捉えきれない事象。
あるときは超常現象と呼ばれ、あるときは疑似科学と呼ばれる。
そういったものをテーマに書かれた連作短篇集。
SFとミステリの境界にあって、どちらでもない作品が収められている。
共通しているのは、取材記者が書いたルポという形式をとっていること。

「百匹目の火神」
S県歌島に棲む猿が火をおこす方法を覚えた。すると、距離や世代を超えて、日本各地の猿の間で火をおこす猿が現れた。
語り手は、アグニという名の猿が最初に火をおこし、仲間にそれを伝えために本州を北上していった足取りを追っていく。
タイトルは ”百匹目の猿現象” から来ている。詳しくはグーグル先生に聞いてください(えーっ)。

「彼女がエスパーだったころ」
仕事上のストレスから、”超能力” でスプーンを曲げる動画を大量にwebにアップし、エスパー界(そんなものがあるのか?)の ”ゆるキャラ” になった女性・及川千晴。
彼女自身は超能力があるともないとも明言せず、やがて超常現象への懐疑論者として知られる物理学者・秋槻義郎と結婚するが、秋槻はマンションの非常階段から墜落死してしまう・・・
本書の中ではいちばんミステリっぽいかも知れない。
秋槻義郎って、昔ユリ・ゲラーにケンカを売っていた(笑)大槻義彦・早稲田大学教授(現在は名誉教授)のもじりですか?

「ムイシュキンの脳髄」
網岡無為(あみおか・むい)。通称 ”ムイシュキン”。
思春期の頃から自身の暴力衝動のコントロールができなかった彼は、長じてそれを鎮めるためにオーギトミー手術を受けた。彼の暴力衝動は収まったかに見えたのだが・・・
オーギトミーとは、精神疾患の治療法として開発されたもので、脳にメスを入れて一部を切除することによって種々の症状を緩和させる。モデルとなったのは20世紀中頃に精神障害の治療法として多用されたロボトミー手術だろう。昔のSFにもよく登場していた記憶がある。
詳しくはグーグル先生に(えーっ)。

「水神計画」
水に「ありがとう」と声をかければ、その水は浄化される。
品川水質研究所の所長・黒木はそんな思想をもっていた。
茨城県沖に建設された海上原発<浮島>が巨大台風の直撃によって炉心溶融が発生、海水の浸入によって大量の汚染水が発生していた。
黒木は ”水の力” を以て汚染水の浄化を計画する。すなわち、コップ一杯ほどの ”種子” となる純水を原子炉内に投下すれば、すべての汚染水が浄化されると・・・ラストは意外なサスペンス展開。
「水からの伝言」が元ネタだね。詳しくはグーグル先生に(えーっ)。

「薄ければ薄いほど」
末期ガン患者などを受け入れる終末医療施設・白樺荘。
しかしここに入所した患者たちには、<量子結晶水>なるものが与えられていた。
生薬を10の60乗倍に薄めたもので、実質、生理食塩水と変わらない。
そんな施設の中で、患者たちが謎の ”自殺” を遂げていく・・・
終盤はミステリ展開。
「ホメオパシー」、そして「レメディ」が元ネタだね。詳しくはグーグル先生に(えーっ)。

「佛点」
かつての ”エスパー”・及川千晴から語り手の ”私” へと連絡が入る。
彼女の知人女性がアルコール依存症に苦しみ、ロシア人が主宰する依存症患者の相互扶助組織に入ったのだが、そこは会員たちにセックスを強要するカルト集団だった・・・
ここで登場する千晴嬢は、過去の諸々とはいろいろ吹っ切れたみたいでなかなかお茶目で活動的な、魅力あふれる女性になっている。
1997年に起こった、ヘヴンズ・ゲート事件が元ネタ。詳しくはグーグル先生に(えーっ)。


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ゴーストハント5 鮮血の迷宮 [読書・その他]


ゴーストハント5 鮮血の迷宮 (角川文庫)

ゴーストハント5 鮮血の迷宮 (角川文庫)

  • 作者: 小野 不由美
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/03/24
  • メディア: 文庫


評価:★★★☆

主人公兼語り手は女子高生・谷山麻衣。
彼女がアルバイトをしているのは
心霊現象を専門に調査する「渋谷サイキックリサーチ」(SPR)。

そこの所長である美少年、通称ナルと
個性的なゴーストバスターたちが繰り広げる
ホラーな冒険を描くシリーズ、第5作。

シリーズ第1作は春に始まったのだけど、
この5作目で二度目の春を迎えた。
ということは作中時間で1年経ったということだね。

SPRは、諏訪の山中にある屋敷の調査を依頼される。
元首相夫人の実家が所有するその屋敷は、
明治時代に建てられて以後、無秩序な増築を行い続けて
部屋数が100を超えるまでになり、内部はさながら迷宮のよう。

現在は無人になっているが、地元からは幽霊が出ると噂され
面白半分に肝試しをしようと中に入りこんだ若者が姿を消してしまう。
さらに、その捜索のために訪れた消防団の青年まで失踪する。

さすがに放置はできないと、元首相は屋敷の調査を決めた。
SPRの一行が到着すると、そこには既に国内外の霊能者や心霊研究家が
集められており、ナルたちを含めると総勢なんと20名。

しかし彼らが活動を始めると、”調査団” のメンバーが
ひとり、またひとりと姿を消していくのだった・・・

今回、SPRには前作から登場した安原くんも加わっている。
高校3年生だった彼も今作では大学1年となった。
初登場時は好感度の高そうな少年だと思ってたんだが
今作での言動を見ているとけっこう腹黒そう(笑)。
レギュラーメンバーは曲者揃いのようだ。

このシリーズは、登場人物同士の掛け合いを楽しむ
キャラクター小説の面が大きいと思っていて
ホラーとしての ”怖さ” はあまり感じなかった。

それは、もともと少女向け小説として発表された作品を
原型としているせいだと思うんだけど
この第5作は、いままでの4作よりは怖い。けっこう怖い(笑)。

読んでて、怖くて背筋が凍る・・・とまではいかないが
それに近い感じを久々に味わったよ。

館の秘密が暴かれ、幾多の怪奇現象の ”元凶” と
麻衣が対峙するクライマックスは緊迫感たっぷりで読ませる。

巻末の解説によると、シリーズの残り2冊では
怒濤の展開が待ってるらしい。期待しちゃいますね。


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ゴーストハント4 死霊遊戯 [読書・その他]

ゴーストハント4 死霊遊戯 (角川文庫)

ゴーストハント4 死霊遊戯 (角川文庫)

  • 作者: 小野 不由美
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/12/24
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

主人公兼語り手は、16歳の女子高生・谷山麻衣。
彼女がアルバイトをしているのは
心霊現象を専門に調査する「渋谷サイキックリサーチ」(SPR)。

そこの所長である17歳の美少年、通称ナルと
個性的なゴーストバスターたちが繰り広げる
ホラーな冒険を描くシリーズ、第4作。

東京近郊の丘陵地帯に位置する私立緑陵(りょくりょう)高校。
(渋谷から車で3時間とあるので、関東の山に近いどこかだろう)

この高校では、夥しい数の怪異現象が起こっていた。
授業中に、35人の生徒が一斉に「黒い犬に噛まれた」とパニックに陥る。
掃除のたびに照明の蛍光灯が落ちてくる地学教室。
小さな男の子の声が聞こえてくるLL教室、
夕暮れに渡り廊下を歩いていると足音が追ってくる。
倉庫の中で水のしたたる音がする。
焼却炉のふたを開けると老人がうずくまっている。
トイレの鏡がときどき逆さまに映る・・・

生徒たちは、校舎の屋上から飛び降り自殺を遂げた男子生徒が
原因ではないかとみて、体育館で慰霊祭を行おうとするが
学校側の妨害で実行を阻止されてしまう。

しかし怪奇現象は収まらず、食中毒事件やボヤ騒ぎまで起きて
マスコミの報道にも載り始めた。

そんなとき、緑陵高校の校長がSPRを訪れて調査を依頼する。
いったんは断ったナルだったが、生徒会長の安原修の頼みを受け入れ
麻衣&ゴーストバスターズたちを引き連れて現地へ乗り込む。

生活指導担当の教師、松山の威圧的かつ非協力的な態度にもくじけず
調査を開始した一行は、やがて校内で「ヲリキリさま」という
奇妙な占いが大流行していることを知る。

どうやら「ヲリキリさま」はコックリさんの一種らしい。
生徒たちは遊び半分で霊を呼び出していたのかも知れない・・・

毎度のことながら、超常現象にまつわる騒ぎが語られる。
怪異現象自体、バリエーションはそんなに多く無さそうなのに
マンネリ感を感じさせずに400ページを超える文庫本を
退屈させることなく読ませるのは流石だ。

キャラ同士の軽妙な掛け合いも健在で、楽しくページをめくらせる。
ホラーの感想で「楽しい」というのもどうかと思うが
面白いんだから仕方がない(笑)。

本書で登場した安原くんは、以後レギュラーメンバーになるらしい。
ナルくんとは対照的な(笑)、爽やか系男子だ。

今までも書いてきたけど、ヒロインの麻衣さんの個人情報が不明。
家庭環境を含め、家での生活について全くといって描写がない。。
だいたい、平日なのにSPRでアルバイトができるのはどうして?

 ・・・と思ってたんだが、実は今、シリーズの5巻目(つまり次巻)の
 冒頭を読んでるんだけど、そこで彼女の情報がかなり開示される。
 こちらも驚きっていうか、それでいいんかい?

本書のラストでも、麻衣さん自身について
”ある事実” が明かされるんだけど、シリーズ後半に向けて
彼女自身が物語のキーパーソンになっていくのかも知れない。


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髑髏城の花嫁 [読書・その他]

髑髏城の花嫁 (創元推理文庫)

髑髏城の花嫁 (創元推理文庫)

  • 作者: 田中 芳樹
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/03/19
  • メディア: 文庫

評価:★★★

19世紀半ば、ヴィクトリア朝の英国を舞台にして
エドモントとメープルの叔父姪コンビが遭遇した
怪奇な事件と冒険を描く、その第2作。

1856年、クリミア戦争は終結した。
英国軍人として従軍していたエドモントは
除隊の条件として、負傷で衰弱したライオネル・クレアモント少尉を
ワラキア(ルーマニアの南部)まで送り届けることを命じられ、
戦友のマイケル・ラッドとともにダニューブ河のほとりにある
”髑髏城” へ向かう。そこは文字通り髑髏のような形の怪異な城だった。

翌1857年。復員したエドモントはメープルとともに
ミューザー良書倶楽部(セレクト・ライブラリー)で働いていた。

フェアファクス伯爵家で代替わりがあり、
それに伴って図書室を改装するという。
社長命令でフェアファクス家に赴いた二人を迎えたのは
ライオネル・クレアモント。伯爵家を継いだのは彼だったのだ。

太古から続く一族の末裔で、巨大な野望を持つライオネルを軸に
エドモントの悪友で胡散臭さ満開のラッド、
メープルの寄宿学校時代の同級生ヘンリエッタ・ドーソンと
賑やかなメンバーが登場して大混戦を繰り広げる。

前作に引き続き文豪ディケンズも登場し、ドタバタ劇に花を添える。

いちおうホラーに分類されるのだろうが、怖い雰囲気はほぼ皆無。
例によって、キャラクター同士の軽妙な掛け合いが
いちばんの ”売り” だろう。
(まあ田中芳樹に純粋な恐怖ものを期待する人はいないだろうけど。)


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ゴーストハント3 乙女ノ祈リ [読書・その他]

ゴーストハント3 乙女ノ祈リ (角川文庫)

ゴーストハント3 乙女ノ祈リ (角川文庫)

  • 作者: 小野 不由美
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/09/24
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

主人公兼語り手は、16歳の女子高生・谷山麻衣。
彼女がアルバイトをしているのは
心霊現象を専門に調査する「渋谷サイキックリサーチ」(SPR)。

そこの所長である17歳の美少年、通称ナルと
個性的なゴーストバスターたちが繰り広げる
ホラーな冒険を描くシリーズ、第3作。

ある土曜日、SPRに次々と女子高生がやってきた。
相談内容は狐憑き、幽霊騒ぎ、ポルターガイスト・・・
しかもみな、東京近郊にある名門女子校・湯浅高校の生徒だった。

とまどう麻衣たちだったが、やがて湯浅高校の校長・三上が直々に現れ、
「校内で起こっている奇妙なこと」について正式な調査を依頼される。

翌日、ナル・麻衣・僧侶の滝川・助手のリンの4人で現地へ赴くが、
生徒からの怪奇現象に悩む訴えは夥しい数に上り、
さらには生徒だけでなく教師の中にも被害者がいるという。

生徒に起こっている謎の現象は多岐にわたり、ナルは増援を呼ぶことに。
すなわち巫女の松崎綾子、霊媒師の原真砂子、エクソシストのジョンと
レギュラーメンバー総出演となる。

彼らの調査が進む中、怪現象と関わりがあるのではないかと噂される
生徒の存在が浮上する。

3年生の笠井千秋は、TVで見た超能力番組がきっかけで
”スプーン曲げ” ができるようになり、周囲に披露していたが
それを知った学校側が全校朝礼の場で
彼女のことを「まやかしだ」と吊し上げたのだという。

昔、ユリ・ゲラーが ”超能力” でスプーンを曲げるTVを
見ていた人の中に、自分もスプーン曲げの能力に目覚めた人が出てきて、
彼ら彼女らは「ゲラリーニ」と呼ばれているという。

千秋もまたそのゲラリーニの一人ではないかとナルは判断するが
怪異現象はいっこうに止まず、
より大きな悪意を伴ってナルや麻衣たちに襲いかかってくる・・・

高校内で起こるオカルト現象を扱っているんだが、
本書のメインテーマは「超能力」だろう。

”超能力に目覚めた” ことによって自分の、そして周囲の人々の
生活を歪め、不幸をもたらしてしまった千秋。

しかし、一連の事件の背後には ”黒幕” がいる。
本作はミステリではないし、犯人当てがメインでもないので、
作者もさほど隠す気はないみたいで
読んでいればなんとなく見当はつくのだけれど、
それによって本書の面白さが損なわれることもなく、充分に面白い。

例によって、レギュラーキャラ同士の掛け合いが
無類に楽しいのは前回と同様だが、ラストに至り、
麻衣に関してある ”事実” が明らかになる。
これは何だろうね・・・次作以降への伏線ですかね(笑)。

最後に余計なことをちょっと。

本書の中で「ユリ・ゲラー」という懐かしい名前が出てきたけど、
これは ”自称・超能力者” として一世を風靡したイスラエル人のこと。

彼の日本での ”全盛期” は1980年代後半あたり。
本書の原型が書かれた1989年~92年頃は、
彼の ”活躍” の記憶も冷めやらぬ頃だったんだろう

ユリ・ゲラーで思い出した話がある。早稲田大学の大槻義彦教授
(いまもご存命で、現在は客員教授になってるらしい)が書いた本、
「超能力は果たしてあるか」(講談社ブルー・バックス、1993)。
この中に、ユリ・ゲラーを扱った章がある。

彼がTV画面を通じて日本全国の家庭に ”念力” を送り、
(故障や電池切れとかで)止まってしまっている時計を
動かしてみせる、という企画の番組があって、
実際、放送中にTV局へ「ホントにうちの時計が動き出しました!」って
電話が何十本もかかってきたのだという。

この ”現象” について、大槻先生は理詰めできっちりと解明してみせた。
中学生でも理解できるようなごく当たり前の理屈を積み上げていくと
この不可思議な現象も合理的な説明がついてしまう。
当時、読んでいてとても驚き、かつ感心した記憶がある。

28年も昔に読んだ本の内容を覚えているのにねぇ。
最近のことを覚えていられないのは困ったものだ(おいおい)。


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月蝕島の魔物 [読書・その他]

月蝕島の魔物 (創元推理文庫)

月蝕島の魔物 (創元推理文庫)

  • 作者: 田中 芳樹
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/11/19
  • メディア: 文庫

評価:★★★

舞台は19世紀のイギリス。
両親を亡くして大学を中退し、雑誌記者をしていたエドモンドは
1853年にクリミア戦争に騎兵として出征した。

激戦をくぐり抜けて辛くも生還を果たしたエドモンドは
1856年にイギリスへ帰国する。ときに31歳。

しかし出征中に親族のほとんどは病死したり消息不明になり、
残っていたのは17歳の姪、メープル・コンウェイだけだった。

エドモンドはメープルとともに、会員制貸本屋である
ミューザー良書倶楽部(セレクト・ライブラリー)に職を得る。

その頃、イギリスの文豪ディケンズの屋敷に
デンマークの童話作家アンデルセンが滞在していた。

エドモンドとメープルは、この2人の世話役を命じられ、
彼らのスコットランド東岸のアバディーンへの旅に同行することになる。

そこで彼らが出会ったのは、スコットランド西岸にある
”月蝕島” の領主リチャード・ゴードン大佐。
島民に対して圧政を敷いているという曰く付きの人物だ。

折しも、その月蝕島には巨大な氷山が流れ着き、
その中には一隻の帆船がそっくり氷づけになっているという。

それに興味を示したディケンズに引っ張られ、
エドモンドたち4人は月蝕島へ向かうことになるが・・・

三部作の第1巻ということもあるのか、
前半1/3ほどは主役2人の紹介がメイン。
今回のキーパーソンのゴードン大佐が登場するのはその後、
主人公たちが月蝕島に上陸するのは後半に入ってから。

とは言っても、ディケンズ、アンデルセンなどの
実在人物の描写もなかなか楽しく、前半も飽きさせない。

途中から出てくるメアリー・ベイカーというお婆さんも
なかなか逞しい人なのだが、なんとこの人も実在の人。

ある程度は史実に基づいているのだろうが、
もちろんそれなりの脚色は入っているだろう。
まあそのあたりはベテランだからね。きっちりできてる。

普段は常識家だが、非常識な相手には非常識な対応を躊躇わない。
死線をくぐり抜けた戦士でもあるから、武器だってふるうエドモンド。
聡明な美少女なんだが、跳ねっ返りで威勢のいいお嬢さんのメープル。

主役の二人は、どちらも田中芳樹の作品では
お馴染みのキャラ造形といえるが、そのぶん手堅い感じはする。

敵役となるゴードン大佐、その息子のクリストルと
こちらも絵に書いたような悪役ぶりで何とも分かりやすい。

楽しい読書の時間を得られる本であるのは間違いない。

気軽に読める本ではあるが、書く側はかなり苦労していると思える。
歴史考証はかなり練り込んでるみたいで、
巻末の参考文献の数にはちょっと驚く。

同じく、関連する事項の歴史年表までついてるんだが
こちらは作者の自作だろう。
1789年のフランス革命から、1907年の北京ーパリ間の
ユーラシア大陸自動車レースまで、主に西洋での出来事に加えて
文学や科学の発明発見などの文化文明史も取り込んであって、
同時期に起こっていたことを眺められるのはかなり面白い。

 マリー・キュリーのラジウム発見と
 アメリカがハワイを併合したのと
 H・G・ウェルズが「宇宙戦争」を発表したのが
 いずれも同じ1898年だった、とかね。

まだまだ女性の地位の低い時代にあって、
職業婦人となって男性に伍して生きていこうとするメープル嬢。
彼女はどんな人生を送るのだろう・・・なんて思いながら読み終わった。


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ゴーストハント2 人形の檻 [読書・その他]

ゴーストハント2 人形の檻 (角川文庫)

ゴーストハント2 人形の檻 (角川文庫)

  • 作者: 小野 不由美
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/06/12
  • メディア: 文庫


評価:★★★☆

心霊現象を専門に調査する「渋谷サイキックリサーチ」(SPR)。

依頼人として現れたのは森下典子という若い女性。
彼女が兄夫婦と一緒に住んでいる古い洋館で、
奇怪な出来事が起こっているという。

誰もいないところで壁を叩く音がしたり、
閉めたはずの扉が開いていたり、
ものの位置が変わっていたり、なくなったり、
なくなったものが戻ってきていたり・・・

SPRの所長・渋谷一也(通称ナル)は助手のリン、
アルバイトの女子高生・谷山麻衣とともに現場へ向かう。

東京から車で2時間ほどの、閑静な住宅街にあるその屋敷には、
典子の兄・仁、その妻の香奈、一人娘の礼美(あやみ)が住んでいた。

既に森下家に呼ばれていた巫女・松崎綾子、僧侶・滝川法生と再会した
SPR一行はさっそく調査を始めるが、
怪現象は次第にエスカレートしていく・・・

途中からは前回も登場した金髪美少年エクソシストのジョン・ブラウン、
和服姿の美少女霊媒師・原真砂子(まさこ)も加わる。
たぶんこのメンバーはずっとレギュラーメンバーになるのだろう。

前巻の時にも書いたが、この ”チーム・ゴーストハント” の
キャラたちの間の掛け合いが面白く楽しい。

怪奇な描写も多々あるし、中にはぞっとさせられるシーンもあるのだが
私のような ”ホラー嫌い” でも大丈夫だ。

 もともと少女向け小説だったものをリライトしてあるので
 ホラー風味もマイルドなのだろう。

調査が進み、あらゆる可能性を一つずつ潰していって
最後に残ったものが真相・・・なのだが、そこはホラー。
ミステリではないので「そうだったのか!」って
納得にはつながらないのだが、これはこれで面白いとは思う。


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ゴーストハント1 旧校舎怪談 [読書・その他]

ゴーストハント1 旧校舎怪談 (角川文庫)

ゴーストハント1 旧校舎怪談 (角川文庫)

  • 作者: 小野 不由美
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/06/12
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

”ミステリ&ホラー” と銘打った全7巻シリーズの第1巻。

語り手は、女子高生・谷山麻衣(まい)。
小中高一貫校の高等部に外部から入学してきた麻衣は
同級生から ”旧校舎” の噂を聞く。

それは学校に敷地の一角にある、半ば壊れかかった木造校舎のこと。
そこを取り壊そうとするたびに、なぜかトラブルが起こっていた。

解体中に2階部分が崩壊して1階にいた作業員が死亡したり、
工事用のトラックが暴走して生徒が死傷したり。

そもそも、かつて校舎として使われていた時代から
怪奇な噂が絶えない場所だったという。

校長は、心霊現象の調査研究を行っている
SPR(渋谷サイキックリサーチ)に旧校舎の調査を依頼する。

麻衣は、あるトラブルからSPRの機材(テレビカメラ)を破損し、
スタッフの一人に怪我を負わせてしまう。

SPR所長の渋谷は、賠償させる代わりに
麻衣に臨時の助手として働くことを命じる。

麻衣は、図らずも怪異現象の現場に立ち会うことになってしまう・・・

私は基本的にホラーは守備範囲外、というか苦手なんだが
このシリーズは大丈夫だったよ。

確かにホラーな描写は気味が悪くて、読み進めるのが
躊躇われる部分もあるけれど、全体的にみてそういう場面は少ない。

ページをめくらせる原動力のほとんどは、登場人物のキャラ設定だ。

SPR所長に収まっている渋谷は17歳の美少年だが、
学校に通っている様子もなく、高価な機材を多数持っているので
かなりの財力もありそうだ(後援者がいるのかも知れない)。

「一也(かずや)」という名前があるにも関わらず
あまりにも傲岸不遜な自信家、そしてナルシストぶりから
麻衣は彼を「ナル」と呼び始める。

 話が進むうちに、他のキャラもみな彼のことを
 「ナル」と呼び始めるのも面白い。

さらに校長は、SPRだけでは不安なのか、
”怪奇現象の専門家” を複数呼んでいた

化粧がケバいお姉さんだが、本業は巫女という松崎綾子。

麻衣からは ”ぼーさん” と呼ばれる滝川法生(ほうしょう)は、
バンドを組んでベースを弾いているが、
実は高野山から降りてきたロン毛の僧侶。

そして物語が進むにつれて、
怪奇現象に立ち向かう人物がさらに増えていく。

金髪美少年のエクソシスト兼神父のジョン・ブラウン。
日本語は達者だが、なぜかアヤシげな関西弁で喋る。

和服姿で日本人形のような美少女霊媒師・原真砂子(まさこ)。

なんとも賑やかなメンバーだが、彼らは決して一枚岩ではなく
顔を合わせれば憎まれ口をたたき合う。

さて、主役の麻衣さんだが、彼女も ”単体” でみれば
好奇心いっぱいで、かつ元気に満ちあふれた威勢のいいお嬢さん。
通常なら充分 ”濃いキャラ” で通ると思うのだが
如何せん、周囲があまりにもエキセントリックすぎて、
かえって ”普通” に見えてしまう。

彼女自身には霊能力などはないし、お祓いなどの特殊技能も
持っていないのだけど、それだけに ”一般人の感覚の持ち主” として
物語全体を見通して語るには、いちばん適しているのだろう。

それに、こういう ”濃いキャラ” に囲まれていても、
押し負けない逞しさも持ち合わせている。

麻衣を含めて、こういうキャラ同士の掛け合いが
このシリーズの面白さなのだろうと思う。

巻末の解説によると、本シリーズの初出は1989~92年。
それが大幅にリライトされたのが2010~11年。
そしてその文庫化が2020~21年、ということだ。

作中に携帯電話が出てこないのは、初出時の時代背景を
リライト時にもそのまま踏襲しているのだろう。

ホラーであるから、ミステリのように
全てが理詰めで解決されるわけではないが、
上にも書いたように、それを補ってあまりあるくらい
面白いとは思うので、続巻も読む予定。

さて、読み終わってみていちばん疑問だったのは麻衣さん自身のこと。
家庭環境とか家族構成とかは作中に一切出てこない。
娘がこんな ”危ないアルバイト” に駆り出されているのに、家族からの
リアクションが何もない(どうなってるのか知らないのだろうが)。

ストーリー展開上、不要なので描写していないのか。
それとも次巻以降の伏線になっているのか。
はて。


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