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空色の小鳥 [読書・その他]

空色の小鳥 (祥伝社文庫)

空色の小鳥 (祥伝社文庫)

  • 作者: 大崎梢
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2018/06/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

主人公・西尾木敏也が東京・蒲田にある
みすぼらしいアパートを訪ねるところから物語は始まる。

訪ねた相手は佐藤千秋という女性。敏也の義理の兄・雄一の
内縁の妻であり、6歳の娘・結希(ゆき)と二人暮らしをしている。

敏也の母・景子は北関東の資産家・西尾木雄太郎の後妻に入り、
母の連れ子だった敏也は前妻の子・雄一と義兄弟となった。

雄太郎は一代で大企業グループを育て上げた立志伝中の人物で、
性格もそれにふさわしく、すべてを自分の意のままにしようとする
傲慢な暴君そのものだった。

雄太郎に反発した雄一は西尾木家を飛び出て千秋と暮らしていたが
職場を探し当てられて連れ戻されてしまい、しかも
千秋たちのことを父に告げる前に不慮の事故で世を去ってしまう。

自分の血を引く後継者を失って落胆する雄太郎をよそに
敏也は千秋の存在を探し当て、さらに彼女が
不治の病で余命幾ばくもないことを知ったのだ。

敏也は千秋の治療費や生活費などの経済的な援助を通じて
彼女の信頼を得て、敏也が結希を養子として引き取ることを承諾させる。

やがて千秋は亡くなり、敏也と結希の二人の暮らしが始まるのだが・・・

こう書いてくると、敏也が打算のみで結希を引き取ったように
思えるだろう。実際、敏也には心に秘めた、ある ”計画” があり、
結希はそのための大事な ”コマ” となるはずだった。

しかし、結希に対する敏也の態度は真摯だ。
衣食住の世話はもちろん、小学校の入学式にも参列するし
仕事も定時で帰って結希の世話をする。

作中の描写を読む限り、100%完璧ではないが、
子育て経験のない独身男ができる範囲の、
精一杯の育児をがんばって行っていること、そして
敏也が結希を十分に慈しんでいることが伝わってくる。

しかしながら、なにぶん男手ひとつのことで
どうしても手が回らないところも出てくる。
そんな敏也に、心強い援軍が現れる。

一人は高校時代の同級生・汐野(しおの)。
れっきとした男性なのだがオネエという今風のキャラ。
しかしなぜか結希は彼になついてしまう。

そしてもう一人は敏也の恋人・亜沙子。
つき合っていながらも「結婚願望はない」「子供もいらない」と
広言していたにもかかわらず、結希を一目見てからは
一転して甲斐甲斐しく世話を焼き始めてしまう。

 この2人、ちょっといい人過ぎると思ったんだけど
 思えば6歳にして母親を失うという
 人生最大の悲運を味わった結希ちゃんなんだから、
 これくらいの幸運の巡り合わせはあってもいいよなぁ、とも思った。

やがて2人は敏也のマンションに転がり込んで、
全く血のつながりのない4人による奇妙な共同生活が始まる。
そのあたりの展開はまさにホームドラマで、
このままの暮らしが続けば結希ちゃんも幸せだろうなあと思わせる。

 中でも、小学校が放課になった後、学童保育へ向かわずに
 どこかへ何かを探しに行ってしまう結希ちゃんを描いた
 「三章 放課後の探し物」の最後の場面は胸に響く。
 本書の中でベストシーンかも知れない。

しかしそんな生活にも終わりが訪れる。
千秋の死から3年が経ち、結希ちゃんが小学4年生になった5月、
敏也が雄一の遺児を引き取って育てていることが
西尾木家の知るところとなり、敏也はいよいよ
”計画” を実行に移すときが来たことを知る。

結希の存在を明らかにすれば、西尾木家の財産を狙う
親族たちの反発は壮烈なものになるだろう。
敏也に、そして結希に向けられる悪意はいかほどのものか。

 この親族連中がまた、見事なまでに欲深な人間ばかりで
 笑ってしまうくらい典型的な ”銭ゲバ” 人間。

結希にとっての静かで平穏な、そして幸せな日々が終わる。
そのことに胸を痛め、罪悪感を覚えつつも
敏也は自分の ”計画” を諦めることができない。

そしてついに、敏也は結希を連れて雄太郎との対面に臨むのだが・・・

敏也の母に関するエピソードも描かれていて
それを読むと、西尾木家に対して彼が抱く感情も理解できる。
とはいっても、それが結希ちゃんを巻き込む理由にはならないが。

読者は敏也に同情しつつも、結希ちゃんの幸福もまた願うだろう。
しかしながら2人が求める、それぞれの ”幸福” は両立しないのだ・・・

主人公の敏也とともに、読み手もまた心の底に
ずっと ”重いもの” を抱えながら読み続けていくことになるのだが、
でも語り手は、そこまでつき合ってくれた人たちを裏切らない。
作者が提示する結末に、多くの読者は納得できるだろう。
このエンディングは実に素晴らしいものだと思う。

続編は無理だと思うけど、短編でも良いから、
何年か後の4人の姿が知りたいなぁ。
そう思わせるくらい、この4人が愛おしくなる。


nice!(4)  コメント(4) 
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コメント 4

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-01-31 03:16) 

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-01-31 03:16) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-01-31 03:16) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-01-31 03:17) 

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