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巫女島の殺人 呪殺島秘録 [読書・ミステリ]


巫女島の殺人 (新潮文庫)

巫女島の殺人 (新潮文庫)

  • 作者: 萩原 麻里
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/12/23
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 かつて呪術を執り行っていた一族が封じられた島・呪殺島(じゅさつとう)。そのひとつ、千駒島(ちこまじま)から届いた手紙は、島の秘儀を司る巫女の解放を求めるものだった。
 幼馴染みの三嶋古陶里(みしま・ことり)や大学の准教授たちとともに "僕" は島にやってくるが・・・


 広島県の沖合の瀬戸内海に浮かぶ千駒島は、かつて呪術を行っていた一族が封じられたという "呪殺島" のひとつだ。
 その島から、"僕" の通う大学の研究室に手紙が届く。島では未だに巫女を崇め、死者の魂を呼ぶ秘儀が行われている。多くの死人が出ており、差出人の幼馴染みも殺されたという。巫女を解放し、島を呪いから解き放ってほしい、と。

 幼馴染みの三嶋古陶里(みしま・ことり)、民俗学の世志月伊読(よしづき・いよみ)准教授、助手の和沢瑚太朗(かずさわ・こたろう)とともに、"僕" は千駒島にやってくる。

 島の領主は、巫女の一族でもある千駒(せんこま)家。島の管理全般を取り仕切る山長(やまおさ)家をはじめとする島の旧家は、巫女一族に代々仕えてきた。

 過疎化と高齢化がすすむ島なのだが、本書のメインキャラとなるのは意外に若者が多い。みな島の秘儀に於いてそれぞれ重要な役を受け持つ旧家の子女だ。
 山長飛露喜(やまおさ・ひろき)は山長家の息子、チャラ男の能鷹冬樹(のうたか・ふゆき)、お洒落な稲波綾花(いななみ・あやか)、優等生タイプの篠峯竹葉(しのみね・たけは)。みな高校3年生だ。そして当代の巫女は千駒美寿々(せんこま・みずず)といい、彼らとは同い年だが高校には行かず、千駒神社で暮らしている。

 島を案内される "僕" たち一行。頻繁に耳にするのは "今年は特別な年" で、"本来の役目を果たす祀り" が執り行われるという言葉。しかしその実体は不明のまま。

 そんな中、飛露喜と竹葉が姿を消す。そして千駒神社の奥の斎宮にある滝壺の中に、人が沈んでいるのが発見される。しかし遠目では男女の判別すらできない。
 しかし、そこは巫女が身を清める "聖域" であるとして、頑として立ち入りが認められない。そしてさらなる殺人が続いていく・・・


 いくら呪殺の島と云っても現代の話であるから、上に書いたように島の若者たちは総じて "今風" である。古来からの秘儀とか風習とかに囚われている島の現状に対して、疑問や閉塞感を抱いたり、さらには自由を求めようとする動きもある。
 若者vs年長者という世代間対立の要素もあり、それが今回の事件の背景の一部になっている。この手の伝奇ミステリでは、こういうところはあまり描かれてこなかったとも思うので、目新しいなと思った。

 作中では「秋津真白」と呼ばれている "僕" は、前作から引き続いて相変わらずの鈍くさい行動で(笑)、ヘマばかりしでかすのだが、それがストーリーを動かしていくという貴重なキャラ。ワトソン役として申し分ない働きだろう。

 巫女の正体についてのカラクリは古典的だが、こういうシチュエーションなら現代が舞台でも、さほど無理を感じさせない。閉鎖的な "呪殺の島" というのはいいアイデアだと思う。

 古陶里の推理は、事件の真相のみならず、島を挙げての企みまでも暴き出す。ネットなどで情報拡散が容易い時代に「外部に悟られずに、そこまでできるか?」とも思ったが、実在するカルト宗教だって、内部ではけっこうえげつないことが行われていて、しかも意外と知られていなかったりするするから、そんなに驚くことではないのかも知れない。



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向日葵を手折る [読書・ミステリ]


向日葵を手折る (実業之日本社文庫)

向日葵を手折る (実業之日本社文庫)

  • 作者: 彩坂 美月
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2023/05/29

評価:★★★★☆


 主人公・高橋みのりは小学6年生。父を亡くしたために、母とともに山形の山村に移り住む。その集落には「子どもを殺して首を切る "向日葵男"」の存在を伝える怪談があった。
 地元の小学校へ転入したみのりは藤崎伶(ふじさき・れい)と西野隼人(にしの・はやと)という対照的な二人の少年と出会う。彼らを含めた集落の子どもたちの中で揺れ動きながら成長していくみのり。
 一方、それと並行して集落では不穏な出来事が続き、人々は "向日葵男" の仕業だと噂する。
 みのり・伶・隼人の3人の、小6から中3までの4年間を綴った青春ミステリ。


 東京で暮らしていた小学6年生の高橋みのりは、病気で父が急逝して母の実家である山形の山村・桜沢(さくらざわ)に移り住むことになった。

 転入した小学校は全校でも生徒数が37人しかいない。そんな中で、みのりは二人の少年と出会う。
 一人は藤崎伶。温厚で優しく、みのりが抱いていた移住に伴う諸々の不安を和らげるように、気を配ってくれる。
 もう一人は西野隼人。いわゆる "いじめっ子" キャラで、その言動は粗暴そのもの。相手が女子であろうと気に食わない相手には容赦なくかみつく。当然ながらいつも教師に説教を食らうが全く意に介さない。
 そして不思議なことに、伶と隼人は親友で、いつも一緒に行動していた。

 おそらく読者は、隼人に対して好感度0%から出発するのではないか。実際私も「なんてトンデモナイ奴なんだろう」というのが第一印象だった。けれど、読み進むにつれてその評価を徐々に改めていくことになるだろう。

 この物語は4年間、3人の12歳から15歳までを追っていく。その中で、みのりはこの二人の内面を少しづつ知っていくことになる。

 伶が示す優しさは、彼の抱えた "哀しみと苦しみ" の裏返しであること、隼人の粗暴さにも、彼なりの純粋さや信念の強さ、そして理不尽な扱いに対する反抗心が潜んでいて、それに加えて意外と男気(おとこぎ)を持ち合わせていることも明らかになっていく。

 中学校に上がると、伶と隼人はサッカー部へ入り、たちまちツートップとして頭角を現していく。伶は女子からの人気が抜群で、彼に対しての好意を公言する生徒まで現れてくる。
 それを聞いて内心穏やかでないみのりは、自分の伶への想いを自覚していく。しかしその後、あることをきっかけに隼人が自分へ向けている想いもまた知ることになる。

 そんな幼い恋の三角関係の進行と並行して、"向日葵男" の存在も見え隠れしている。「向日葵流し」と呼ばれる夏祭りのために、集落で栽培していた向日葵の花が何者かに切り取られてしまったりと、"悪意" をもった存在が、確かにこの場所には存在していることは明らかだ。
 そして3人の中学生時代最後の夏祭りの日に、"悲劇" が起こる・・・


 文庫で500ページ近い大作だ。2021年の日本推理作家協会賞にノミネートされたが、惜しくも受賞はならなかった。そのあたりの考察は巻末解説の池上冬樹氏が書いてるのでここでは触れない。
 中盤で起こる閉鎖空間からの "人間消失" といい、"向日葵男" の正体といい、ミステリとしてもよくできてると思うのだけど、作者が本作でいちばん描きたかったのは、主役3人が山村で過ごした日々なのだと思う。

 山村の集落という小さなコミュニティ。濃密な人間関係は時に閉塞感につながる。そこに受験を控えた中学生時代という、見えない将来へ向けての閉塞感を重ね合わせ、さらに同級生たちとの葛藤や軋轢も加わっていく。
 でも、そんな中でも精一杯に一日一日を生きていく主人公たち。3人の心のありようの変化も、作者は長い尺を使ってじっくりと綴っていく。

 終盤に至り、物語の底を常に並行して流れていた "向日葵男" というホラー要素が一気に吹き出し、夏祭りの夜にサスペンスの頂点を迎える。
 みのりが "向日葵男" の正体と対峙し、その意外な動機を知るクライマックスでは、ページを繰る手がもどかしいほど。これほどまでに読み手を引き込み、心をかき乱す作品なんて、年にそう何冊も出会えるものではない。

 とにかく一途に、ひたすらに、そして健気に生きる主役の3人が愛おしい。もっと云えば、彼らと共に成長してきた同級生たちもまた愛おしい。
 ストーリーは3人の中学校卒業をもってひと区切りとなるのだが、そんな物語の常として、登場人物たちのその後はどうなるのだろうって思わせる。
 それぞれ別の人生へと踏み出していったみのりは、伶は、隼人は、そしてクラスメイトたちは・・・

 そんな読者の思いに応えるように、「エピローグ」では、20代となった彼ら彼女らの "ある日" の出来事が語られる。その内容はここには書かないが、読者は充分に満足して本を閉じることができるだろう。

 ミステリとしても、青春小説としても、素晴らしい作品でした。



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NOVA 2021年 夏号 [読書・SF]


NOVA 2021年夏号 (河出文庫)

NOVA 2021年夏号 (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2021/04/03
  • メディア: 文庫

評価:★★☆


 書き下ろしのSF短編を10作収めたアンソロジー。

 目次のページに、各作品について書かれた "ひと言" があるので、それを掲げます(< >で囲んだ部分がそれ)。


「五輪丼」(高山羽根子)
 <2020年、僕の入院中に、東京でオリンピックが開催されたよね?>
 2020年の夏、世間から隔絶された三ヶ月の入院を終えた "おれ" は退院した。世間ではオリンピックが開催されたらしい、という情報が流れているが、"おれ" にとってはどうにもあやふやだ。果たしてオリンピックは開催されたのか?
 間接的な情報だけが肥大化していくと、事実が不明になってしまう・・・という現代を皮肉った作品、なのだろうなぁ。


「オービタル・クリスマス」(池澤春菜 堺三保:原作)
 <宇宙ステーションV3が放つ、優しい奇跡。堺三保第一回監督作品原作、池澤春菜の初小説。>
 宇宙ステーションに月から密航してきた少年。彼の母親は先週病死していた。離婚した父親が住む地球に降りようとしていたらしいが、父親がいた成田空港は核テロ攻撃を受けていた・・・
 父親の消息をつかむためにステーション・クルーのアリが奮闘する、ちょっといい話。池澤春菜さんは声優にして文筆家のようです。


「ルナティック・オン・ザ・ヒル」(柞刈湯葉)
 <丘の上の兵士は地球が回るのをただ見ていた。ギャグ漫画みたいに間抜けな戦争が続いている。>
 月と地球が戦争状態になる。月側の兵士二人は地球を見上げながら、月面上で過酷だがマンネリ化した戦闘を繰り返していたが・・・


「その神様は大腿骨を折ります」(新井素子)
 <「あの、あたしは山瀬メイって申します。"やおよろず神様承ります" って仕事をしてまして」>
 『NOVA 2019年 春号』掲載の短編がシリーズ化されたみたい。困っているひとに、"ぴったりな神様" を紹介して回るという山瀬メイさん。今回はブラック企業に勤める井上くんに、"俺がんばるな" の神様をオススメする話。
 新井素子さん、1977年に高校2年生で作家デビューというスゴい人。なのでキャリアは40年以上。でも作風というか作品の雰囲気はずっと変わらない。これはたいしたもの。


「勿忘草 機巧のイヴ 番外編」(乾緑郎)
 <「私のお姉様になってくださいまし」失われた手紙が生んだ帝都の浪漫。>
 パラレルワールドの江戸時代にアンドロイド・伊武(イヴ)が造られた・・・というスチームパンク的SFシリーズ・・・といっても、本編読んでないんだよね。長編で3冊あって、みな手元にあるんだけど。近いうちに読もう(笑)。


「自由と気儘」(高丘哲次)
 <大戦時に日本が開発したゴーレムに課せられた最後の使命は、猫の世話だった。>
 連合国が投入したゴーレム兵によって、大戦に敗れた日本。国内でもゴーレム兵の研究は進んでいたが間に合わず、完成したのはわずか一体のみ。それが本作の主人公兼語り手の "私" だ。
 大戦後、"私" は製造者・川田隆二に仕えていたが、彼は5年後に病死する。その遺言で、"私" は川田の財産の管理を任されるが、それには彼が生前に飼っていた猫・小雪の世話も含まれていた・・・
 猫とゴーレムの交流を描くという、ちょっとファンタジーがかってはいるが、いわゆるロボットSFの一種だろう。機械仕掛けではなく、「ゴーレム」という神秘的な要素をうまく取り入れてるのがミソか。


「無脊椎動物の想像力と創造性について」(坂永雄一)
 <市内全域を無数の蜘蛛の巣に覆われた古都、京都の全面的な焼却が決定された。>
 遺伝子操作された蜘蛛が大学の研究室から逃げ出したことによって、京都全域が蜘蛛の巣に覆われる。その中心となったかつての大学の廃墟に、当時は学生で今は研究者となった者たちが調査に入ることになって・・・
 往年の円谷特撮TV(『ウルトラQ』や『怪奇大作戦』)みたいな雰囲気を感じさせる破滅SF。


「欺瞞」(野崎まど)
 <最も高等かつ極めて高尚な精神を獲得した神に等しい生命の一個体への愛の手紙。>
 ごめんなさい。私はこの作品が全く理解できませんでした。


「おまえの知らなかった頃」(斧田小夜)
 <遊牧民の語り部と天才プログラマーの間に生まれた少年よ、おまえの母の成した秘密を語り聞かせよう。>
 競技プログラミングの世界で天才と謳われたヒロインは精神を病み、リハビリを兼ねてチベット自治区の精密機械再生工場で働き始めるが・・・
 ところどころよく分からないが(笑)、ハッピーエンドらしいので良しとしよう(おいおい)。


「お努め」(酉島伝法)
 <ランタンの灯る居室を出、果てしない廊下を巡り、今日も食堂へ。美食に舌鼓を打ち続ける男の任務。>
 毎日、居室と食堂を往復して美食を食べるだけの男。彼は何のために生きているのか?
 十年一日のような平穏な序盤から、ラストは大規模なカタストロフに突入する。うーん、わかったような、わからないような(笑)。



タグ:SF
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千蔵呪物目録 (全3巻) [読書・ファンタジー]


少女の鏡 千蔵呪物目録 (創元推理文庫)

少女の鏡 千蔵呪物目録 (創元推理文庫)

  • 作者: 佐藤 さくら
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/04/20
願いの桜 千蔵呪物目録 (創元推理文庫)

願いの桜 千蔵呪物目録 (創元推理文庫)

  • 作者: 佐藤 さくら
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/10/22
見守るもの 千蔵呪物目録 (創元推理文庫)

見守るもの 千蔵呪物目録 (創元推理文庫)

  • 作者: 佐藤 さくら
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/04/12

評価:★★★


 各地から集められた "呪物" を保管・封じていた千蔵(ちのくら)家。しかし一族内の確執によって当主一家は亡くなり、呪物は散逸してしまう。
 千蔵家の生き残りである少年・朱鷺(とき)と、その兄で獣身となってしまった冬二(とうじ)は、呪物を回収するために旅に出る・・・
 ファンタジー・シリーズ、全3巻。


『少女の鏡』
 主人公は高校三年生の少女・遠野美弥(とおの・みや)。彼女の通う高校の旧校舎にある鏡に姿を映すと、"鏡像" が鏡から抜け出て襲いに来るという。
 そして彼女とそっくりの少女がたびたび目撃されるようになり、ついに美弥自身もその "人影" に出会ってしまう・・・
 美弥を救う朱鷺のエピソードと並行して、千蔵家の過去が語られていく。


『願いの桜』
 中学生・工藤亜咲美(くどう・あさみ)の通学路には "願いの桜" と呼ばれる木がある。その木に願い事をすると叶うのだという。だが、亜咲美の周囲では原因不明の体調不良に陥る生徒が現れるようになる。
 言い伝えや曰く付きの物品に目がない五十嵐宗助(いがらし・そうすけ)は、祖父の代からの知り合いである朱鷺に助けを求めるが・・・


『見守るもの』
 旅の途中で体調を崩して倒れた朱鷺は、時藤蓮香(ときとう・れんか)という女性に助けられる。時藤家には "一族を守る石" なるものが伝わっていた。
 その持ち主として石に "選ばれた" 蓮香は、常に謎の "視線" を感じ続け、それがために人付き合いも困難になってしまい、引きこもりとなっていた・・・


 呪物によってトラブルに陥っている3人の女性を、朱鷺たちが救っていくというエピソードが語られる。3巻目の終わりでどうやら一区切りがついたらしいが、これですべての呪物の回収が終わったわけではなく、まだ物語は続きそうだ。

 また、朱鷺と冬二については決着がついても、他の登場人物の行く末はまた別の話。3編はいずれも ”呪物” と関わりのある女性がメインキャラとして登場するが、それ以外にも魅力的なサブキャラは多い。

 とくに2巻・3巻に登場する宗助と、彼のもとにいる謎の少女・鈴(りん)については、やっぱり "その後" が知りたくなる。

 鈴は山奥にいた神様の化身らしいのだが、人間界で "生きて" いくことになったようだ。どうやら人並みに "成長" もするようで、「あとがき」で作者は、
『セーラー服を着た鈴ちゃんが怪異を解決していく話もいいな』
なんて書いてる。これは私も期待してしまう。ぜひ書いてほしいな。



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仮面幻双曲 [読書・ミステリ]


仮面幻双曲 (小学館文庫)

仮面幻双曲 (小学館文庫)

  • 作者: 大山誠一郎
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2023/06/06

評価:★★★★


 琵琶湖畔にある製紙会社の社長・占部文彦(うらべ・ふみひこ)の元へ脅迫状が舞い込む。差出人は双子の弟の武彦(たけひこ)。兄に恨みを抱く弟は一年前に出奔、整形手術で顔を変え、兄を殺すために舞い戻ってきたのだ・・・


 昭和22年。私立探偵の川宮圭介・奈緒子の兄妹は、琵琶湖畔で製紙会社を経営する占部家へとやってきた。依頼人は前社長の未亡人・喜和子(きわこ)。彼女の甥で現社長の文彦のもとへ脅迫状が舞い込んだのだ。

 差出人は文彦の双子の弟の武彦。会社の専務だった彼は、女子工員だった小夜子と交際していたが、彼女を誹謗中傷する手紙がばら撒かれてしまう。そして小夜子はそれを苦にして服毒自殺してしまったのだ。武彦は小夜子を自殺に追い込んだのは、彼女に横恋慕した兄だと思い込み、一年前に出奔していた。

 川宮兄妹は、東京の整形医が殺害された新聞記事を見せられる。武彦が整形手術で顔を変え、文彦を殺すために舞い戻ってきた可能性があるという。
 別人になりすました武彦を探し出し、文彦を守ること。それが依頼内容だった。

 しかし2人が警護する中、屋敷内に入り込んだ ”犯人” は文彦を殺害して逃亡を果たしてしまう。さらに第二の殺人が起こる・・・


 「双子が登場する」「双子の片方は整形手術で顔を変えている」
 本書は序盤でこの二つの事実を読者に示す。もちろん物語の中において、これは掛け値無しの真実である。

 しかし、モノはミステリ。読者はこの二つの条件から、様々なパターンを当てはめて想像を膨らませていくだろう。あるいは読みながらいろんな仮説を思い浮かべ、物語が進むにつれてそれを修正したり、あるいは新しい仮説を取捨選択していくことだろう。
 だけど、最後に明かされる真相に到達できるひとはほぼ皆無に近いんじゃないかな。それくらい意表を突いたものになっている。

 最初に二つの事実を堂々と示すことによって、かえって読者を真相から遠ざけてしまうという、実は巧みに計算された方法なのかも知れない。

 終戦直後という時代背景とか、双子が生まれると家に繁栄がもたらされたという言い伝えをもつ占部家とか、地方の湖畔の屋敷で起こる殺人とか、製紙会社の財産を巡る確執とか、横溝正史的な要素がたくさん。と思ったら、巻末の参考文献にはしっかり『犬神家の一族』が。

 とはいってもそれは道具立てだけで、本家のようなおどろおどろしさはない。探偵役の2人も極めて健全なイメージ。兄の圭介が頭脳労働担当の探偵役、妹の奈緒子さんは語り手も勤めるワトソン役で、薙刀の名手らしいので肉体労働担当といったところか。

 本書は作者にとって現在のところ唯一の長編らしい。川宮兄妹もこの一作しか出ていないみたいだし、作中でも二人の過去はほとんど描かれていない。そのあたりも含めて、この2人の活躍をもっと読みたくなる。



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ベスト8ミステリーズ2017 [読書・ミステリ]


ベスト8ミステリーズ2017 (講談社文庫)

ベスト8ミステリーズ2017 (講談社文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/04/15
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 2017年度の発表された短編ミステリーの中から選抜された "ベスト盤"。
 日本推理作家協会賞短編部門受賞作を含む8編を収録。


「偽りの春」(降田天)
 日本推理作家協会賞短編部門受賞作。
 還暦超えの女4人+男1人の詐欺グループ。水野光代はそのリーダー格だ。しかしメンバーの2人が稼いだ金1000万円を持って逃げてしまう。さらに「これまでのことを黙っていてほしければ、1000万円用意しろ」という謎の脅迫状まで舞い込む。
 最後にひと仕事して行方をくらまそう、と決めた光代は、かねてから目をつけていた滝本という男の家にやってくる。83歳で認知症の症状が出始めた彼にヘルパーと偽って上がり込み、タンス預金の1000万円を鞄に詰めて逃げ出した。
 しかしその途中、めまいを感じてバス停でへたり込んだところを巡回中の警官・狩野(かのう)に声を掛けられる・・・
 高齢犯罪者という、これから増えそうな題材(?)の作品。光代は詐欺師なんだけど、隣家の子どもに向ける視線が優しかったりして憎めないおばさん。
 狩野と出会ってから意外な展開が続くあたり、流石の受賞作。この狩野って、シリーズキャラクターなのかな?


「階段室の女王」(増田忠則)
 マンションの12Fに住む "わたし" は、マンションの階段室を使って下階へ降りている(なんでエレベーターを使わないのかは、後ほど明かされる)。その途中、8Fと7Fの間の踊り場で、若い女が倒れているのを発見する。彼女は同じ12Fの住人の娘だったが、"わたし" は彼女を嫌っていた。
 脳震盪でも起こしたらしく、生きているのは分かったが、救急車を呼んでやる気になれず、放置しようとしたとき、上の階でドアが開く音が。誰かが階段室に入ってきたらしい。そしてどうやら、ひとフロアずつ下へ移動してきている。ひょっとしてこの女を捜しているのか・・・?
 娘を見つけたときに即座に救急車を呼んでいれば、こんな目には遭わなかったはずなのに・・・という話。ミステリーと云うよりはサスペンスが勝るかな。でも私はちょっとこの手の話は苦手だなぁ。


「火事と標本」(櫻田智也)
 短編集『サーチライトと誘蛾灯』で既読。
 近所で火事を目撃した旅館主・兼城譲吉(かねしろ・じょうきち)は、宿泊客の魞沢(えりさわ)に、35年前の出来事を語り始める。
 写真家志望の青年・二ツ森祐也(ふたつもり・ゆうや)と知り合った譲吉少年。祐也は病気の母と二人暮らしで、日雇いの仕事を続けながら写真雑誌への投稿を繰り返していた。その努力が報われ、写真集の刊行が決まりそうになったと語る祐也は東京の出版社へ出かけていったのだが・・・その後、途方もない悲劇を経験する譲吉だったが、魞沢の推理はそれに新たな解釈をもたらす。
 終盤にいたって事件の様相が一変する展開は、(恋愛要素は皆無なので方向性は異なるが)連城三紀彦に通ずるものを感じる。登場人物の限りない悲哀を描く点もまた然り。日本推理作家協会賞短編部門にノミネートされたというのも頷ける。


「ただ、運が悪かっただけ」(芦沢央)
 末期ガンで余命半年を宣告された十和子は、夫と共に自宅で最後の時間を過ごしている。その夫は昔から、年に数回うなされることがあった。
 「何か抱えているのなら、話して」十和子の呼びかけに応じて、夫の昔語りが始まる。
 夫が工務店で大工見習いとして働き始めた5年目、中西という客がやってくる。ちょっとした仕事でも過剰なサービスを要求する男で、どこへ行っても文句をつけるクレーマーとしても有名だった。
 そんな中西から「電球がつかないぞ」とのクレームが。夫が脚立を持って電球交換に赴くが、その帰りに「その脚立を売れ」と言い出す。電球交換でいちいち大工を呼んで金を払うのがもったいないらしい。
 中古の脚立を買い取った中西だったが、その半年後、彼はその脚立から落ちて死んでしまう。警察によると、脚立の留め具が壊れていたらしい・・・
 知らなかったとは云え、欠陥品を売ったと思って罪悪感に苦しめられていた夫。十和子は、夫の話から "ある推論" を紡ぎ出す。
 夫を残して去りゆく妻の「だから、あなたのせいじゃなかった」という台詞が、たまらなく胸に沁みる。


「理由」(柴田よしえ)
 『アンソロジー 隠す』で既読。
 イラストイレーター・辻内美希が人気タレント・松本茂義を刺した。美希の担当した広告イラストを松本がTVでこき下ろしたのが動機と思われたが、彼女はそれを否定する。”真の動機” について彼女は頑なに口を噤むのだが・・・
 憎む相手にとって、もっとも痛手を被ることは何か。そのときまでひたすら耐え、必殺の一撃を喰らわせる美希。いやはや女の恨みというものは恐ろしい。


「プロジェクト:シャーロック」(我孫子武丸)
 アンソロジー『プロジェクト:シャーロック 年刊SF傑作選』で既読。
 警視庁でIT関係のデスクワークに就いている木崎は、人工知能に推理をさせることを思い立つ。彼の開発した ”名探偵のAI” をオープンソースとして公開したところ、世界中のミステリ愛好家たちがこぞって改良に取り組み、やがて現実に起きるあらゆる事件に対応できる能力を持つようになった。しかし発案者の木崎が何者かに殺されてしまう・・・
 発表当時はSFだったが、今では現実味が増してきたかな。


「葬儀の裏で」(若竹七海)
 短編集『殺人鬼がもう一人』で既読。
 旧家の当主を務める老女・水上サクラは、姉・大前六花(りっか)の葬儀に参列する。若い頃に駆け落ちした六花は、2年前に舞い戻ってきたが何者かに頭を殴られ、一年以上の昏睡の果てに無くなった。
 その葬儀の場で、水上家の ”次期当主の座” を巡って親類一族を挙げてのバトルが始まるのだが・・・
 六花の事件の真相も判明するが、その後が怖い。


「虹」(宮部みゆき)
 家事と介護で奴隷のようにこき使われた婚家から、息子のツヨシとともに逃げ出した "わたし"。長距離バスが着いた先で、2人はそんなワケありの人たちを保護するNPOが営む山査子(さんざし)寮で生活することになる。
 ツヨシは地元の小学校に転校、"わたし" は近所の食堂兼土産物屋で働き出す。新しい生活が軌道に乗り始めた頃、"わたし" が働いている店に偶然夫がやってきた。しかもその横には、夫の勤務先での同僚の女性が・・・
 ミステリと云うよりは、夫と姑の虐待から逃れた母子が、避難先の人々の善意で生活を再建していく様子が綴られる。寮で共同生活を送る人たちとの些細なトラブルもあるが、基本的には明るい語り口で、最後は八方丸く収まって読後感は悪くない。



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『ヤマトよ永遠に REBEL3199』公式サイト更新 後編 [アニメーション]




STORY  **************************************************
 時に西暦2207年。あのガミラス本星とイスカンダル星が消滅した事件から二年――。
 突如、太陽系に謎の巨大物体〈グランドリバース〉が出現した。
 地球防衛軍の善戦虚しく、幾重もの防衛網を易々と突破した〈グランドリバース〉は、悠然と地球の新首都へと降下したのである。
 音も無く出現する降下兵の群れ。上陸する多脚戦車。瞬く間に首都は制圧されてゆく。
 もはや地球には抗う術はないのか――。
 そのとき旧ヤマト艦隊クルーに極秘指令が下った。
 「ヤマトへ集結せよ!!」
 そこに聞こえてくる謎の歌声。「帰ってきた」と呟く謎の男。
 果たして侵略者の驚くべき正体とは!?
 人類の命運を賭けて、いま未踏の時空へと宇宙戦艦ヤマトの航海が始まる。
********************************************************

◎地球があっという間に占領されてしまうのは原典通りのようです。
◎旧ヤマトクルーに「ヤマトへ集結せよ!」との指令が。これも原典通り。
◎”聞こえてくる謎の歌声”・・・はて?
◎”「帰ってきた」と呟く謎の男”
 以前公開された絵コンテだと、スカルダート(デザリアムの聖総統?)の台詞だったよね・・・


PVと同時に何枚かの画像も公開されたので、そちらも見てみよう。

3199240103006.png
↑たぶんこれが〈グランドリバース〉。
 オリジナルでは ”重核子爆弾” で、これ一発で地球上の全生命を抹殺するという巨大中性子爆弾みたいな設定だったけど、核兵器っぽいネーミングは避けたのかな? いったいどんな物体なんでしょう?
 ”リバース” ってのがキーワードかな。「コスモリバースシステム」と何らかのつながりがありそうな気も・・・

3199240103005.png
↑ よく観ると、瞳に真田さんが映ってる。たぶんこれはサーシャ。
 リメイク版でも真田さんが養育してるのかな? 新見さんが母親代わり?

3199240103008.png
↑ 〈グランドリバース〉迎撃艦隊?
 中央にアンドロメダ級、右はヒュウガまたはその同型艦かな。

3199240103a.png
↑ これはPVからのキャプチャー画像。
 地球艦隊が謎のフォーメーションを組んでる。
 〈グランドリバース〉迎撃のために波動砲の砲火を集中させる、とか?
 

3199240103009.png
↑ 岩盤を突き破って出現するヤマト
 原典ではこれは小惑星イカルスなんだけど・・・

3199240103b.png
↑ これもPVからのキャプチャー画像。
 核融合反応が異常増進した太陽? これを観る限り、
 『ヤマトIII』要素も描かれそう。デザリアムとどう絡めるのかな?


 今後、第一章の公開日(7/19)が近づくにつれて、また新たな情報が公開されていくのでしょう。そのときにもいろいろ書くことになると思います。
 『3199』、良い作品になるといいですね。期待してます。


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忌名の如き贄るもの [読書・ミステリ]


忌名の如き贄るもの 刀城言耶シリーズ (講談社文庫)

忌名の如き贄るもの 刀城言耶シリーズ (講談社文庫)

  • 作者: 三津田信三
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/09/15

評価:★★★★☆


 生名鳴(いななき)地方の虫絰(むしくびり)村で、村の有力者・尼耳(あまがみ)家の跡継ぎの少年・市四郎(いちしろう)が殺される。
 市四郎の姉である李千子(いちこ)は、発条福太(はつじょう・ふくた)との結婚が決まっていた。二人は福太の大学時代の後輩である作家・刀城言耶(とうじょう・げんや)を伴って虫絰村にやってくるが、さらなる殺人が起こる・・・


 生名鳴地方の虫絰村の旧家・尼耳家では、子どもは7歳になると "忌名(いな)" という「もう一つの名前」を与えられる。
 そして7歳・14歳・21歳になったら「忌名の儀式」を経なければならない。それは、自らの身に降りかかる災厄を、すべて実体のない "忌名" に託すという儀式だ。

 本書の序盤では、尼耳李千子の7歳と14歳の時の「忌名の儀式」が語られる。
 祖父から与えられた "忌名" が書かれたお札を持ち、山中にある "祝(ほふ)りの滝" まで一人で歩いていき、滝壺へお札を沈めて帰ってくる、というものだ。
 祖父は告げる。「何処かで誰かにこの "忌名" で呼ばれても、決して振り返ってはならない。言いつけを破ったら目が潰れるぞ・・・」

 李千子の7歳と14歳の「忌名の儀式」の模様は文庫100ページにもわたり、そこで起こった禍々しく恐ろしい出来事が綴られていく。とくに14歳の時のエピソードは背筋が凍る。

 そして現在。21歳のときの儀式は何事もなく済み、李千子は22歳となった。村を出て会社員として働いていた彼女は、社長の息子である発条福太と恋仲になり、結婚が決まる。
 福太は李千子との結婚の挨拶のために尼耳家を訪問することになった。同行者は福太の母・香月子(かつこ)、そして大学時代の後輩・刀城言耶。

 しかしその矢先、訃報が入る。李千子の弟で尼耳家の跡継ぎと目されている少年・市四郎が14歳の「忌名の儀式」の最中に、右目を刺されて死亡したというのだ。

 言耶の提案で、結婚の挨拶と弔問を兼ねてしまおうということになり、一行は虫絰村へやってくる。しかしそこでさらなる殺人事件が発生する・・・


 シリーズでおなじみの、地方の閉鎖的な村に残る因習、怪談、伝承をベースにしたホラータッチの物語が展開する。
 李千子の祖父の不可解な言動、怪しげな隣人、村人たちの謎めいた対応、村のもう一つの旧家・銀鏡(しろみ)家の不穏な動向、そして目から角が生えているという伝説の怪人・"角目(つのめ)" が目撃されたとの情報が・・・

 とはいっても、シリーズの過去の作品と比べてちょっと薄め(とはいっても文庫で500ページを超えてるが)。真相解明の場面で言耶が謎を何十個も数え上げたりもしないので、それなりにコンパクトな真相かな・・・と思っていた。

 毎回、怪奇な現象に対して合理的な解釈が示されてて、今回もその通りなのだけど、言耶が提出してきたのは予想の斜め上をいくもの。同時に「いくらなんでもそれはないだろう」とも感じた。

 もちろんそこで終わることはなく、最終盤ではそれをひっくり返す仰天の展開が。尼耳家、そして虫絰村に潜む秘密が白日の下にさらされ、真犯人の常軌を逸した動機が明らかに。
 このインパクトは他の作品に負けてない、というかシリーズでも最大級と言っても過言ではないだろう。

 ・・・と思ってたら、最後の最後でふたたびひっくり返ってホラーに回帰。いやはや作者の掌中ですっかり翻弄されてしまいました。



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『ヤマトよ永遠に REBEL3199』公式サイト更新 前編 [アニメーション]


 1/3に公式サイトが更新され、リメイク・ヤマトの最新シリーズ『ヤマトよ永遠に REBEL3199 第一章 黒の侵略』2024年7月19日(金)より上映開始、とアナウンスされました。 
 Yahoo!ニュースの記事では「全七章(全26話)構成」とも伝えられてますね。これも以前から云われてましたが、今回で確定ということで。

ogp_3199_v1.jpg

 キービジュアルはオリジナルの『ヤマトよ永遠に』のオマージュですね。

  ↓オリジナル版
永遠にキービジュアル.jpg

 ”ワープ・ディメンジョン”・・・懐かしいですねぇ。


 ↓こちらはムビチケ。
3199240103004.png

 ヤマトの両横にはアスカとヒュウガ、あとは他の地球防衛軍艦艇。
  左上のは無人艦かな。


 各章それぞれ4ヶ月おきくらいに公開と考えると
  第一章(24年7月) → 第二章(24年11月) → 第三章(25年3月)
→ 第四章(25年7月) → 第五章(25年11月) → 第六章(26年3月)
→ 最終章(26年7月)

 『3199』の完結は2年半後くらいか。私、生きてるかなぁ(おいおい)
 まあそれは冗談として、この後にもし『完結編』が作られるなら、その頃には古稀を超えてるなぁ。喜寿までには完結するかなぁ(遠い目)。

 そんな先の話をすると鬼が笑うどころか怒り出しそうなので、現在の話題に目を向けましょう。
 まずは公式サイトの記述から。紹介文とスタッフからのコメントが載ってますので、気になる部分をピックアップし、私の感じたことを書いていきます。


紹介文:「五十年目の ”抵抗(REBEL)”」(by アニメ特撮研究家・氷川竜介氏)

「本作は1980年公開の劇場映画第3作『ヤマトよ永遠に』の諸要素に新解釈を加え、全26話のシリーズに再構成した意欲作だ。」
 『ヤマトよ永遠に』は上映時間が145分くらいだったかな。時間だけ取り上げればTVシリーズで7話分くらい。それを26話にするのだから、いろいろ膨らませられるのだろう。
 『2205』でも旧作『ヤマトIII』の要素(ガルマン・ガミラス、ボラー連邦)が投入されてたし、今回公開されたPVを観る限り、太陽に何らかの異変が起こりそうなので、そのあたりも描かれるのかも知れない。

「タイトルの「3199」とは千年後のことなのか?敵対者として現れたデザリアムと地球には、どんな秘められた関係が?」
 『2205』の記事でも書いたけど、私の予想ではデザリアムは未来の地球。具体的に書くと『2202』最終話の国民投票で ”時間断層破棄を選ばなかった地球”(そこで分岐した並行世界) の1000年後ではないかと思っている。
 これは古代たちヤマトクルーが ”否定した未来” だ。否定したが故に彼らはテレザート星へ旅立ち、ガトランティスとの死闘の果てに、無制限の軍拡を阻止した未来を手に入れた。だから、ヤマトのクルーはデザリアムに屈するわけにはいかない。それは彼らのレゾンデートルを賭けた戦いになるはずだから。

「敵士官アルフォンに捕らえられた森雪、自責の念から逃れられない古代進」
 やっぱりアルフォンと森雪のからみは描かれるみたいですねぇ。どういう解釈になるのかな?
 古代の自責の念とは雪を救えなかった(地球に残してしまった)ことなのか?

「さらにスターシャの遺児サーシャも大きく関わってくる」
 原典でお亡くなりになったキャラはリメイクでもお亡くなりになってる(藪くん除く)からなぁ。やっぱり最後にはいなくなってしまうのかなぁ・・・

「星間国家の抗争へと格段にスケールアップした作品世界」
 ガルマン・ガミラスとボラー連邦も出てくるんだろうなぁ。ディンギル帝国まで出てきたりして。


コメント:製作総指揮/著作総監修 ◎ 西﨑彰司氏

「総監督、シリーズ構成を務める福井晴敏が5年前から構想を練ってきた」
 福井さん、いつの間にか総監督に昇格してたんですねぇ。「5年前」ということは『2202』終盤あたりから考え始めてたということかな。

「奇しくも、いま地球で起きている事象――暴力がもたらす悲劇、混乱を予見していたかの様な作品となりました」
 『3199』序盤で地球が占領されてしまったら、ロシアのウクライナ侵攻を重ね合わせる人も多かろう。構想時にはそんな事態になるとは想定もしてなかっただろうけど。
 たとえフィクションであっても、製作された時代と切り離して考えることはできない。
 1974年の第一作ではオイルショックや世紀末への不安があったし、『2199』では東日本大震災、『2202』ではそこからの復興、『2205』ではコロナ禍と、いやでも時代を背負う(観る側が重ね合わせる)ことになってしまう。


コメント:総監督 ◎ 福井晴敏

「それらと向き合い、戦ううちに、いつしか自由も人間性も犠牲にし、なにを守ろうとしていたのかもわからなくなってしまう。やさしさと表裏一体の、人の愚かさ」
 『2202』において、ガトランティスに対抗するために時間断層を用いて無制限の軍備拡張を行い、AIや機械化によって人間性を排除した戦いのシステムを構築し始めた地球政府のことか・・・あるいは(私の予想が正しければ)それを極限まで推し進めたデザリアムのことを指しているのか・・・?

「その抵抗の物語は、我々の明日を左右する現実になりつつあります。そんな時代に語られる、五十年目の宇宙戦艦ヤマト」
 五十年前の私は、五十年後の『ヤマト』がこのような展開をするなんて想像もしなかった。五十年目の宇宙戦艦ヤマト、見届けさせてもらいましょう。


コメント:監督 ◎ ヤマトナオミチ

「亡き父と一緒に幼い頃に見た「永遠に」」
 私が「永遠に」を観たのは大学4年生でした。ということは、監督さんは私よりも一回り以上も年下の方でしょう。お父さんの方が世代的には近いかも(笑)。

「歴代監督の名を汚さないよう精魂込めて務めさせていただきます」
 期待してます。がんばってください。


コメント:音楽 ◎ 宮川彬良

「敢えて次の世代の人と共にもがきたいと考えるようになりました」
「数年前から注目していたピアニストであり作曲家の兼松衆さんにご参加いただきました」
 wikiで見たら、兼松さんは35歳とのこと。新進気鋭の若手の方のようですね。こちらも期待ですね。


後編では「STORY」と公開された画像について書きます。
up は明後日(1/7)の予定。


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件 もの言う牛 [読書・SF]


件 もの言う牛 (講談社文庫)

件 もの言う牛 (講談社文庫)

  • 作者: 田中啓文
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/12/15

評価:★★★


 大学生・美波大輔(みなみ・だいすけ)は、岡山県の山中で謎の一団が牛の出産に立ち会う "儀式" を目撃する。そこで生まれた仔牛は、人語を話し、時の首相の寿命を告げて絶命した。
 それは、牛から生まれ、予言をしてたちどころに死ぬという、伝説の "予言獣・件(くだん)" が誕生した瞬間だった・・・


 大学生・美波大輔は、卒論のために全国の一言主(ひとことぬし)神社を取材中。岡山県の山中にやってきたが、そこで豪雨に遭ってしまう。そこで斜面の崩落に巻き込まれた女子高生・浦賀絵里(うらが・えり)を救い、彼女の実家である畜産農家に泊めてもらうことに。

 その夜、大輔と絵里は謎の一団が牛の出産に立ち会う "儀式" を目撃する。そこで生まれた仔牛は人語を話し、時の首相の寿命を告げて絶命した。それは、伝説の "予言獣・件 "が誕生した瞬間だった。
 謎の一団は2人の存在に気づき、絵里は捕らえられてしまうが、大輔はなんとか逃げ出すことに成功する。

 一方、東京では首相が急死し、後継者選出を巡って混乱の中にあった。そんな中、朝経新聞の政治部記者・宇多野礼子(うたの・れいこ)は、次期首相候補の一人・鵜川陽介(うかわ・ようすけ)が「みさき教」という団体の施設に出入りしていることをつかむ。
 「みさき教」は宗教法人ではなく、実態が全く分からない謎の団体だった。しかしそのことを伝えられた礼子の上司は顔色を変え、「みさき教はタブーだ。関わるな」と言い出す。

 村口毅郎(むらぐち・たけろう)は奈良県警の刑事。礼子の高校時代の同級生で元カレでもある。別件で「みさき教」を追っていた村口は、礼子と共闘することになる。

 絵里を救出すべく岡山へ戻った大輔は、礼子・村口とも合流し、日本政界の裏で蠢く陰謀に迫ることになる。
 やがて彼らは「みさき教」が古代からその時々の政権の陰にあり、「件」を利用して政治を動かしてきたことを知っていく。

 現代の科学技術を用いて、さらなる勢力拡大を目指す「みさき教」。政府はもとより警察、マスコミまで操り、日本全土が彼らの支配下に入っていく終盤は、ホラーというよりディストピア・テーマのSFのような雰囲気を感じる。
 圧倒的な権力を手にした「みさき教」の野望を、大輔たちは打ち砕くことはできるのか・・・


 作者お得意の "ダジャレネタ" は封印し(笑)、シリアスなストーリーが進行していく。とはいっても大輔と絵里の会話はユーモアたっぷりで、それが随所にある陰惨な描写(けっこうホラーでスプラッターだったりする)を緩和しているともいえる。

 歴史的背景もけっこうきっちり固めてあるみたいで、伝奇要素も興味深く読ませる。物語のとっかかりである「一言主神社」は全国にあるらしいのだが、茨城県常総市にもある。
 実は、毎年この神社の前を通って初詣に行ってる(ちなみに初詣先はお寺)。作中ではこの常総市の一言主神社にも言及があって、ぐっと身近に感じてしまったよ。この次はちょっと寄り道してみようかな、なんて思った。


 あんまり書くとネタバレになるのだけど、このラストは皮肉が効いていてよくできてる。ここは笑うべきシーンのはずなのだけど、一抹の恐ろしさも感じる。ホラーSFのエンディングとしてはいい案配だと思う。



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