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蓮見律子の推理交響楽 比翼のバルカローレ [読書・ミステリ]


蓮見律子の推理交響楽 比翼のバルカローレ (講談社タイガ)

蓮見律子の推理交響楽 比翼のバルカローレ (講談社タイガ)

  • 作者: 杉井光
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/08/22

評価:★★☆


 大学を留年して引きこもり生活を送る葉山理久央(はやま・りくお)は、天才作曲家・蓮見律子(はすみ・りつこ)から作詞を依頼される。
 引き受けたものの、いい詞が書けけない葉山は大学の国文学の講義に出席し、そこで本城美紗(ほんじょう・みさ)という学生と知り合う。それが名門音楽一家・本城家の事件に巻き込まれるきっかけだった・・・

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 葉山理久央は大学生活からドロップアウトして引きこもりになり、ブログのアフィリエイトで細々と稼ぎながら生きている。
 23歳の誕生日を迎えた日、突然、作曲家・蓮見律子から作詞の依頼が入る。彼女は天才と謳われ、20代半ばにしてすでに巨大な財産を築いていた。葉山のブログの文章に "詩情" を感じたから、というのが理由らしい。

 引き受けたはいいもの、いい詞が書けない葉山は、藁にも縋る思いで大学の国文学の講義に出席し、そこで本城美紗という学生と知り合う。彼女の父は指揮者、母は歌手と、音楽一家として知られる本城家の娘だが、事故で左手を負傷してピアニストの道を断念していた。

 そんなとき、葉山の前に一人の少年が現れる。本城湊人(みなと)、美紗の弟でピアニスト。数年前に海外のコンクールで史上最年少優勝を果たし、天才美少年としてマスコミの寵児となっていた。
 彼の目的は、蓮見律子に自分のための曲を書いてもらうこと。そのためにあらゆる伝手を頼って律子に接触しているが、律子の方は全く相手にしていなかった。

 葉山は湊人と何回か会っていくうちに、彼の人となりを知っていく。天才ではあるが同時に典型的な音楽バカであること、心の内には悩みを抱えていること。特に、姉の美紗との間には音楽を介した複雑な葛藤があること・・・

 そして悲劇が起こる。本城家の邸宅が全焼したのだ。出火時には両親は不在、美紗は二階にいたが避難して無事、しかし焼け跡からは湊人の焼死体が。
 警察によると湊人の遺体には不審な点があり、殺人の可能性を疑っているという・・・


 探偵役となる蓮見律子は、名探偵にありがちな、いわゆる変人天才キャラだ。唯我独尊というか自分を超える作曲家はいないと思っている。音楽全般についても一家言もっていて、けっこうズバズバと言いたいことを言いまくる。その全部が正しいとは思わないが、「言われてみるとそうかも?」って思わせることもある。
 たとえば「現代は再現技術(録音)が完璧なのだから、世界中いつでもどこでも最高の演奏を聴ける。ならば、ピアニストは全世界でせいぜい20人もいれば十分じゃないか」とか。音楽関係の方からは盛大に石を投げつけられそうだが。

 対するワトソン役の葉山は典型的な凡人だ。初対面の湊人から「なにからなにまで普通」と言われる始末。でもストーリーの中で動き回っていろんな人物に会ったり情報を引いてくるという重要な役回りはきっちりと果たす。

 律子の推理は、火事の現場で誰が何を考え、何が起こったのかに迫っていく。明らかにされていく真実は、意外なものだが同時に限りなく哀しい。

 本書の初刊は2017年。続巻は出ていないみたい。単純に売れ行きが芳しくなかったのかも知れないけど、天才作曲家を探偵役として必要とするような事件、という設定が意外に高いハードルになってるような気もする。
 律子さん(理久央くんも)のキャラ立ちはバッチリなので、これで終わってしまうのはちょっともったいない気もするが。



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