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ベスト8ミステリーズ2017 [読書・ミステリ]


ベスト8ミステリーズ2017 (講談社文庫)

ベスト8ミステリーズ2017 (講談社文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/04/15
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 2017年度の発表された短編ミステリーの中から選抜された "ベスト盤"。
 日本推理作家協会賞短編部門受賞作を含む8編を収録。


「偽りの春」(降田天)
 日本推理作家協会賞短編部門受賞作。
 還暦超えの女4人+男1人の詐欺グループ。水野光代はそのリーダー格だ。しかしメンバーの2人が稼いだ金1000万円を持って逃げてしまう。さらに「これまでのことを黙っていてほしければ、1000万円用意しろ」という謎の脅迫状まで舞い込む。
 最後にひと仕事して行方をくらまそう、と決めた光代は、かねてから目をつけていた滝本という男の家にやってくる。83歳で認知症の症状が出始めた彼にヘルパーと偽って上がり込み、タンス預金の1000万円を鞄に詰めて逃げ出した。
 しかしその途中、めまいを感じてバス停でへたり込んだところを巡回中の警官・狩野(かのう)に声を掛けられる・・・
 高齢犯罪者という、これから増えそうな題材(?)の作品。光代は詐欺師なんだけど、隣家の子どもに向ける視線が優しかったりして憎めないおばさん。
 狩野と出会ってから意外な展開が続くあたり、流石の受賞作。この狩野って、シリーズキャラクターなのかな?


「階段室の女王」(増田忠則)
 マンションの12Fに住む "わたし" は、マンションの階段室を使って下階へ降りている(なんでエレベーターを使わないのかは、後ほど明かされる)。その途中、8Fと7Fの間の踊り場で、若い女が倒れているのを発見する。彼女は同じ12Fの住人の娘だったが、"わたし" は彼女を嫌っていた。
 脳震盪でも起こしたらしく、生きているのは分かったが、救急車を呼んでやる気になれず、放置しようとしたとき、上の階でドアが開く音が。誰かが階段室に入ってきたらしい。そしてどうやら、ひとフロアずつ下へ移動してきている。ひょっとしてこの女を捜しているのか・・・?
 娘を見つけたときに即座に救急車を呼んでいれば、こんな目には遭わなかったはずなのに・・・という話。ミステリーと云うよりはサスペンスが勝るかな。でも私はちょっとこの手の話は苦手だなぁ。


「火事と標本」(櫻田智也)
 短編集『サーチライトと誘蛾灯』で既読。
 近所で火事を目撃した旅館主・兼城譲吉(かねしろ・じょうきち)は、宿泊客の魞沢(えりさわ)に、35年前の出来事を語り始める。
 写真家志望の青年・二ツ森祐也(ふたつもり・ゆうや)と知り合った譲吉少年。祐也は病気の母と二人暮らしで、日雇いの仕事を続けながら写真雑誌への投稿を繰り返していた。その努力が報われ、写真集の刊行が決まりそうになったと語る祐也は東京の出版社へ出かけていったのだが・・・その後、途方もない悲劇を経験する譲吉だったが、魞沢の推理はそれに新たな解釈をもたらす。
 終盤にいたって事件の様相が一変する展開は、(恋愛要素は皆無なので方向性は異なるが)連城三紀彦に通ずるものを感じる。登場人物の限りない悲哀を描く点もまた然り。日本推理作家協会賞短編部門にノミネートされたというのも頷ける。


「ただ、運が悪かっただけ」(芦沢央)
 末期ガンで余命半年を宣告された十和子は、夫と共に自宅で最後の時間を過ごしている。その夫は昔から、年に数回うなされることがあった。
 「何か抱えているのなら、話して」十和子の呼びかけに応じて、夫の昔語りが始まる。
 夫が工務店で大工見習いとして働き始めた5年目、中西という客がやってくる。ちょっとした仕事でも過剰なサービスを要求する男で、どこへ行っても文句をつけるクレーマーとしても有名だった。
 そんな中西から「電球がつかないぞ」とのクレームが。夫が脚立を持って電球交換に赴くが、その帰りに「その脚立を売れ」と言い出す。電球交換でいちいち大工を呼んで金を払うのがもったいないらしい。
 中古の脚立を買い取った中西だったが、その半年後、彼はその脚立から落ちて死んでしまう。警察によると、脚立の留め具が壊れていたらしい・・・
 知らなかったとは云え、欠陥品を売ったと思って罪悪感に苦しめられていた夫。十和子は、夫の話から "ある推論" を紡ぎ出す。
 夫を残して去りゆく妻の「だから、あなたのせいじゃなかった」という台詞が、たまらなく胸に沁みる。


「理由」(柴田よしえ)
 『アンソロジー 隠す』で既読。
 イラストイレーター・辻内美希が人気タレント・松本茂義を刺した。美希の担当した広告イラストを松本がTVでこき下ろしたのが動機と思われたが、彼女はそれを否定する。”真の動機” について彼女は頑なに口を噤むのだが・・・
 憎む相手にとって、もっとも痛手を被ることは何か。そのときまでひたすら耐え、必殺の一撃を喰らわせる美希。いやはや女の恨みというものは恐ろしい。


「プロジェクト:シャーロック」(我孫子武丸)
 アンソロジー『プロジェクト:シャーロック 年刊SF傑作選』で既読。
 警視庁でIT関係のデスクワークに就いている木崎は、人工知能に推理をさせることを思い立つ。彼の開発した ”名探偵のAI” をオープンソースとして公開したところ、世界中のミステリ愛好家たちがこぞって改良に取り組み、やがて現実に起きるあらゆる事件に対応できる能力を持つようになった。しかし発案者の木崎が何者かに殺されてしまう・・・
 発表当時はSFだったが、今では現実味が増してきたかな。


「葬儀の裏で」(若竹七海)
 短編集『殺人鬼がもう一人』で既読。
 旧家の当主を務める老女・水上サクラは、姉・大前六花(りっか)の葬儀に参列する。若い頃に駆け落ちした六花は、2年前に舞い戻ってきたが何者かに頭を殴られ、一年以上の昏睡の果てに無くなった。
 その葬儀の場で、水上家の ”次期当主の座” を巡って親類一族を挙げてのバトルが始まるのだが・・・
 六花の事件の真相も判明するが、その後が怖い。


「虹」(宮部みゆき)
 家事と介護で奴隷のようにこき使われた婚家から、息子のツヨシとともに逃げ出した "わたし"。長距離バスが着いた先で、2人はそんなワケありの人たちを保護するNPOが営む山査子(さんざし)寮で生活することになる。
 ツヨシは地元の小学校に転校、"わたし" は近所の食堂兼土産物屋で働き出す。新しい生活が軌道に乗り始めた頃、"わたし" が働いている店に偶然夫がやってきた。しかもその横には、夫の勤務先での同僚の女性が・・・
 ミステリと云うよりは、夫と姑の虐待から逃れた母子が、避難先の人々の善意で生活を再建していく様子が綴られる。寮で共同生活を送る人たちとの些細なトラブルもあるが、基本的には明るい語り口で、最後は八方丸く収まって読後感は悪くない。



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