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さかさま少女のためのピアノソナタ [読書・ミステリ]


さかさま少女のためのピアノソナタ (講談社文庫)

さかさま少女のためのピアノソナタ (講談社文庫)

  • 作者: 北山 猛邦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/07/15
  • メディア: 文庫


評価:★★★


 ノンシリーズものを集めた短編集。作者は基本的にミステリの人なんだけど、本書にはホラー・ファンタジー・SFなどの要素が強いものを収めているようだ。


「見返り谷から呼ぶ声」
 「見返り谷」の近くでは、最近20年間で13人の者が行方不明になっているという。
 "僕" を含む3人の男子中学生は、クラスメイトのクロネという女生徒が「見返り谷」から出てくるところを目撃する。"僕" はクロネから、谷はかつて死者の魂を呼び出せる場所だったという伝説を聞く・・・
 ホラーなんだが、最後のオチが秀逸。


「千年図書館」
 異常な気象の兆しが現れた。長老たちは、村人から1人『司書』を選び、"西の果ての島にある図書館" に捧げることを決めた。選ばれたのはペルという13歳の少年だった。
 "図書館" に護送されてきたペルの前に現れたのは、2年前に『司書』に選ばれた "先代"『司書』の少女・ヴィサスだった。彼女から、この "図書館" のことをいろいろ知っていくペルだが・・・
 雰囲気はファンタジーなのだが、ラストは苦い。


「今夜の月はしましま模様?」
 月に謎の巨大結晶体が飛来する。物体は月の表面を周回しながら月面に溝を刻み続け、月はしましま模様に(おいおい)。
 そんなとき、主人公の大学生・仁科佳月(にしな・かづき)のスマホが何者かに乗っ取られてしまう。"そいつ" は "音楽生命体" と名乗り、地球の侵略にやってきたのだという・・・
 コメディ・タッチのSFミステリ。60~70年代の日本SFみたいな雰囲気もちょっぴり感じる(当時はスマホどころか携帯電話さえなかったけどね)。


「終末硝子(ストームグラス)」
 10年ぶりに故郷の村マイルスビーに、医師となって帰ってきたエドワード。しかし村のあちこちには高い塔が建てられていた。
 村人に尋ねると、あれは『塔葬』のためのもので、数年前にストークス男爵がやってきてから建てられるようになったという。
 ある日、男爵夫人が病気とのことで往診に出向くと、彼女から「私は男爵に殺される」と聞かされる・・・
 ホラーだが、塔の秘密は意外と理詰めに説明される。あくまで、この作品世界では成立する理屈としてだけど。


「逆さま少女のためのピアノソナタ」
 主人公・聖(せい)は高校3年生。放課後に立ち寄った書店で古い楽譜を手に入れた。演奏時間はおよそ5分ほどの曲だが、そこには「絶対に弾いてはならない」との但し書きが。調べてみると、この曲の演奏にはいくつか制約があり、それを破ると弾き手に ”破滅” が訪れるらしい。
 コンクールに落ち、ピアニストの夢に挫折した彼は、この曲を弾いてみることに。すると、この曲を弾いている間は彼の周囲の時間が止まっていることがわかった。
 そして卒業式の日。聖は教室へは行かずに音楽室に入り、この曲を弾き出す。そのとき彼は見た。音楽室の窓の外を、女生徒が真っ逆さまに落下しているところを。
 彼が曲を弾いている間は空中に止まっているが、演奏が終われば彼女は落ちて死んでしまう。なんとか彼女を助けようと必死に頭を巡らす聖だったが・・・
 これはなかなかいい話。暗い話や悲惨な話が多いこの短編集の中で、いちばん読後感が良い。音楽に詳しい人ならラストのオチはなんとなく見当がつくかも知れないけど、そんなことは関係なく傑作。



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Rのつく月は気をつけよう 賢者のグラス [読書・ミステリ]


Rのつく月には気をつけよう 賢者のグラス(祥伝社文庫)い17-7

Rのつく月には気をつけよう 賢者のグラス(祥伝社文庫)い17-7

  • 作者: 石持浅海
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2022/08/10
  • メディア: 文庫

評価:★★★★


 4人の男女が、うまい酒と肴を持ち寄って、宅飲み会を開く。そこで出てくる四方山話を巡って様々な解釈が飛び交い、やがて意外な "真相 "へ・・・
 短編集『Rのつく月は気をつけよう』の続編である。


 長江高明と渚、冬木健太と夏美、2組の夫婦は仲良く飲み会を開いていたが、長江夫妻の渡米に伴って中断。しかし2人が10年ぶりに帰国したことで、めでたく復活することに。
 しかしその間に、冬木夫妻には大(だい)くんが、長江夫妻には咲ちゃんが誕生。4人だった飲み会は、小学生2人を加えての飲み会兼食事会となった。

 その会では様々なことが話題に挙がる。職場の同僚たちやママ友たちのあれやこれやのエピソード。酒の席での他愛もない話なのだが、メンバーの一人・長江高明は、そこから意外な ”解釈” を引き出してみせるのだった。


「ふたつ目の山」
 夏美のママ友の山野井家。旦那さんの上司が引っ越すことになり、不要になった電動マッサージ椅子を譲ってもらうことになった。しかし自宅マンションまで運んだものの、大きすぎて中に入らない。結局、料金を払って粗大ゴミとして回収してもらったのだが・・・


「一日ずれる」
 大くんが通っている小学校の6年生に、香子(きょうこ)・桂子という双子の姉妹がいた。2人とも同じ習い事をして、同じところに通っているのだが、なぜか通うのが月水金と火木土と分かれていた・・・


「いったん別れて、またくっつく」
 夏美の同僚・小倉美帆は、25歳で独身ながら妊娠し、産休をとった。26歳で出産、27歳で職場に復帰、そして28歳で職場の後輩・野本と結婚した。夫婦から来た年賀状を見た同僚たちは驚いた。子供の顔が野本にそっくりだったからだ。いったい2人には、どんな経緯があったのか・・・。
 作中の台詞にもあるけれど、"美談" ではある。連ドラの原案になりそう。


「いつの間にかできている」
 夏美のママ友の子、森山将希(まさき)と小杉乃愛(のあ)。2人の親の教育方針は対照的だった。森山家は高レベルの中高一貫校から一流大学を目指し、小杉家は落ち着いた私立の女子校でのびのび育てよう、というもの。しかし高明の評価は真逆だった・・・


「適度という言葉の意味を知らない」
 健太の元部下・杉安は "適度という言葉の意味を知らない" 男だった。興味があるものはとことん追求するが、興味のないものにはぞんざい。その杉安が会社を辞め、転職してしまった。彼にその決断をさせたものは何か・・・


「タコが入っていないたこ焼き」
 大くんの同級生・斎木真司くんの父親はエリート会社員。趣味に散財することも、酔って暴力を振るうこともないのだが、子育てに関しては非協力的。結局両親は離婚することになるのだが・・・
 高明が指摘する、父親の ”思考の中身” が恐ろしい。本書の中で一番ブラックな味わいかな。


「一石二鳥」
 夏美の知人である高坂明日香の息子・智樹は、夏休みの読書感想文をクラスメイトの楠本美紅(みく)ちゃんに代わりに書いてもらおうと、あれこれ必死の算段をするのだが、ことごとく失敗してしまう・・・

 連作短編の最後を締めくくる作品で、見事にまとめましたねぇ。ほっこりした気分になれる素晴らしいエンディング。タイトルにある『賢者のグラス』の意味もここで回収される。


 謎解きももちろんだが、各回の飲み会で供される料理類の美味しそうなこと。読んでるだけでビールのジョッキがほしくなる(おいおい)。

 さて、このシリーズの続きはどうなるのだろう。これで終了っぽい雰囲気もあるけど、またシチュエーションを変えて続行しても面白いかな。この6人のその後も知りたいし。



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巨大幽霊マンモス事件 [読書・ミステリ]


巨大幽霊マンモス事件 (講談社文庫)

巨大幽霊マンモス事件 (講談社文庫)

  • 作者: 二階堂 黎人
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/08/10
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

 名探偵・二階堂蘭子シリーズの一編。
 ロシア革命直後のシベリアを舞台に、甦った巨大マンモスが暴れ回る。〈死の谷〉と呼ばれる地へ物資を運ぶ一行に加わったドイツ軍スパイは、途中で不可解な密室殺人事件に遭遇する・・・


 昭和40年代、国立市の喫茶店「紫煙」に月1回集うミステリ好きの面々がいた。その中の一人、ドイツ人のシュペア老人が語る不思議な謎の物語だ。


 20世紀初頭、若かりし日のシュペアはドイツ軍のスパイとしてロシアに潜入する。革命後の混乱を逃れた貴族たちや帝国軍の残党が、シベリアの奥地にある〈死の谷〉と呼ばれる場所に立てこもっているらしい。
 そこには、死んだと思われていた皇女アナスタシアも生存していて、革命に抵抗する人々の旗印として彼女を担ごうという動きもあるという。

 〈死の谷〉はマンモスの墓場で、白骨化したマンモスの死体が眠っているらしい。その周辺には巨大な "幽霊マンモス" が跋扈しており、谷に近づく者たちを襲ってくるというのだ。過去にドイツが送り込んだ3人の工作員も、2人が死亡、生き残った1人もマンモスの恐ろしさを報告した後に息を引き取っていた。

 シュペアは、スパイとしての使命以外に、彼自身 "ある目的" を抱えていた。
 〈死の谷〉への補給物資を運ぶ商隊に潜り込むことに成功した彼は、一行とともにシベリア奥地を目指していく。

 前半は、商隊が〈死の谷〉へと到着するまでの物語。途中で立ち寄る民家や街、そしてその地を支配する実力者たちとの関わりを描いていく。

 シュペアたちの旅は平穏とはほど遠い。商隊は何者かに尾行されており、この〈追跡者〉によってメンバーが1人ずつ殺されていく。さらに一行が立ち寄った先では不可解な殺人事件に遭遇する。
 周囲の雪原に足跡がない一軒家や、被害者の足跡しかない建物の中で他殺死体が発見されるという不可能殺人だ。

 後半は〈死の谷〉に到着した後の物語。そこは単なる ”谷” ではなく、地下道が縦横に張り巡らされた大規模な要塞と化しており、"隠れ家" どころではないスケールだ。さらにはいろいろな ”秘密” も隠されているのだが、その辺は読んでのお楽しみ。


 さて、タイトルで「巨大幽霊マンモス」なんて堂々と謳われてしまうと、大部分の読者は、その ”正体” が本書に於けるメインの謎になるだろうと期待してしまうのではないだろうか。
 その怪物の巨大さ・異様さ・凶暴さは本書の中のいろいろな場面で強調されてるんだから。

 私を含めて、多くの読者はいろんな ”正体” を考えると思う。気が早い人は読み始める前からああだこうだと考えてしまうかも知れない(私がそうだった)。

 しかし当時の技術力で実現できるような "合理的かつ現実的な答え" は、なんと開巻早々に、シュペアと彼の上官との間の会話の中で提示されてしまう。そしてそれは、私も「このあたりだろう」って予想していた内容だったので、ある意味びっくり(同じことを感じた読者も少なくないと思う)。

 ということは、作者はこれを超える "解答" を用意してるだろう、って思うよねぇ・・・

 では、結果はどうだったのか。実はこれ、予想外に早い時期に判明してしまう。シュペアが〈死の谷〉に到着して早々に(物語の半ば過ぎあたりで)明らかになってしまうのだ。

 問題は、それをどう評価するかだろう。
 「予想を遙かに上回るスゴいもの」って思う人もいるだろうし、
 「予想の斜め上過ぎてトンデモ本の世界みたいだ」って思うか。
 私は後者の感想に近いかな。100年前という時代を考えると、ちょっと無理がありすぎじゃないかなぁ。勝手に期待を膨らませすぎた側が悪いと言われればそれまでなのだが・・・

 つまり、本書のミステリとしてのキモは、実はマンモス云々ではなくて、2つの不可能殺人と、シュペアたちを追っていた〈追跡者〉の正体だった、ということなんだね。

 実際、終盤の「現代編」で蘭子が解くのも、主にこの3つの謎だ(マンモスに付随するいくつかの謎にも言及するけど)。だけど、これも評価が分かれそう。確かに意表をつくものではあるけど反則すれすれな感じもするし。
 さらに、ミステリとしてはもう一つ ”隠し球” があるのだけど、これについては書かないでおこう。


 いろいろ文句を書いてしまったが、じゃあつまらないかと云えばそんなことはない。
 ロシア革命直後の時代、シベリアの辺境、そこに建造されたロシア軍の基地に隠された謎、生存していた皇女アナスタシア、”予言” の力を持つという〈ラスプーチンの花嫁〉たち・・・と舞台立て道具立ては十分。
 私がつけた星の数を見てもらえば分かると思うが、波瀾万丈の冒険小説としてはとても面白い。「シベリアを舞台にしたインディー・ジョーンズもの」って思って読むのが正解かも知れない。


 最後に余計なことをひとつ。

 〈死の谷〉に隠されていた最も根源的な秘密は、30年ちょっと前に出た講談社ブルーバックスでも取り上げられていたもの。当時は×××××××××××××××があったばかりで、世界的にその方面への関心が高かったのも、出版の背景にあったのかも知れない。
 私もその本はリアルタイムで読んでたので、〈死の谷〉のくだりではちょっと驚いたよ。巻末のあとがきによると、本書の構想は20年以上前に立てられていたらしいので、ひょっとするとこの本もネタ元の一つなのかも知れない。



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陰陽少女 [読書・ミステリ]


陰陽少女 (講談社文庫)

陰陽少女 (講談社文庫)

  • 作者: 古野まほろ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/05/15

評価:★★★★

 田舎の温泉地で起こる怪事件。高校で爆発、直後に生徒は校舎から転落。
 探偵役は陰陽師の女子高生。東京からやってきた転校生をワトソン役に、事件に挑む。全編にわたりギャグマンガみたいなノリだが、推理は骨太。


 主人公兼語り手の水里(みなさと)あかねは、ある事情で東京から物語の舞台である実予温泉へと転校してきた女子高生だ。

 物語は彼女が実予空港に降り立つところから始まる。
 あかねが実予に来たのは、兄が警察キャリアで、地元警察で課長の任にあるから。しかしそのため、迎えに来た兄の部下たちからは "お嬢様" と呼ばれ、下へも置かぬ "おもてなし攻勢" を受ける羽目に。

 これはあかねが登校して教室に入ってからも続く。あかねが東京から来たと分かると大騒ぎになる同級生たち。それに加えて、担任までも実はあかねとは "因縁" があったりと、"隠し球" もたくさん潜んでいる。

 このあたりはほとんどギャグ漫画みたいで、この小説全般がそうなのだが、とにかくけたたましい(笑)。登場してくるキャラクターが(あかねを含めて)エキセントリックな人ばかりで驚いてしまう。まあ、これがこのシリーズの特色というかセールスポイントなのだろう。

 本書で探偵役を務め、タイトルにもなっている少女・小諸るいかも、あかねのクラスメイトの一人として登場する。
 この作品世界では、陰陽師は正式な職業として認知されているらしいのだが、終盤に明らかになるるいかの "肩書き" には、これも驚かされる。

 最近になって火事騒ぎが続き、不穏な実予温泉なのだが、あかねの学校でも事件が起こる。部室棟で爆発が起こり、その直後、教室棟の4階から生徒が転落したのだ。
 るいかはあかねを連れて事件の調査を始めるのだが・・・


 タイトルに "陰陽" と銘打つだけあって、式神や妖怪や魑魅魍魎の登場するシーンも出てくる。とはいっても、事件自体はオカルトや超常現象ではなく、人間が引き起こしたもの。
 世界設定こそ特殊だが、特別なルールを適用して解決することもなく、謎解き自体はオーソドックスに行われる。

 問題はトリックかな。理論上は可能でも、実行はとてつもなく大変そう。まあ、この作者は他の作品でもこの手のトリックを使ってるし。
 世界設定が風変わりで、登場人物がみな奇矯なのも、この雰囲気の中ならこのトリックも "あり" かも、って読者に思わせるためなのかも知れない。


 ミステリ的にはともかく、キャラ小説としては抜群に面白いのは確か。シリーズ2作目も文庫化されていて手元にあるので、近々読む予定。



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ひとごろしのうた [読書・ミステリ]


ひとごろしのうた (ハヤカワ文庫JA)

ひとごろしのうた (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 松浦千恵美
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/01/24
  • メディア: 文庫

評価:★★☆

 レコード会社に送られたデモ音源。その少女の歌声に魅せられた主人公は、楽曲制作者が不明なままCD発売に踏み切る。しかしその曲に影響を受けたと思われる殺人事件が発生する。主人公は楽曲制作者の探索を始めるが。
 ちなみにホラーではありません。ミステリです。


 主人公・大路樹(おおじ・いつき)は元ミュージシャン。かつてはロックバンドを率い、自ら作詞作曲した曲がミリオンセラーになるという快挙を成し遂げた。
 しかしその後は人気が低迷、バンドも解散。樹はソロデビューするが鳴かず飛ばず。31歳になった今は大手レコード会社に拾われ、見習いディレクターとして働いていた。

 レコード会社には毎年大量のデモ音源が送られてくるが、その中の一曲に樹は魅せられてしまう。
 タイトルは「ひとごろしのうた」。歌詞も絶望と孤独に溢れているが、それを歌う女性ボーカルの声は悲壮感を感じさせない。
 伴奏のギターは69年製レスポール・カスタム。演奏者は、素人にしてはかなりの技量を持っているようだ。樹も愛用していたモデルとはいえ、楽器の種類まで分かるのは、流石は元ミュージシャンというところか。ミリオンセラーは伊達じゃない。

 しかしエントリーシートには、楽曲に関する情報は皆無。唯一、歌っている少女の名であろう "瑠々"(るる) という記載のみがあった。

 樹はラジオ番組を通じて "瑠々" 本人からの申し出、あるいは "瑠々" に関する情報を募るが、具体的な成果は出てこない。しかしなんとしてもこの楽曲を世に出したい樹はCD発売を決断する。

 発売された「ひとごろしのうた」は大きな反響を呼び、CDの売り上げも好調。しかし発売6週間後、週刊誌にある記事が載る。
 それは岐阜・静岡・埼玉で起こった3件の殺人・無差別殺傷事件において、加害者と被害者が「ひとごろしのうた」から影響を受けたのではないか、というものだった。

 実際には彼らの所持していた音楽プレイヤーの中の楽曲のひとつに「ひとごろしのうた」があっただけなのだが、それを犯行と結びつけようという意図の記事だった。
 しかし風評被害は予想以上で、「ひとごろしのうた」は販売店から撤去されてしまう・・・


 念のため書いておくと、"呪いの音楽を聴いた者が殺人者になってしまう" ようなホラーな物語ではないので。あくまで楽曲の制作者、そして制作意図を巡るミステリだ。

 物語はこの後、「ひとごろしのうた」の "容疑" を晴らそうとする樹が楽曲制作者を探索する様子が描かれる。
 それには、彼の周囲にいる人々が大きな力となる。みな音楽を愛し、音楽については人並み以上の感性と聴力を備えている。
 「ひとごろしのうた」の音源から隠された事実を突き止めるレコーディング・エンジニア、かつて樹が通っていたジャズ・バーのマスターからはギター演奏者のヒントがもたらされる、など。彼らの協力によって樹は制作者の "正体" に少しずつ迫っていく。


 手がかりを集めて真相を見抜く、という作品ではない。主人公が少ないピースを頼りに試行錯誤を繰り返しながら制作者のもとへ近づいていく、という展開だ。

 でも退屈ではない。物語の途中では "瑠々" の人気を利用してひと山当てようとする、いわゆる "芸能界の闇" を象徴するような人物が接触してきたり、3件の事件を追う女性記者が登場したりと、読者を飽きさせない。

 やがて明らかになっていく楽曲成立の事情は、かなり辛く悲しいものだ。制作者はやむにやまれぬ思いでこの曲を作っていた。
 しかし物語全体のトーンは暗くない。それは主人公・樹のキャラクターが大きいだろう。明るく元気で、音楽をこよなく愛し、音楽に対する思いは常にまっすぐで迷いがない。
 「ひとごろしのうた」に対しても、優れた曲・優れた才能を世に出したいという、ただそれだけの純粋な願いを以て関わり続ける。だから周囲の人々の協力も得られるし、彼の情熱が、最終的に制作者の心をも救うことになる。

 ラスト3ページ、ちょっぴり×××な展開だけど、物語の余韻としては許容範囲だろう。



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かがみの孤城 [アニメーション]

 2018年に第15回本屋大賞を受賞した作品のアニメーション映画化。
原作小説に関する記事はこちら

kgm_kojo.jpg

 まずは公式サイトの「STORY」から。


 学校での居場所をなくし部屋に閉じこもっていた中学生・こころ。

 ある日突然部屋の鏡が光り出し、吸い込まれるように中に入ると、そこにはおとぎ話に出てくるようなお城と見ず知らずの中学生6人が。

 さらに「オオカミさま」と呼ばれる狼のお面をかぶった女の子が現れ、「城に隠された鍵を見つければ、どんな願いでも叶えてやろう」と告げる。期限は約1年間。

 戸惑いつつも鍵を探しながら共に過ごすうち、7人には一つの共通点があることがわかる。互いの抱える事情が少しずつ明らかになり、次第に心を通わせていくこころたち。そしてお城が7人にとって特別な居場所に変わり始めた頃、ある出来事が彼らを襲う――――

 果たして鍵は見つかるのか? なぜこの7人が集められたのか?
 それぞれが胸に秘めた〈人に言えない願い〉とは?
 全ての謎が明らかになるとき、想像を超える奇跡が待ち受ける―


  引用はここまで。


 映画化決定のアナウンスがあった時、嬉しかったのと同時に心配になったのが「原作小説の内容が2時間の枠に収まるのか」ということだった。

 文庫で上下巻というボリュームがあり、さまざまなエピソードを積み重ねながら終盤に向けて盛り上げていく。これが映画で再現できるのかな、ということだった。
 結論から言うとこれは杞憂だった。原作と改変されている部分もあったが、映画の感動を増す方向への改変だと感じた。

 こころが不登校になった原因については尺を取って描かれている。胸が痛くなるシーンだけど、ここは必要だからね。その代わり、他の6人の事情については断片的に描かれることになるけど、個々の状況を全部描いたら冗長になってしまうだろうから、これくらいに刈り込んだ方が映画としては見やすく仕上がってると思う。ここは脚本が上手いのだろう。

 ストーリー進行のペースとしては駆け足になることもなく、落ち着いた雰囲気でじっくりと描かれていく。ダイジェスト感もない。逆に地味すぎて心配になったくらい。
 アニメ映画といえば、派手なアクションやスペクタクルなシーンが観客への訴求力となりがちなものだが、本作はその逆を行ってる。
 でも、だからこそ主人公たちと同世代の中高生たちには等身大の問題として刺さるのだろうし、親の世代である大人たちにも響くものがあると思う。

 実際、映画の終盤で ”オオカミさま” の正体と、場所が ”城” であった理由が明かされる場面では、原作を読んで知っていたはずなのに、涙腺が緩んでスクリーンがにじんでしまったよ。

 上にも書いたけど、原作の感動を上手に映像化した良作だと思う。できるだけ多くの人に観てほしいと思う。
 人気TVアニメや著名な原作マンガからの映像化でないぶん、興業は苦しいのではないかとも思うけど、こういう作品こそこれからも作られるべきだと思う。


 観に行ったのは公開日の12月23日、午後の上映回だった。
 中学・高校は終業式の日なのかな。けっこう若い人が多かった。なかでも高校生くらいの男の子が6人ぐらいグループで観に来てたのが印象的だった。なんとなく女の子の方が多そうに思ってたので(もちろん女の子もいたけどね)。私みたいな高齢者も、ちらほらとだけど、ちゃんといたよ(笑)。


 声優陣について。

 メインキャラたちは、俳優さんがメインで要所を声優さんが固める、って感じかな。

 ヒロインのこころ役は當真あみさん。CMで話題の美少女高校生。声優としての技量は正直言ってあまり高くないかなと思ったけど、ひたむきに一生懸命演じてるのが伝わってきて、それがこころちゃんの素朴なキャラクターに合ってる気がしたので、この配役は正解だと思う。

 リオンは北村匠海さん。「HELLO WORLD」にも出てたね。彼も達者。
 アキ役の吉柳咲良さん、フウカ役の横溝菜帆さんも女優だけど、上手い。
 スバル役の板垣李光人さんだけは、ちょっと違和感を感じたけど、これは好みの問題なのかも知れない。

 ”クセ” がある2人のキャラを演じたの専業の声優さん。
 マサムネ役は高山みなみさん。ベテラン声優さんだけど、あのアドリブは余計だよなぁ(笑)。
 ウレシノ役は梶裕貴さん。イケボなのに、イケてないキャラも上手にこなしてる。流石だ。

 さて、肝心のオオカミさまは芦田愛菜。彼女は能力が高くて何でもこなしてしまうので、声優としても特に問題なく演じてるように思う。
 ただ彼女は最近CMで露出がたいへん多い。だからオオカミさまの台詞を聞くたびに、彼女の顔が頭に浮かんでしまう。これには困った。
 ジブリ映画の時も書いたけど、アニメ映画に有名人を起用する時の弊害だね。芦田愛菜さん自身に罪はないんだけど。


 最後に、入場者特典について

 ビニールの封筒にキャラクターのイラストが2枚(全6種あって、その中からランダムに2枚もらえる)入ってる。テーマは ”映画では描かれなかったシーン” らしい。「映画鑑賞後に開封のこと」「内容はSNS等には挙げないこと」って注意書きが表紙にある。
 確かに、どちらも画像をSNSに挙げたら即ネタバレになる内容だね。

 うーん、でもこれくらいは書いてもいいかな。
 私がもらったうちの1枚には、”主人公たち7人+オオカミさま” が描いてあった。ただし、どういうシチュエーションかはナイショ。
 もう1枚は、もう何も言えないなぁ。物語の根幹に関わるシーンで、何を書いてもネタバレにつながりそう。
 でも、どちらもとても ”素晴らしい光景” を描いていると思う。

 こうなると残り4種が知りたいなぁ。公開が終わった頃に公式サイトあたりに掲載してくれないかなぁ・・・無理だろなぁ(笑)。


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2023年、初頭のご挨拶 & 近況報告 [日々の生活と雑感]


■ご挨拶

 明けましておめでとうございます。m(_ _)m

 まずは新年ぽい写真から。旧年ですが12月27日から29日まで、京都へ旅行へ行って参りました。
 写真は、最初に立ち寄った観光地・京都御所から2枚挙げました。
kyoutogo1.jpg
kyoutogo2.jpg

 2泊3日の日程で、御所を皮切りに下鴨神社・銀閣寺・南禅寺・錦小路・東本願寺・伏見稲荷大社・東寺とかをのんびり廻ってきました。

 ウィズコロナに移行して行動制限がなくなり、どこに行っても観光客で賑わっています。3年前に行った時と比べたら少ないですが、それでもかなりの人出かと思います。
 コロナ前は、場所によってはそれこそ芋を洗うような状態でしたから。道を歩いていて聞こえてくる言葉も外国語がほとんど、日本語が聞こえてくるのはまれでした。

 今回、京都市内の様子としては、錦小路は混雑してましたが、それ以外の場所はゆったりとしたペースで巡ることができました。移動と拝観については、いい案配の混み具合というか。でも、中国が渡航制限を解除したら、またコロナ禍前みたいになっちゃうのかな?

 こういうことを書いたら観光業界の人が怒り出すでしょうが、観光する側からすると、今くらいの人出がちょうどいいかなと感じます。あくまで私の感覚ですけどね。


■近況その1・仕事

 さて、ここ数年は、私の状況について大きな変化はありませんでした。定年退職はしましたが、再雇用で引き続き働いていたので、仕事内容として大きく変わったことはなかったので。しかし今年は大きく変わります。

 私は今年度末(2023年3月末)を以て現在の仕事から離れ、(とりあえず)無職になります。まあ完全リタイアというわけで。

 希望すればもう1年雇用してもらえたのですが、昨年9月に職場の上司に雇用の更新はしないことを申し出ました。
 退職の理由はいろいろあるんですが、いちばん大きなものはモチベーションの低下ですかね(細かいことをいえばいろいろあるけどここでは割愛)。
 ここ3年ほど徐々に感じ始めてきていて、昨年の春にはもうやめようと思ってました。このまま今の職場に残っていても、あまり戦力として貢献できないなぁとも感じていたし。

 いちばん心配なのは、かみさんがどう言うかだったんですが、おそるおそる切り出してみたら、けっこうあっさりOKしてくれました。
 きっと私の周囲から、”仕事したくないオーラ” が大量に出ていたのでしょう(笑)。

 家のローンも返却済みで借金はないし、今年後半には私の年金もフルで出るようになりますし、かみさんもまだフルタイムで働くつもり(少なくとも来年度いっぱいは)のようなので、贅沢しなければ生活は何とかなるでしょう。


■近況その2・健康

 さて、9月に職場に退職の意向を伝えた後、健康診断を受けたのですが、結果はまさかの「要精検」。

 あわてて病院に行ってみたら、あちこちいろいろ検査をされて。けっこう重病な雰囲気がひしひしと(おいおい)。

 結果説明の日には、なんだか生きた心地がしなくて、車の中で水木一郎の歌を大ボリュームで流して、自分を励ましながら病院へ向かいましたよ(笑)。

 結果については「すぐにどうこうということはない」とのことで、ひと安心ではあったのですが、「でも放っておくのはまずいよね」ということで、治療を始めることになりました。それもけっこう長丁場になりそうです。

 まあ4月以降、私は無職になる(笑)ので、お金はともかく(おいおい)、時間だけはたっぷりあります。焦らず気長に取り組んでいこうと思ってます。



■最後に

 毎回書いてますが、読書記録を兼ねたこのブログも、細く長く続けられたらいいなと思ってます。昨年の201冊を超える量の本も読みたいし、映画も観たいし、ネット配信の動画にも今以上に時間が割けるでしょうし。
 皆さんも、コロナに負けずに頑張って生きていきましょう。

 それでは、本年もよろしくお願いいたします。m(_ _)m


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