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招かれざる客 有栖川有栖選 必読! Selection 1 [読書・ミステリ]


有栖川有栖選 必読! Selection1 招かれざる客 (徳間文庫)

有栖川有栖選 必読! Selection1 招かれざる客 (徳間文庫)

  • 作者: 笹沢左保
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2021/10/08
  • メディア: 文庫


評価:★★★☆


 中央官庁の官僚が殺される。さらに彼の婚約者の周囲で第2の殺人が。有力な容疑者が浮上するも事故死してしまい、捜査は終結。納得できない刑事は独自の捜査を開始する。しかし彼の前には鉄壁のアリバイ、兇器無き密室、そして謎の暗号が立ちはだかる。


 生涯において380冊近くの著書を残したミステリ作家・笹沢左保(ささざわ・さほ)。その作品群の中から本格ミステリ色の強いものを選んで復刊するというシリーズ。
 そしてその選者が有栖川有栖とあれば、やっぱり期待してしまうよねぇ。


 商産省の職員・鶴飼範夫(つるがい・のりお)が殺された。彼は労働組合の幹部を務めていたが、組合の内部資料を省側に漏洩した疑いが持たれていた。
 資料の持ち出しを手引きしたのは組合の臨時職員・細川マミ子。鶴飼とマミ子は恋人同士でマミ子は妊娠中だった。

 恋人を失ったマミ子は睡眠薬自殺を図るが失敗。しかしその新聞記事を見たカメラ雑誌編集長・沢上が身元引き受けに名乗り出る。彼はマミ子の父とは親友だったのだ。

 マミ子は沢上の屋敷に引き取られ、ガレージの2階の部屋で寝起きするようになった。そこで第2の殺人が起こる。その部屋をマミ子とシェアしていた女性編集者・二階堂悦子が殺されたのだ。犯人は悦子をマミ子と誤認したのか? しかも現場は密室状態だった。

 有力な容疑者として浮上したのは、組合員の亀田克之助。鶴飼の親友で、マミ子も彼の尽力で採用されていた。そのため、書類漏洩に責任を感じると同時に、彼を裏切った2人に対して怒りをもっていた。
 しかし逮捕される直前に大型トラックにはねられて死亡してしまう。

 容疑者死亡によって捜査は終結へと向かうのだが、それに納得できなかったのが捜査一課の倉田警部補。彼は関係者の中のある人物に疑いの目を向ける。
 しかしその人物を犯人として逮捕するには、多くの困難を乗り越えなければならなかった。鉄壁のアリバイ、密室の謎とそこから消えた兇器、鶴飼の遺体が持っていた名刺に書かれていた謎の文字列、そしてなによりその人物は、鶴飼殺害の現場には入れなかったはずなのだ・・・


 本書が書かれたのは1960年。著者のデビュー作である。この時代、松本清張に代表される社会派ミステリの隆盛期。本格ミステリは時代遅れのものとみられていた。
 著者が目指したのは、社会派ミステリと本格ミステリの "いいとこ取り"。上にも書いたが、魅力的な謎のオンパレード。純粋な本格ミステリだって、こんなに謎をてんこ盛りした作品はそうそうないだろう。

 犯人と目される人物は中盤で明らかになるので、ハウダニットが中心になる。
 アリバイトリックは、ちょっと犯人にとって都合がよすぎるような気もしないでもないが不可能とも言い切れない。
 消えた兇器の謎が明らかになったときには「そんなにうまくいかないのでは」って思ったが、続けて読んでいくと、具体的な科学的裏付けが書かれていて、作者はかなり綿密に検討してるのが分かった。これには素直に脱帽だ。

 社会派らしいところももちろんある。犯人の動機に関わる部分はやはり読みでがある。タイトルの『招かれざる客』とは誰を指すのか。明らかになるのは終盤だけど、読み終わってみると、本作の "背骨" を表すような、いいタイトルだったと思う。

 もちろん、ラストでは倉田警部補が犯人を追い詰めるのだけど、それとは別に気になったのは、彼の家庭状況。
 実は本書後半の彼の捜査は、彼の独断によるもの。もちろん上層部には内緒で。だから下手したらクビになってしまう。倉田には身重の奥さんがいて、彼女が必死になって止めるんだけど、聞き入れないんだよねぇ・・・。
 まあ、それでやめちゃったら小説にならないんだけどね。奥さん実家に帰っちゃうんじゃないかと心配になったよ(笑)。


 さて、このシリーズはいまのところ隔月刊(年6冊)で出てる。文庫の表紙には「笹沢左保サスペンス100連発」ってあるんだけど、このペースで続けたら16年くらいかかるはず。その頃には、私は80歳近いよ(おいおい)。
 とりあえず、このシリーズにはしばらくつきあおうと思ってるんだけど、私の生きてるうちに終わるのか心配だ。いや冗談抜きで(笑)。



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