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さかさま少女のためのピアノソナタ [読書・ミステリ]


さかさま少女のためのピアノソナタ (講談社文庫)

さかさま少女のためのピアノソナタ (講談社文庫)

  • 作者: 北山 猛邦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/07/15
  • メディア: 文庫


評価:★★★


 ノンシリーズものを集めた短編集。作者は基本的にミステリの人なんだけど、本書にはホラー・ファンタジー・SFなどの要素が強いものを収めているようだ。


「見返り谷から呼ぶ声」
 「見返り谷」の近くでは、最近20年間で13人の者が行方不明になっているという。
 "僕" を含む3人の男子中学生は、クラスメイトのクロネという女生徒が「見返り谷」から出てくるところを目撃する。"僕" はクロネから、谷はかつて死者の魂を呼び出せる場所だったという伝説を聞く・・・
 ホラーなんだが、最後のオチが秀逸。


「千年図書館」
 異常な気象の兆しが現れた。長老たちは、村人から1人『司書』を選び、"西の果ての島にある図書館" に捧げることを決めた。選ばれたのはペルという13歳の少年だった。
 "図書館" に護送されてきたペルの前に現れたのは、2年前に『司書』に選ばれた "先代"『司書』の少女・ヴィサスだった。彼女から、この "図書館" のことをいろいろ知っていくペルだが・・・
 雰囲気はファンタジーなのだが、ラストは苦い。


「今夜の月はしましま模様?」
 月に謎の巨大結晶体が飛来する。物体は月の表面を周回しながら月面に溝を刻み続け、月はしましま模様に(おいおい)。
 そんなとき、主人公の大学生・仁科佳月(にしな・かづき)のスマホが何者かに乗っ取られてしまう。"そいつ" は "音楽生命体" と名乗り、地球の侵略にやってきたのだという・・・
 コメディ・タッチのSFミステリ。60~70年代の日本SFみたいな雰囲気もちょっぴり感じる(当時はスマホどころか携帯電話さえなかったけどね)。


「終末硝子(ストームグラス)」
 10年ぶりに故郷の村マイルスビーに、医師となって帰ってきたエドワード。しかし村のあちこちには高い塔が建てられていた。
 村人に尋ねると、あれは『塔葬』のためのもので、数年前にストークス男爵がやってきてから建てられるようになったという。
 ある日、男爵夫人が病気とのことで往診に出向くと、彼女から「私は男爵に殺される」と聞かされる・・・
 ホラーだが、塔の秘密は意外と理詰めに説明される。あくまで、この作品世界では成立する理屈としてだけど。


「逆さま少女のためのピアノソナタ」
 主人公・聖(せい)は高校3年生。放課後に立ち寄った書店で古い楽譜を手に入れた。演奏時間はおよそ5分ほどの曲だが、そこには「絶対に弾いてはならない」との但し書きが。調べてみると、この曲の演奏にはいくつか制約があり、それを破ると弾き手に ”破滅” が訪れるらしい。
 コンクールに落ち、ピアニストの夢に挫折した彼は、この曲を弾いてみることに。すると、この曲を弾いている間は彼の周囲の時間が止まっていることがわかった。
 そして卒業式の日。聖は教室へは行かずに音楽室に入り、この曲を弾き出す。そのとき彼は見た。音楽室の窓の外を、女生徒が真っ逆さまに落下しているところを。
 彼が曲を弾いている間は空中に止まっているが、演奏が終われば彼女は落ちて死んでしまう。なんとか彼女を助けようと必死に頭を巡らす聖だったが・・・
 これはなかなかいい話。暗い話や悲惨な話が多いこの短編集の中で、いちばん読後感が良い。音楽に詳しい人ならラストのオチはなんとなく見当がつくかも知れないけど、そんなことは関係なく傑作。



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