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絶海ジェイル Kの悲劇’94 [読書・ミステリ]

絶海ジェイル Kの悲劇’94 (光文社文庫)

絶海ジェイル Kの悲劇’94 (光文社文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/01/09
  • メディア: 文庫



評価:★★★

「群衆リドル」につづく、
東京帝国大学生・八重洲家康と渡辺夕佳が活躍するシリーズ第2作。

めでたく帝国大学に合格、家康の後輩になれた夕佳。
しかし未だに家康との距離は縮まらない。

そんなとき、家康のもとへある報せがもたらされる。
天才的ピアニストでありながら、太平洋戦争中に赤化華族として収監、
獄死したと伝えられてきた祖父・清康が生きているという。

祖父に会うために三浦半島のはるか南方海上に浮かぶ
古尊島(ふりそんとう)へ渡る家康と夕佳。

そこは軍事機密として地図から抹消され、
厳重な監視構造をもつ監獄の廃墟だけが残る島だった。

 ちなみにタイトルにある "ジェイル" とは「刑務所」(jail)のこと。
 てことは、古尊とは prison のもじりか。

ところが二人は、そこで待っていた "ある集団" に捕らえられ、
意外な事実を聞かされることになる。

大戦末期の1944年、清康はこの絶海の孤島にある監獄から
囚人仲間と共に脱出し、姿を消した。
仲間たちは終戦後、罪状が消滅して日本社会に復帰したが
清康のみが行方不明のままだという。

"ある集団" によって、祖父たちと同ように監獄に放り込まれた家康は
50年前の脱獄計画の再現を強要される。
"ある集団" もまた、脱獄方法を知りたがっていたのだ。

家康と同じように捕らえられてきた "囚人仲間" は4人。
一週間ごとに一人ずつ命を奪い、
最後には家康自身を殺すと脅迫される。

タイムリミットが迫る中、生き延びるためには、
祖父が行った "脱獄" を再現しなければならないが・・・


本書のミステリとしての眼目は、
「50年前に清康が行った脱獄の方法とは?」

前作と同じく、「読者への挑戦状」が挿入される。
「清康がとった脱獄方法を特定するに足る事実の提示を終えた」との
宣言のもと、解決篇へ突入するのだが・・・

いやあ、前作でも密室トリックのところで「えーっ」って思ったが
今回はその3倍くらい声を上げてしまいそう(上げなかったけどwww)。

 これ、論理的に考えて当たる人がいるとはとうてい思えないし
 もっと言えば、当てずっぽうでさえ的中させる人がいるんだろうか。

説明が進むうちに、さまざまな可能性が次々に排除され、
最後には細い糸1本ほどの方法しか残らないのはいいとしよう。

しかしその残った1本の糸を切らないように伝っていくには
超人的な能力と信じがたいほどの幸運と、
たったひとつの失敗も許されない完璧さが前提になるのではないか。

例えば、脱獄するには A→B→C→D→E と
5段階のステップが必要だとしよう。

それぞれの成功率が50%としても、
5つの段階を踏むと成功率は3%そこそこにまで低下する。

ましてや解決篇で語られる方法の各ステップの成功率は
それぞれ10%もなさそうなものばかり。
(私の感覚では全く不可能に思えるものも含まれてるけどね)
5つの段階を経たら成功率は0.001%、10万回に1回の成功だ。

 ちなみに、解決篇で示される脱獄方法のステップは
 5段階どころではなく、とんでもなく複雑だ。

読んでいて驚いたけれど、作者は臆面もなく堂々と開陳を続けるので
腹を立てることも忘れてしまったよ(笑)。

実現性とかリアリティなんてものは欠片もなさそうに見えるのだけど
ここまで徹底していれば立派なものなのかも知れない。
実際、読んでいて呆れたけど、"面白い" のも確か。

ミステリとして読むんじゃなくて、壮大なホラ話を聴くつもりで。
細かいところは気にしないで、おおらかな心で(笑)で臨むこと。
それが本書の正しい読み方だろう。

間違っても、脱獄方法を
真面目に推理しようとしてはいけない(おいおい)。


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