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黒死荘の殺人 [読書・ミステリ]

黒死荘の殺人 (創元推理文庫)

黒死荘の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: カーター・ディクスン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/07/27
  • メディア: 文庫



評価:★★★

創元推理文庫の改訳新装版シリーズ。

1977年にはハヤカワ・ミステリ文庫で
「プレーグ・コートの殺人」というタイトルで出版された作品だ。

1977年といえば何せ40年近い昔。読んだかどうか記憶が定かでない。
実際、今回読んでみても全く記憶が甦ってこないので、
ひょっとしたら未読なのかも知れない。

邦訳されたディクスン・カー(カーター・ディクスン)の作品は
たいてい読んでるはずなんだが
77~86年頃の私は専らSFにはまってたので、
読み逃していた可能性も充分にある。

本書はカーター・ディクスン名義の第2作にして、
探偵役のH・Mことヘンリ・メリヴェール卿が登場する第1作。


17世紀にタイバーン刑場で絞刑吏だったルイス・プレージは、
当時大流行していたペストに冒され。それが原因で死に追いやられた。
恨みを残して死んだ彼の亡骸が埋められた屋敷は
「黒死荘」と呼ばれるようになった。

時は流れて20世紀、屋敷を手に入れた実業家ジェームズ・ハリディが
謎の拳銃自殺を遂げ、その弟ディーンが
黒死荘の現当主となったところから物語は始まる。

 横溝正史の「八つ墓村」みたいな発端だ。

ロンドン博物館から短剣が一本盗まれる。それはかつて
ルイス・プレージが所有していた特殊な形状のものだった。

折しも黒死荘では、胡散臭い心霊学者ダーワースによる
降霊会が開かれようとしていた。
ディーンは友人のケン・ブレークと
ロンドン警視庁のマスターズ警部に立ち会いを求める。

しかし降霊会のさなか、
当のダーワースが血まみれの死体で発見される。

現場は堅固な石室。窓には鉄格子、
分厚い木製のドアには内側から堅牢な閂(かんぬき)。
石室の周囲に足跡はなく、死体の傍らに転がる凶器は、
博物館から盗まれたルイス・プレージの短剣だった・・・

難航する捜査に、ケン・ブレークはかつての上司である
陸軍省情報部長ヘンリ・メリヴェールの助力を求めるが・・・


これぞ密室、といわんばかりのシチュエーション。

いわゆる "古典的名作" というもので、
終盤に明らかになる密室トリックはかなり "有名" なもの。
しばしば密室を扱った作品で言及されることもあるくらい
よく知られたものなのだけど、"初出" はこの作品だったんだね。

我々にはポピュラーでも、80年前の発表当時では
とても斬新で、強烈な印象を読者に与えただろうな、とは想像がつく。

 ちなみに横溝正史がこの作品にインスパイアされて
 「本陣殺人事件」を書いた、ってのは有名な話らしい。


しかし、密室だけで終わらないのが巨匠の巨匠たる所以。
真犯人は実に意外で「やられた!」感があるんだけど、
振り返ってみればたしかに伏線はきちんと張ってある。

さらに本作では、真犯人の正体に
もうひとひねり加えてあるという二段構えの構成。

ただ、そこまでいくとちょっとやり過ぎな感も。
当時ならともかく、現代の視点で考えると
いささか無理が過ぎるようにも思うし。

作品全体に対しても、本格ミステリの "お約束" を
ちょっと逸脱していると感じる人もいるんじゃないかなぁ。

本書の評価が今ひとつ高くないのもそのあたりが理由。


いずれにしても、いかにも本格ミステリらしい
"幽霊屋敷" を舞台にした作品で、
この手の "雰囲気" が好きな人にはたまらないと思う。
私も大好きだ。

密室ものが好きなら一度は読んでおくべき作品だろう。


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