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SF JACK [読書・SF]

SF JACK (角川文庫)

SF JACK (角川文庫)

  • 作者: 新井 素子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/02/25
  • メディア: 文庫



評価:★★★

「日本SF作家クラブ50周年記念出版」として刊行された
全編書き下ろしアンソロジーの文庫化。

単行本時には瀬名秀明の作品も入っていたらしいが文庫版では削除。
瀬名氏は、単行本の刊行時に日本SF作家クラブ会長だったけど
その後会長職を辞し、同時に日本SF作家クラブも退会してしまった。

 その辺の経緯は、ネットを漁るといろいろ書かれてるけど
 所詮、噂話の域を出ないので真相は不明。

瀬名氏の作品が削除されてる理由がそれなのかは分からないが。

日本のSFは一時期の冬の時代を乗り越え、
再び活況を呈しつつあるらしいが、出版不況はSFも直撃してる。
「SFマガジン」も隔月刊になってしまったしねえ・・・


「神星伝」冲方丁
 東京創元社の年刊ベストSFアンソロジーで既読。
 遠未来の太陽系を舞台にして、さまざまなSFガジェットで
 過剰なまでに装飾されているけど、ストーリーだけを追えば
 ある日突然侵入してきた外敵に対し、主人公の少年が
 幼なじみの少女に導かれ、封印されていた巨大ロボットを覚醒させて
 世界と少女を守るべく出撃していく・・・
 描かれているのは主人公の鬱屈した思い、母との死別、
 ボーイ・ミーツ・ガール、そして自らの出生の秘密を知ったことで
 平穏な日々は終わり、少年に旅立ちの時が訪れる。
 時と場所は変わっても物語の王道展開は不変ということか。
 大河ロボットアニメの初回1時間スペシャルみたいで
 ぜひ続きを読みたくなる。冲方さん、いつか書いてください。

「黒猫ラ・モールの歴史観と意見」吉川良太郎
 ギロチンで切断され、井戸に放り込まれた生首と
 人語を解する黒猫が、滅んだ人類について語り合う話。
 うーん、よくわかりません。

「楽園(パラディスス)」上田早夕里
 憲治が愛していた女性・宏美が交通事故で死亡した。
 残された宏美のライフログをすべて
 "メモリアル・アバター" に読み込ませ、
 宏美の疑似人格を作り出して会話を続ける憲治だが・・・
 VRの進歩イコール人類の進歩ではないねぇ。
 過去に囚われたままの人間もでてきそうだ。

「チャンナン」今野敏
 沖縄空手の伝承者である "俺" が迷い込んだ奇妙な世界。
 1970年代によく見たような話だなあ。
 日本SF50年周年の記念出版で
 こういう話を堂々と書いてしまうというのも
 ある意味度胸があるのかなあ。

「別の世界は可能かもしれない」山田正紀
 これも1970年代なら「ミュータント・マウスの反乱」なのだろうけど
 2010年代に山田正紀が書くとこうなる、ってことか。
 大長編の序章みたいなのだけど、続きが読みたいような
 読みたくないような・・・(笑)。

「草食の楽園」小林泰三
 漂流している宇宙船がたどり着いたのは、"忘れられたコロニー"。
 そこは非武装無抵抗の人々(つまり "草食系" ってこと?)
 が暮らす、争いのない "楽園" だった。
 しかしそこに凶悪な "盗賊" が現れて・・・
 結局、人類は理想的には生きられない、ってことなのか。

「リアリストたち」山本弘
 食事や運動どころかセックスさえもVR世界で体験できる世界。
 人々はみな生身の体験を "忌避" して生きるようになっていた。
 しかしごく一部だが、「リアリスト」と呼ばれる
 "生身の生活" を送る者たちもいた。
 VR世界で暮らす主人公の "私" は、そんなリアリストの一人と
 "生身" で会うことになるが・・・
 これも21世紀ならではのSFか。
 内容も、今なら「えーっ」て驚くけど、
 10年後は笑えないかもしれないなぁ。

「あの懐かしい蝉の声は」新井素子
 人類のほとんどが "第六感" を持つようになった世界。
 "第六感" とは、生身のまま
 ネット上の電子データにアクセスできる能力のこと。
 (スマホがアタマの中に入ってるようなものか)
 生まれつき "第六感" を持たないため、
 "障害者" として扱われてきた主人公は、
 外科手術によってそれを手に入れるが・・・
 これも、何年か後にはチップを体内に埋め込んで
 網膜上に直接映像を投影するとかの技術革新で
 実現してしまうんじゃないかな・・・
 そのとき、世界はどのように変化して見えるのだろう。

「宇宙縫合」堀晃
 この10年間の記憶を失った "私" の前に現れた刑事。
 彼らが示した写真には、"私" の死体が写っていた・・・
 久しぶりの堀晃。ハードSFってのも読まなくなって久しい。
 1980年代の頃は、こういう作品もかなり "出回ってた" ような。

「さよならの儀式」宮部みゆき
 「神星伝」と同じく東京創元社の年刊ベストSFアンソロジーで既読。
 耐用年数を遙かに超えた家庭用ロボットと、
 すっかり情が移った使用主との涙の別れを描く感動物語・・・
 と思わせておいて、逆転の背負い投げ一本。

「陰態の家」夢枕獏
 "妖異祓い" を生業にする傀儡(くぐつ)屋・多々良陣内が
 "妖怪屋敷" に巣くうあやかしに挑む話。
 夢枕獏ってSF作家というより
 バイオレンス・ホラー・アクション作家というイメージ。
 本作もSFではなくてホラーだなあ。
 夢枕獏に文句があるわけではないし、ホラーを貶すつもりもないけど、
 仮にも「日本SF50周年記念アンソロジー」のトリが
 これというのはいかがなものかなぁ。
 SFというジャンルの間口の広さを示したかったのかも知れないけど
 他の10篇が、程度の差はあれ「いかにもSF」な作品だっただけに
 ここはあえてSF色の強いものが欲しかった気も。


「楽園(パラディスス)」「リアリストたち」「あの懐かしい蝉の声は」
と、本書にはIT技術の進歩がテーマの作品が3作収録されてる。
これも時代なのだろうけど、
揃いも揃ってどれも明るい未来でないのはなぜだろう。

技術革新が早すぎて、10年後もわからない未来に対して
みんな不安なのかなあ・・・私も不安だけどね(笑)。


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