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ウルトラマンF [読書・SF]

ウルトラマンF (TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE)

ウルトラマンF (TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE)

  • 作者: 小林泰三
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/07/07
  • メディア: 単行本



評価:★★★★

「TSUBURA×HAYAKAWA UNIVERSE」
と銘打たれたコラボ・シリーズの第3弾。

まずは時代背景から。

ウルトラマンがゼットンとの戦いを終え、地球を去って1年。

世界各国は、ウルトラマンの不在を埋めるべく、
異星人や怪獣に対抗する戦力を拡充していた。
ウルトラ警備隊(地球防衛軍)の設立の準備も進んでいる。

つまり "『ウルトラマン』と『ウルトラセブン』の間の時代" に
この物語は設定されているのだ。

国連軍所属の科学者・インペイシャントは、
巨大昆虫怪獣から取り出した "血清" を用いて
人間を巨大化させる「巨人兵」の研究をしていたが、
未だ成功していなかった。

科学特捜隊は、今でも通常兵器による怪獣駆除を行っていたが、
一方でかつてウルトラマンだった男・早田の
身体の秘密を探る実験も続けていた。

さらには、異星人のもたらした超技術・メテオールを応用した
対怪獣兵器の研究までもすすめていた。

 放送当時はカタカナ表記だった "ハヤタ" だが、
 本書では早田進(はやた・しん)として登場する。
 これ、最初は作者の独自設定かと思ったんだけど
 この文章を書くためにwikiを見てたら
 後付けながら、映画『甦れ!ウルトラマン』(1996年)で
 漢字表記&フルネームが設定されていたんだね。
 他の登場人物も皆、この映画の設定に沿って表記されている。

しかし、早田に与えられる過酷な実験を看過できなくなった
富士明子隊員は、それを中止させようとして事故に遭遇、
自らの体が巨大化してしまう。

それは、かつてメフィラス星人によって
巨大化させられた姿と同じだった。
(TV放映第33話「禁じられた言葉」でのエピソード)

幸い巨大化は短時間で元に戻ったものの、
明子の身体を調べた井手は、巨大化を制御するシステムが
彼女の中にいつのまにか構築されていたことに驚愕する。

 本来、不可能である巨大化をうまく(それらしく)
 理屈づけて説明する下りはとてもよくできている。
 さすがは名作『AΩ』(アルファ・オメガ)の作者だ。

国連軍そしてインペイシャントは、
科学特捜隊に対して研究成果の引き渡しと
国連軍との共同研究・共同作戦を要求してきた。

不本意ながらもこれを受け入れる科学特捜隊。
しかしそんな彼らの前に次々と怪獣たちが来襲する。

そしてその戦いのさなか、巨大な炎に包まれる明子。
しかし彼女は、渦巻く炎の中から
白く美しい巨体をまとって現れるのだった・・・


さて、本書の主役は誰かと問われたらちょっと考えてしまう。

早田はもう、ウルトラマンではないし、
ウルトラマンと融合していた期間の記憶もない。
身分こそ隊員のままだが、実質は "研究対象" なので、
もちろん現場にも出てこれない。

明子は、いろいろな偶然が重なって
"ウルトラマンの力" を手に入れてしまうが、
どちらかというと状況に流されるまま
戦わざるを得ない羽目になっていく役回りで、
主役と言い切るにはちょいと抵抗がある。

個人的には、登場シーンおよび台詞の多さ、
ストーリー上の役回りからいうと
主役は井手隊員じゃないかなあと思う。

ウルトラマンなき世界で、ウルトラマンの力を求める人間たち。
それも純粋な防衛のためではなく、
思惑・陰謀・策略がその根底にはある。
その中で苦悩する井手の姿も読み所の一つではある。

明子との仲も、こんだけいろいろなことが起これば
恋愛関係になってもおかしくないだろう、とも思うんだが
井手にとって明子はあくまでも大事な仲間で、それ以上ではない。

そしてそれは明子の側も同じ。
早田に対してはやや思い入れがありそうだが、
それでも "仲間を超えた関係" にはならない。
このあたりは、TVシリーズの設定を踏襲しているのだろう。

村松隊長の台詞を読んでると
小林昭二氏の声で脳内再生されるのがちょっと悲しいが。

出番が少ない早田も終盤ではちゃんと登場して物語を締める。

物語が進行するに連れて、
どんどん人間から遠ざかっていく明子嬢。
もう彼女に平穏な "普通の女の子" としての日々は
帰ってこないのか?
ちゃんとお嫁にいけるのか?(笑)

読んでいると、だんだん年頃の娘を持つ父親の心境になってしまうが
ラストに至り、作者は広げた大風呂敷をきれいに畳んでみせる。
その "畳みぶり" も読みどころだ。


細かいところでは、
科学特捜隊の嵐隊員とウルトラ警備隊のフルハシ隊員には
(どちらも毒蝮三太夫が演じている)
実は意外な関係が隠されていたりと
(たぶんこのへんは作者のお遊び)
ウルトラシリーズをずっと見てきた人からすると、
うれしい小ネタがたくさんある。

ウルトラシリーズのファンの人、かつてファンだった人、
どちらにも楽しい読書の時間を約束してくれる本だ。


最後に余計なことを。

最初にタイトルを見たとき、「F」って何だろうって思った。
Flash かと思ったがそれじゃイナズマンだし(笑)  ←古いねぇ
Female かなとも思ったんだけど、
やっぱり順当に Fuji Akiko の「F」なんだろなあ。


さらに余計なこと。

下世話なことだが、明子嬢が巨大化したとき、
彼女の着ていた服はどうなったんだろう?
って疑問に思った人はいませんか。
私は思いましたよ(おいおい)。

じゃ、どうなっているのか?
気になる人は読みましょう(笑)

一つだけ言っておくと、よい子のみなさんは
そんなことを気にしてはいけないのですよ(笑)


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