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村上海賊の娘 全四巻 [読書・歴史/時代小説]

村上海賊の娘(一) (新潮文庫)

村上海賊の娘(一) (新潮文庫)

  • 作者: 和田 竜
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/06/26
  • メディア: 文庫




村上海賊の娘(二) (新潮文庫)

村上海賊の娘(二) (新潮文庫)

  • 作者: 和田 竜
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/06/26
  • メディア: 文庫




村上海賊の娘(三) (新潮文庫)

村上海賊の娘(三) (新潮文庫)

  • 作者: 和田 竜
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/07/28
  • メディア: 文庫




村上海賊の娘(四) (新潮文庫)

村上海賊の娘(四) (新潮文庫)

  • 作者: 和田 竜
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/07/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★★☆

戦国時代を舞台にした小説って、案外読んでないかなあ。
もともと時代小説ってジャンルに疎いし。
山田風太郎とかの伝奇小説ならけっこう読んでるけど
正統派な時代小説っていったら
記憶にあるのは『国盗り物語』(司馬遼太郎)くらいかなあ。

ドラマはまあまあ見たかなぁ。
NHK大河で戦国時代を扱った奴はたぶんだいたい見てる。

だから、私の戦国時代の知識は小説とドラマから得たものばかり(笑)。
そんなトンチキな私でも「村上水軍」くらいの名は知っている。

小説やドラマでも時折出てくるのだけど、
よく考えてみたら「水軍」の何たるかを何も知らない。

「水軍」と言うなら、どんな船に乗ってて
どんな武将が率いていてどんな戦い方をしているのかとか、
戦のない時はどうしているのかとか、
だいたい何処を根拠地にしていたのか。

本書はそんな疑問にも答えてくれるありがたい小説なんだけど
もちろんそれだけではない。

たいていの戦国時代小説は、一人の武将にスポットを当て、
その一生を追っていくものが多いと思う(私の思いこみかも知れんが)。
本書は武将ではなく、一つの合戦に焦点を当ててそれだけを描いている。
だからこの小説、物語の開始から終了までが(たぶん)2~3ヶ月くらい。
つまり長い戦国時代のうちの "一瞬" を切り取った作品なのだ。


時は天正4年(1576年)、織田信長は足利義昭を奉じて上洛を果たし、
前年には長篠の地で武田軍を粉砕、さらに西へ勢力を伸ばすべく
大阪の地で本願寺信徒との激しい戦いを繰り広げていた。

瀬戸内海西部、芸予諸島(しまなみ海道の通っているあたり)の
因島を本拠とする村上家は、
瀬戸内の海運を支配し、強勢を誇っていた。

その当主、村上武吉の娘・景(きょう)が本書のヒロインである。
性格は男勝りで豪放磊落・粗野粗暴。
じゃじゃ馬ぶり丸出しで海賊稼業に明け暮れている。
さらに "醜女" とあって、当年とって20歳ながら嫁のもらい手もない。

 当時、娘が20歳で未だ独身なら十分に "嫁き(いき)遅れ" だろう。
 現代でそんなこと言おうものならセクハラ発言だろうけど。

しかしそんな景に縁談が持ち上がる。
村上水軍を取り込みたい毛利家から、
直臣・児玉就英(なりひで)の嫁にとの申し出があったのだ。

交渉の場に現れた就英のイケメンぶりに一目惚れしてしまう景。
面食いなあたり、しっかり乙女な景がとても可愛い。
しかし残念ながら交渉は決裂、せっかくの縁談も流れてしまう。

 このあたりはラブコメ調でとても楽しく読める。

折りもおり、織田勢に囲まれて孤立無援の大阪本願寺を救援すべく
信徒の一行が乗り込んだ船を助けた景は、
彼らと一緒に大阪へ同行することにする。

 センチメンタル・ジャーニーですかな。

大阪の地へと着いた景は、織田方の水軍である
眞鍋海賊の当主・七五三兵衛(しめのひょうえ)と出会う。
驚くべきことに、眞鍋家をはじめとする大阪の男どもは、
景のことを "たぐいまれな別嬪" ともてはやすのだった。

時と場所が異なれば、美の基準もまた異なるものだが、
南蛮人に触れる機会の多かった大阪の人間から見ると、
彫りの深い顔つきの景は「エキゾチックな美女」に見えるらしい。
(たぶん現代なら充分に "個性的な美人" で通る顔立ちなのだろう)

すっかり気をよくした景は大阪で羽を伸ばすが
織田勢が本願寺を攻めたことをきっかけに眞鍋家と決別、
傷心を抱えて因島へ帰ることになる。

ここまでが前半のあらすじ。
後半に向けてのキャラ紹介も兼ねているのだろう。


後半ではいよいよ木津川合戦へと突入するのだが
かつては景にぞっこんだった七五三兵衛、そして眞鍋海賊は
村上水軍にとって最大最強の敵として
景たちの前に立ちはだかることになる。

驚くべきことに、三巻の末から四巻にかけて、
ほぼ文庫で350ページくらいが合戦シーンで
しかもそのすべてが海上戦。
質・量ともにボリュームたっぷりである。

 福井晴敏の『終戦のローレライ』文庫版(全四巻)も、
 最終巻がほぼ全部、最終決戦だったことを思い出したよ。

陸の合戦はイヤと言うほど読んできたが、
本書における海戦は新鮮さ抜群。
いやあこんなことができるのか、こんな武器を使うのか。
戦術的にも目新しいのだけど、何といっても
敵味方問わず "海の男" の武者魂というものが凄まじい。
ここで描かれる "男たちの戦い" は一読の価値がある。

客観的に見れば "馬鹿" とか "阿呆" の一言で
切って捨てられてしまうのだろうけど、
読み進むうちにまさにその "戦(いくさ)馬鹿な男たち" が
いっそ清々しく、そして愛おしくなってくる。
ここまで来ると、もうページを繰る手が止まらない。
圧巻とはまさにこのことだろう。

もちろん、その中において景もまた激闘を演じる。
百戦錬磨の屈強な男どもに対して一歩も引かず、
満身創痍になりながらも最後まで戦い抜いてみせる。
戦国時代小説史上、最強のヒロインといっても過言ではあるまい。

ベストセラーになったのも納得の傑作だ。


小早川隆景や雑賀孫市といった有名武将も登場し、
とくに孫市は単なる顔見せではなく、重要な役回りをこなす。
そのあたりも楽しく読める要素だろう。

 私の脳内映像では、孫市は林隆三の声で喋るんだなあ・・・
 わかるかなあ・・・
 わっかんねえだろうなあ・・・ by 松鶴家千とせ(笑)

これだけ話題になった本なので、
当然ながら「映画化」なんて話も出てくるだろう。
もしそうなるなら、なにぶん長大な話なので、
最近流行の二部作がいいんじゃないかな。
前編で景の最初の大阪行きを描き、後編で木津川合戦そのものを描く。
でも海戦シーンはスケールが大きすぎて予算が心配だなあ。


個人的には、ぜひアニメ化してほしいと思う。
深夜アニメで30分×24話ならちょうどいい分量じゃないかなぁ。
ヒロインのCVは、もちろん小清水亜美さんで(笑)。

いや、冗談でなく彼女ならぴったりだと思うよ。


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