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図書館の魔女 全四巻 [読書・ファンタジー]


図書館の魔女 第一巻 (講談社文庫)

図書館の魔女 第一巻 (講談社文庫)

  • 作者: 高田 大介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/04/15
  • メディア: 文庫




図書館の魔女 第二巻 (講談社文庫)

図書館の魔女 第二巻 (講談社文庫)

  • 作者: 高田 大介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/04/15
  • メディア: 文庫




図書館の魔女 第三巻 (講談社文庫)

図書館の魔女 第三巻 (講談社文庫)

  • 作者: 高田 大介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/05/13
  • メディア: 文庫




図書館の魔女 第四巻 (講談社文庫)

図書館の魔女 第四巻 (講談社文庫)

  • 作者: 高田 大介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/05/13
  • メディア: 文庫



評価:★★★★☆

気がつけばもう11月。
そろそろ読書感想録も再開しようと思って
読書記録を見たらびっくり。
今回の『図書館の魔女』を読んだのは8月だったよ。
3ヶ月も前のことなのでかなり忘れてる。
がんばって思い出しながら書いてみよう。


現実の世界では、「言葉は無力」な場面をしばしば見かける。
敵対勢力同士の「話し合い」が決裂あるいは中断して
武力紛争になだれ込むなんて、何度見たことか。

そしてそれはフィクションの世界でも同様。
"敵" に対しての「話し合い」や「説得」はものの役に立たず
(なかにはそれすら行われることなしに)
相手の武力侵攻を阻止するために、主人公もまた武力を手にする。

 ただ現実と異なるところは、最終的に
 "敵" とわかり合える結末を迎えることもあることか。
 (わかり合えないまま終わることも多いが)

しかし本書では、そういうネガティブに扱われがちだった「言葉の力」を
メインのテーマに取り上げていて、
当然ながら、その手のことを本業とする者を主人公に据えるという、
ファンタジーとしては珍しいというか目新しい物語をつくりだした。

「逆転の発想」であり「発想の勝利」とも言えるだろう。

 最終巻末の解説で作者の本業は言語学者とわかって、
 なるほどと思ったし納得もした。


さて、主人公がまたユニークだ。
外交交渉のための根回しに腐心し、会議においては主導権を握り、
自他の利益の最大化を目指して落とし所を探る。
なんだか老獪な政治家みたいだが、これをやってのけるのが
図書館の司書、それも年端もいかぬ美少女なのだ。
人呼んで『図書館の魔女』、彼女こそが本書のヒロインである。

 まあ、いささかライトノベル的ではあるが、
 ファンタジーならばある程度は許されるお約束だろう。
 リアリティ云々を言う人はそもそもこういう物語を読まないだろうし。

そして、従来のファンタジーとは異なり、
派手な合戦シーンなどはほぼ皆無である。
少人数での立ち回りや小規模な戦闘シーンはあるが、
全体の割合からしたらこれもわずかだろう。

その代わり、会議のシーンがやたら多い。
複数の人物が一つの部屋に集まりって
じっくりと語り合うシーンも含めたら、
文庫で1800ページを越える本書のうちのかなりの部分が
それで占められているといっていいだろう。

なら退屈なのか、というとそうではないんだなぁ。
そういうシーンが実に読み応えがある。
「ページを繰る手が止まらない」ほどスピーディな展開ではないが、
登場人物たちの丁々発止なやりとり、台詞の応酬が実に面白い。
「じっくり味わって読みたい」という気にさせる。

ちょっと前置きが長くなりすぎた。内容の紹介に入ろう。

本書には3つの国家が登場する。

多島海に面する王国「一の谷」。主人公たちの属する国でもある。
海を挟んだ西側には「アルデシュ」、北に位置する帝国「ニザマ」。

物語は、山奥の鍛冶の里に生まれ育った少年・キリヒトが
王宮の命によって故郷を離れるところから始まる。
「一ノ谷」王都にある史上最古の図書館で彼が出会ったのは、
自分とほぼ同年代の少女・マツリカ。
祖父である先代の引退に伴い、司書となった彼女は
古今東西の書物に接し、森羅万象に精通する、
さらに数多の言語を操ることすらできる天才少女だった。

彼女の役目は一介の司書にとどまらない。
水面下での各国との外交交渉を取り仕切っていて
王宮や有力政治家も彼女の言動に一目置いており
「一の谷」の政治への大きな影響力を持っていたのだ。

さらにキリヒトは知る。
"図書館の魔女"は、自らの声を持たない
(口をきくことができない)身であることを。

 戒律とかで「言葉を発するのが禁じられている」のではなく、
 身体能力としての「発声そのものができない」ようだ。
 そのあたりの事情は詳らかにされていないのだが、
 続編などで明かされるのかな?

幼い頃から手話を仕込まれてきたキリヒトは、
マツリカの手話通訳として図書館で働き始める。

折しも、アルデシュが「一の谷」領への侵攻を企てているとの
知らせがもたらされる。
裏で操るのはニザマ帝国の宰相・ミツクビ。
彼は「一の谷」の元老院議員にも切り崩しをかけ、
さらには暗殺者まで放ってきていた。

それを阻止すべくミツクビと対峙するマツリカ。
彼女の側近として仕えるキリヒトもまた、
否応なく国際謀略の世界へ引き込まれていく。


一巻から二巻にかけては比較的ゆったりとした進行だ。
(というか本書全体が割とゆったりとしてるんだけど)
国際社会での謀略と並行して、
キリヒトとマツリカを中心とした日常も描かれていく。

王宮の地下迷宮を二人で探検するシーンは
いささか冗長かなあとも思ったんだけど
ちゃんと後半の伏線にもなってるし、
回を重ねるうちに二人の "お決まりのデートコース" みたいに
なってくるのもまた面白い。

二巻の終盤、ニザマの刺客がついにマツリカの前に現れ、
絶体絶命の危機を迎えるが、ここである事実が明かされる。

そうだよねえ。ファンタジーはこうでなくっちゃ。
このあたりから俄然、読む方もピッチが上がってきた。

アルデシュ侵攻の原因は、麦の凶作にあった。
マツリカは穀倉回復の手段を提供することで戦争の回避をもくろむ。

言葉を持たぬ少女が持つ一本の筆が紡ぎ出す言葉を載せて
無数の手紙が世界の各地へ向かう。
言葉を持たぬ少女が "言葉" のみを武器に世界と渡り合う。

しかしミツクビはそれを座視することはない。

三巻では、ニザマが送り込んださらなる刺客が
彼女の "言葉" を封じようとする。
しかしマツリカはそれに屈することなく、
キリヒトとともにニザマとの交渉の場へと向かう・・・


田舎育ちで純朴なキリヒト。
博覧強記だけど傲岸不遜で偏屈者のマツリカ。
出自も性格もおよそ正反対の二人で、
最初の頃は前途多難を思わせるカップルなんだが
物語が進むにつれてしだいに心を通わせていく。

このあたりは典型的なボーイ・ミーツ・ガールな
ラブ・ストーリーにもなっている。
巻を追うに従い、次第にキリヒトに対しての
マツリカ嬢のツンデレ度が増していくのが実に微笑ましい。
本当は「純愛」って言葉もつけてあげたいんだが
マツリカ嬢が本気で嫌がりそうなのでやめておこう(笑)。

天才であり、他に代わる者のない重い使命を背負うが故に
孤独であったマツリカが、初めて得た同世代の仲間であるキリヒト。
しかも彼女に対して絶対的な忠誠を誓ってくれる。
そりゃあ "大切な人" になるでしょう。

 ここまで書いてきて、ふと『ベルばら』のオスカルとアンドレが
 頭の中をよぎってしまう私はやっぱりオジサンなんだろうなあ。

最終巻に至り、クライマックスにおける二人の "ふるまい" は、
もはや長年連れ添った熟年夫婦もかくやと思わせるほど息もピッタリ。

 文庫4冊1800ページをこえてついにここまで来たか、
 としばし感慨に耽ってしまうシーンだった。

マツリカに仕える二人の司書であるハルカゼとキリンをはじめ
魅力的なキャラも多いのだけど、もういい加減長く書いてきたので割愛。

「言語」に関する蘊蓄も計り知れないほど詰め込まれているんだけど
(しかもそれを面白く読ませるのはたいしたもの)
これも私ごときでは紹介しようにも手に余る。
このへんは「読んでみて下さい」としか言えない。


ラストでは、さらなる物語が始まることを予感させていて
実際、続編も刊行されているようだ。
さらに続巻も予定されているらしいので、
また楽しみなシリーズがひとつ増えました。


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