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築地ファントムホテル [読書・ミステリ]

築地ファントムホテル (講談社文庫)

築地ファントムホテル (講談社文庫)

  • 作者: 翔田 寛
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/08/12
  • メディア: 文庫



評価:★★★

昨今、「築地」といえば "市場" だが(笑)、
およそ150年の昔、文明開化真っ盛りの東京には
「築地」の名を冠したホテルが存在した。
しかし慶応4年(1868年)に開業したそのホテルは
わずか4年後に火事により焼失してしまう。
本書はこの史実をもとにしている。

明治5年2月、焼失した「東都築地ホテル館」の
焼け跡から刺殺死体が発見される。
殺されたのは英国人貿易商ヘンリー・ジェームス。

横浜在住の英国人報道写真家フェリックス・ベアトは
助手の少年・菅原東次郎を引き連れて焼け跡を訪れるが、
警察による取材制限を受けてしまう。

ベアトは、警官と押し問答をするうちに
警視・米倉から取引を持ちかけられる。
取材を許される代わりに
救出された宿泊客からの事情聴取に協力することになったのだ。

そして、ホテル滞在中にヘンリーと懇意になった
英国人教師アーサー・モリスから驚くべき話を聞く。
火事のさなかにヘンリーの死体を発見したモリスは、
その背後に鎧甲に身を固め、刀を振りかざした
日本人らしき者の姿を目撃していた。
築地ホテルは、外国人専用ホテルとして
日本人の立ち入りが厳しく制限されていたにも関わらず・・・


歴史ミステリは往々にしてそうだが、
その時代、その場所でこそ成立する物語になる。
本書でも作者が明治を舞台に選んだのは
この時代、この状況においてこそ成立するミステリを
描きたかったからだろう。

「外国人専用ホテル」という特殊な場所だからこそ成立するからくり、
そしてこの時代だからこそ発生しうる動機。
背景としての文明開花期の日本、
そして「明治」という時代の抱える "闇"。

甲冑武者からみの真相はいささか「え?」なのはご愛敬かなあ。
ちょっと期待していたんだけどね。

とは言っても、終盤になって明かされる、
事件に関わった人間たちの間に隠されたつながりは
なかなか意外性があって、
甲冑武者の "残念さ" を帳消しにして余りある。

ただ、ミステリとしてはよくできているのだろうけど
読後感がかなり重くて、事件が解決しても誰もhappyにならない結末は
私のストライクゾーンからはちょいと外れているかなあ。


ちなみにフェリックス・ベアトは実在の人物。
wikiによると1863年頃から1884年まで、
およそ21年にわたり日本に在住していたらしい。

本書のエピローグで、晩年を迎えたベアトが
郷愁とともにこの事件を回想するシーンはなかなか。


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