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写楽 閉じた国の幻 上下 [読書・ミステリ]

写楽 閉じた国の幻〈上〉 (新潮文庫)

写楽 閉じた国の幻〈上〉 (新潮文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/01/28
  • メディア: 文庫




写楽 閉じた国の幻〈下〉 (新潮文庫)

写楽 閉じた国の幻〈下〉 (新潮文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/01/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

私は絵心のない人間で、今までの人生で
人から絵が上手いと言われた記憶がない。

小学校1年か2年の頃に一回だけ賞状をもらったことがあるのだけど
それ以降はさっぱり。中学の美術の成績はさんざんだった。
もちろん高校では音楽を選択したし(まだ歌の方がましだった)
大学の頃、生物学実習で細胞のスケッチを描いたことがあるが
これも担当の先生からのダメ出しの嵐を食らったものだ。

閑話休題。

「写楽」というのは謎の絵師として有名で
わずか10ヶ月あまりの活動期間の中で
強烈な個性の絵を多数発表した後は
いっさい筆を断ち、姿を消してしまう。

当然ながら、その正体は同時代を生きた絵師、
あるいは描画能力に秀でた人物の別名義だったのではないか、
という説が出てくる。

実際、多くの説が出ていて百家争鳴らしいのだけど
この本を読んでちょっとネットで調べたら
学会というか研究者の間では「正体はこの人」というのが
ほぼ固まり、定説化しているらしい。

とは言っても、当時を生きていた人は誰もいないのだから
そこに "新説" の登場する余地がある。

しかし、長年にわたっていろんな人物が
"候補" として挙げられてきたのだから、
よほど意外な "正体" を提示しないことには
インパクトに欠けるだろう。

その困難な課題に挑戦したのが本書だ。
本格ミステリの帝王・島田荘司は、実に意外な "真犯人" を指摘する。

いやあこれはほんとにビックリである。


内容紹介に移ろう。

大学講師・佐藤は不慮の事故で一人息子を失い、
もともと不仲であった妻との間も決定的に壊れてしまう。

失意のどん底にあった佐藤に、出版社から著書の刊行が打診される。
彼が選んだテーマは「写楽」だった・・・

当然ながら、読者は写楽の正体にまつわる歴史ミステリを期待して
読み始めると思うのだけど、
冒頭から年端もいかない少年が命を落とすという
陰鬱なシーンが展開する。
佐藤が研究へ没頭する理由付け、という狙いがあるのは分かるんだが
それにしては重すぎて、
いささか読み進めるのが辛くなるというのが本当のところだ。

とは言っても、美貌の大学教授・片桐が登場し、
写楽の正体へ迫ろうとする佐藤の探求が始まってからは
面白く読めるんだけどね。


物語は、佐藤を取り巻く状況を描きつつ、写楽の正体に迫る現代編と
写楽登場までの "前夜" を描く江戸編が交互に語られていく。

佐藤が始めに写楽の正体と睨む人物もなかなか意外で
(未読の人のために名前は挙げないけど)
これでも充分面白いと思うのだけど、はやばやと否定される。
なんとなれば写楽の登場以前に亡くなっているから。

でもこの人、死亡時の状況にも諸説があって
もっと長く生きてたって "言い伝え" もあるくらいだから
この説で突っ走っても面白いんじゃないかなあ・・・

なぁんて思ってたら、
作者が最終的に提示した写楽の正体は
これを遙かに上回るインパクトがあって、
さすがは島田荘司というべきだろう。

ただ、あまりにも意外すぎて
写楽の正体が本書通りだった可能性はかなり低いだろう。
でも思考実験としてはとても面白い読み物になっていると思う。


一方、ラストまで読み進んでも
佐藤個人を取り巻く状況に関してはほとんど解決されない。
息子の死亡事件の裁判とか、妻との離婚問題とか。
片桐教授との仲も進展するのかしないのかも不明なまま。

巻末のあとがきによると、現代編の登場人物を巡っても
長大なストーリーが構想されていたのだけど、
写楽の正体を探求する部分が長くなりすぎて
入れられなかったとのこと。
いつか続編を書きたいともある。

ならば、それが語られる日を待ちましょう。


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