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大江戸恐龍伝 全6巻 [読書・SF]

大江戸恐龍伝 一 (小学館文庫)

大江戸恐龍伝 一 (小学館文庫)

  • 作者: 夢枕 獏
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2015/11/06
  • メディア: 文庫




大江戸恐龍伝 二 (小学館文庫)

大江戸恐龍伝 二 (小学館文庫)

  • 作者: 夢枕 獏
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2015/11/06
  • メディア: 文庫




大江戸恐龍伝 三 (小学館文庫)

大江戸恐龍伝 三 (小学館文庫)

  • 作者: 夢枕 獏
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2015/12/08
  • メディア: 文庫




大江戸恐龍伝 四 (小学館文庫)

大江戸恐龍伝 四 (小学館文庫)

  • 作者: 夢枕 獏
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2015/12/08
  • メディア: 文庫




大江戸恐龍伝 五 (小学館文庫)

大江戸恐龍伝 五 (小学館文庫)

  • 作者: 夢枕 獏
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2016/01/04
  • メディア: 文庫




大江戸恐龍伝 六 (小学館文庫)

大江戸恐龍伝 六 (小学館文庫)

  • 作者: 夢枕 獏
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2016/01/04
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

私が「平賀源内」という人物を知ったのは、
NHKのTVドラマ『天下御免』(昭和46年)だったと思うんだが、
如何せん私がこのドラマの存在を知ったときはもう終盤で、
最終回直前の数話しか観られなかった。
そのあまりの面白さにビックリしたのだけど、時すでに遅し。
当時はVTRにも残されなかった(テープが高価だったため)ので
再放送もされず、とても残念だったのを覚えている。

閑話休題。


さて、本書を読む前の私が持ってた事前知識は
「夢枕獏版『ゴジラ』」で、
「江戸の町で大暴れする恐竜と平賀源内が戦う話」という
とてもざっくりとしたもの。
怪獣小説が大好きな私としては読まないわけにはいかない。
というわけで取りかかったんだが・・・


10代将軍・徳川家治の世、明和8年(1771年)。
高松藩浪人・平賀源内は、様々な分野に有り余る才能を発揮していた。
発明は言うに及ばず装飾品の開発、浄瑠璃の執筆、
果ては秩父の鉱山開発まで乗り出していたが、
どれも中途半端で(文字通り)ひと山当てるまでには至らず、
思うように行かない自分の人生に鬱屈した思いを抱いていた。

そんな時、「龍の掌」なるものを所蔵する寺へ赴いた源内は、
それを150年前に "竜宮" から持ち帰った男のことを知る。
残された書きつけに記された「ニルヤカナヤ」という島が
龍の棲むという "竜宮" のことなのか?

折良く源内のもとへ豪商・三津井庄左衛門から依頼が舞い込む。
息子・庄九郎が乗った船が遭難し、ただ一人生還した水夫によると
彼らは「ニルヤカナヤ」という島へ漂着したという。

庄九郎の探索に乗り出した源内は、
庄左衛門の財力で巨大船「ゑれき丸」を完成させ、
「ニルヤカナヤ」の手がかりを求めて琉球へ向けて出港する・・・


何せ文庫で全6巻、総計2000ページを超える大長編。
ここまでの話で前半3巻分を要している。でも、
なかなか「大江戸」で「恐竜」が「大暴れ」してくれない。


いよいよ「ニルヤカナヤ」に到着したものの、
島は二つの国に別れて内戦の真っ最中。
それに巻き込まれていく源内一行を描くのが4巻~5巻中盤。

内戦に決着をつけ、庄九郎を含めた生存者と
「ニルヤカナヤ」に棲んでいた肉食恐竜・"饕餮"(とうてつ)を
「ゑれき丸」に載せ、源内たちが江戸へ帰ってくるのが5巻の終盤。
その "饕餮" が逃げ出し、大暴れするのが6巻中盤から終盤にかけて。
やっとここで「大江戸」「恐竜」伝になるというわけだ。

 ちなみに、なんで絶海の孤島に太古の恐竜が生き延びていたのかも
 いちおう説明はされてる。


冒頭にも書いたが、本書は「夢枕獏版『ゴジラ』」との触れ込み。
しかし、上記の文章を読んでもらえばおわかりかと思うが
ストーリーこそ『キングコング』を踏襲しているけれど、
私の期待した「怪獣小説」としての雰囲気は希薄なんだなあ・・・

はじめて本家の『ゴジラ』(1954)を観た時、
白黒の映像も相まって、スクリーンの中の怪獣の姿に
ものすごい恐怖感を覚えたものだが、
こちらの "饕餮" から感じられるのは、どちらかといえば悲哀に近い。

時代を超えて生き延びてしまったがために、
楽園から連れ出され、見世物になり、逃げ出せば攻撃される。
"饕餮" には非はなく、すべては人間のエゴのなせる業だったりする。

このあたりは読む前とちょっとイメージが違ったなあ・・・
もっと獰猛で破壊の権化のような大暴れが観られると思ってたから。

平賀源内の活躍も、人間に迫害される "饕餮" を憐れんで、
なんとか故郷の島へ返してやろう、という方向。
てっきり「戦う」とばかり思ってたから・・・

 エレキテルを3000台くらい量産して、それを一斉に発電させて
 恐竜の "感電死" を図る・・・くらいの
 ぶっ飛んだ展開を期待してたんだけどね。
 ゴジラが高圧線でバチバチするシーンを再現するみたいにさぁ。

まあ、私の読みたかった「怪獣小説」とは
方向性がいささか異なっていたのは事実だ。


じゃあ、つまらなかったのか? というと、そんなこともないんだな。
謎の一味との剣戟があったり、大洋のまっただ中で嵐に遭遇したり
絶海の孤島での籠城戦があったり、もちろん江戸の町をのし歩く恐竜も。
日本史上でも比類なき天才・平賀源内を主役にした冒険小説、
と割り切って読めば、とても楽しい読書の時間が過ごせる。

また、本筋のストーリーと並行して「火鼠の一味」なる
謎の盗賊団の暗躍が描かれていくんだが、
ラストではそれが恐竜を巡る大騒動と絡み合い、
長大な物語のあちこちに撒かれていた伏線が回収され、
意外な真実が明らかになる。このあたりはミステリとしても面白い。

平賀源内と言えば田沼意次は切っても切れないが
杉田玄白、前野良沢、円山応挙、長谷川平蔵(「鬼平」!)など
同時代の "有名人" たちが綺羅星の如く登場し、
物語を盛り上げてゆく。

文庫で2000ページ超の作品だけど
エピローグに溢れる爽快感と限りない希望にたどり着いてみると、
最後まで読み通した甲斐があるというものだ。

基本的に、長い話は嫌いではないので
全6巻、通読するのに要したおよそ3週間、
とても楽しい思いをさせてもらいました。


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