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三匹のおっさん [読書・その他]

三匹のおっさん (文春文庫)

三匹のおっさん (文春文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/03/09
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

若い頃は「還暦」なんて、遙か彼方のことだと思っていたのだけど
気がつけばもう目の前に迫っている。時の流れは早い。

精神的には若い頃のまんまのつもりだが
(逆に言えば成長してないってことか)
身体は着実に衰えてきてる。
眼はぼやけるし歯は痛いし、あちこちに "ガタ" がきてる。
でも「気だけは若い」んだよねえ。

だから、本書の三人組の心境はよく分かる。
私だって赤いちゃんちゃんこを贈られたらムッとするだろうし、
電車で席を譲られても素直に喜べないだろう。
まだまだ "現役" だって言いたい。

閑話休題。


サラリーマンの傍ら剣道教室を主宰していたキヨ(清一)。
妻と切り盛りしていた居酒屋を息子夫婦に任せたシゲ(重雄)。
小さな町工場を経営するやもめの技術屋ノリ(則夫)。
還暦を迎えた幼なじみ3人組だが、まだまだ老け込むに早いとばかりに
夜な夜な町内を見回る自警団を始める。
いわば "ご近所様限定の正義の味方" だ。
彼らが出くわすのは、ご町内の善男善女を悩ませる "悪党ども"。
三匹の侍ならぬ三匹のオッサンが颯爽と悪を懲らしめる。


「第一話」
 会社を定年退職したキヨは、嘱託として
 町内にあるゲームセンターの経理責任者となる。
 しかし、あまりの杜撰な金銭管理に唖然となるが、
 そこにはさらに"ある事情"があった・・・

「第二話」
 町内に痴漢が出没していた。
 三人組も痴漢を一人捕まえたが、どうやら便乗犯らしい。
 そんなある日、キヨの孫の高校生・祐希はバイトの帰りに
 女子高生が暴漢に襲われるところに遭遇する。
 彼女はノリの娘・早苗だった・・・

「第三話」
 シゲの妻・登美子の前に現れたロマンスグレーの男は
 小学校時代の同級生・広野と名乗った。
 思いがけない出会いにときめく登美子だったが・・・

「第四話」
 キヨのもとに剣道教室の生徒だった中学生・昴(すばる)が現れる。
 中学校で飼っているカモたちに危害を加えている者がいるという。
 卒業生である祐希と早苗、そして三匹が解決に乗り出すが・・・

「第五話」
 痴漢事件以来、祐希といい雰囲気になっていた早苗。
 しかしある日、祐希を見かけた早苗の同級生・潤子から
 「彼を紹介して」と頼まれる。些細な行き違いから
 祐希は潤子とつき合うことを承知するが、
 彼女はある "トラブル" に巻き込まれていた・・・

「第六話」
 商店街の一角、空いた店舗に入ったのは催眠商法の業者。
 町内の人々を狙って客引きの真っ最中。
 被害を未然に防ぐべく、三匹は客を装って店に潜入するが・・・


メインとなるのは還暦三人組だが、彼らに絡む若者世代の代表が
キヨの孫・祐希とノリの娘・早苗だ。

息子夫婦とは今ひとつそりが合わないキヨだが
なぜか祐希とは妙にウマが合うようで、
三人組の活躍のほとんどに祐希は絡んでくる。

見かけこそチャラ男だが、一本芯が通っていて本質的には真面目。
善悪の区別もきちんと判断できて勉強もそこそこやっている。
(続編で明らかになるが、公立大学を受験しようというくらいだから
 成績もそんなに悪くないはず)
口は悪いが内心では祖父であるキヨを尊敬している。

まあちょっとできすぎなくらいで
「こんな孫がいたらいいなあ」って思わせる好青年である。

できすぎと言えば早苗ちゃんだ。
母親を早くに亡くしたために、幼い頃から家事全般を切り盛りし、
炊事洗濯なんでもこなす。それでいて
気立てはよく、父親思いの優しい娘に育った。
まさにオジサンキラーを画に描いたみたいな子で
「こんな娘がいたらなあ」とか
「息子の嫁に欲しい」とか思う人もいるだろう。

祐希と早苗のラブコメシーンは、
さすが当代随一のラブストーリー作家の面目躍如。
この二人を主役にしても長編が一本書けそうである。


還暦を迎えたおっさんたちが、
町内にはびこる "悪" をたたきのめす。
中学生や高校生の遭遇した事件も見事に解決し、
孫世代から尊敬の目で見られる。
どちらも願ってもなかなか実現できないことだ。
ある意味 "熟年世代の願望充足小説" でもあるのだろう。
しかしそこは達者な有川浩のこと。
おっさんの "かっこよさ" を、嫌らしくならずに描き出している。
実際、私はとても楽しんで読ませてもらった。

本書には続編「三匹のおっさん ふたたび」がある。
実はこっちの方も読了しているのだけど
もし本シリーズを未読の人がいたら、
この2冊は間をあまり開けずに読んだほうが楽しめると思う。
本書の「第六話」のラストの状況が
そのまま続編の「第一話」冒頭につながっているので。

もっとも、本書を読んだ人なら
言われなくても続編を読みたくなると思うけど。


あと、どうでもいい話なんだが
「三匹のおっさん」は文春文庫、
「ふたたび」は新潮文庫なのはなぜ?
文藝春秋とケンカでもしましたか有川さん?

と思ってたら、今度は2冊とも講談社文庫から出てたよ。
10年20年経って復刊する時に違う出版社からってのはよくあるけど
まだ出て3~4年だよねえ。
いったいどうなってるんでしょう・・・