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大空のドロテ 上下 [読書・冒険/サスペンス]

大空のドロテ(上) (双葉文庫)

大空のドロテ(上) (双葉文庫)

  • 作者: 瀬名 秀明
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2015/11/12
  • メディア: 文庫




大空のドロテ(下) (双葉文庫)

大空のドロテ(下) (双葉文庫)

  • 作者: 瀬名 秀明
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2015/11/12
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

幼少期のミステリ読書体験に、ホームズと並んで
ルパンを挙げる人は多いだろう。私もその一人だ。

ちょっと思いつくままに挙げても
「奇岩城」「813」「緑の目の令嬢」「三十棺桶島」「虎の牙」
「カリオストロ伯爵夫人」「バーネット探偵社」・・・
懐かしいタイトルばかりだ。

そんな私の前に、この本は現れた。


20世紀初頭の世界を舞台にアルセーヌ・ルパンの新たな物語の幕が開く。
主人公には空に憧れる少年とサーカスの少女を配し
冒険を通じて成長していく姿を描く。
脇役陣にはルパン・シリーズからのキャストをそろえ、
さらには実在の人物まで登場させる。
フランスの片田舎の町を旅立った少年は、
世界の運命を左右する力を秘めた財宝を求めて
愛する少女とともに幾多の困難をくぐり抜け、
いつしかアフリカの大空を飛び回り、砂の大地に降り立つ。

本書のストーリーをざっくり書くとこうなる。
これだけでも胸がわくわくしてくるだろう。

というわけで文庫上下巻、合計1000ページに及ぶ大著に挑んだのだけど、
だがしかし・・・なんだなぁ。


感想は後に回して、まずはもう少し詳しい紹介をしよう。


時は1919年。
フランスはノルマンディー地方の町・ドンフロン。
そこで暮らす14歳の少年・ジャンが主人公だ。
両親を失い、祖父と暮らしながらも大空への憧れを胸に抱いている。
彼はある日、ドンフロンを訪れたサーカス団の一員で、
飛行機で曲芸をする少女・ドロテと知り合う。

赤ん坊の時に修道院の前に置き去りにされ、孤児として育ったドロテ。
彼女の身元を示す手がかりは、一枚の黄金のメダルのみ。

しかしそのメダルを狙う "謎の一団" が現れた。
"疣(いぼ)鼻の老人" とその配下たちは執拗にドロテを追いかける。
一団の襲撃から彼女を救い出したジャンだったが、
彼らの怒りを買ってしまい、家は焼かれ、祖父は命を落としてしまう。

折しも、ルパンを名乗る何者かが
大胆不敵な犯行予告とともに古銭を盗み出す事件が起こっていた。
盗まれた貨幣は、同じものが5枚鋳造されており、
それにはプランタジネット家の財宝のありかを示す
手がかりが秘められているという。
そして、ドロテが持つメダルはその中の1枚だった。

 ちなみにwikiによると、プランタジネット家とは
 12世紀に英仏にまたがる大王国を築いた王朝の家系である。

第II部では、「奇岩城」の舞台となったエトルタにて、
次なるメダルを狙うルパン(を名乗る怪盗)と
フランス警察との攻防が描かれる。
サーカス団と共にエトルタに向かったジャンとドロテ。
その二人の前に再び "疣鼻の老人" が現れる。
そして次第に明らかになるドロテの出生の秘密。
なんと彼女はルパンの娘かも知れないのだ・・・

世界を支配することもできる "巨大な力" を秘めた
プランタジネット家の財宝を巡り、物語の舞台は
第III部のパリ、そして第IV部のアフリカへと拡がり
物語は秘境冒険小説へと変貌していく。


本書はルブランが書かなかった空白部分を埋める作品、と言う位置づけ。
作者は膨大な原典に当たり、
他の作品との矛盾が生じないように時代を選び、
当然ながら他作品のキャラも大挙して登場させている。
(まあパスティーシュなのだから当たり前かも知れないが。)

 とは言っても、大胆に設定を変更している部分もある。
 (改変というより作者による独自の解釈という方が正しいが) 
 「えっ、そうだったの?」
 私も驚いた "新解釈" は読んでのお楽しみだろう。

文庫で1000ページということは、たぶん原稿用紙だと1500枚近い大作。
ルブランの原典を詳細に読み込み、当時のヨーロッパ・アフリカの
風俗や情勢も十分に下調べをして書かれているのはひしひしと感じる。
そういう意味では、並々ならぬ労力と情熱を注ぎ込んだ、
途轍もない「力作」なのは間違いない。

でもそれがそのまま作品の高評価につながるか、と言われれば
「それはそれ、これはこれ」なんだなあ。

いささか乱暴だが、一口で言うと「疾走感に乏しい」と感じる。
波瀾万丈の一大冒険活劇のはずなのに、である。


ルパン・シリーズに関する蘊蓄も尋常ではないし
背景となる世界の書き込みも半端ではない。
描写が厚くてリアルなのは間違いないんだが、
逆にそれが読むテンポを妨げているような気がしてる。

海外作品を翻訳したような文体(って思うのは私だけかも知れないが)
もあって、すいすい読めるとはいいがたい。

特に後半に入ると、ルパン・シリーズを知らない人や、
昔読んだけど細かいとこはさっぱり忘れてる人(私だ)には
今ひとつぴんとこない展開もあって、
(とりあえずストーリーは追っていけるのだけど)
ちょっと読むのがしんどくなってきた。

「マニアック」と言ってしまったら言い過ぎだろうが、
原典を知ってる度合いによって、
楽しめるレベルがかなり異なるのではないだろうか。
(これも、パスティーシュなのだから当たり前、とも言えるが)

 ルパン・シリーズを知らない人っていないと思ってたんだが
 若い人の中にはアニメの「ルパン三世」は知ってても
 ルブランの「ルパン」は読んだことないって人は
 けっこういるんじゃないかなぁ。
 もちろん、ルパン・シリーズが大好きで何回も読み返してる、
 なんて人にとっては、
 本書はたまらない魅力に溢れているんだろう、とは思う。


なんだか文句ばっかり書いてるようだが、それもこれも、
面白くなりそうな要素はてんこ盛りにあるのに、
それがうまく伝わってこなくて、なんだかスゴくもったいない。
そんな気がして仕方がないから。

 器に大盛り、味付け濃いめ、食べたら胃もたれ。そんな感じ?

枝葉を切り払って、長さをこの2/3くらいにして、
展開をスピーディに、活劇部分のアクションを増量したら
リーダビリティがぐ~んとアップして、
もっと燃えて萌えられる(笑)んだろうけど、
たぶんそれでは、作者が書きたかったものとは違ってしまうのだろう。

結論:やっぱり瀬名秀明とは相性が悪い(苦笑)。

星3つにしようかと思ったんだけど
ルブランへのリスペクトと作者の情熱で、星半分増量。


最後に余計なことをいくつか。


その1

本書のプロローグは1963年。
一人の若い作家が高齢の大御所を訪ねていくところから始まる。
その老作家が44年前(本編の1919年)の出来事を回想する
(つまり彼は本編の登場人物の一人)、
というかたちで物語の幕が上がる。
この二人の正体(どちらも実在の作家)も最後に明らかになるのだけど、
この二人がこの "組み合わせ" である必然性はあったのかなあ。


その2

主人公の男の子の名がジャン、ヒロインがサーカスの少女。
そして彼女の持つ "アイテム" を狙う一団が現れる、なんて
まんま「ふ○ぎ○海○ナ○ィ○」じゃないか、
って突っ込みが入りそうだが(私も入れました)、
中盤以降にドロテの本名が明らかになってみると、
案外、狙ってるのかなとも思えるが、まさかね。
真相は不明です(笑)。


その3

本編終了後のジャンとドロテがどうなったのかが
すんごく気になるんだけど、後日談は一切語られない。
わずかに老作家の回想にドロテがちょっぴり出てくるけど・・・
すぱっと切ってしまうのも潔いとは思うが、
やっぱりちょっとは知りたいよねえ。

 「ふ○ぎ○海○ナ○ィ○」は、主役カップルをはじめ、
 その他のキャラも含めて後日談(12年後)をしっかり描いていたしね。

共白髪になった二人が見たいとまでは言わないが、
もうちょっとサービスしてよ、瀬名さん(笑)。


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