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黒い破壊者 宇宙生命SF傑作選 [読書・SF]

黒い破壊者 (宇宙生命SF傑作選) (創元SF文庫)

黒い破壊者 (宇宙生命SF傑作選) (創元SF文庫)

  • 作者: A・E・ヴァン・ヴォークト
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/11/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★

宇宙へ進出した人類が遭遇する多種多様な生命体との
ファースト・コンタクト、協調や対立など、
様々な関わりを描いた作品を集めたアンソロジー。

「狩人よ、故郷に帰れ」リチャード・マッケナ
 地球人の末裔であるモーディン人は、
 フィトと呼ばれる植物に被われた惑星を見つけた。
 彼らは駆除用植物ザナシスを投入して環境を改造、
 フィトを一掃したのち、故郷では絶滅しかけている
 大型動物グレート・ラッセルを繁殖させようとするが・・・
 自分に都合のよいように環境を変えようとする人類。
 それに対し、しなやかに抵抗し続ける大自然。
 エコロジーをテーマにしたSFなんだけど、それよりも
 環境改造の作業員ロイとフィトの研究者ミドリとの
 ラブ・ストーリーとして楽しませてもらった。
 フィトの乱舞するラストシーンの美しいこと。

「おじいちゃん」ジェイムズ・H・シュミッツ
 惑星への植民団の先遣隊として2000人がやってきてから4年。
 海岸の浅瀬に棲息する巨大な蓮のような生物は、
 人間たちの水上移動の手段として利用されていた。
 中でも50フィートの大きさを持つそれは<おじいちゃん>と呼ばれ、
 先遣隊の一人である15歳の少年・コードが世話をしていた。
 ある日、コードは植民団の評議員ら3人とともに
 <おじいちゃん>に載って海へ乗り出すが、
 突然<おじいちゃん>は暴走を始める・・・
 異性の生命体がもつ異様な生態、というテーマ。
 本作のネタ自体はそんなに突飛なものではないが
 わかってみると、<おじいちゃん>という呼び名は失礼かなぁ。

「キリエ」ポール・アンダースン
 射手座に出現した超新星に向かう探検隊を載せた
 宇宙船<大鴉(ザ・レイヴン)号>。
 隊員の中には、御者座イプシロン星で生まれた
 プラズマ生命体ルシファーと、
 "彼" とテレパシーで意思疎通ができる女性・エロイーズがいた。
 しかし超新星の星域への "ジャンプ" の直後、
 宇宙船の主動力炉が故障してしまう・・・
 意外なほど紳士的で女性に優しいルシファーがご愛敬。
 ラストのオチは、星野之宣の某短編に同じネタがあったなあ。
 どちらも哀感に満ちていて切ないが。

「妖精の棲む樹」ロバート・F・ヤング
 作者はラブストーリーSFの名手なんだけど、
 今回に関しては恋愛要素はほぼ皆無。
 巨大な樹木に被われた鯨座オミクロン星第18番惑星。
 樹木作業員のストロングは、伐採のために
 1000フィートを超える、惑星最大級の樹に登り始める。
 しかしその途中、彼は一人の女性と出会う。
 妖精めいた顔、金色の髪の彼女はストロングに語りかける。
 《なぜ地球人は樹を殺すの?》
 本作はのちに長編化されて「The Last Yggdrasil」(未訳)になった。
 「時が新しかったころ」も「真鍮の都(宰相の二番目の娘)」も、
 創元SF文庫のアンソロジーに短編版が収録されたら、
 時を置かずして長編版が邦訳された。
 ならば、これも長編版の邦訳が出るのかしら?
 ちょっぴり期待。

「海への贈り物」ジャック・ヴァンス
 生物濃縮を利用してレアメタルを取り出す養殖鉱業社のプラント。
 作業員のレイトが行方不明になり、責任者のフレッチャーは
 軟体動物ストリッカル・モニターが犯人とにらむ。
 そして、モニターが共生関係を結ぶ水棲動物・デカブラック
 (ヒトデとジュゴンが合体したような生物)
 には、ある秘密があった・・・
 タコとかイカとかエイみたいな不気味な生き物が出てきて、
 ちょっとホラーな雰囲気も漂う出だしなんだけど、
 きわめてまっとうな異星生命SFとして着地する。
 うーん、でもやっぱり好きにはなれないかなぁ。

「黒い破壊者」A・E・ヴァン・ヴォークト
 外見は真っ黒の子猫のようだが、耳は巻きひげみたいになっていて
 電磁波を自由自在に操り、生命維持のための呼吸も必要としない。
 破壊力抜群の四肢を持ち、おまけにずるがしこいまでに知恵が回る。
 人間の裏をかくのも造作もない。そんなヤツが襲ってくる。
 宇宙生物では横綱級に有名かつ人気があるケアル様の登場だ。
 名作『宇宙船ビーグル号の冒険』第一話の原型となった短編である。
 私も20代の頃に『ビーグル号』を読んだけど、
 このケアルの話しか覚えてなかったよ。
 それだけ印象が強烈だったんだね。
 あまりの人気ぶりに、自作にこの "超生物" を登場させてる
 作家さんもたくさんいるとのことだ。
 (ダーティペア・シリーズにも出てたよなあ。ムギちゃん。)
 ああ、なにもかもみな懐かしい・・・


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