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密室蒐集家 [読書・ミステリ]

密室蒐集家 (文春文庫)

密室蒐集家 (文春文庫)

  • 作者: 大山 誠一郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/11/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

何処の誰かは知らないけれど、
(警察の偉い人は)
誰でもみんな知っている(笑)。

密室事件が発生するとどこからともなく現れ、
いつのまにかちゃっかり捜査情報を聞き出し、
密室事件の真相と意外な犯人を明らかにして
気がつくと消えている。

何十年経っても変わらない容姿を保っていたりと
存在自体が摩訶不思議な探偵さん。
それが『密室蒐集家』と呼ばれる謎の人(笑)。

いやあ、ここは突っ込んではいけないのでしょうね。
「純粋謎解き」に特化するための舞台装置なのでしょう。
文中では "精霊" なんて言われてるが
座敷童みたいな "妖怪" の方が近そう(おいおい)

閑話休題。


本書には、そんな風変わりな『密室蒐集家』が登場し、
5つの密室を解決するけれど、
事件自体はガチガチな超本格ミステリである。


「柳の園 1937年」
 昭和12年。柳園高等女学校の生徒・千鶴は、
 置き忘れた本を取りに学校へ戻る。
 時は夕刻、校庭を歩く彼女が目撃したのは、
 教師・君塚が音楽室で射殺される瞬間だった。
 しかし、内部から施錠された密室状態の現場から、
 射殺犯は消え失せていた・・・。

「少年と少女の密室 1953年」
 昭和28年。高校生のカップルが殺されるが、
 現場となった屋敷は警官が周囲を監視していて
 犯行時刻の人の出入りは不可能だった・・・
 密室蒐集家氏が登場早々、意外な真犯人を指摘することにまずビックリ。
 なぜそうなるのかの推論もきっちりしてるんだが・・・

「死者はなぜ落ちる 1965年」
 昭和40年。画家の優子は、テナントビルの5階に住んでいる。
 彼女のもとへ、かつての男・森一(しんいち)が現れる。
 復縁を迫る森一に辟易していた優子の目の前を、人が落下する。
 落ちたのは6階に住むホステス・麻美。
 しかし麻美の部屋は内側から鍵がかかった密室だった。

「理由(わけ)ありの密室 1985年」
 昭和60年。マンションの一室で一人の男が射殺された。
 現場は密室だったが、トリックは早々と解明される。
 しかし、犯人は何のためにわざわざ現場を密室にしたのか。
 3人の容疑者から、密室蒐集家は犯人を指摘する。
 「柳の園」の千鶴さん、48年ぶりの再登場。

「佳也子の屋根に雪ふりつむ 2001年」
 どこかのアンソロジーで既読。時代は平成13年。
 結婚の夢破れ、睡眠薬自殺を図った佳也子は女医・典子に救われる。
 しかしその翌朝、典子は刺殺死体で発見されるが、
 二人がいた家の周囲には雪が積もり、
 足跡は典子のものしかなかった・・・
 「雪の足跡」ものだが「この手があったか!」と唸らされる。


「氷山の一角」という言葉があるが、本書を読んでいて感じたのはこれ。

「鍵のかかった部屋で人が死んでいる」という、
"状況" だけ見れば、ある意味シンプルな現象も、
解き明かされてみると、それはまさに "氷山の一角"。
水面下には意外なほど大がかりな "仕組み" が潜んでいる。

そういう "状況" を成立させるものは、犯人の工作だけではない。
関係者の錯覚・誤認、偶然の重なり。
犯行時間の前にも後にも、現場の内にも外にも、それはある。
それらを組み合わせて構成された巨大で精緻なパズル。
それが本書に登場する密室だ。

逆に言えば、人工的に過ぎるという批判もあるんじゃないかな。
あんな短時間にそれだけの工作ができるのか。
そんな都合のよい偶然が起こりうるものなのか。

でも、本書はあえてその "人工美" に挑んでいると思うし
本書を読む人はそこのところに目くじらを立てたりしないだろう。

 でもね、あんまり上手くできすぎていて
 ちょっと文句を言ってみたくなる、て部分もあるんだなあ。
 まあ、やっかみですね(笑)。

この文章の初めの方にも書いたけど、「純粋謎解き」に特化した作品。
「密室破り」に加えて「意外な犯人」まで盛り込んでの大盤振る舞い。
ここまで "本格" にこだわった作品も少ない。
これは楽しまなくちゃ損でしょう。


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