煽動者 [読書・ミステリ]
評価:★★★
「V」と呼ばれるテロ組織が登場するミステリ・シリーズ。
「攪乱者」につづく第2作。
彼らの目的はもちろん現政権の打倒であり
新政府の樹立なのだが、そのための方法が変わっている。
「テロ」とは言っても、誰も殺さない。
人々を不安に陥れ、次第に政府への不満を蓄積させ、
最終的には合法的に政権を奪取すること。
そのための方策を、知略の限りを尽くして考え出し、実行する。
それが「V」のメンバーに求められることだ。
軽井沢にある、某企業の研修センター。
ある土曜日の昼、そこに8人の男女が集まった。
日常では一般市民として生活していながら、
招集がかかれば反政府活動に従事する。
機密保持のためにお互いを偽名で呼び合う彼らは
いわば「週末限定のパートタイム・テロリスト」たち。
今回彼らに与えられたテーマは
『"子供" をターゲットにした、なんらかの「兵器」を開発し、
政府に対する不信感を醸成させること。』
しかも、子供の命を奪うことはNG。
序盤~中盤にかけて、彼らのディスカッションが続く。
物語の9割がたは研修センター内で進行するので、
必然的に議論やら会話のシーンが多くを占める。
議論は白熱するも結論まで至らず、
夕刻を迎えた8人は個室に移動して休憩に入るが、
夕食を前に、メンバーの一人である女性が扼殺死体で発見される。
もちろん警察を呼ぶことはできない。
残った7人は死体の処理を組織に任せるが、
「兵器」の考案作業は続行するよう命じられる。
本作のユニークさというか状況の異常さというのはここ。
残った7人の中に犯人がいるのは間違いないのに
真相追求は後回しにされる。
7人は不満を抱きつつも、目的に沿った「兵器」をひねり出すまで、
議論を続けることになる。
犯人捜しの興味とは別に、「子供をターゲットにした兵器」とか
「いったいどんなシロモノを考えつくだろう」って思ってたが
ふたを開けてみれば意外と納得の「兵器」。
このネタで1本書けそうな気もしてしまう。
警察が介入しないので、科学捜査等で得られるデータは一切ない。
必然的に、7人は純粋に論理的な思考のみで
犯人を絞り込んでいかざるを得ない。
閉鎖された建物の中で議論が延々と続くが
メンバー間の諍いや仄かな恋愛感情のドラマを織り込んで
だれることなく、読者の興味をつないでいく。
そういうところにさりげなく手がかりを仕込んでいるのも流石。
このあたり、特殊な状況下におけるミステリを得意とする作者の
面目躍如というところか。
一番のポイントは、お互いのプライバシーは知らない(はずの)8人の中で、
殺意にまで至る動機が生じたのはなぜか、である。
もちろん終盤にはそれが明らかにされる。
その殺意が生まれた "瞬間" のシーンを読み返してみたんだが・・・
いやあ、これはわからないよなあ。
アンフェアではないけど、ここに気づく人っているのかな。
まあ、そういうポイントを見つけることができるのが
プロのミステリ作家なんだろうけども。