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世界で一つだけの殺し方 [読書・ミステリ]


世界で一つだけの殺し方 (講談社文庫)

世界で一つだけの殺し方 (講談社文庫)

  • 作者: 深水 黎一郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/02/15
  • メディア: 文庫


評価:★★☆

 文庫本で150ページ前後の中編2作を収めた作品集。
 探偵役として登場するのは、シリーズキャラである神泉寺瞬一郎。

「不可能アイランドの殺人」

 語り手は10歳の少女モモちゃん。両親と一緒に旅行にやってきた。
 しかし、到着早々母親が風邪を引いて寝込んでしまい、モモちゃんは父親と一緒にホテルの外に出る。
 そこは不思議なことが次々に起こる世界だった。

 屋台で売っている焼きそばがいつのまにか茶そばや明太スパゲッティに変わっていたり、警官に追われているスリが池の水の上を走って逃げていったり、掲示板に貼られていたポスターが一瞬で消滅したり、8両編成の列車がトンネルを抜けたら4両になってしまっていたり。
 でもパパがしっかり謎解きをしてくれて、モモちゃんは驚いたり感心したり。

 そして2人がホテルに帰り着いて見つけたのは、浴室で湯船に浸かったまま気を失っているママ。しかも全身に低温火傷を負っていた・・・

 ホテル周囲の ”不思議” の謎解きは、科学的には可能なのだろうけど、実際に本作の描写のように見えるかどうかはちょっと疑問。

 でもまあ、それはいいとしよう。でも、肝心のメインとなるトリックはねぇ・・・これ、絶対に○○でバレるよねぇ。そう簡単に消えるものではないと思うんだけど、どうだろう。関係者全員、○が○○だったりしないと成立しないんじゃないの・・・?

 瞬一郎は、モモちゃんと電話で話しただけで真相を見抜いてしまうなど相変わらずの名探偵ぶり。しかしモモちゃんもなかなかのキャラだ。
 地の文を読んでいると分かるが、年齢とは懸け離れた知識と知能を持ち合わせている。もうちょっと成長すれば探偵役も務まるんじゃないかな。ぜひ他の作品にも登場してほしいものだ。

「インペリアルと象」

 その動物園は月に1回、無料のピアノ・コンサートを行っていた。発案者は園長で、当初は無謀と思われたがふたを開けたら大評判となっていた。

 今回登場する坂巻繁雄は世界的なピアニストで、その演奏が動物園の入場料のみで聴けるとあって会場は満員となっていた。

 しかし予定の演目が終了し、アンコール曲を演奏中に事件が起こる。象が突然暴れだし、それに巻き込まれた飼育員が死亡してしまったのだ・・・

 瞬一郎は ”芸術探偵” の名に恥じず、今回は音楽についての蘊蓄が語られる。ただまあ、ミステリを読みなれた人なら、音楽の知識がなくてもメインのトリックというか象の暴走の理由は見当がついてしまうだろう。

 しかしながら、瞬一郎の語る知識の量には圧倒される。曲目、楽譜、そしてピアノに至るまで。音楽に詳しい人なら、さらに楽しめるのだろうなぁとは思うが、残念ながら私にはそんな素養はないのでねぇ・・・




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波濤の城 [読書・冒険/サスペンス]


波濤の城 (祥伝社文庫)

波濤の城 (祥伝社文庫)

  • 作者: 五十嵐貴久
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2020/10/15
  • メディア: 文庫

評価:★★★★☆

 女性消防官・神谷夏美の活躍を描くシリーズ、その第2作。
 前作のモチーフは映画『タワーリング・インフェルノ』(1974年)だったが、今作は映画『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)だ。

 超高層ビル・ファルコンタワーの火災(第1作「炎の塔」)から1年後。

 夏美は上司である柳雅代とともに休暇を取り、神戸港から博多経由韓国釜山行きの豪華客船メモリア・オブ・レインボー号に乗り込んだ。
 全長300m、11階建て、客室数500、乗員乗客2000名という巨大客船である。

 巨大台風が九州に接近しているという情報がもたらされるが、船長の山野辺(やまのべ)は出港を強行する。その裏には、賓客として乗り組む衆議院議員・石倉大造(だいぞう)の意向があった。

 レインボー号は本来のコースを外れ、石倉自身の選挙区である種子島の沖合を通過することになっていた。そのとき石倉の支持者たちが島から花火を打ち上げて歓迎するというイベントが企画されていたのだ。

 いくら国会議員だからといって横車にもほどがある。しかしレインボー号を運航する海運会社はOKを出す。
 石倉が進める「種子島IR計画」、すなわち種子島にカジノを誘致するプロジェクトに会社を挙げて食い込むことを狙っていたからだ。

 ところが、航路を変更したレインボー号は浮遊物と接触、艦底部に損傷を受けてしまう。しかし山野辺はそれを軽視してしまい、損害は徐々にその規模を広げていく。

 そして破局が訪れる。深夜、突如として海水が浸入を始め船は傾き始める。機関も停止し、自力航行不能に陥ったレインボー号は漂流を始める。
 船内では火災も発生し、さらに進路を変えた巨大台風が迫ってくる。
 この悪天候の下では、救援用の船舶はもちろん、自衛隊の救難ヘリすら出動は不可能だ・・・

 前作と同じく、きっかけは小さな事故だが、それを拡大していってしまうのは人間の感情だ。欲、嫉妬、プライド・・・もろもろの負の感情が巨大な災害に ”育て上げて” しまう。

 舞台となるのは超豪華客船だが、その物語を彩る様々なキャラクターもまた魅力的だ。

 北条優一は元航海士。5年前に海難事故に遭遇し、生還はしたものの乗客の命を救えなかった悔恨の念からアルコール依存症に陥り、客室係に配置転換されている。

 長田久は僧侶。ガンによって余命10ヶ月と宣告されている。経済的な窮地にあったが、あてになるのは生命保険のみ。そこで事故死を装って自殺しようとレインボー号に乗り込んだ。

 木本武は30歳のニート。大学を卒業してからはひきこもり生活をしている。唯一の興味は船。ネットを通じて世界中の艦船の情報に触れていたが、実際に船に乗ったことはなかった。しかし・・・

 冬木晴彦は暴力団員。組の幹部から対立組織の組員・仲田晃の殺害を命じられ、レインボー号で博多に向かうことに。しかし仲田は、冬木の高校時代の親友だった・・・

 熊坂美由紀は看護師。高校の同級生で鳶職の敦司と結婚したが、ギャンブル狂いで浪費癖のある夫に絶望し、このクルーズが終わったら離婚を考えているのだが・・・

 この中でも北条の健闘が目覚ましい。危機の兆候をいち早く捉え、先手先手と行動しようとするのだが、立場はいち客室係にすぎない。
 しかし自分の職分を超え、非難を恐れず、果敢に、そして命をかけて乗客のために行動していく。
 このあたり、夏美とダブル主役といっていいくらいの大活躍だ。

 一方、山野辺をはじめとする一部の上級乗組員たちは、乗客を見捨てて脱出しようと画策する。その対比の描き方も鮮やかだ。

 北条のおかげで大半の乗客の避難が始まるが、なお客室に残された者たちがいる。夏美と雅代は船内に止まり、彼らの避難誘導を行おうとする。そこで二人が見つけた乗客たちが上記のメンバーだ。

 しかし、救命ボートのある上層階へ進もうとする彼らの行く手を劫火が阻む。消防士としての装備もなく、救援も望めない。船内の消火設備も次々に停止していく。まさに絶体絶命。

 上述のように、彼らが抱えた事情は様々だ。逃げようという意思はおろか生命に対する執着さえ持っていないメンバーもいる。およそ避難誘導されることに向かない人々(笑)なんだが、率いる夏美さんも前回とはひと味違う。

 超高層ビルの火災を鎮火に導いた経験を通じ、一皮剥けたというか肝が据わったというか。「目の前にいる人間を絶対に死なせない」という信念のもと、絶望的な状況に立ち向かっていく。
 そしてそんな彼女の姿が、人生を投げ捨てようとしていたメンバーたちの心をも動かしていくのだ。 

 彼らが脱出のための血路を切り開くべく、繰り出すアイデアがまたトリッキーだ。まさにそこにあるものは何でも使って生き延びる道を探っていく。
 このあたりは序盤からの船内描写の中でいくつも伏線が撒かれており、これが終盤になって生きてくる。ミステリ作家でもある作者の面目躍如というところだ。

 前作では、ラスト100ページほどは溢れる涙が止まらなかったのだが、本作はそうでもないなぁ・・・なんて思ってたら、最後の50ページで涙腺崩壊。いやはや、こちらも感動の超大作だった。

 エピローグでは、大災害から生還を果たした者たちのことも語られる。
 前を向いて生きる道を見いだした彼らの姿がたまらなく愛おしい。



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予言の島 [読書・ミステリ]


予言の島 (角川ホラー文庫)

予言の島 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 澤村伊智
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/06/15

評価:★★☆

 瀬戸内海に浮かぶ霧久井(むくい)島。そこにある疋田山には、”ヒキタの悪霊” なるものが棲み着き、島の人々に祟りをもたらしてきたという。

 そこはかつて一世を風靡した霊能者・宇津木幽子(ゆうこ)が、TV番組の企画で訪れた場所であり、生前最後の予言を残した場所でもあった。

 「我が命の絶えて二十年後 彼の島で惨劇が起こらむ
  怨霊の祟りか或いは報い 霊魂六つが冥府へ墜つる」

 ”予言された日付け” は2017年8月25日。
 その日、幼馴染み仲間の天宮淳、大原宗作、岬春夫の3人が島に降り立つ。全くのオカルト趣味、興味本位で訪れたのだが、なぜか予約していた宿からは宿泊を拒否される。「ヒキタの怨霊が降りてくる」という理由で。
 他の民家もみな、扉を固く閉ざしている。

 島外からの移住者が営む民宿に泊まることができた3人だが、台風の接近によって悪天候となり、島は孤立してしまう。

 そしてその翌朝、島の桟橋のたもとで宿泊客の一人が死体となって発見される・・・

 というわけで、このあと続々と屍が登場してくるのだが・・・
 本書は「角川ホラー文庫」というレーベルから出ているのでホラーかと思いきや、初刊の年の各種ミステリランキングでも上位に入ったりしていて、ミステリとしても評価されてる。

 「ホラーなのかミステリなのか。いったいどっちなんだろう?」と考えながら読み進めていくと・・・

 ”ヒキタの悪霊” なるものの正体も、超常的なものではなくて合理的解釈が示されたりするし、島民の謎の行動の意味もそれで説明がつく。

 このあたりは、往年の特撮TVドラマ「怪奇大作戦」のワイド版みたいな雰囲気もちょっぴりある。
 作中の描写の中にも、作者が日本の特撮もののファンだということを匂わせる描写が多々ある。
 往年の特撮ドラマに欠かせなかった名優、小林昭二さんをリスペクトしたと思われるキャラも出てくるし。

 もっとも作者は、悪霊の正体については序盤からけっこうカードを開いて見せてくれているので、隠すつもりはハナからないといえる。だからほとんどの読者には見当がついてしまうだろう。

 ということは、そこまで見破られることを計算に入れた構成になっているんだろう・・・というところまでは見当がつくんだけどね。

 だけども ”ホラー文庫” だからねぇ。ある程度までは現実的な解決がなされても、それでは割り切れない部分も当然残されるのだろう、とも思っていた。
 だからラストに向けての興味は、ミステリとして着地するのかホラーとして終わるのか、だ。そう思いながら終盤に到達すると・・・

 「え? そっち?」

 意表を突く結末と言えばその通り。ミステリとしても ”アリ” なのは間違いないので「やられたぁ」って素直に感じ入る人もいるだろう。

 その一方で、あまりにも斜め上の展開なので「呆気にとられた」とか「拍子抜けだ」とかの感想も出てきそう。
 ここをどう感じるかで本作の評価は決まるだろう。

 私について言えば、”真相” を知らされた時点で「いったい今まで何を読まされていたんだろう」ってちょっと戸惑ってしまったよ。
 私の評価は上記の星の数からお察しください。

 たしかに、すべてを知ってから再読したら、とんでもなく恐ろしい話ではあるのだけどね・・・。



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猫には推理がよく似合う [読書・ミステリ]


猫には推理がよく似合う (角川文庫)

猫には推理がよく似合う (角川文庫)

  • 作者: 深木 章子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/08/23
  • メディア: 文庫

評価:★★★

 まず冒頭に掲げられているのは、「猫の猫による猫のための『猫密室』」というタイトルの短篇ミステリ。それも ”問題編” のみで ”解決編” はない。
 いったいこれは何だろうと思っていると、本編の開始となる。

 主人公となるのは椿花織(つばき・かおり)という女性。法律事務所で事務員をしている。上司である田沼清吉弁護士は齢73。半隠居状態で事務所はけっこうヒマなことが多い。

 田沼は事務所でスコティッシュフォールドの猫を飼っている。「ひょう太」という名前がついているのだけど、花織は「スコティ」と呼んでいる。

 このスコティが、実は人間の言葉を話すのだ。それだけではなく無類の推理小説好きで、花織とミステリ談義まで交わす。冒頭の猫ミステリも、スコティが考えたものだったのだ。

 ちなみに、冒頭の猫ミステリの ”真相” は開巻早々、花織に簡単に当てられてしまうのだけど・・・

 もちろんスコティが喋るのは花織の前だけで、他の人間の前では普通の猫として振る舞う。そんなスコティと花織の会話劇と並行して、事務所を訪れる様々な人間たちの様子も描かれていく。

 町工場を経営する吉川夫婦は、素行不良の息子を持て余している。
 資産家の菅山は、浮気している妻との離婚問題に悩んでいる。
 美術収集家で資産家でもある池島俊彦は余命幾ばくもなく、遺言書は田沼が預かっている。その相続を巡り、俊彦の弟や甥たちがうごめき始める。
 田沼が顧問をしているエス・ケイ工業では、木島という社員が失踪していた。会社の金を使い込んでいたらしい。
 田沼とエス・ケイ工業の連絡役を務める澤は爽やかイケメンで、花織は夢中になってしまう。
 一方、田沼の姪の一美は知的な美人なのだが、花織はどうにも好きになれないようだ。

 というわけで登場人物の紹介が済み、物語の中盤あたりでスコティが言い出す。「新しい話を思いついた」と。

「事務所の中で田沼が殺され、金庫の中身はすべて持ち去られている。そこには池島俊彦の遺言状や菅山の妻の浮気の証拠品とか、関係者の物品がいろいろ収められていたはずだった。
 容疑者はこの事務所に出入り怪しげな依頼人すべて。さて、犯人は?」

 この ”架空の事件の真相” を巡り、様々な推理を戦わせる花織とスコティだが、その最中に ”ある事件” が発生する・・・。

 おお、今回は ”猫が喋る” というファンタジック設定なんだなと思ったが、この作者の作品がそんなカワイイものであるはずがない(笑)。これには何か裏があるんだろう・・・と思いながら読み進めることになる。

 猫が語る架空の事件の中で遊んでいたはずが、いつの間にか現実の事件に巻き込まれていく、という風変わりな作品。
 特殊設定のファンタジック・ミステリかと思いきや・・・これ以上は何を書いてもネタバレになりそうなのでもう書かないが、しっかり本格ミステリとして着地する。



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サンダーバード55/GoGo [映画]


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■まずは昔話から

  『サンダーバード』は1965~66年にイギリスで放送され、日本では66~67年に吹き替え版が放送された。
 当時の私は小学校低学年で、ブラウン管(死語)を食い入るように見ていたことを思い出す。もちろんプラモデルも発売され、大人気商品となった。

 かつて宇宙飛行士だったジェフ・トレイシーは、妻の死をきっかけに退役し、実業家に転進して巨万の富を築き上げた。彼はその資産を元に「国際救助隊」を設立、太平洋の孤島にその基地を建設した。
 ジェフの5人の息子たちがサンダーバード1号~5号をはじめとする各救助用メカを駆り、巨大メカや巨大建造物が引き起こす、あるいは巻き込まれた災害から人々を救い出す活躍を描くのが『サンダーバード』だ。

 放映終了の半年後から開始した『ウルトラセブン』が、ウルトラホークの発進シーンのみならず『サンダーバード』からいろいろと影響を受けたことは有名な話だ・・・なあんてことはwikiに詳しく書いてあるのでそっちを読んでください(笑)。

 毎回登場する国際救助隊の各メカも素晴らしいが、各話のゲストメカにも忘れられないものが多々ある。
 超音速旅客機ファイヤーフラッシュ、超大型多脚戦車ゴング、有人火星ロケット(橋が崩壊して川に落ちたアレだ)、大型タンカー・オーシャンパイオニア号、移動工場とも呼ぶべきクラブロッガー・・・
 私を含めた日本の子どもたちが、そんな無数のメカたちにどれだけ心を躍らせたことか・・・

 閑話休題。昔話はここまでにして、表題にもどろう。

■『サンダーバード55/GoGo』とは

 本作は当時の手法そのままに人形劇形式で撮影された作品で、メカ類もミニチュアを使用した実写作品だ。
 現代ではCGを使った方が安く仕上がるらしいし、見栄えもぐっと良くなるみたい(時代は変わったものだ)。
 しかしそれでは当時の雰囲気が出ないからと、スタッフは60年代の製作方法にこだわったらしいが・・・

■内容について

 30分ほどのエピソードを3本連ねたオムニバス形式。wikiからあらすじを引用すると

第1話「サンダーバード登場」
 国際救助隊の創設にあたり、ジェフはペネロープをトレイシー島に招き、サンダーバード1~5号や家族を紹介するとともに島の案内を行う。

第2話「雪男の恐怖」
 世界各地でウラン工場の破壊工作が相次いでいた。その頃ヒマラヤでは雪男に襲われる人が増え救難信号をサンダーバード5号もキャッチしていた。そこでジェフはデリーにいたペネロープに調査を頼む。

第3話「大豪邸、襲撃」
 イギリスの大豪邸で宝石が盗まれ爆破される事件が相次いでいた。ジェフはペネロープを心配するも、彼女は出来ることがないと普段どおりの生活をするが、すでに強盗団の盗聴器がクレイトン=ワード邸(ペネロープの屋敷)に据えられていた。

■ ”本編” との関係

 3本とも主役となるのはレディ・ペネロープで、内容も「サンダーバード基地見学ツアー」「雪男の正体探し」「強盗団の捕縛劇」。
 どちらかというと ”番外編” に近い位置づけのエピソードのように思えて、巨大災害に救助メカを駆使して立ち向かうようなスペクタクル性あふれる ”本編” みたいな活躍を期待すると、ちょっと当てが外れるだろう(私も少なからずそう思った)。

 これは本作の出自に起因するものだろう。
 『サンダーバード』には、映像としてのTVシリーズ作品が32話あるのだが、これとは別に音声ドラマが3話あったのだという。
 映像はないがオリジナルの声優が出演しているもので、この映画はこの音声ドラマに映像を付け加える形で制作されたわけだ。

■映像について

 50年以上前の作品を再現するにあたっての苦労話は公式サイトに載っているのでそっちを見てもらうとして(笑)、サンダーバードメカの発進シーンや飛行シーンなどはTVシリーズのバンクをそのまま用いている。
 50年以上も昔にブラウン管(死語)にかじりついて見ていたシーンを、映画館の大画面で見られたのは感激もので、目尻にちょっぴり涙がにじんでしまったのはナイショだ。

 上にも書いたけど、メカのシーンは新撮したものと当時の映像を流用したものが混用されている。
 新撮シーンのほうがメカが若干ふらついて見えて、昔の映像のほうが安定して飛んでいるように見えるのは、思い出補正なのかなぁ・・・

■日本語吹き替え版について。

 オリジナルの声優さんも多くは鬼籍に入り、生存しておられる方もいるけれど、年齢を重ねたことによる声の ”変質” はいかんともしがたい。
 そこで本作では声優陣を一新しているのだが、私みたいなオールドファンからすると、やはり違和感は拭いがたい。

 ジェフはベテランの大塚芳忠さんが演じられているのだけど、やっぱり旧作での小沢重雄さんの重厚さとは色合いがかなり異なる。

 ペネロープは満島ひかりさん。旧作では黒柳徹子さんだったが、ひかりさんはNHKのドラマで若き日の黒柳徹子を演じたことがあったそうで(そういえばかみさんが観てたような気もする)、これが起用の理由かも知れない。
 この方も最初はかなり抵抗があったけど、最後の方ではなんとなく耳に馴染んできた。

 パーカーは井上和彦さん。これはけっこうよかった。最初は井上さんと気づかなかったくらい、老練かつとぼけた味を出してる。

 フッドは立木文彦さん。これも旧作の西田昭市さんとはかなり違うけど、悪役声としてはとてもはまってる。

 この4人はかなり台詞も多いけど、逆に5兄弟やブレインズは台詞が少なくてねぇ。けっこう豪華な声優さんを揃えてるんだけど、ちょっともったいない感じも。

■今後

 できれば、新作が作られるといいなぁと思う。今回のような外伝的なものではなく、ガチなディザスターものが観たいなぁ。
 それには、この映画が大ヒットとまでは行かなくてもそこそこは客が入り、配信でも観てもらえて、「サンダーバードは金になる」って制作陣に思ってもらわなくてはならないわけで・・・なんとかそのラインをクリアして欲しいとは思う。

 日本での人気は、本家イギリスと同等かひょっとして上回るくらいあると思うので、日英合作とかできたら最高なんだけどね。そしたら庵野秀明氏あたりが「シン・サンダーバード」を作りたいなんて言い出すかも知れない。

■最後にもろもろのこと

 観ていて気になったのは、やっぱり60年代当時のイギリスって階級社会だったんだなぁ、ってこと。

 支配階級のペネロープと労働者階級のパーカーの身分差は隔絶している。
 劇中でのペネロープのパーカーに対する扱いは、現代なら立派なパワハラだよ。まあ、描き方がコミカルだから救われるところもあるが。

 彼女がパーカーを何かと頼りにしていて大事に思ってるのは、旧作からのファンならわかっているとは思うが、この映画で初めて『サンダーバード』を観た人は「なんて高慢でいけ好かない女だ」って思うかも知れない。

 現在のイギリスでもこのままだとは思わないけど、こういうものは根が深いから、表面上消えたように見えても、水面下ではけっこう残っているような気もするし。

■おまけシーンについて

 本編の前後や各エピソードの合間には、日本のスタッフが制作した作品紹介映像が入る。製作のメイキングシーンなどだ。
 そのなかで、1話と2話の間に入るのがなんともオールド特撮ファンの琴線をくすぐる。

 『謎の円盤UFO』(1970年)というドラマ作品がある。『サンダーバード』と同じ製作会社がつくったもので、こちらは生身の俳優が出演するものだ。
 この『ーUFO』には、印象的なオープニングシーンがある。電動タイプライターが文字を打ち出しながらナレーションが入るものだ。往年の特撮ファンなら記憶に残っているだろう。

 このオープニングを模した映像で、『サンダーバード』の紹介が行われるのだ。

 『エヴァンゲリオン』から25年も前に、音楽とシンクロしたカット割りをしたオープニングをつくってたわけで、当時のスタッフのセンスが秀逸なのがわかる(YouTubeで見られるので興味がある人は是非)。
 庵野秀明氏がこのオープニングを観ていないはずはないので、たぶんこちらをリスペクトした演出なのだろうと思う。

 ナレーションはなんとオリジナルと同じ矢島正明氏。
 wikiでみてみたら御年89歳。さすがに声はだいぶ変わられていて、聴いた時には矢島さんとわからなかったよ。
 でも年齢の割には滑舌もハッキリしていて、まもなく卒寿とは思えないクリアなお声を聞かせてくれる。

 私には、ここがこの映画でいちばん感動した部分だっりする(おいおい)。

■おまけのおまけ

 『-55』の本編上映後に『ネビュラ・75』なる作品の特別編が上映された。つまり併映作品というわけだ。
 内容は『-55』の製作会社がつくった新作人形劇。

「地球から3300万マイル(約5300万km)離れた宇宙を航行するネビュラ・75に乗るレイ・ネプチューン船長、アステロイド博士、ロボットのサーキットらの宇宙での冒険物語。」(by wiki)

 ただこれはねぇ・・・よく分かりませんでした(笑)。
 あちらでは2シーズン・12話も作られたらしいのでそこそこ人気なのだろうけど、私にはその良さが分かりませんでした。

 日本ではBSの有料放送局スターチャンネルで、今月から日本語版を放送されるらしいのでその宣伝のための ”特別編” なのだろうけど、もうちょっと内容は何とかならなかったのかねぇ・・・。
 責任者に1時間くらいこんこんと説教したくなったよ(笑)。

■最後に

 2012年の「宇宙戦艦ヤマト」のリメイクに始まり、16年には「シン・ゴジラ」、17年には「マジンガーZ / INFINITY」が公開された。
 「ガンダム」は43年前の初登場以来、数年と空けずに新作が作られ続けている。

 そして今年は「シン・ウルトラマン」が公開予定で、来年には「シン・仮面ライダー」が控えてる。

 私が小学校から高校にかけて、ブラウン管(死語)で観ていた懐かしい作品群が、今もなお新しい命を吹き込まれて製作・公開されている。

 いやあホントにいい時代になったものです。長生きはするものだ。


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三本の緑の小壜 [読書・ミステリ]


三本の緑の小壜 (創元推理文庫)

三本の緑の小壜 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/10/29
  • メディア: 文庫


評価:★★★★

 舞台となるのはイギリス北部の海沿いにある町。そこで起こった少女連続殺人事件が描かれる。

 全体は五部構成になっていて、異なる人物の一人称で語られていく。

 第一部の語り手はマンディ・アーミテイジという若い女性。物語全体を通じて、ほぼ主人公といっていいキャラクターだ。

 彼女の父ジョンは医師で、複数の医師仲間と共に診療所を共同経営しており、マンディはそこで秘書兼受付として働いている。

 そんな彼女の暮らす町で、凶悪犯罪が起こる。13歳の少女が行方不明となり、やがてゴルフ場で全裸死体となって発見されたのだ。

 捜査線上に挙がったのは、ジョンの診療所で働いているテリー・ケンダルという若い医師。
 何事においてもだらしない性格で、マンディに懸想して口説いていたが、身持ちの堅い彼女がなかなか靡いてくれないので、他に女をつくってそっちで欲望を発散させているというトンデモナイ奴だ。
 しかしそんな彼でも、殺人事件の容疑者となってからはさすがに精神的に参っていた様子を見せていて、ある晩、崖から転落死してしまう。

 街の人々は、犯人が自殺したものとみて一件落着と考えるが・・・

 第二部の語り手はマーク・ケンダル。テリーの弟で同じく医師。アメリカでの学業を終えたマークは、兄の葬儀のためにイギリスへ帰ってくる。

 マークは、兄が殺人事件の容疑者だったことに驚くが、いかにロクデモナイ奴だったとはいえ、少女を殺すような極悪人ではないと信じてもいた。
 そこで彼は、テリーの後任としてジョンの診療所に入り、医師として働きながら事件の真相を調べ始める。

 そして、第二の殺人事件が起こる。今度もまた被害者は13歳の少女だった・・・

 第三部ではマンディの異母妹シーリアが語り手となり、第四部では再びマーク、そして第五部では再びマンディが語り手となる。

 ちなみにタイトルの「三本の緑の小壜」とは、ある人物が作中で語る台詞に出てくる言葉。これを詳しく説明するとネタバレ?・・・にはならないかも知れないが、ここでは書かないでおこう。

 ミステリとしてはいつもながらよくできてる。
 ラストで明かされる犯人指摘までの推理は、極めて簡潔かつストレート。いくつかの手がかりが示していた事実を積み重ねれば、ちゃんと真相に辿り着けるんだけど、それができないんだよねぇ。

 というわけで、ミステリとしての紹介は終わり。
 以下に書くのはミステリ以外の感想。

 ネタバレではないと思うけど、あまりストーリー展開を明かしすぎるとミステリとしての興を削ぐことにもなるので、これから本書を読もうという方は以下の文章は読まないことを推奨する。

 もちろん私は本書をミステリとして読んでいたのだけど、途中からは真相よりも(おいおい)、それ以上にマンディとマークの恋愛模様の方に興味が移ってしまった。

 初恋でのトラウマから恋愛に臆病になってしまったマンディ。
 野暮ったいメガネをかけて髪型も服装も地味にそろえ、男性の前ではひたすら無粋で無愛想な女として振る舞う。しかし仕事については極めて有能だ。
 メガネを外してちゃんと化粧をすれば見違えるような美人になるというのも、ある意味お約束の設定(笑)。

 対するマークは、放蕩者だった兄貴とは真逆で、真面目な青年だ。
 堅物で恋愛経験も乏しいようで、男女の機微にもやや疎い。
 学業は優秀で、大学の研究室から誘いの声がかかるほどの俊英なのだが、兄の死の真相を調べるために田舎町の小さな診療所の医師となる。
 生活の場としてアーミテイジ家に下宿することとなり、マンディとは同じ屋根の下で暮らすことになる。このへんもまるっきりのラブコメ展開。

 そんなこんなで出会った2人だが、第一印象はお互いに最悪で、相手のことをトンデモナイ奴だと思い込むところから2人の物語は始まる。
 次第に相手の良さに気づいていくのだが、なかなかそれを素直に口に出せない。凶悪な連続殺人事件が描かれる一方で、不器用な男女の揺れ動く想いもまた綴られていく。

 もちろん2人の恋路を邪魔する者も現れる。被害者となった少女たちが通っていた学校の女性教師シーラ・ケアリーだ。
 若くて優秀な医師であるマークを ”優良物件” とみた彼女は、がんがんとアタックをかける。マークの方も押し切られるように婚約までしてしまう(おいおい)。

 いかにも類型的でベタな展開なのだが、だからこそ楽しいともいえる。
 私みたいに、このカップルに入れ込んで読んでしまう人も、けっこういるんじゃないかなぁ。

 物語の終盤、雰囲気は一変してサスペンス調になるのだが、そのクライマックスにおいてマンディがとる行動は極めて果敢であり、そして健気だ。
 ミステリとしても、ラブ・ストーリーとしても、ここが最大の読みどころになるだろう。
 そして、全ての決着がついたあと、最終ページの最後の一行がまたいいんだよなぁ・・・

 本書は本質的にはミステリなのだけど、ラブコメとして読む方がより面白いんじゃないかって私は思う。


 最後に余計なことをひとつ。

 事件の真相が明かされたとき、国産の某古典的有名作品がアタマに思い浮かんだんだけど、同じことを考えた人は少なくないんじゃないかなぁ。

 いちおう断っておくけど、盗作とかそういうわけじゃありませんので念のタメ。海外作品にもこんな○○のミステリがあったんだ、というのが意外だと思ったので。



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medium 霊媒探偵城塚翡翠 [読書・ミステリ]


medium 霊媒探偵城塚翡翠 (講談社文庫)

medium 霊媒探偵城塚翡翠 (講談社文庫)

  • 作者: 相沢沙呼
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/09/15

評価:★★★★

 主人公はミステリ作家・香月史郎(こうげつ・しろう)。
 そしてもう一人の主役となるのが、タイトルにもある城塚翡翠(じょうづか・ひすい)という霊能者である。

 ”霊媒” とあるのは、彼女には ”死者が見える” から。殺人現場に佇めば、被害者となった女性の残した ”思い” が彼女には読み取れるのだ。
 当然、そこから犯人につながる手がかりも得られるのだが、”死者のメッセージ” などに証拠能力があるわけはない。そこで史郎の出番となる。

 翡翠がもたらした ”手がかり” に論理的根拠を与え、警察に提示することによって事件を解決に導く。
 つまり翡翠には ”結論” が見えるがそこに至る経路が見えない。史郎は事件の ”発端” と ”結論” をつなぐ ”途中の推論過程” を埋めていく、という役割分担になるわけだ。

 この2人がコンビを組んで殺人事件を解決していく、という連作短篇集の形式となっている。

「第一話 泣き女の殺人」
 デパートで働く倉持結花は、最近奇妙な夢を見るようになった。女性がすすり泣いているという不思議な夢だ。彼女は大学の先輩である香月史郎を伴って城塚翡翠という霊能者に会いにいく。
 結花の話を聞いた翡翠は、後日彼女のマンションを見にいくことにするが、史郎と共に訪れたとき、二人が発見したのは結花の死体だった・・・

「第二話 水鏡(みかがみ)荘の殺人」
 ベテランの怪奇推理作家・黒越篤(くろごし・あつし)の招きを受けた史郎は、翡翠を伴って山中にある彼の別荘・水鏡荘へ赴く。
 出版関係者など他の訪問客たちとともにバーベキューパーティーを楽しんだ翌朝、黒越の死体が発見される。
 翡翠は、霊視によって ”犯人” の名を挙げるのだが・・・

「第三話 女子高生連続絞殺事件」
 史郎のサイン会にやってきた女子高生・藤間菜月。彼女の通う学校では、女子生徒が殺されるという事件が続いていた。現在までのところ、犠牲者は2人でいずれも絞殺。
 翡翠の霊視では、犯人は被害者からみて上級生らしい。
 3年生の中に犯人がいるとみた二人は、菜月の伝手で学校を訪れるが、その菜月が3人目の犠牲者となってしまう・・・

 さて、ここまでの三つの事件と並行して、巷では若い女性を誘拐してナイフで惨殺するという連続殺人事件が発生していた。
 各話の合間には「インタールード」として、そのシリアルキラーの独白が挿入されて、ついに翡翠が標的と定められる。

 「最終話 vs エリミネーター」では、その連続殺人犯との対決が描かれることになる。


 さて、本書は初刊が2019年で、その年の各種ミステリランキングを総なめにした作品だ。
 とはいっても第一話から第三話までは、たしかにミステリとしてよくできてはいるけれども、その年のベストワンか、っていわれると正直「そこまでは・・・」って思う。
 しかし、これが最終話に至ると評価が爆上がりする。

 ミステリの連作短篇集の場合、最終話においてそれまでの各話で蒔かれた伏線がつながって、全体を通して新たな物語が見えてくる、というのはよくある趣向。
 しかしここまでのスケールで、ここまで徹底的にやってのけた作品はないだろう。高評価も納得の出来だ。

 何といっても翡翠さんのキャラがいい。年齢は20歳そこそこでものすごい美人。15歳まで海外にいたという帰国子女で、働かなくても食っていけるくらいの裕福な家のお嬢さん。
 霊能者としての神秘的な顔とは打って変わり、史郎の前で見せる年齢相応なあどけない顔もいい。この ”萌えキャラ” ぶりも、物語を語る上で効いてくる重要な要素だ。


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ゴーストハント7 扉を開けて [読書・その他]


ゴーストハント7 扉を開けて (角川文庫)

ゴーストハント7 扉を開けて (角川文庫)

  • 作者: 小野 不由美
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/06/15
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

 主人公兼語り手は女子高生・谷山麻衣。彼女がアルバイトをしているのは心霊現象を専門に調査する「渋谷サイキックリサーチ」(SPR)。

 そこの所長である美少年、通称ナルと個性的なゴーストバスターたちが繰り広げるホラーな冒険を描くシリーズ、第7巻目にして最終作。

 前巻で、能登で老舗料亭を営む吉見家の事件を解決したSPR一行は、東京への帰路につくが、長野へ向かう山越えの途中で道に迷ってしまう。

 今さらながらだが、本シリーズのもととなる『悪霊シリーズ』が書かれたのは1989~92年にかけて。改稿・改題された本シリーズも、作中に年代表記はないけれどおおむねこの時代の出来事のようだ。

 作中に携帯電話は登場しないし、インターネットも登場しない。カーナビも、一般車にも搭載されるような低価格化が進んだのは93年以降みたい(ってwikiに書いてある)なので、本書でSPR一行が乗っている車にも装備されていないのだろう。作中でも、紙の地図を見てる描写があるし。

 私自身を振り返っても、カーナビ付きの車を最初に買ったのは90年代末だったような記憶がある。
 閑話休題。

 一行が辿り着いたのは山中のダム湖。
 そこで湖面を見つめていたナルは呟く。「やっと、見つけた・・・」

 ナルは突然、SPRの解散を宣言し、湖畔のバンガローに滞在することを決める。さらには業者に連絡を入れて、湖にダイバーを投入することも。

 戸惑う麻衣たちもとりあえず一緒に湖畔に残ることを決めるが、そこにダムの地元の町長が訪れ、SPRに調査を依頼してくる。

 近くにある廃校となった小学校に幽霊が現れるのだという。サルベージの結果待ちだったナルは調査を引き受け、一行は現地へ向かう。

 廃校になったのは5年前の5月。年度途中という半端な時期に廃校となったことからして曰くありげなのだが、調査が進むにつれて意外な事情が明らかになってくる。しかも一行は校舎の中に閉じ込められ、外に出ることができなくなってしまう・・・

 廃校に潜む秘密と、それを解決していくSPRの活躍が描かれるのだが、最終作だけあって麻衣さんも大活躍する。

 しかし本書は最終作であるから、真の目玉はシリーズの根底にあった謎が明らかになることだ。

「ナルはなぜ学校に行っていないのか?」
「彼の両親は何をしているのか?」
「SPRの開設資金/運営資金は誰が出しているのか?」
「彼が頻繁に日本中を巡って旅に出ていたのは、何のためだったのか?」
「そして、ナル自身の正体は?」

 シリーズ読者からすれば、
「SPRは本当に解散してしまうのか?」
  そして
「麻衣の思いはナルに通じるのか?」
 あたりが気になるところかな(笑)。

 原典となる『悪霊シリーズ』には、もう一冊だけ『悪夢の棲む家』という長編があるのだけど、こちらは改稿の対象にはなっていないみたい。

 7冊もつき合ってくるとキャラたちにも親しみができてきて、できればまたSPRの御一行さんの掛け合い漫才みたいな会話劇を読みたい気もするのだけど、こればっかりは作者の胸三寸ですからねぇ・・・



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アメリカ最後の実験 [読書・その他]



アメリカ最後の実験(新潮文庫)

アメリカ最後の実験(新潮文庫)

  • 作者: 宮内悠介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/01/18



評価:★★★

 主人公・櫻井脩(しゅう)はアメリカ西海岸にやってきた。目的は二つ。

 ひとつめは、ジャズの名門〈グレッグ音楽院〉を受験するため。
 もう一つは、7年前に渡米したまま消息を絶った父・俊一を捜すため。

 音楽院は、風変わりな試験をしていた。
 まずは街頭のあちこちに設置してあるピアノを飛び入りで演奏すること。観客の反応を含めて、有望と判断されれば次に進める。
 そのようないくつかある予備試験を突破しなければ、学院内で行われる本試験に臨めないのだ。

 試験を受けていくうちに、脩はスキンヘッドの巨漢マッシモやマフィアの御曹司と思われる少年ザカリーなど、他の受験生とも知り合っていく。
 当然ながら彼ら以外の多くの受験生もいて、そのほとんどはどんどん淘汰されていく。

 恩田陸の「蜜蜂と遠雷」みたいな雰囲気もちょっとあるが、毎回変わったシチュエーションでの試験といい、クセのある演奏課題や、用意された楽器にも ”罠” が隠されてたりと、マンガ的な描写も。
 巻末の解説によると、作者も「格闘技マンガ」を念頭に置いて書いてたらしいし。

 マッシモは俊一のことを知っていた。彼はアメリカ先住民の少女と暮らしながら演奏活動をしていたという。
 俊一の弾いていたシンセザイザーは特別製のようで、〈パンドラ〉と呼ばれたその楽器は玄妙な響きを奏でていたという。
 マッシモの伝手で、脩はその少女リューイ(7年後の今ではすでに少女ではないが)に会いにいく。

 脩たちの物語と並行して、全米各地で謎の連続殺人事件が起こっていることが描かれている。やがて脩の身近にも犠牲者が現れて・・・

 ミステリのようにもとれるかも知れないが、本書は本格ミステリではないので連続殺人を行っている真犯人がいるというわけではない。
 全米各地で起こっている事件は、殺人衝動に駆られる人々が連続的にあちこちに現れているわけで、そのあたりはSFとして捉えるべきだろう。

 もっとも、脩の身近で起こった殺人については終盤で犯人が明かされるので、まるっきりミステリではない、というわけでもないが・・・

 音楽小説でありミステリでもありSFでもある。ジャンルを超えた要素をまとめて、ひとつのストーリーとして語りきっているのは流石に上手いとは思う。

 そこそこ楽しんで読ませてもらったけれど、頻出する音楽用語(ジャズ用語?)は馴染みがないものが多い。物語を理解するには差し支えないかもしれないけど、ジャズやシンセサイザーに詳しい人ならもっと面白く読めるのだろうとも思った。

 ちなみに文庫版の表紙には4人の人物が描かれているが、左からザカリー、脩、リューイ、マッシモ、だろうと思う。

 メインとなるこの4人だけでなく、脇役として登場する者たちもキャラが立っていて印象に残る。



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2022年を迎えて [日々の生活と雑感]


 明けましておめでとうございます。m(_ _)m

 この記事を書くための参考にしようと、1年前の記事を見てみたのですが、そこには『家の中にある ”積ん読本” の在庫を減らす努力を始めます』なんて書いてありました。

 家の中を見回すと、見事なまでに去年と変わらない風景が。一生懸命読んできたつもりなんだけど、一向に減ったように見えない・・・

 私はあと30年は生きるつもりなんだけど、残り時間は確実に減ってますからねぇ。これからはもう少し考えて計画的に過ごさなくてはなぁ・・・

 来年のこの蘭では「ちょっと減りました」って書けたらいいなぁ・・・無理かなぁ・・・

 あと、ここ20年くらい血圧の薬を服用してるんだけど、昨秋に主治医の診察を受けたら「ちょっと薬の量、増やしますね」って言われてしまいました。
 人間ドックでもいつも ”メタボ予備軍” って診察されてますし、今年はちょっと体重に気をつけて、BMIの値を少しでも下げられるように節制したいと思います。

 「在庫の本の量」と「BMI」。どちらも首尾よく減らせるかな。
 まあ、頑張ってみましょう。

 とにかく、私自身が健康でこのブログを続けられることが一番大事なこと。これも毎回書いてますが、細く長く続けられたらいいなと思ってます。

 皆さんも、コロナに負けずに頑張って生きていきましょう。

 それでは、本年もよろしくお願いいたします。m(_ _)m

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