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三本の緑の小壜 [読書・ミステリ]


三本の緑の小壜 (創元推理文庫)

三本の緑の小壜 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/10/29
  • メディア: 文庫


評価:★★★★

 舞台となるのはイギリス北部の海沿いにある町。そこで起こった少女連続殺人事件が描かれる。

 全体は五部構成になっていて、異なる人物の一人称で語られていく。

 第一部の語り手はマンディ・アーミテイジという若い女性。物語全体を通じて、ほぼ主人公といっていいキャラクターだ。

 彼女の父ジョンは医師で、複数の医師仲間と共に診療所を共同経営しており、マンディはそこで秘書兼受付として働いている。

 そんな彼女の暮らす町で、凶悪犯罪が起こる。13歳の少女が行方不明となり、やがてゴルフ場で全裸死体となって発見されたのだ。

 捜査線上に挙がったのは、ジョンの診療所で働いているテリー・ケンダルという若い医師。
 何事においてもだらしない性格で、マンディに懸想して口説いていたが、身持ちの堅い彼女がなかなか靡いてくれないので、他に女をつくってそっちで欲望を発散させているというトンデモナイ奴だ。
 しかしそんな彼でも、殺人事件の容疑者となってからはさすがに精神的に参っていた様子を見せていて、ある晩、崖から転落死してしまう。

 街の人々は、犯人が自殺したものとみて一件落着と考えるが・・・

 第二部の語り手はマーク・ケンダル。テリーの弟で同じく医師。アメリカでの学業を終えたマークは、兄の葬儀のためにイギリスへ帰ってくる。

 マークは、兄が殺人事件の容疑者だったことに驚くが、いかにロクデモナイ奴だったとはいえ、少女を殺すような極悪人ではないと信じてもいた。
 そこで彼は、テリーの後任としてジョンの診療所に入り、医師として働きながら事件の真相を調べ始める。

 そして、第二の殺人事件が起こる。今度もまた被害者は13歳の少女だった・・・

 第三部ではマンディの異母妹シーリアが語り手となり、第四部では再びマーク、そして第五部では再びマンディが語り手となる。

 ちなみにタイトルの「三本の緑の小壜」とは、ある人物が作中で語る台詞に出てくる言葉。これを詳しく説明するとネタバレ?・・・にはならないかも知れないが、ここでは書かないでおこう。

 ミステリとしてはいつもながらよくできてる。
 ラストで明かされる犯人指摘までの推理は、極めて簡潔かつストレート。いくつかの手がかりが示していた事実を積み重ねれば、ちゃんと真相に辿り着けるんだけど、それができないんだよねぇ。

 というわけで、ミステリとしての紹介は終わり。
 以下に書くのはミステリ以外の感想。

 ネタバレではないと思うけど、あまりストーリー展開を明かしすぎるとミステリとしての興を削ぐことにもなるので、これから本書を読もうという方は以下の文章は読まないことを推奨する。

 もちろん私は本書をミステリとして読んでいたのだけど、途中からは真相よりも(おいおい)、それ以上にマンディとマークの恋愛模様の方に興味が移ってしまった。

 初恋でのトラウマから恋愛に臆病になってしまったマンディ。
 野暮ったいメガネをかけて髪型も服装も地味にそろえ、男性の前ではひたすら無粋で無愛想な女として振る舞う。しかし仕事については極めて有能だ。
 メガネを外してちゃんと化粧をすれば見違えるような美人になるというのも、ある意味お約束の設定(笑)。

 対するマークは、放蕩者だった兄貴とは真逆で、真面目な青年だ。
 堅物で恋愛経験も乏しいようで、男女の機微にもやや疎い。
 学業は優秀で、大学の研究室から誘いの声がかかるほどの俊英なのだが、兄の死の真相を調べるために田舎町の小さな診療所の医師となる。
 生活の場としてアーミテイジ家に下宿することとなり、マンディとは同じ屋根の下で暮らすことになる。このへんもまるっきりのラブコメ展開。

 そんなこんなで出会った2人だが、第一印象はお互いに最悪で、相手のことをトンデモナイ奴だと思い込むところから2人の物語は始まる。
 次第に相手の良さに気づいていくのだが、なかなかそれを素直に口に出せない。凶悪な連続殺人事件が描かれる一方で、不器用な男女の揺れ動く想いもまた綴られていく。

 もちろん2人の恋路を邪魔する者も現れる。被害者となった少女たちが通っていた学校の女性教師シーラ・ケアリーだ。
 若くて優秀な医師であるマークを ”優良物件” とみた彼女は、がんがんとアタックをかける。マークの方も押し切られるように婚約までしてしまう(おいおい)。

 いかにも類型的でベタな展開なのだが、だからこそ楽しいともいえる。
 私みたいに、このカップルに入れ込んで読んでしまう人も、けっこういるんじゃないかなぁ。

 物語の終盤、雰囲気は一変してサスペンス調になるのだが、そのクライマックスにおいてマンディがとる行動は極めて果敢であり、そして健気だ。
 ミステリとしても、ラブ・ストーリーとしても、ここが最大の読みどころになるだろう。
 そして、全ての決着がついたあと、最終ページの最後の一行がまたいいんだよなぁ・・・

 本書は本質的にはミステリなのだけど、ラブコメとして読む方がより面白いんじゃないかって私は思う。


 最後に余計なことをひとつ。

 事件の真相が明かされたとき、国産の某古典的有名作品がアタマに思い浮かんだんだけど、同じことを考えた人は少なくないんじゃないかなぁ。

 いちおう断っておくけど、盗作とかそういうわけじゃありませんので念のタメ。海外作品にもこんな○○のミステリがあったんだ、というのが意外だと思ったので。



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