アメリカ最後の実験 [読書・その他]
評価:★★★
主人公・櫻井脩(しゅう)はアメリカ西海岸にやってきた。目的は二つ。
ひとつめは、ジャズの名門〈グレッグ音楽院〉を受験するため。
もう一つは、7年前に渡米したまま消息を絶った父・俊一を捜すため。
音楽院は、風変わりな試験をしていた。
まずは街頭のあちこちに設置してあるピアノを飛び入りで演奏すること。観客の反応を含めて、有望と判断されれば次に進める。
そのようないくつかある予備試験を突破しなければ、学院内で行われる本試験に臨めないのだ。
試験を受けていくうちに、脩はスキンヘッドの巨漢マッシモやマフィアの御曹司と思われる少年ザカリーなど、他の受験生とも知り合っていく。
当然ながら彼ら以外の多くの受験生もいて、そのほとんどはどんどん淘汰されていく。
恩田陸の「蜜蜂と遠雷」みたいな雰囲気もちょっとあるが、毎回変わったシチュエーションでの試験といい、クセのある演奏課題や、用意された楽器にも ”罠” が隠されてたりと、マンガ的な描写も。
巻末の解説によると、作者も「格闘技マンガ」を念頭に置いて書いてたらしいし。
マッシモは俊一のことを知っていた。彼はアメリカ先住民の少女と暮らしながら演奏活動をしていたという。
俊一の弾いていたシンセザイザーは特別製のようで、〈パンドラ〉と呼ばれたその楽器は玄妙な響きを奏でていたという。
マッシモの伝手で、脩はその少女リューイ(7年後の今ではすでに少女ではないが)に会いにいく。
脩たちの物語と並行して、全米各地で謎の連続殺人事件が起こっていることが描かれている。やがて脩の身近にも犠牲者が現れて・・・
ミステリのようにもとれるかも知れないが、本書は本格ミステリではないので連続殺人を行っている真犯人がいるというわけではない。
全米各地で起こっている事件は、殺人衝動に駆られる人々が連続的にあちこちに現れているわけで、そのあたりはSFとして捉えるべきだろう。
もっとも、脩の身近で起こった殺人については終盤で犯人が明かされるので、まるっきりミステリではない、というわけでもないが・・・
音楽小説でありミステリでもありSFでもある。ジャンルを超えた要素をまとめて、ひとつのストーリーとして語りきっているのは流石に上手いとは思う。
そこそこ楽しんで読ませてもらったけれど、頻出する音楽用語(ジャズ用語?)は馴染みがないものが多い。物語を理解するには差し支えないかもしれないけど、ジャズやシンセサイザーに詳しい人ならもっと面白く読めるのだろうとも思った。
ちなみに文庫版の表紙には4人の人物が描かれているが、左からザカリー、脩、リューイ、マッシモ、だろうと思う。
メインとなるこの4人だけでなく、脇役として登場する者たちもキャラが立っていて印象に残る。
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