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medium 霊媒探偵城塚翡翠 [読書・ミステリ]


medium 霊媒探偵城塚翡翠 (講談社文庫)

medium 霊媒探偵城塚翡翠 (講談社文庫)

  • 作者: 相沢沙呼
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/09/15

評価:★★★★

 主人公はミステリ作家・香月史郎(こうげつ・しろう)。
 そしてもう一人の主役となるのが、タイトルにもある城塚翡翠(じょうづか・ひすい)という霊能者である。

 ”霊媒” とあるのは、彼女には ”死者が見える” から。殺人現場に佇めば、被害者となった女性の残した ”思い” が彼女には読み取れるのだ。
 当然、そこから犯人につながる手がかりも得られるのだが、”死者のメッセージ” などに証拠能力があるわけはない。そこで史郎の出番となる。

 翡翠がもたらした ”手がかり” に論理的根拠を与え、警察に提示することによって事件を解決に導く。
 つまり翡翠には ”結論” が見えるがそこに至る経路が見えない。史郎は事件の ”発端” と ”結論” をつなぐ ”途中の推論過程” を埋めていく、という役割分担になるわけだ。

 この2人がコンビを組んで殺人事件を解決していく、という連作短篇集の形式となっている。

「第一話 泣き女の殺人」
 デパートで働く倉持結花は、最近奇妙な夢を見るようになった。女性がすすり泣いているという不思議な夢だ。彼女は大学の先輩である香月史郎を伴って城塚翡翠という霊能者に会いにいく。
 結花の話を聞いた翡翠は、後日彼女のマンションを見にいくことにするが、史郎と共に訪れたとき、二人が発見したのは結花の死体だった・・・

「第二話 水鏡(みかがみ)荘の殺人」
 ベテランの怪奇推理作家・黒越篤(くろごし・あつし)の招きを受けた史郎は、翡翠を伴って山中にある彼の別荘・水鏡荘へ赴く。
 出版関係者など他の訪問客たちとともにバーベキューパーティーを楽しんだ翌朝、黒越の死体が発見される。
 翡翠は、霊視によって ”犯人” の名を挙げるのだが・・・

「第三話 女子高生連続絞殺事件」
 史郎のサイン会にやってきた女子高生・藤間菜月。彼女の通う学校では、女子生徒が殺されるという事件が続いていた。現在までのところ、犠牲者は2人でいずれも絞殺。
 翡翠の霊視では、犯人は被害者からみて上級生らしい。
 3年生の中に犯人がいるとみた二人は、菜月の伝手で学校を訪れるが、その菜月が3人目の犠牲者となってしまう・・・

 さて、ここまでの三つの事件と並行して、巷では若い女性を誘拐してナイフで惨殺するという連続殺人事件が発生していた。
 各話の合間には「インタールード」として、そのシリアルキラーの独白が挿入されて、ついに翡翠が標的と定められる。

 「最終話 vs エリミネーター」では、その連続殺人犯との対決が描かれることになる。


 さて、本書は初刊が2019年で、その年の各種ミステリランキングを総なめにした作品だ。
 とはいっても第一話から第三話までは、たしかにミステリとしてよくできてはいるけれども、その年のベストワンか、っていわれると正直「そこまでは・・・」って思う。
 しかし、これが最終話に至ると評価が爆上がりする。

 ミステリの連作短篇集の場合、最終話においてそれまでの各話で蒔かれた伏線がつながって、全体を通して新たな物語が見えてくる、というのはよくある趣向。
 しかしここまでのスケールで、ここまで徹底的にやってのけた作品はないだろう。高評価も納得の出来だ。

 何といっても翡翠さんのキャラがいい。年齢は20歳そこそこでものすごい美人。15歳まで海外にいたという帰国子女で、働かなくても食っていけるくらいの裕福な家のお嬢さん。
 霊能者としての神秘的な顔とは打って変わり、史郎の前で見せる年齢相応なあどけない顔もいい。この ”萌えキャラ” ぶりも、物語を語る上で効いてくる重要な要素だ。


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