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猫には推理がよく似合う [読書・ミステリ]


猫には推理がよく似合う (角川文庫)

猫には推理がよく似合う (角川文庫)

  • 作者: 深木 章子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/08/23
  • メディア: 文庫

評価:★★★

 まず冒頭に掲げられているのは、「猫の猫による猫のための『猫密室』」というタイトルの短篇ミステリ。それも ”問題編” のみで ”解決編” はない。
 いったいこれは何だろうと思っていると、本編の開始となる。

 主人公となるのは椿花織(つばき・かおり)という女性。法律事務所で事務員をしている。上司である田沼清吉弁護士は齢73。半隠居状態で事務所はけっこうヒマなことが多い。

 田沼は事務所でスコティッシュフォールドの猫を飼っている。「ひょう太」という名前がついているのだけど、花織は「スコティ」と呼んでいる。

 このスコティが、実は人間の言葉を話すのだ。それだけではなく無類の推理小説好きで、花織とミステリ談義まで交わす。冒頭の猫ミステリも、スコティが考えたものだったのだ。

 ちなみに、冒頭の猫ミステリの ”真相” は開巻早々、花織に簡単に当てられてしまうのだけど・・・

 もちろんスコティが喋るのは花織の前だけで、他の人間の前では普通の猫として振る舞う。そんなスコティと花織の会話劇と並行して、事務所を訪れる様々な人間たちの様子も描かれていく。

 町工場を経営する吉川夫婦は、素行不良の息子を持て余している。
 資産家の菅山は、浮気している妻との離婚問題に悩んでいる。
 美術収集家で資産家でもある池島俊彦は余命幾ばくもなく、遺言書は田沼が預かっている。その相続を巡り、俊彦の弟や甥たちがうごめき始める。
 田沼が顧問をしているエス・ケイ工業では、木島という社員が失踪していた。会社の金を使い込んでいたらしい。
 田沼とエス・ケイ工業の連絡役を務める澤は爽やかイケメンで、花織は夢中になってしまう。
 一方、田沼の姪の一美は知的な美人なのだが、花織はどうにも好きになれないようだ。

 というわけで登場人物の紹介が済み、物語の中盤あたりでスコティが言い出す。「新しい話を思いついた」と。

「事務所の中で田沼が殺され、金庫の中身はすべて持ち去られている。そこには池島俊彦の遺言状や菅山の妻の浮気の証拠品とか、関係者の物品がいろいろ収められていたはずだった。
 容疑者はこの事務所に出入り怪しげな依頼人すべて。さて、犯人は?」

 この ”架空の事件の真相” を巡り、様々な推理を戦わせる花織とスコティだが、その最中に ”ある事件” が発生する・・・。

 おお、今回は ”猫が喋る” というファンタジック設定なんだなと思ったが、この作者の作品がそんなカワイイものであるはずがない(笑)。これには何か裏があるんだろう・・・と思いながら読み進めることになる。

 猫が語る架空の事件の中で遊んでいたはずが、いつの間にか現実の事件に巻き込まれていく、という風変わりな作品。
 特殊設定のファンタジック・ミステリかと思いきや・・・これ以上は何を書いてもネタバレになりそうなのでもう書かないが、しっかり本格ミステリとして着地する。



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