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探偵が早すぎる [読書・ミステリ]


本書で、「2019年に読んだ本」の記事が書き終わります。
いやぁ長かった。
2か月以上連続で毎日記事を書くなんて、よく続いたもんだなぁ。
自分で自分を褒めてあげたい(笑)。


探偵が早すぎる (上) (講談社タイガ)

探偵が早すぎる (上) (講談社タイガ)

  • 作者: 井上 真偽
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/05/18
  • メディア: 文庫
探偵が早すぎる (下) (講談社タイガ)

探偵が早すぎる (下) (講談社タイガ)

  • 作者: 井上 真偽
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/07/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

変わった筆名なんだけど「真偽」とかいて「まぎ」と読むそうな。

大富豪・大陀羅勝光(だいだら・かつみつ)の庶子であった
父・十川瑛(そがわ・あきら)の死により、
女子高生・一華(いちか)は膨大な遺産を相続することになった。
その額、およそ5兆円。どれくらいスゴいかというと
個人資産の世界ランクのベストテンに入るくらいらしい。

しかし、相続から外された勝光の実子たち
(瑛の異母兄弟姉妹たち、一華からみれば伯叔父・伯叔母)
はもちろん黙っていない。
密かに一華を亡き者にし、5兆円を手に入れようと画策を始める。
彼らもそれなりに資産家だったり実業家だったりするので
資金は潤沢だ。それによって ”刺客” を用意し、一華に差し向けていく。

父の葬儀で一度襲われ、足に負傷を負ってしまった一華は
家政婦・橋田のアドバイスを受け、反撃に出ることを決意する。
”敵” の攻撃を未然に防ぎ、その証拠を以て裁判に持ち込んで
首謀者を相続人から排除してしまおう、というものだ。

そしてそのために橋田が呼び寄せた探偵こそ、タイトルにある
「早すぎる探偵」、すなわち犯罪が起こる前に事件を ”解決” してしまう
史上最速の探偵・千曲川光(ちくまがわ・ひかる)だ。

上巻では、一華の高校への登下校時、そしてハロウィーンのお祭り、
下巻では、父・瑛の四十九日法要が ”犯行” の舞台となる。
寺での焼香、墓地での納骨、そしてホテルでの会食に至るまで
幾重にも仕掛けられた死の罠が一華を待ち受けるが・・・


探偵というものは事件が起こってから活動を始め、そしてたいていは
最後の犯行が行われる前後くらいまでは、
犯人が分からない or 絞り込めないのが普通(笑)。
そういう意味では新しい切り口ではある。

さらに、ストーリーは首謀者&実行犯側の
計画立案と準備の段階から描かれていくので
倒叙もののバリエーションでもある。

どの ”犯行” も、実行前に、中には準備する前の段階で
探偵に見破られてしまって失敗するのだが
通常のミステリでの ”謎解き” に該当するのが、
”なぜ、犯行計画に気づいたか” という探偵からの説明。

読んでると、まあいちいちごもっともなんだけど
多くの事象の中から、探偵から見て都合のいい部分を取り上げて
つなげてあるなあ、という感じもしないでもない。

 でもまあ、たいていのミステリの解決編だって
 同じようなものだよね。
 いわゆる後期クイーン的問題だったかな。
 「作中で探偵が最終的に提示した解決が、
  本当に真の解決かどうか作中では証明できない」ってやつ。

この作品の場合、結果的に探偵が常に正しいカードを引いているわけで
(間違ったカードを引いたらそこで物語が終わってるから)
ノープロブレムなんだろうけど。

さて、本書のような展開を可能にするには、
事前にすべての容疑者が判明していて、
さらに、彼ら彼女らすべてをある程度監視の下に置いておく必要がある。
今回は大陀羅一族という対象がはっきりしているが
一華の父の異母兄弟姉妹たちと従兄妹も加えると
その数はゆうに十指に余る。

資金面では、一華の財産を考えれば全く問題ないが
人材面でも探偵には複数の協力者というか仲間がいるような描写が。
一介の私立探偵にできる芸当ではないなぁ・・・と思っていると
ラストにはそれにもしっかり説明がつく。


・・・とまあ小難しいことを書いてしまったけど
探偵が犯人に対して、悪だくみを暴いていくくだりは爽快だ。
さらには、犯人が用意した罠をそっくりそのまま
犯人に対して仕掛け返す、”倍返し” で決着をつけるところも楽しい。
王道的な勧善懲悪で締めるところも、近年にない展開だろう。


オジさんとしては、読んでいて気になるのは
本書が終わった後の一華さんの人生。
おそらく悪党どもは一掃されてしまうのだろうけど、
年端のいかない女の子が5兆円の財産を抱えて生きていくのは、
決して楽な道ではないだろう。

 宝くじで億単位の賞金を当てて、そのために
 人生が一転(それも悪い方へ)してしまったという話も聞くし。

老婆心ながら心配していたのだが、
どうやら何とかなりそうなエンディングなのでひと安心。

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さて、本作は2018年の秋にTVドラマ化されてるんだね。
私は未見なんだけど。

wikiによると一華役は広瀬アリス。
女子高生から女子大生へと設定変更されている。
うーん、一華はもっと地味目なイメージなんだけどなぁ。

千曲川光は滝藤賢一。
原作では、一見して性別不明な優男だったのでこちらはかなりの改変。
ちなみに滝藤さんは好きな俳優さんですよ、はい。

そして橋田は水野美紀。
原作では年齢不詳ながらも外見は20代ってあったので
こちらもかなりの改変。水野さんはドラマ時に40代前半だったはず。
ただまあ、一華の保護者的存在なのでこちらの方がしっくりくるかな。

一華の遺産を狙う大陀羅一族の長子が片平なぎさ。
これには笑ってしまった。はまりすぎでしょう。

2019年の末にもスペシャル版が作られてるんだけど
こっちの内容はオリジナルかな?

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